紅緒
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私は温かく柔らかい頬に冷たい指を這わせた。
「ん…」
すっと筆を走らせると、先程まで饒舌に笑っていた唇は私と同じ色に染まっていく。
こんな死人の化粧を綺麗だと言ったその口を塗って、やっぱり違うと言わせたかった。
ただ少しだけ下心が出て、わざとゆっくり丹念に塗り込む。柔らかく形の良い唇は元々少し何か付けていたが、それを塗りつぶして私と同じ色になっていく。
「素敵…ちょっと大人っぽくなったみたいです!」
付け終わったナナシさんの感想は嬉しそうで、にこりと微笑む顔はいつもの呆気なさよりも、色気のある女の顔に見えてしまった。
ここを出たら、いつもの日常の彼女は口紅ひとつでここまで変わる。いつもの彼女に少しでも惹かれる者なら、直ぐに手を出すだろうに。
「少々付けすぎた」
それが悔しくて悔しくて、大人びた顔で素敵に笑うナナシさんも狡くて、家に帰ればこれを落として何事も無かったかのように過ごすのも嫌で、思わず手を出して拭おうとしていた。
手を伸ばした。だけどもう頭の中は私の居ない日常を過ごす彼女の姿がいっぱいで、日中も私を忘れるなど許せなくて、思わず口を付けていた。
「っ」
驚きのあまり固まっている彼女の唇が想像よりも温かくて、時おり震えている初々しい柔らかさを味わいながらもやったしまったと思い、ここまでしたなら後は平手でも何でも喰らおうと、口を離す際には一舐めまでしてやった。
口を離してやっと気付いたが、思った程悪い反応ではない。むしろ私に都合が良すぎる予想結果。
「これでちょうど」
いつもの呆気なさといつも以上の慌てふためくナナシさんの顔が可笑しくて、さっきまで渦巻いていた黒い考えは何処かへ行った。
調子にのった私は、少し口紅が薄くなった彼女へもう一度紅を分けようとなどと考えながら笑っていた。
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