人魚姫
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それから生身の人と話す珍しさと彼女の話し方の良さもあってか話は弾み、久しぶりに楽しい時間を過ごすことが出来た。
彼女もまた嬉しそうに話すのでますます自分がお探しの幽霊ではないと言い出すことが出来ないでいた。
「あの!また来ても良いですか?もっとお話ししたいこといっぱい有るんです」
「…ええ、勿論。いつでもここでお待ちしておりますとも。私に色んな話を聞かせて下さることが一番の恩返しですよ」
悪いと知りつつも、面白いものを手に入れてしまったと思っていた。ここで出来る事や手に入るものには限度がある。
そんな中彼女、彼女の出現は最高の娯楽に思えていた。
「ギャルソンさん、こんばんは!」
それからというもの、彼女は何度もここへ足を運んでは普段の話から少し怖い話まで何でも話してくれた。それが楽しみになっていたのは事実だし、人ではなくなってからこんな感情を抱いたのは初めてのことだった。
ただ1つ、その関係になってから困ったことがある。
「ねぇギャルソンさん、なんであの時助けてくれたの?」
ナナシさんは助けてくれた幽霊だと勘違いをしている。そしてその時の状況やどう助けたかなど、それとなく聞こうとするもはぐらかされてきた。どうも彼女の中ではその出来事は神聖で、その目がまるで恋でもしてるかのようで、心がちくりと痛む。
「何故ってそれは、その」
優しい目が私を見つめてくれている。それなのに何故だろうか、嘘をついたことよりも彼女の記憶に居る誰かにその温かさが向けられていることが一番苦しかった。
「私が」
馴れ合いすぎたのだろう。私は完全に彼女に好意を寄せていた。だからこそ、思い出にいる誰かにとって変わるしか、あの優しい目を向けて貰えない事に気が付いていた。
「ナナシさんをみた時、守ってあげたくなったから」
誰でもない私からの言葉に嬉しそうに恥ずかしそうに笑顔になった彼女が可愛くて仕方ない。
ああずるい、その誰かはその日から探して貰えてた、想ってもらえてた。
「ナナシさんの前に他の幽霊が現れたら」
嘘がバレたら?本物が現れて自分がその時の幽霊だと言ったら?ナナシさんが何か違うと勘づいたら?
そうなったら全てが水の泡と化す。二度と彼女の声も愛情も温もりも手に届かない場所へ行ってしまうだろう。
「その時は逃げるか私の所へ来てくださいね」
まるで人魚姫の様だと心の中で嘲笑う。随分と狡猾な人魚姫だ。だが、大丈夫。私は泡になんてなってやるものか。
「私がまた守って差し上げますから」
握りしめたナイフで本当の王子様を刺して、撒き餌にして差し上げよう。
今はただ、この鱗ごと愛してくれた彼女の優しさを貧欲に求める。溺れてしまいそうな愛の海に飛び込んで、上手く泳ぎきってみせよう。
「いいですね?ナナシさん」
「はい。ギャルソンさんが居れば怖くないですもんね」
「ええ、私さえ居ればよいのです」
いつまでも幸せに暮らせますように。
誰かさんが受けとるはずだったこの子の愛を奪って、私はずっと幸せそうに微笑んでいた。
fin.
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