しあわせな王子様
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「…この姿で出て行って、貴女はここに留まってくれましたか?いいえ、貴女は一目見た瞬間、悲鳴を上げて逃げ出していたでしょうね」
お姫様が王子様から逃げちゃ、駄目でしょう。
「やっと出来た大切な人…私の大切な、愛しい人…」
悪い魔法にかかっていたのは誰?
悪い魔法をかけていたのは誰?
「さ、キスをして?頭を撫でて大好きだと笑顔で応えて下さいな…」
最初から王子なんていないのかもしれない。
ここに居るのは他でもない、お姫様と、悪い魔法使いだけなのだ。
「出来ますよね?ナナシさんは私に嘘を吐くような人じゃありませんよね?」
可哀想に。悪い魔法の言葉にかけられて、貴女は逃げられない。
これでは、誰が悪くて誰が救世主なのか、全くわかりませんね。
「私を…一人ぼっちになんてしませんよね…?」
「っ…」
いつもの優しい声色の、悪い魔法で諭せば、ほら。
貴女は優しいから、甘えてしまえば拒むことはしないのだ。
「ふっ…ん!や…」
それでも構わない。私は、この身体で初めてのキスをした。
こちらの身体の方が人に近い分、感じ方が全く違う。彼女の唇もその舌の滑らかさも口内の唾液の甘さも、何もかもが私の身体をぞくぞくとした快感に変えていった。
「貴女はね、優しくし過ぎたのですよ」
ひとしきり味わい尽くすと、顔を上げて改めて彼女を見下ろした。瞳に涙を溜めて、息を荒くするその様が艶かしくて、そして嫌がっていることは明白であった。
「ナナシさんの笑顔が嬉しくて、その声が優しくて、その指先が温かくて、香りも何もかも」
初めて出会ったあの日から、私は彼女に夢中だった。指先の一つに動揺し、幽霊である私に微笑みかけてくれる優しさに、私は、抜けられない所まで嵌っていくことに気付いていた。
「何もかもが、好きで好きでどうしようもなくなってしまったから…」
その中でも彼女が私を愛でてくれる、それが嬉しくて、嬉しくて、それが終わりを迎えることが恐ろしくて、彼女の愛が他に向けられる事が妬ましくて、どうしようもなくなっていたのだ。
そう考えたあの時から、愛を受けるだけではなく、その愛を囲い込むことだけを考え始めていた。
「私はそういうつもりじゃ…」
瞳を逸らしまるで勘違いさせてしまったと言いたげにする彼女に、今までの私の気持ちを踏みにじられているような気がして、それを言わせたくなかった。
「まさか、先ほどの言葉を撤回するなんて言いませんよね…?」
言葉の逃げ場を無くしてやれば、返す言葉も無いようで、彼女はそのまま息を飲んでこちらを見つめていた。
一心に彼女の視線を受けると、私も自然と優しい笑顔になれる。これも、愛の成せる業なのだろう。
「愛すると言ってくれたのですもの、私はそれを信じていますよ」
元々、この喜劇を始めるきっかけは彼女の方にあった。今まさに、それはハッピーエンドを迎えられそうなのに。
「でもね、これからは私も頂いた愛に応えますから」
何故だろうか、この愛を一つ呟くごとに、彼女はまるで悲劇のヒロインのように、その表情が強張り硬くなっていくのが分かる。
「この全身全霊を持って、愛を表現してあげます。この世の誰よりもナナシさんを愛し、ナナシさんに愛される存在で在りましょう」
泣きながら笑って、私を見て、嬉しいと言ってくれればそれで終演なのに。
これから、悲劇が始まるように思えて仕方が無いのだ。
「だから、ね」
あとどのくらいすれば、彼女の怯えきったこの瞳に愛が戻るのだろうか。そして、あとどのくらいこの言葉を掛け続ければ、彼女はお姫様のように、幸せに暮らしましたと仕舞に出来るのだろうか。
「裏切るなんて、しないで下さいね…?」
額に小さなキスを落として顔を上げると、涙を流すきらきらとしたその瞳には、幸せそうな私の顔が映っていた。
Fin.
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