愛≧飽
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腕を引かれ中に入ると、三人がけのソファーに腰をかけた。だがそこでもまた、気まずいのか何なのか、両端に座って距離を置く形に座ったものだからこっちもむっとした顔をしてしまう。
「…なんで距離を置くのですか」
「え…い、いや。なんか…その」
「…」
「隣、いいんですか?」
その言葉が、痛い。痛い。
全てが胸に突き刺さる。
「…一生そうやって距離置いてりゃいいじゃないですか」
「ち、違うんです!だって…だって、これ計画したのギャルソンさんなんでしょ?そこまで追い詰めてしまったのに、今まで通りじゃ…」
「う…」
そう、その言葉も痛い。何もかも、私が悪い事は私が一番よく分かっていた。
本当なら、彼女に辛かった事を伝えるのも私の役目だったはずだし、それが臆病にも出来なくて幽霊ねえさんに頼んでこんな計画まで立てたことも。結局、彼女は私に嫌われたくなくて私が辛かった事を受け入れた上で距離を置いてくれたことも。しかも、最後は駄々を捏ねてこんな状態にまで発展させてしまったことも。
謝るのは、私のほうなのに。
「ねえ、ギャルソンさん」
「…なんですか」
「ごめんなさい」
それを許してくれる彼女は、本当に甘い。
心の底から謝っているであろう彼女を見ると、ソファーの端からではあるが、しっかりとこちらを向いていた。
「…」
「私、一番近くにいて一番好きで居る…それが愛なんだと思ってて…。でもそれはギャルソンさんにとって重荷だったこと、一番傍に居たのに分からなくて…」
嫌だったら、言えばよかったのに。
「全部、全部あなたを苦しめてたのが…すごく後悔、しててっ…どうしたらいい、か…悩んで、泣いちゃって…ねえさんとお菊、ちゃんっに…相談するしかなくて…」
重荷に感じていたけど、本当は楽しい事の方が大きかったのに。
「ほんとに、これからどうしていいか悩んだけど…ぎゃるそんさん、距離、おくなって…もうどうしていいかわかんなくて…!やだよ…嫌いになっちゃ…!」
何故、こんなことになってしまったのだろうか。
最後を言うまで泣かないようにしていた彼女だったが、喋っているうちにぽろぽろと大きな粒を大きな瞳から零れさせていた。
そんな中。彼女がどれ程好きとか、これからどうしようとか、どうやったら関係を続けていけるとかとか、今、ごちゃごちゃした私の頭の中で、一つだけ強く思っていることがある。
「ナナシさん」
泣かせたくは、なかったな。
「泣かないで下さい」
ここまで無茶苦茶にしておいて、よくこんな言葉が出せるな。
そう思いながらも、泣きじゃくる彼女を抱きしめる自分が都合の良すぎる解釈をしていることに嫌悪を覚える。嫌悪を覚えても、彼女を宥めて、泣き止ませて、このまま抱きしめていたい、そう思ってしまうから厄介だ。
「嫌いになりませんから。さっきも言った通り、貴女を手放す気も突き放す気もありません。だから距離を置くのも、辞めてください」
「っ…でも!」
「全部、私の我侭なんです。何から何までぜーんぶです。こんな事を起こしたのも、あの二人を巻き込んだのも、距離置きたいと言って結局戻って来いなんて言うのも、全部私の我侭です」
「え…?」
「貴女ってすごいですね。こんな我侭に付き合うのですから、よっぽど我慢しないと無理ですよ。やっぱり付き合うのは無理ですかね」
「無理じゃない…!無理なんかじゃ、ないもの…我侭でいいの…」
そうやって許してくれて、甘やかしてくれていたのは貴女のほうだった。
こんなに我侭になってしまったのは、貴女の所為なのだ。
「…ごめんなさい、ナナシ。やっぱりいつものままがいいです、貴女が居ないなんて寂し過ぎます」
「…うん」
「もう、離れちゃだめですよ」
「…うん」
「私の事、好きですか」
「うん!」
「…っふふ」
甘い、甘い、甘い。
此処まで来たのなら、この甘さに溺れ死ぬまで我侭でいてやろう。
元気のいい彼女の声を聞くと、ようやく胸が満足感に満ちていった。
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