繁盛店
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次の夜もお客さんはすごい数で、人である私を見ると異端であることに注目が集まってしまった。まずい、そう思っていると裏口から声が聞こえた。
「こっち、こっちよ」
白い手が手招きしている。慌ててそちらへ走っていくと、ちょっと疲れた顔の幽霊姉さんが裏口から中に入れてくれた。
「あ、ありがとうございます。すごい人気ですね」
「ほんとすごいのよ、支配人様様なんだけれど、ちょっと疲れちゃったわ」
足でもお揉みしましょうか?なんて冗談を言いつつ、休憩をもらったので裏口で休んでいたのだという。
「ナナシちゃん、大丈夫?支配人に会えてないけれど寂しくない?」
「え?」
「ほら、昨日帰っちゃったじゃない?支配人も疲れちゃったみたいで追えなかったみたいなのよ」
寂しい?
「…何言ってるんですか!お店が繁盛してるんですから、お仕事優先なのは当たり前ですよ。それに、ギャルソンさんも楽しそうでしたし」
「そうなのよ!変にきゃーきゃー言われてあの人のぼせ上っちゃって!」
「そう、なんですか?」
「焚きつけたのはナナシちゃんだろうけれども、あれは調子に乗りすぎよぉ」
ほう。それは別方向で楽しんでいらっしゃるようで何より。
こっちの気も知らずに何となく腹が立って、少しだけまたモヤモヤしたものが増えた。
「いやあ繁盛繁盛!私ってばこんな才能があったとは!」
聞き覚えのある声に二人で振り返ると、ほくほく顔のギャルソンさんが休憩なのかこちらへ向かってくる。
「あ。ナナシさん!いやはや、助言通り私こっちの方が人気あるみたいでして、お陰様で大繁盛ですよ!」
「あ…はい」
「今夜はお相手して差し上げられないので、申し訳ないのですがまた別の日に」
「わかってますって、それじゃあいつ…」
日を改めてほしいと言うので約束しようと顔を上げるも、既に彼の目線は黄色い声を挙げるお客の方。
「もう、行った方がいいんじゃないですか?皆さん待ってるみたいですし」
「そうですね!ではまた!」
また、というのはいつなのだろうか。
約束も取り付けず、颯爽と皆の前へ歩いていく彼が遠くなっていく気がして、またモヤモヤが増えていく。
「…ナナシちゃん、怒っていいのよ今のは」
「お、怒るだなんてとんでもない!何で私が怒ることが…」
「そう…じゃあ、ちょっと耳貸してくれなあい?」
こそこそと二人で話し合い
「え…でもそんな事したって別に」
「いいからいいから、明日そうして?お願い、私もいい加減休みたいのよ」
「は、はぁ」
事を決行することとなった。
次の晩、言われた通りの恰好をして訪れた。こんな事をしても無駄というか、何の意味があるのかわからないが、いつも助けてくれる幽霊姉さんのためだ、言われた通りにやるしかない。
相変わらず幽霊のお客さんの視線が痛い。ひそひそと何かを話す声も聞こえるが、裏口にまわると彼女は居た。
「うん!完璧、本当に綺麗ね」
「う、うーん…こういうのはあまり」
「似合ってるのに」
指示されたのはなるべく露出の多いセクシーな服、そして大人びた化粧。それだけだ。いつもはラフな服装と薄化粧しかしていない私だが、久しぶりに髪も巻いたりこんなばっちりメイクと、いつか買ったのに勇気が出せずに着なかったそれ。今夜日の目を見ようとは思いもしなかった。
「これならばっちり仕返しできるわよ」
「し、仕返し?」
「そ。いい、支配人が来たらこう言うのよ」
ごにょごにょと作戦と伝えられるが、あまり意味があるのかが分からないままだ。
「今日、そんな事するだけでいいんですか?」
「ええ、それだけ。申し訳ないけど明日は来られないことになるけどね」
「それはまあ構わないですけど…」
そんなこんなで話していると、目尻の下がりきった腑抜けた顔のギャルソンさんのお出ましだ。ロビーで何やらプレゼントなど渡されている模様で、嬉しそうに受け取っている。
「…よし、やりましょう」
「その意気よぉ!」
何となく今日言われたことをするのに引けを感じていたのだが、それを見て確実に実行することを決意した。それからかなり時間をかけていたが、やっとこちらに気が付いたのか駆け寄ってきたギャルソンさんは目を見開いていた。
「ナナシさん…?どうしたのです、今日は一段と…」
「かわいいでしょぉ?」
じろじろ見られるのは恥ずかしくて、少し丈の短いスカートをもじもじと直した。
「もしや、私の為に…?」
更に嬉しそうに問いかける彼に、幽霊姉さんははっきりと言った。
「いいえ、これから合コンなんですって」
「…は?」
どさっと音を立ててプレゼントを全て落とした彼に笑いそうになるも、そこは指示通り笑わずに真面目に演技をした。
「…気になる先輩が居て、誘ってくれたんです」
どこにそんな人居るんだと思うが居ない。というか、合コンなど全くの嘘。
「男性目線で可愛いか見てほしくて。どうですか?」
なるべく上目遣いで、というか高身長の彼にはそうせざるを得ないのだが、くるりと一回転して顔を見た。
虚無。絶望。いろんな表現があるが、見たことのない顔でこちらを見てくれた。
「いいって、ナナシちゃん。行ってきなさいな」
「はい!今日お約束してたけどキャンセルしたくて直接来ただけですから。それじゃあ」
「え…あちょっと待っ」
一瞬こちらに手を伸ばしてきたが、胸もモヤモヤがそれを回避してみせた。ここからは言われた通り、明日は来ないで明後日来るだけでいいという。
ちょっと胸がスッキリしたのと、しばらくはお店に集中して欲しい、私も少しあんなギャルソンさんが人気なところ、というか他の女性と仲良くしているのが見たくない。丁度いい距離感で今度からは節度を持って接しよう。そう心に決めて、一人着飾りながら帰路についた。
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