嘘吐きの薬
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「の、飲んじゃったんですか!?え、今の流れで飲みますか?」
「だって気になるんですもの!それに、こういうのは勢いが無きゃ飲めませんって」
彼女は空の小瓶をテーブルに置くと、甘ったるい香りがする吐息と共に深呼吸をしていた。
あれだけ疑っていたというのに、普通飲むだろうか。自分ならば絶対に飲まないだろう。
この豪快な飲みっぷりに狼狽えつつも、神妙な顔つきで飲み干した彼女に近付いてみると、少しずつその表情が曇っていくのが分かった。
「で、も…これね…」
そして次の瞬間、彼女の体がぐらりと揺れた。
「ナナシさん?」
頭の中を最悪のケースが過ぎり、己の軽率な行動に後悔をした。
「嘘…毒じゃないはずでしょ…!?どうしたのです、苦しいのですか!?ナナシさん!」
慌ててその体を受け止めると、そこでやっと小瓶の中身が『毒ではない確証が無い』ことに気が付いたのだ。
「ぅ…!」
愛の成就、よく考えればこの自分と結ばれるということが、どういうことか考えて見て欲しい。
もしもだ、魔女の考えが死を持って愛を成就させることであれば、これが劇薬である可能性が非常に高い。彼女を幽霊にし、恋人同士になる。充分有り得ることではないのか。
血の気が引く思いで必死に声を掛けながら、苦しそうに胸を押さえるその姿に恐怖を覚えた。
「あぁ…!私はなんてこと」
「あっ…ま」
「駄目です、死んでは!」
「うえ…甘い、胸焼けしそう…」
胸が焼けるほど苦しいなんて、このままでは彼女が!
「…え?」
「甘すぎですよこれ…何かガムシロップ一気飲みしたみたい…苦い方がよっぽど良かった…」
甘いと言う彼女の言葉に冷静さを取り戻し、そう言えばいつも甘いものは苦手だとかそんなことを口にしていたような。瞬時に彼女の身を案じた自分が愚かであると思い知らされる。
そういう彼女は、こちらの心配を他所に、元気良く歩き出した。そして、自分のバッグから持参したのであろうペットボトルを取り出し、大急ぎで飲み干している。
その姿に、決して毒の心配や命に別状があるようには感じられなかった。
「体験したことがあるのですか」
心配して損したではないか!
呆れ気味にそういうと、小さな声で『一度だけ』と聞こえたが、それはきっと空耳であると思うことにした。
甘すぎると嘆く彼女の背を擦りながら、もしかしたら先ほど考えた恐ろしい事態が起きることもあったのだと思うと、彼女を怒る事も出来ずに深く反省せざるをえなかった。
「ギャルソン、さん…」
「はいはい、いつものブラックですか?淹れますとも」
何も起こらなかったことに感謝しつつも、彼女も彼女でそういった心配も知らずに元気そうにしているのが悔しくて、苦笑いしか浮かべることが出来なかった。
名前を呼ばれると、きっと次に彼女の口から出てくるであろう飲み物の催促を見越し、厨房から何を持ってくるか考えながらそう聞き返した。
「好き、めっちゃ好き…私、誰よりも貴方を愛してます!アイラブユーです、ウォーアイニー、ナマスデ…!」
「挨拶が混じっていますよ」
彼女の返答は、甘すぎる口直しのお茶でも、その薬の中身を問うことでも、魔女が本当に実在したことでもない。
身体に温かなそれが飛び込んでくるのを見ながら、冷静にそう伝えた。
「あと分かる他国の言葉は…」
愛しているとは、他国で何と言うのだったか。
体を締め付ける温かい腕、近づいた髪から香る彼女の匂い、きらきらとした真ん丸い瞳に、大好きなその声で聞こえてくる愛の言葉。
何だ、胸の中に彼女がいて、自分に抱きついているのか、そうか。それで、他国では…
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