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「…神様、私はずっと彼女のような存在を待ち続けていました。まず、彼女に出会えた事、心より感謝いたします…」
彼女からは彼の表情が見て取れないが、その声色は先ほどの笑顔とは裏腹に、どことなく真剣なように感じ取れた。
「私のような存在の願いなど、聞き届けてくれるか分かりませんが…一つ叶えて下さるなら、どうかお願いです」
彼はこの言葉を彼女へ呟いているのではなく、また神社や寺の神に呟いているのでもなかった。
「彼女が、また私の元へ来てくれますように…」
彼自身は、この願いを聞き届けてくれる者が居ないことを知っていたのだ。
誰に言うでもなく、その言葉は宙に消えていくしかなかった。
それでも呟き続けている彼はその言葉を口にすると、彼女を抱きしめている腕の力を強めた。
「私は、恐れられる存在でありながら恐怖しているのです…こうして年が巡るたび、いつ彼女が私の元を去り、そして忘れて行ってしまうのか…それだけが恐ろしくて堪らないのです…」
そして、先ほどまでの声は、か細く弱弱しい声色へと変わっていた。
恐ろしい。
それは、幽霊である彼が言うには可笑しな言葉であった。
「出会えた事が既に成就ならば、私は今一度願わなければなりません。おこがましい事に、そんな彼女に恋をしたのです、幽霊である私が、眩しいほど生きている彼女に、焦がれるほど恋をしたのです…」
彼が抱きしめている手には、そんな自分に何年も会いに来てくれる、彼女の温もりが伝わってきていた。首筋に触れると感じる鼓動は、自分と彼女の確たる差。
それに恋すると言う事が、どれほど辛く、終わりが見えているものなのか、彼はずっと前から判っていたのだ。
「図々しい願いではありますが…どうか、どうかこの哀れな幽霊の恋をお見守り下さい…そして、彼女がこれからも、私の元へ来てくれますように…」
それでも、それを祈らずに居られない自分は、哀れとしか言いようがない。
それが判っていながら、彼女が傍に居る幸せを感じる事も、哀れなのだと彼は感じ取っていた。
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