愛≧飽
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腹が立って仕方なかった私は、彼女が一直線に向かった部屋まで行くと、少しだけ扉を開いては中の様子を覗き込んだ。
中ではお菊ちゃん、幽霊ねえさん、彼女の三人が、仲良さそうにテーブルを囲んで何かを話していた。
「えー、ナナシはこっちがタイプなの?」
「うん、かっこいいでしょ?優しそうだもの!歌も上手いしさ」
「貧弱な感じがするー…私は断然こっち!幽霊ねえさんはどっちなの?」
「えぇ?私ぃ?うーんと…こっち!」
「え!なんでそっち選ぶの!?」
「えへへー!2対1だよー!」
寂しさだけが収まっていく。
そして、胸の中で何かが砕けていく音がした。
「なん、で」
誰の話で、誰を見て、誰を指して、好きだといっているのだろう。
視線を移して彼女等が指差しているそれを見れば、男性が数名移り込んだ雑誌。どうやら、自分の好みの異性を選んでいるようだ。
(私にはギャルソンさんだけですから…)
私は、何度も彼女の言葉を思い出した。
「嘘つき…!」
私にも見せない楽しそうな笑顔で、私だけが好きだと言った口で他の男を褒め、私の事など微塵も考えていない会話をしているのだ。
その光景を腸が煮えくり返る思いで睨み付け、どこにも捌け口の無い怒りだけが沸々と湧き上がってくる。
何故だ、何故こうも彼女が遠くなっていく。今までの言葉は嘘だったのだろうか、何故私の事を考えてくれないのだろうか。
「何故って…」
再度湧き上がる怒りで拳を握ると、ちくちくする胸の中で、とても重要なことを思い出した。
これは、幽霊ねえさんが私のために、彼女と離れ離れにさせてくれていたのだ。
そう、これは正しい状態なのだ。成功であり問題なく進んでいる状態。彼女が少しでも私を思い出せば会いに来てしまうから、きっとそれをさせない為に話を逸らしているのだろう。それならば、私を思い出すはずが無い。上手くことを運んでくれているのだ、これは当たり前の結果である。
「…でも」
それでも、心の違和感は取れるはずもなかった。
でも、だって、だけど。もやもやとする胸の中でそんな葛藤を繰り広げていると、部屋の前で彼女の帰宅時間までぼおっと立ち尽くしてしまったのだった。
「それじゃあ私そろそろ…きゃあ!」
扉を開けた彼女は、立ち尽くしていた私を見て驚いていた。
どうリアクションを返そうか、一瞬悩んだものの、全く私の事を考えもしないで他の男の事を喋っていた彼女の顔を見ると、途端に腹が立ってしまった。
「ギャルソンさん!?どうしました!?な、なんでここに?」
「…」
「あの、さっきもその…本当にどうしちゃったんですか…私何か悪い事でも」
うるさい。貴女が気付くまで言ってやるものか。
自分の口から言うのが悔しくてたまらなかった私は、仏頂面のまま、決して口を開こうとはしなかった。
「ナナシちゃん。喋らないってことは特に何も無いということよ。」
「そうそう。今日は遅いし、早く帰ったほうがいいわ。」
そんな私を他所に、後ろからやって来た二人が彼女の背中を押す。こっちの気持ちを知ってか知らずか、そそくさと彼女を玄関まで歩かせようとしていた。
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