日曜の午後のこと
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それは日曜の午後だった。
外は寒いのに、日差しが少しだけ差し込み温かくなったこの部屋のソファーには、廃墟に似つかわしくない私のお客様。
「…ナナシさん?」
少し手間取って待たせたのが悪かったのか、日差しが心地よすぎたのか、はたまたお疲れなのか、珍しく寝息を立てる彼女の姿があった。
「・・・」
人が安眠しているところなど見たことがない私にとってはかなり衝撃的であったが、それ以上に彼女の顔をこうも直視出来る機会などそうそうない。持ってきた紅茶を置いて、得意の音もたてずにそばに近寄り、そっと顔を覗き込んだ。
すっと伸びたまつ毛、大きな瞳は閉じられ、いつも目まぐるしく変わる表情は動かない。柔らかそうな唇は日にあたり艶めいて、神々しささえ感じる。
「あれ」
私、何を考えているのでしょうか。
女性の寝顔を観察している時点でアウトだろうに、人の顔を凝視して妙な高揚感が沸き上がっている。ここのところ、彼女の事になるとおかしな言動に走りがちな自分に違和感を覚えた。
「…起きてください」
これ以上おかしな事を考える前に起きてもらわねば。少し焦った私は、座ったまま寝ている彼女の肩を揺さぶった。
焦ったからだろうか、少し強く揺さぶりすぎたのか、彼女はかなり深く寝ているのかそのままゆっくりとしたモーションで倒れていく。それに慌てて体を支えたものの、不可抗力というのだろうか、意図せず抱きしめる形となってしまった。
「っ」
いかんいかんいかん!
やましいことをしたかった訳ではなく、助けるつもりで出した手が殊の外腰やら肩やらにいってしまい、手から伝わる感触に手汗が出てくる。
立派に助けようと思ってやったことだ、思いのほか柔らかだったとかいつもよりいい香りだとか、建前と本音が脳内でお互いを殴り合っている。
「お、起きて下さい!ナナシさん!」
一番いけない事と言えば、耳元に彼女の寝息がこそばゆいことだ。
必死になって体を起こして揺さぶると、ややあって半目で呻いた彼女は眠そうにこちらを凝視していた。
「…あれ、寝ちゃった」
「…倒れかけてましたよ、あなた」
「え?あらら~」
たった数分待たせただけで、こんなにも私の心を揺さぶれるのは彼女だけだろう。屈託のない笑みがまた私を揺さぶる。
抱きしめていた事を悟られないように離れると、何故こちらだけこんなに焦らされているのかと腑に落ちなかった。
「待っていた私に言うことは?」
相当良い回答でないと許すことはないだろう。
振り回されっぱなしで、そう顔に出して寝ぼけている彼女へ問いかけた。
「おはよ、ギャルソンさん」
柔らかく、ふにゃりと笑って答えた。
その顔も声も全てで許してしまう。気付きたくなかったのだが、どうやら私は、恋してしまっているらしい。
「…おはようございます、もう午後ですけどね」
愛おしくてじっとしていられないのが証拠だ。
日曜の午後、私ははっきり自認した。
fin.
1/1ページ
