愛≧飽
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「…」
「やっと、言ってくれましたね…」
詫びの言葉もなしに彼女がそう言うと、彼女の足音が近づいてくるのが分かった。
「実は、幽霊ねえさんから全部聞いていたんです。ギャルソンさん、すごくストレス溜まってるって。だから…ギャルソンさんが元気になるまで、離れていようって、決めていたんです」
「えっ…」
その場にうずくまって俯いている私の横にしゃがみ込むと、温かい手で背を擦ってくれた。
その温もりと香りが、酷く懐かしく感じられる。
「…すっごく寂しかった。でも、このままじゃギャルソンさんが私の事嫌いになっちゃいそうで、寂しいより怖いって気持ちのほうが大きかったんです。だから…我慢してました」
全部知っていた。そのことに私が一番動揺していた。
あの泣き虫の彼女が、何故そこまで我慢できたのか。恐怖から我慢していたのだと聞かされると、驚きと切なさで胸がいっぱいになっていく。
顔を上げて彼女を見ると、泣きそうな、困ったような顔をしていた。
「ごめんなさい、今まで我侭を言って。もうこれからは、少し距離を置いて」
そうやって、寂しそうに笑って言う彼女の言葉が、凄く胸に刺さった。
「…やめてください」
「え?」
「距離を置くなんて、二度と言わないで下さい」
彼女からは、その言葉を聞きたくなかった。自分じゃ散々言っておいて、これじゃあ私の方がよっぽど我侭放題だ。
「え、えーと…。これからは、その、いい関係を」
「…それも駄目です」
「え!じゃあえっと…!適度な」
「駄目」
「仲よk」
「却下」
「ううう…ねえさーん!ギャルソンさん拗ねちゃってますー!」
うるさい、うるさい。そんな関係嫌なんです。今度こそ、彼女の口から私の望んだ言葉が出てくるまで、機嫌を直してやるものか。
この際だ。ここまで派手に騒いでしまったのならば、最後の最後まで我侭で困らせてやりたいと思っていた。
「…。支配人は今までの関係がいいみたいだから、今まで通りに接してみたら?」
「今まで通りって…そ、それじゃあ意味がないじゃないですか!こんなに我慢して…ギャルソンさんのこといっぱい我慢したのに!」
そう、そうだ、そういう言葉が欲しかったのだ。
「支配人が今ちょっと眉動かしたから機嫌直りつつあるわよ」
「私も見たわ、人騒がせな上に駄々捏ねるとか、こっちこそしばらく距離置くわよ」
「…う、うるさいですよ」
片や欲しくない言葉が傍から浴びせられる。
侮蔑と軽蔑の言葉を浴びせかける二人に、申し訳ない気持ちと今は話しに加わらないで欲しいと切に願ってしまう。
「なんかねぇ…支配人がこういう人だったのも意外だけど、結局ナナシが傍に居てあげないと駄目駄目なのね」
「ていうかぁ、あれだけ頼んできた割に一週間しか持たなかったって…」
「違うわ、8日目よ」
「あぁ!そうだったわぁ!」
「予想じゃ2週間だったのに…」
「だから言ったじゃないのぉ、そんなに長くもつわけ無いって」
やはり女性は女性の味方だったのか、そんなことはお構い無しに私が根を上げる予想までつけていた。これほどまでに屈辱を受けたのは初めてだ。
この事態を引き起こしたのは紛れもない自分であるため、全く持って反論できないが、これ以上醜態を晒したくない私は、腕を振ってこの場から離れるように指示したのだった。
「だっ…も、もう二人はあっち行って下さい!後は二人で話…」
「「ここは廊下だからあっちでやって」」
「ぐっ!?」
「ぎ、ギャルソンさん。いつもの部屋行きましょ?ね?…失礼します」
結局最後の最後まで、何一つ勝てないまま、彼女に腕を引かれていつもの談話室におずおずと退散する自分が情けなかった。
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