marry me.
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「とうとうこの日が…」
磨きに磨きをかけたこの数週間。当日数名の店員に促され、裏口からとある部屋に通されるとそこには真っ黒ではあるがシフォンのウエディングドレスが一着部屋の真ん中に用意されていた。
彼の趣味なのだろうか、黒一色で見事に仕立てられたそれに息を飲む。
「綺麗…」
呆ける間もなく、さぁさぁと言われるがままそれに袖を通すと、しっかり誂えたのであろうぴったりとシンデレラサイズに収まった。
今更ながらだが、こんな素敵なドレスを身に纏えるなら突拍子もないこの式も満更でもないかもしれない。そんなことを思いつつ、化粧をしてもらい、装飾品をつけて進められる方向へと慣れない高いヒールで進むと、会場と思わしき場所の入り口に立たされた。
暫くして会場の扉が開くと、予想以上の招待客の数に驚きと緊張をかくせない。数多くの異形の者たちが並んで座り、こちらをひそひそと何か呟きながら見てくるのだ。
「ひえぇっ」
両親は呼んでいないのでここは一人で歩くらしい。介添人はいない。
パイプオルガンが少し不気味だが結婚式らしい曲を奏でると、歩いてと後ろから押され、一歩一歩周りの重圧に耐えながら歩きだした。
綺麗とか色々と称賛してくれるのはありがたいが今は微笑み返せない。少し急ぎ足で新郎である彼の元へ行くと、少しほっとしたのであった。
「嗚呼…素敵ですよ、ナナシさん」
その声にはっとして顔を挙げると、今まで見たことない程に嬉しそうな、それでいて照れているような彼の顔があった。今更なのだが、それを見てようやく自分は本当に式を挙げて新婦なんだと理解させられた。
「…あのギャルソンさん」
「なんです」
「この大きな方は誰なんです」
それはそれとして通常神父がいるであろう場所に鎮座している巨大な男性に目を奪われた。
「ああ、彼は閻魔様です」
「ああ、えんまs」
閻魔様と聞いて固まってしまう。
「いやはや、神が許すはずないなら閻魔様にOK出してもらえばいいのではないのかと思いましてお願いしちゃいました、うふふ」
「・・・」
もう何に驚いても損をするだけだと笑うしかできなかった。
「おほん!では新郎、闇のギャルソン!汝は病める時も成仏出来ない今後も新婦を愛し続けると誓うか!閻魔の前ぞ、嘘はいかん」
「誓います。永久に愛すると誓いましょう」
低くそれでいて優しい声が響いた。少し気恥ずかしいが嬉しい。
「続いて新婦ナナシ!汝も病める時も健やかなる時も生きて死んだ後も闇のギャルソンを愛し続けると誓うか?」
何だかこちらだけ期間が長い気がするが、彼の方へ一瞥して深呼吸をすると、閻魔と名乗るそれに口を開いた。
「誓います」
「よろしい!その言葉、嘘をついた時には舌を抜き地獄送りに処す。では誓いの指輪交換を!」
そう言われた彼は胸ポケットから小さな箱を取り出した。
「ナナシさん、こちらを」
「これ…」
黒いリングが大小二つ並んでいる。黒で統一されたドレスにきっと似合うだろう。
「ささやかですが愛の証に」
きっとものすごく悩んで選んでくれたのだろう、見たことのない光沢のそれはとても魅力的で、今更ながらに彼がもっと素敵に見えてきている。
「さ、手を」
彼の事だ、秘密裏にサイズも何もかも調べて、この日の為にやってくれたのだろう。こんなに幸せになっていいのか戸惑いながらも、彼に手を差し出した。
指輪はしっかりと指にはまり、彼にも指輪をつけ返す。
「ありがとう、ナナシ」
違いのキスをと言われるまでもなく、彼はベールを上げて口付けをしてくれた。大衆の前で恥ずかしいのもあったが、心から嬉しさと愛おしさが込み上げてくる。両親に話をしていないとか、友達も呼んでいないとか、届はどうするのかとか、どうでもよくなっていた。
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