兄成る者
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彼女が私の目を見て微笑む。嗚呼、この瞳に何度落ちているのか。
私を良いと言ってくれた唇に、衝動的に吸い寄せられそうになったその時だった。
「私、ギャルソンさんみたいなお兄ちゃんが居たら良いなって」
微笑みが痛いものへと変わり、胸の中が騒めいて時が止まった気がした。
兄?
「なんでもできるし、私みたいなのでも褒めてくれて、優しいからつい、ね」
照れくさそうに笑う顔が愛らしいのに、その目には真顔で話を聞く私の姿が映る。
動揺を隠したくて、紅茶のカップに手を伸ばす。ああ、苦い、なんて苦い茶葉だ。
「いつも窘めてくれるし、教わることばっかりで、頭が上がらないよ」
何のためにこの茶葉を用意したのだろうか。何のために今まで彼女に尽くしてきたのだろうか。
「いつもありがとう、ギャルソンさん。ううん、お兄ちゃん!」
嗚呼
「なーんてね!ギャルソンさんってちゃんと呼ぶから…ギャルソンさん?」
何故だろう。
「どうしたの?」
私、折角彼女の大切な人のポジションに成れたのに。
「具合、悪いの?平気?」
どうしてこんなにも胸が痛いのだろう。
あの瞳が私を一心に見つめてくれているのに、私だけを呼んでくれているのに、心が、痛い。
「…嫌だった?ごめんない、調子に乗ってしまったから」
そうか。
「ナナシさん」
「なに?」
今にも泣きそうに、不安そうな顔の彼女が愛おしい。
「家族になりませんか」
「…え?」
私は彼女の大切な人であるに、変わらないのだ。自信を持て。
「私は兄ではなく、夫になりたいです」
見開いた目は澄んでいる、綺麗だ。
何か言いかけた口も、苦い茶葉を帳消しにするほどに味わって、震えながら私を受け入れるしかないか細い腕も組み敷いて、胸の痛みを吐き出してやった。
「兄とは呼ばせませんよ」
状況が吞み込めていない真っ赤な顔も、荒くなった息も、何もかもが胸を満たすに十分だった。
「いや…兄さんと呼ばれながら及ぶのもいいかもしれませんね?」
可愛い可愛い私の家族。大切な貴女の私なら、どの役でもいい。
この子をこれからどうにか出来る、それが嬉しくて嬉しくて。
「も…や」
密着した身体を捩りながら照れる姿、香り高い紅茶、彼女の体温。
今日という日を忘れることはないだろう。
Fin.
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