人魚姫
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時折このレストランへやってくる怖いもの知らずの人々をお持て成す。持て成すという内容については察していただきたい。
例のごとく今宵も入ってきたお客様。いつもと違うのは一人の女性だったという点だ。普段は多数でなんやかんや言いながら入ってくるというのに、随分と肝が据わった方だと思いつつ、張り切って目の前へ姿を現した。
「こんばんはお嬢さん」
さぁ、今晩も素敵な悲鳴を聞かせて頂きましょうか。
「…」
期待したのも束の間、そのお客は多少なりとも驚きはしたものの、目を見開いてこちらを凝視しては何かを考え込んでいた。
「あのもしもし?」
どんな声か期待していた。それなのにこれでは期待はずれもいいとこだ。
長考するお客に戸惑い声をかけると、ややあって漸く口を開いた。
「もしかして、昔女の子を助けたことありませんか?」
口を開いたと思えば質問だ。そもそも幽霊に遭遇してとるアクションではないが、それ以前にここに来てまで聞くことだろうか。
拍子抜けしてしまい、驚かしたりお持て成しする気も失せてしまったのだが、それよりこの質問の意図やこの子の存在が気になり、ついつい話を合わせてしまった。
「…ええありますとも。おや、貴女に似た子だったような」
大嘘だ。助けるどころか、いやそこは置いておくとして、少し大袈裟に嘘を並べると、胸に衝撃が走った。
「っ…やっと会えた!ずっと会いたかった!」
「えっちょっ」
女の子に抱き付かれたのは初めてで、自分でも笑ってしまうほど狼狽えた。そもそもこんな感触も温かさにもどう対応して良いかわからず、嬉しそうに抱き付くその子の成すがままになるしかなかった。
「あの時助けてくれた幽霊さんですよね?私です、覚えてくれてるかわからないけど、ずっと探してたんですよ!」
捲し立てるように話すその顔に見覚えはない。整った顔は少し泣きそうで、それでも嬉しそうに話す顔の近さに思わず目を逸らした。
「そ、そうですか…すみませんが昔のことはうろ覚えで」
今さら嘘だったと言えるわけもなく、とりあえず彼女を引き剥がして距離をとった。まだ温かい感触が体に残っている。
「いいんです、ただあの時の恩返しがしたくて探してただけですから」
「恩返し?」
「はい!だから私に出来ることがあったら何でも言ってください。頑張っちゃいますから!」
にこにことする顔は愛らしく、幽霊という身でこんなに温かい視線と感情をぶつけられたのは初めてだった。
要するに彼女は昔何らかの形でどこかの幽霊に助けられ、その幽霊を探しにこんなところまでやってきたと。
「…こりゃまた厄介な」
「何か言いました?」
「あ、いえ…立ち話も何ですし、よろしければ中へどうぞ」
そんな数奇な運命と行動力を持つ彼女が気になり、いつもなら語る側の自分だが、少しだけ彼女の話を聞いてみようと店の奥へと通したのであった。
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