成就
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長い長い片想いが酷い終わりを告げた。
ずっとずっと私が一番彼の側にいて一番話をして一番想っていたのに。
バカ笑いと車の音が遠ざかり、泣きすぎてワケがわからないくらいに声を挙げて、辿り着いたのは彼等から置いていかれた近くにあったらしい心霊スポットの洋館。そこからはトントン拍子で、中に入ってから道との遭遇を経て、いつの間にか慰めてくれていたのは明らかに幽霊の彼であった。
「おやまぁ…随分酷いことをする方だ。生きている人間の方がよっぽど怖いですね」
一部始終を見ていたらしく、長年想い人だった彼が柄の悪い友達とつるんでから変わってしまった事、この中でも特に柄の悪い女と出来てしまってから私をバカにするようになった事など、全くこの話に関係のない幽霊に捲し立てるも、ちゃんと最後まで話を聞いてくれている。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃな私には十分過ぎる程優しい言葉で、背筋を撫でる冷たい手と裏腹な温かく怪しい瞳が微笑んでくれていた。
「それはお辛い失恋でしたね」
はっきりとそう言われたとき、もう彼に対する恋心は失せていた。こんなことをされてまで想う程お人好しではないのだ。
「…ごめんなさい、成り行きとはいえ転がり込んできて泣きわめいたりして」
「お気になさらず。こんなに酷い目に遭ったのです、幽霊に慰められるくらいはあってもいいかと思いますよ」
「なにそれ!」
幽霊ジョークなのか、思わず吹き出してしまった。
「やっと笑ってくれた!このあと冷静になってやっぱり怖いと逃げ出されたらどうしようかと」
「そんなことしません、優しい幽霊さんもいるって解りましたし」
「ふむ…そう言われてみればまだ脅かしてませんでしたね?」
そこからはなんというか、そんなことあるのかと思われるだろうけど、二人で会話をすることが日課になってしまった。夜になるとあの洋館へ立ち寄り、ギャルソンと名乗ったあの幽霊に迎え入れられ、二人で他愛もない会話をしている。
失恋のショックも大きかったけれども、何よりこの人とのこの時間が大好きになれたのが心の傷を一番に癒す方法だった。
「ナナシさん」
名前を呼ばれると胸の奥がときめく。あの優しい声色が大好きだった。
馬鹿げているかもしれないけれど、私は、幽霊である彼に恋をしたのだ。
「ギャルソンさん、私ね」
「なんです?」
「私、あなたのことが」
好き。大好き。何も失くした私に温かいものをくれたあなたが大好きなの。
「ナナシさん」
好き。意を決して口にしたその言葉に、ギャルソンさんは嬉しそうに微笑んで、そして悲しそうな目をした。
何故?なんでそんな顔をしているの?
「私もナナシさんを愛しています」
苦々しそうに言葉を紡ぐギャルソンさんだったが、その言葉が嬉しくて舞い上がりそうだ。
嬉しい、嬉しい、やっと好きな人と両想いになれたのね、ふわふわと、心も身体も、舞い上がりそう
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