私が二人
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今日は出迎えがなく、いつもの部屋で待っているのかと思い、ノックもせず入ったのが事の始まり。
中からギャルソンさんの声が聞こえてくる。誰かと喋っているのか、開けた時に気付いたものだから時すでに遅し。
目の前にはいつものソファー。衣服の乱れたギャルソンさんに、その下で抱き着く女性の足が見えた。
「え」
血の気が引くとはこの事で、信頼していた彼が、女性と、致している?
「離れ…あっ!ナナシさん!?」
唖然として落としたバッグの音でこちらに気付いたのか、ギャルソンさんは大きく開いた胸元を直しつつ、組み敷いている女性を手で静止しながら焦った表情をした。
「これは違うのです、その」
ああ、この人も男だったか。私、みじめだなあ。
泣きそうなのをぐっと我慢し、バッグを拾い上げ、帰ろうと思った。そこで最後に二人の顔を拝んでやろうと霞む瞳で凝視した私は、もう一度バッグを落とすこととなった。
「…え?」
「・・・」
女はこちらの無表情で見ている。怒っているわけでも笑っているわけでもない。そしてその顔だ、身に覚えがあり、涙を拭ってもう一度凝視する。
「ナナシさん、落ち着いて聞いてください。この子は」
髪型、顔、身長から服、全て今の私と同じ。
「わた、し…?」
私がそこに居たのだ。見間違うはずない。ちゃんと化粧はしているが、無表情でこちらを見ている顔は間違いなく私だった。
相変わらずギャルソンさんにしがみついて離れない以外、今日の私がまるごとそこに居た。
「ナナシさんの生霊です」
「いきりょう!?なっ…ええ!?」
今日一番の大声量が響き渡る。いきりょう、生霊、よく恨んだ相手に飛んでいくというあれなのだろうか。
相変わらずギャルソンさんにしがみついて顔を埋めたり、すりすりと甘えた様子を見せる姿に、死ぬほど恥ずかしくなってきた私は、私?を引きはがすことに全力でダッシュをした。
「やめて!見てて恥ずかしいから!」
「・・・」
イヤイヤと首を振って更に抱き着く。面倒なので生霊と呼ぶが、それの言動が更に恥ずかしい。普段こんな過度なスキンシップを取らない私達だが、可視化すると酷くこっぱずかしいもので、そんな私を見兼ねたギャルソンさんが優しく静止してきた。
「ナナシさん、彼女はその…」
言いにくそうな、でもちょっと恥ずかしそうに口ごもる。
「何ですか?そもそも何で服が乱れて…やだ、こいつのせい!?」
まさか脱がせにかかるとは我ながら、いや私じゃないけど、何て厭らしい!
そう怒っていると申し訳なさそうにギャルソンさんが説明してきた。
「この子、ナナシさんの生霊です」
「さっき聞きましたよ!もー何が起こって…」
「そりゃあ、想いが生霊になって飛んできたのです。貴女が、その…」
「?」
「常々したいと思っていた事をこの子は実行しているのですよ」
照れくさそうに、相変わらずすりすりを受け入れている姿が腹立たしいと思っていたのに、私がこんなことをしたいと思っていたなんてと顔が真っ赤に茹で上がりそうだった。
「…その、なんです。別に私は嫌でなかったというか寧ろウェルカムだったのですがね…」
何も言い返せず、ただ羞恥に震える私と、今度は頬にキスをする生霊と、困ったような嬉しそうな顔をするギャルソンさん。この三つ巴の状況に耐えられず、兎に角この自体の引き金となったそれを何とかしなければと、再び引きはがしにかかった。
「っいいからそれ止めて!ていうか消えて!ギャルソンさんもどうにかしてよ!」
「し、嫉妬ですか?これは…素晴らしい状況なのでは」
「違う!見てて恥ずかしいしこんな事したいと思ってないから!」
やたら力の強い生霊。イヤイヤと首を振るだけで喋りはしないが、涙目で必死になっており、こっちが悪者のように見える。
「ナナシさん!そんな引きはがしても状況は変わりませんよ?」
「じゃあどうしろっていうのよ、このまま見てろっていうの!?」
「…1つだけ方法が」
そういうギャルソンさんは私を生霊の反対側に座らせた。生霊もとりあえず座るよう促されると、こくこくと頷き座った。なんだこいつ、ギャルソンさんの言う事ならちゃんと聞くじゃない。
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