嘘吐きの薬
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「ねえ、それなんですか?」
「え!?いや…ま、マニキュア?」
「いや疑問符で返されても…その色はちょっと付けたくないというか、飲み物なんですよね?」
咄嗟に出した答えは、薬の禍々しい色の所為で、さらに怪しまれる結果となってしまった。
素直に惚れ薬だなんて言える筈もなく、曖昧な回答をしたのだが、彼女の興味はすっかり小瓶にあり、根堀葉掘その詳細を聞いてきた。
「友人の魔女から頂いた薬でして…」
「魔女!?本当に居るの!?」
魔女だなんて言うんじゃなかった。
もはや何を言っても悪あがきなのだろう、人一倍好奇心旺盛な彼女には何もかもが面白い対象に思えて仕方ないようだ。
あれよあれよの内に、これ以上言及されたくなかった小瓶の話は、すっかり逃げ道をなくしていた。
「で?」
「で、と申しますと?」
「やだなぁ、勿体ぶらないで何の薬か教えて下さいよ!」
逃げられない、どうする、素直に言えるわけもない。
彼女が腕にしがみつき、切望の眼差しを送ってくるのに、これ以上誤魔化す言葉が出てこなくなっていた。
「それは、その」
そして、詰まった言葉の先に『隠す』以外の選択肢が、頭の中に浮かび上がっていた。
「…なら、飲んでみますか?」
今しかない。この薬を『飲ます』には、今しかないぞ。
誰でもない、自分がそう囁いていた。
「え?」
「ナナシさん宛てに頂いた薬でして、私にも効能は知らされていないのです」
そうだ、元々は彼女に飲ませるために貰ったのではないか。
切羽詰って出てきたのは悪魔のような囁きで、良心や善悪を咎める考えは、小瓶を差し出した時点で消え失せていた。
「私に?な、何で魔女から?」
「さぁ?日頃から貴女の話ばかりしているから、でしょうかね?」
「う、うーん…そうなんですか」
知らないふりをすると、余計不安そうに困り顔になる彼女に、笑いがこみ上げそうになる。
だけど私は知っている。彼女の好奇心は止まらない、この薬へ興味があるのだから。
「不確定要素たっぷりですよね…苦いかな」
「貴女が飲めば全てが分かるはずですよ。…魔女の薬ですよ?飲んでみる価値、あると思いますけど」
「…です、よね?すごく貴重な体験ですよね?」
ほらね、その目は得体の知れない危険性よりも、どうなるのか期待している目だ。
きっと自分が渡すものに何の危険も感じて居ないのだろう。それほど信じてくれているのに、それを知っていて飲ませようとするのは、何と卑劣なのだろうか。
「どうぞ」
だが、こちらも期待を寄せているには変わりない。その白い喉に音を鳴らし、早くその中身を体に取り入れて。それと同時にその愛を一身に受け止めたいのだから。
やましい気持ちだけが心を埋め尽くす中、彼女は小瓶を受け取ると、躊躇しながらその蓋を開けた。口元へと運ばれていく小瓶に目が釘付けになり、小瓶の淵が唇に当たると、ふとその手が止まった。
「ねえ」
静かに、それでいて少し低い彼女の声が、これからどうしようかという考えを一瞬にして吹き飛ばした。
彼女は小瓶から口を離し、いきなりこちらへと話しかけてきたのだ。
「…何でしょう」
気取られたのか。
その声にはっとし、目を泳がせて彼女の方を見つめると、彼女もまたこちらの方を見つめていた。
恐る恐る何事かと聞き返すと、彼女はじっとこちらを見ながらその口を動かした。
「何の薬か分からないけど、私宛に貰ったものなんですよね?」
「そう…ですよ。私は受け取っただけなので、何も知らされていませんから」
「そもそもどういう薬なんでしょうか。もしかして魔女さんは誰かに頼まれたんじゃ…」
「さ、さぁ?どうなんでしょうかね」
もう駄目だ。流石にこれは怪しまれている。
冷や汗と共に、彼女から発せられる疑念に観念していた。だってそうだ、どう考えても辻褄の合わない理由ばかり並べているのに、疑問を感じないわけがないだろう。彼女もそこまでお人好しではない。
謝るしかない。信じてもらえるか分からないが、正直に話すしかない。
「っぷはぁ!」
そう考えている間に、彼女はそれを飲み干した。
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