S&S2
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「電話もケータイも通じない事を考慮してあげないこともありません。ですが私を待たせるなど、いつからそんなに偉くなったのでしょうかね?」
「ほ、本当にごめんなさい!私もびっくりするくらい映画が長くて…!」
映画がとてつもなく長かったこと、そしてそれを伝える連絡手段がなかったこと。彼女自身も早く彼にその事を伝えたかったであろう。だが店には連絡手段がないため、彼を待たせるのはやむを得ないことである。
しかし、彼はそんな事で不機嫌になった訳ではなかった。
「楽しかったですか」
怒っているわけはない、だけど楽しそうでもない。その一言が彼の不機嫌の要因であったが、無表情のまま短く静かに聞いた彼の声からは、感情を読み取る事が難しかった。
「はい!CGとか凄くて、前編からの追い込みって言うか…」
「…違いますよ阿呆」
「あれ?映画のことじゃ?」
「もういいです。ま、お詫びとしてDVDプレイヤーと新作DVD5本は持って来て鑑賞会でも開かない限り、当分は床で寛いで貰う事になりますね」
「床…」
そんな表情と声を一変させて話をすり替えた彼は、幽霊にしては近代的な代償を要求し始める。この店に電気が通っているのかどうか怪しいところなのだが、彼や店の皆で映画を楽しめるのならば、それはとても良い案であると彼女は思った。
ただ、彼の要求は楽しむという目的で言っている訳ではない。
「もちろんホラー、サスペンス、ラブロマンス、アクション、コメディー、全部5本ずつです」
「え!?全部で5本じゃないんですか!?」
「…ナナシさん、貴女相当重石を体験してみたいらしいですね。古くから正座させた上に重石を載せるのは拷問、及び尋問の中でもポピュラーな方法でして、ギザギザした鉄の重石の上に座ってそのまた上に重石を載せると」
「借ります借りてきます今すぐレンタルショップに行って最新作一週間レンタルで借りてきます」
どれだけ彼女が苦労し疲労困憊し苦しそうにするのか、それが重要なのである。
財布の中身と会員カードの有効期限を心配しつつも、彼女はこの後直ぐにでも帰路とは正反対にあるレンタルショップへ行こうと決意するのだった。
そんな心配をしている彼女を横目で見つつ、次に彼は一緒に出かけた相手について話し出した。
「ですが…その彼も可哀想に、誘う相手を間違っていると思いますよ。一緒に映画を観に行くのに語彙力乏しいこれを選んでは…チケット勿体無いじゃないですか、どうせならもっと作品を理解できる人間じゃないとねぇ…」
「ちゃ、ちゃんと作品として観て来たんですから!それに…山田君は前から何度か遊んだ事がありますし、それで誘ってくれたんですよ」
「…私、その話聞いた事ありませんが。というか、ヤマダ君という名を今日初めて聞きました」
「え?だって話した事ありませんよ?」
「…っ」
「?」
「…彼は少なからず好意を抱いているのでしょうね。好意の矛先間違っていると思うのですが…ナナシさん、貴女はそれにお気付きですか?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか!山田君は唯の友達ですよ?」
「異性にレイトショーを誘われても躊躇せず二つ返事で付いて来る女性なら、遊ぶのに丁度いい相手として認識されているということです。純愛とかそういうのではなく、軽んじられているのです。今後、その彼とは出かけない方が双方の為だと思いますが?」
「そ、そこまで考えてないと思いますけど…大体、山田君は優しいしそんなことするような人じゃないですよぉ」
「っ…夜に恋人でもない男に付いて行くなと言っているのですよ、要領の悪い人ですね…」
「あ…は、はい!それも…そうですよね、すみません…」
遠回しな言い方をする彼が悪いのか、彼の言葉の意味を理解する能力が足りない彼女が悪いのか、話が空回りしてしまう。そして、どう切り出しても一緒に出かけた友人を擁護する彼女に痺れを切らしたのか、彼は思わず強い口調で話してしまうのだった。
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