繁盛店
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「ギャルソンさんは闇の姿で接客しないんですか?」
この一言がきっかけだった。
「この姿は特別なお客様の前でしかしないと決めているのでね。ナナシさんは特にね」
「…もう。かっこいいから、いつもその姿で配膳すれば人気でそうなのに」
「かっこ、いい?」
寝耳に水のように言うが、私は彼の容姿は整っていると思う。すらりとした体形にニヒルな笑みも、声だって色気があって、確かにお化けの姿も可愛いけれども、格調高い店にこんな店員が居たら皆通うのにと付け加えた。
「…そ、そこまでおっしゃるなら、しばらくこの姿でやってみましょうかね」
ちょっと照れくさそうにしているのが面白くて、この時は笑って済ましていた。
それがどうだろう、この闇のギャルソンでの接客が、思っていた以上に功を奏してしまったのだ。噂は噂を呼び、人でない方々からの予約が日々増えていき、一目見た者から常連へと発展、文字通り繁盛店へと変貌を遂げたのであった。
「はへー…まさかこんなことになるとは」
いつもの時間、いつもの入り口にはキャンセル待ちで行列を成す亡霊や、お目当てであろう彼の姿を見たいと出待ちする者達でごった返していた。
「どれどれ」
ふと店の中を覗き込んでみると、忙しそうに配膳をする皆の中に、優雅に歩く彼の姿を見つけると、私は目が離せなくなった。
ぼんやりと人型のお客さんは女性で、その人はとても嬉しそうに彼と話している。彼は徐に胸に挿していた薔薇を一輪とると、その人に渡して微笑んでいた。
「・・・」
ちくりと胸が痛んで、何を考えているんだと自分を叱る。仕事なのだ、大切なお客さんには優しく丁寧に接するに決まっているじゃないか。
呼ばれれば各テーブルにまわり、花を渡し、ジャグリングまで披露する彼はとても楽しそうで、拍手が巻き起こる。
「…帰ろう」
邪魔をしては悪い。なぜだろう、これ以上見たくない。いろんな考えが過り、一瞬幽霊姉さんがこちらに気付いて手を振ってくれたのに、無理やり作った笑みを返してその日は家に帰った。
「特別なお客様だけ、か」
家に帰ってから、あの姿を見られたのは私だけだったのを思い出して、彼の笑顔も忘れられず、何とも形容しがたいモヤモヤとしたものが胸に蓄積されていった。
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