私が二人
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「いいですかナナシさん、この子は貴女の願望が形になって生まれてしまったものです」
「わ、私そんなこと」
「ですから、不満を解消すればいいだけですよ。私にしたかった事、全て今、行えばいいのです」
「…え?」
特にそんな強くしたいことなど、と言うのは建前で、生霊の行動には思い当たる節ばかりで、彼には言えないが本当はもっと甘えたかったし、馬鹿みたいにラブラブしたかった。
そんなこと言えるはずないし、悟られるのも嫌だ。
「ない」
「はい?」
「私こんなの望んでない!」
今更そんなことを言ってももう遅いだろう。だって生霊がしたがっていることが全てを語ってしまっているから。
恥ずかしくて小さくなっている私の頭をギャルソンさんは優しく撫でた。
「…ナナシさん。いつも凛としてスマートな方だと思ってはいましたが、我慢はいけませんよ?私達の仲じゃありませんか」
大人な彼に合わせて私もそう在りたいと願ったから。甘えず大人ぶって、彼に飽きられない素敵な女性になりたかった。でももうその努力も無駄になったのだ、こんな事態を引き起こして、彼を困らせて、あまつさえ服も脱がそうだなんてはしたないにも程がある。
「泣かないでください、私はありのままのナナシさんが好きなんですよ」
今まで我慢したのは何だったのだろう。そう思ったら涙がぽろぽろ零れて、そんな私の肩を彼が抱いてくれた。
挙句、生霊までハンカチを差し出してきている。これは想定外だった。
「…もっとぎゅーってしたかった。ほんとはいつもよしよししてほしかったし、いっぱい、いっぱいギャルソンさんの傍に居たかった!」
「ナナシさん…」
ハンカチを奪い、泣きながら言う私の背をさする彼。
「…実は気付いていたのですがね。あまりに頑なに大人ぶっていたので、つい合わせてしまって」
「え?」
「私、そんなに甘えられるの嫌いに見えます?だとしたら私、改めなければなりませんね」
「いや、ギャルソンさんは悪くないよ…私が勝手に」
「なら、もうお互い我慢はよしましょう。好きなら好きと、甘えたいなら甘えましょう?ね?」
「…うん」
そっと彼の胸に頭を寄せると、生霊もすりすりと嬉しそうに甘えた様子を見せる。ちょっとそれが気に食わなくて、私もべったり甘えて見せた。
「…最高ですねこの状況。ナナシさんが二人とか幸せすぎます…」
「…浮気者」
「いやいや!ナナシさんの生霊ですから浮気じゃないですって」
笑いながらも両脇に私を抱えた彼は嬉しそうで、いつもの大人びた笑い方とは違う。
私は少し勘違いをしていた。元々彼はこういう優しくて受け止めてくれる、だから好きになったのだと。
「・・・」
「ん?」
そんな事を考えていた矢先、空いた胸元の襟を直す生霊に、私は違和感を覚えた。
「…ねえ、ギャルソンさん」
「何です?」
こんなに目じりの下がった腑抜けた彼は新鮮だが、聞かなければならないことがあった。
「服、生霊がボタンを開けたんですよね?」
「ん?…いやあ幸せ幸せ」
引きつった笑顔の彼に、生霊は首を傾げた。
「ちょっと!やっぱり自分から服脱いだんでしょ!」
「いや!えっと、その、人肌を感じれば満足してくれるかなあと」
「私の生霊が脱がしたかと思ったけど、そこまで欲求不満じゃないもの!おかしいと思った!」
やましいのは彼の方だったのが意外にショックだった。
もし私が入ってくるのが遅かったら何が起こっていたのか、考えるのも馬鹿らしい。
「もういい、帰ります」
「ちょ…待ってください!あ、生霊消えた…嘘、ナナシさん!?私に愛想尽かせたわけじゃないですよね!?」
大人びた彼のイメージは音を立てて崩れ、頭が痛く疲れ切った私は席を立った。生霊は何か知らんが消えていた。
この後私の自宅に泣きながら許しを請う彼が1週間通ってくることになるのは、まだ知らない。
Fin.
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