愛≧飽
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
倦怠期。そう呼ぶのが正しいだろう。
「ギャルソンさん、こんばんは!」
可愛らしく元気のいい声、そしていつも整った髪とよそ行きの服。
彼女はそう、私の前では非の打ち所の無い完璧な姿を見せる。
それもそのはず、こんなにも愛してくれているのだから。
「ほらほら見てください!新しいお洋服買ったんですよ!」
そう、彼女が何かするのは全て私のため。私に少しでも自分の良いところを見せたいがため。かれこれ四季を何週かした間柄であるが、女性らしく振舞い気を抜く素振りを見せない彼女の努力は、人並み以上のものであろう。
だが、私はどうなのだろうか。
「ああ、いい色ですね。似合いますよ」
「本当ですか?えへへ…ちょっと奮発した甲斐がありました…」
この発言、何回目なのだろうか。彼女が目新しい服を着てくるたびに言っている。髪形を変えたときも、新しい靴を履いてきたときも、はたまたシャンプーを変えたときも、全て『気付かなければならない』ことに、段々と飽き飽きしてきた。
「ナナシさんのことですから、何でも着こなせますよ。特にこのレース、可愛いですね」
「あ、やっぱりここ可愛いですよね!私もここが気に入って…」
気付くと言っても、彼女が新しいそれのどこを気に入ったか気付かなければならない。的を外した答えなどした日には、それこそ『価値観が違うのか』などと嘆くのだ。怒りはしないが、私と意見が違うだけでその日は落ち込み続けてしまう。別に放っておけばいいと思うのだが、恋人を落ち込ませて気にしないほど図太い性格ではない。
だがそう、最近の私は、彼女との時間を苦痛に感じている。
「それでね、昨日なんかそのまま自転車に乗っちゃって…」
「それはそれは…誰にも気付かれなくて良かったですね」
「本当ですよぉ…あんな所を見られたら恥ずかしくて死んじゃいます!」
適当な相槌と時計への目配らせ。早く彼女の帰宅時間にならないか、最近は彼女の目より時計を気にする事の方が多くなっていた。
決して彼女が嫌いになったわけではない。ただ、付き合って間もない頃に比べると、胸の高まりや彼女への執着心が薄れているのは明白だった。これが俗に言う『倦怠期』なのだろう。こういった身になってから初めて経験するが、これは抜け出せるのだろうか、今の私では断言できそうに無かった。
.
1/10ページ
