愛≧飽
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「こんばんは!」
「こんばん…あれ、ズボンですか?」
元気良く挨拶する勢いはいつも通り。しかし、今日の彼女は珍しくジーンズのズボンを履いていたのだ。
「え?あぁ…変、ですか?」
「い、いえ?久しぶりに見たのでつい…で、でもその格好も似合」
「動きやすいので履いてみました!あ、お邪魔しますね」
決して似合わないわけではない。寧ろ脚の長い彼女には、それも良く似合っていた。
何故私が驚いているのか。それは以前、私がスカートの方が好きだと言ったら、彼女はそれ以来ズボンを履かなくなっていたからである。さも当たり前のように着こなしているのだから驚くのも無理はない。
「ど、どうぞ?」
ジーンズが女性らしくないわけではない。だが彼女は少しでも可愛く思われたいのか、女の子らしい格好を心がけていたはずだ。それがどうだろう、私の好みを考えて履いてきたはずのスカートを動きやすいという理由で切り替えたのだ。
「…どういうことなのですか」
私を、意識しなくなっている?
少しずつ変化していく彼女に、妙な焦りを感じ取っていた。
その他にも、私にはいくつもの違和感が付きまとっていた。
いつもこの時間は彼女の声を聞くはずなのに、お客様の低くゆったりとした声がしても耳に入ってこない。これはいけないと、化け猫に仕事を変わってもらい、いつも彼女と談話する部屋へと休憩を取りに入った。
「ナナシさんは平気なのでしょうか?」
こうも自分ばかり違和感だらけで生活していると、屈託のない笑顔でいる彼女にそんな疑問が沸きあがってくる。それにこの部屋、こんなに広かっただろうか?独りでこうしているのが楽に感じていたはずなのに、今じゃ何だか物足りない気がしてならない。
「…一度くらいは寂しいと言うかと思っていたのですが」
どうしてだろう、私の言葉が欲しいのではなかったのだろうか。
彼女と離れて7日目。私の中では日を追うごとに、もやもやとした何かが渦巻いて往く事を嫌というほど感じていた。
そして迎えた8日目の夜のこと。
「こんば…あれ?」
「…」
「ギャルソンさん?どうしたんですか?」
「…別に」
露骨に嫌な顔をしながら不機嫌さを醸し出して出迎えた。ここまですれば、流石に彼女だって違和感を察してくれるだろう。私達は恋人同士なのだ、それくらい分かって当然だ。
「そう、ですか?私いつもの部屋に居るので、何かあったら呼んでくださいね?それではお邪魔します」
「ちょっ…!?」
声が出なかったが、当然だ、そう口を動かしていた。
「え…え?」
綺麗な長い脚を軽快に進め、背を向けて歩き出した彼女に、私は開いた口が塞がらなかった。
あるはずがない、私の顔を見て、私がこんなに表情を暗くしているにも関わらず、彼女がそれに気付かないだなんて。
いつもはそう、眉間ひとつ動いただけで怒っているだの、不機嫌だの、根堀り葉掘り訪ねてくるはずだ。それが何の疑問も持たず、気付いて欲しくて発した言葉に気付かないなどあるわけがない。
「…っ」
軽やかに去っていく彼女を唇を噛み締めながら見つめると、怒りと寂しさで胸が溢れ返っていった。
何故気付かない、何故私を見ていない、何故、何故。
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