似てない二人
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「人は恋をする基準に、自身によく似た人物か程遠い人物、二極で選ぶそうですよ」
二人きりの廃墟の部屋でそう呟いた彼は少しだけ微笑んでいた。
「自分に似ているか、全然似ていないかってことですか?」
突然の謎かけのような言葉に戸惑い、そう聞き返した。
「らしいですよ、何かの本で読みました」
寒い部屋には私の為に淹れてくれた紅茶が湯気をあげている。ふわりと香る茶葉に一口啜ると体が温まっていく。私の好みの味だった。
いつも決まってお茶とお話を用意してくれる彼に甘え、毎週こうしてお邪魔してしまっている。
「ナナシさんと私、そういう面でいえば似ているところ、ないですよね」
そんなある日こんなことを言い出したものだから一瞬どきりとしたが、言われてみれば彼との接点はあるにしろ、似ている点には思い当たる節がない。
「性別、見た目、挙句生者と死者なんて。面白い程合いませんね?」
やはりそろそろこんな押しかけるような真似が嫌になってしまったのだろうか。合わないと言われてしまうとすごく悲しい気持ちになり、啜っていた紅茶を置いて目をそらした。
きっとこの気持ちを抱えているのは自分だけなのだろう。足繫く通っているのにも、こんなに素敵な人に出会えただけでもラッキーだったのに、それ以上に淡い気持ちを抱いている私は欲張り過ぎだと思う。
「でも一つだけ似ている点があるとしたら」
荷造りをしようと鞄に手を伸ばして、ぼそっと彼の声が聞こえた。
「こんなにも違うのに惹かれあっていることですかね」
彼はそう言って、音もたてずに自身の紅茶を飲んだ。
若干に目の泳いでいる彼の表情に、初めて可愛いと口に出しそうになるが、にやける口元を抑えるのに精いっぱいだ。
「好きですよ、正反対のナナシさん」
蚊の鳴くような声の彼。
「…はい、私もです」
聞こえるか聞こえないかの私の声。
「そう、ですか。よ、よかった」
平然を装う彼も声を上げない様に舞い上がる私も、本当はとても似ているのだと感じた。
fin.
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