推しの死
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遡ること小一時間。
「と、言うわけで今日は命日のため映画鑑賞をしたいと思います」
「どういうわけです?」
いつもなら甘くまったりとした雰囲気のこの二人。どういうわけか今日に限っては彼女の方が妙に神経をとがらせつつ、DVDプレイヤー片手に男に迫っている。
「あと1時間で推しの亡くなる時間なんです!今再生すると丁度推しの雄姿がジャストタイムで観られるんです!」
「だから何の話なんですか!?」
「映画です!」
「ああ、映画!…え、亡くなるとは?」
どうやら彼女の二次元の推しとやらが本日命日で、映画を今流せばその場面と合致するため上映会をしたいとのこと。何の事前説明も受けていない男はただただ見たことのない彼女の一面と状況に困惑するしかなかった。
それから済崩しに二人揃って暗がりの部屋、DVDが再生されていく。見たことのないその作品は男にとって新鮮で、普通に面白いと思ってはいたが、となりの彼女の真剣すぎる眼差しと、ある特定の人物が現れる度にカバンから取り出した応援用うちわで黄色い声援を挙げるため全く集中は出来なかった。思っている映画鑑賞とは違うその内容であったが、一時間程経つと内容も佳境に差し掛かり、息を飲む展開へと流れた。
「…ここからです」
「…はい」
早速カバンからハンカチを取り出し口に当てだした彼女に、何か起こるのだと軽いネタバレを喰らいつつ、黄色い声援を受けていた人物は感動的に散っていった。
「っふぐ…ぐぇ…うううう」
ここで号泣しつつDVDを一時停止してしまう彼女に、もう逆にエンドが見たくて再生して欲しい気持ちと、慰めるべきなのかと困惑する男は画面と彼女を交互に見ていた。
「ああ…リアタイ再生最高ですね…めっちゃかっこよかった」
ひとしきり泣いた彼女はDVDを再生させながら満足そうに涙を拭いた。これでいいのかと映画を見終えたが、
「いやほんとナナシさん何しに来たんですか」
「ええ!?いや推しの雄姿をリアタイで二人で視聴したくて…ダメでしたか?」
「ま、まあ映画はよかったですけど」
そもそも映画鑑賞なのか推しと呼ばれるそれを見るためのものなのか混乱させられたが、女の方が満足そうだったのでよしとした。
「推しが死ぬとわかってて推すのですか?」
「うわ、核心つきますね!?わかっててもこの気持ちは止められないんですけどね!」
「ふむ」
嬉しそうに推しを語る彼女に、少しだけ不満そうな男はぐっと顔を寄せた。
「じゃあ、推しが元より死んでいても推せます?」
一時間も自分を見てくれなかったのだ、しかも他の男に気をやって、不貞腐れても文句はいえないだろうと、体を圧し掛からせる。
「推しに他の推し成る者がいても私は推しますよ。死んでいても生きていてもね」
「ちょ、あの」
そんな行動に泣き顔と真っ赤な顔と恥ずかしそうな入り混じった彼女の顔は、男が思っていた以上にいい光景であった。
推しになりたいし、推しとして死ねばあれだけ泣いてくれるとわかった今、男に怖いものなど何もなかった。
「だいたいこんなの見せられて妬くなというのが無理な話」
べろり、と涙の痕を舐めとると、嬉しそうに男は微笑んだ。
「私のために啼いてくださいますよね、ナナシさん?」
推しに迫られるなど想定外の女にとって、二度目の声があがった。
end.
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