しあわせな王子様
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「んっ…?」
突然のキスに動揺するも、彼女は拒否の行動を見せなかった。
ただ、大きくて綺麗な瞳をぱちくりさせて、少し動揺するその表情が、私たちの関係を変えている証。
「ギャルソンさん?」
「ナナシさんにちゅーするのが好きなんです。ナナシさんも嫌いじゃないでしょう?」
「う、ん…まぁ」
可哀想に。
気づくはずも無く、若干の動揺を残して、貴女はこの糸が分からないのだから。
「ん、ちょっと…」
「逃げちゃ嫌ですよ…もっと…」
だから、この唇は、逃げる術を知らない。
「ま、待って…!ね、こんなの変だよ…!」
「…何故?」
初めて彼女が私の半透明な身体を押し返し、不安そうな表情を浮かべている。それもまた新鮮で、にやける口元を気取られぬよう、必死に抑えた。
「ねえ…今日のギャルソンさんおかしいよ?何があったの?ていうか、昨日もちょっと変な質問してきたし…」
何かに勘付いた彼女は、心配そうに顔を覗かせてきた。この期に及んで、事の発端を作った私に気を使うなんて、私はどこまで愛されていたのだろう。
その思いやりが痛いほど降り注ぎ、心を満たしていくのを感じる。
「ナナシさんに、嫌われてしまわないか不安なのです」
「わ、私に?」
「今受けている愛情も、今日これっきりになってしまうかもしれないから。今愛してもらっていると感じていたいから…」
「何を言ってるの?これっきりになんてしないよ…?」
ただ、その勘が確信へと繋がらない事を知っている私は、あえて甘えるようなしぐさを見せた。
そうすれば、ほら。
「大丈夫だから、ね?そんな悲しい事言わないで…?」
「本当ですか?何があっても?」
「もちろん!私、何があってもギャルソンさんのこと大好きだから」
「そうですか」
貴女は一切の悪意を感じ取る事も出来ずに、悪い虫に集られるのだ。
そう言って、頭を撫でてくれる彼女の言葉を聞いて、口元が歪んでいくのが分かった。
「そうですか、それじゃあ」
嗚呼、これを待っていたのだ。
言葉は呪縛となって、私と貴女を繋いでいく。
「この姿を見ても、好きで居てくれるはずですよね」
貴女が去らないように、私は蜘蛛の糸を張ったのですよ。
「え…」
貴女が言ったのです、何があっても、どんなこと、どんな者であっても、私を愛してくれると。
優しすぎる貴女のことだから、その言葉を口にして拒絶するなど出来ないと、何故最初から気付かなかったのだろう。
「っだ、れ」
そう、貴女の優しさは、私を悪へと駆り立てるのだ。
待ち望んでいたその言葉に、私の口元を酷く歪んだ笑みにさせた。
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