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中に入った彼女は、何も喋らない彼の物言わぬ重圧に身を縮めていた。入店直後の強烈な一言から何も話さない彼に対し、それほどまでに怒っているのかと恐怖しているからである。
「ナナシさん」
「っはぅ、はい!」
「紅茶はいかがですか、今日はアイスティーを入れました」
「え…?は…はい、頂きます!」
やっと口を開いた彼の口ぶりは至って普通で、何も咎めないところを見ると怒ってはいないようだ。
安心した彼女はようやく肩の力を抜くと、手早く紅茶の用意をしてくれる彼の姿を見ながら『今日は大丈夫だ』と警戒を解く。
暫くするとグラスに入った紅茶とミルクポットを持ってきた彼は、グラスを彼女の前に置くと続いてミルクポットを持ち上げた。
「おおっとー、こぼしてしまいましたー」
「って、えぇ!?ちょ、ギャルソンさん!?」
彼のその声はいかにも棒読みと言ったかんじで、こぼしたと言うその言葉とは全く違い、ポットを逆さまにして中身をテーブルにぶちまけるのだった。
これには彼女も驚愕するが、驚いたのもつかの間、空になったポットをテーブルに置くと、彼は大げさにその事態を嘆き始めた。
「ああ、私としたことが!そういえばナプキンを忘れてしまって…片時もナナシさんと離れたくない私としては、キッチンまでとりに行く時間も惜しい。嗚呼、でもこのままではテーブルが汚いままに…」
「じゃ…じゃあ二人で取りに行けば」
「仕方ない、そのまま召し上がって下さいな」
「え?」
「は?」
まさかの聞き返しに、彼女の脳内は自分と彼のどちらが間違ったことを言ったのか混乱してしまう。
それと同時に、彼が何をさせようとしているのか、薄々嫌な予感がしてくるのだった。
「あの…え?」
「だから何ですか?言いたい事があるならはっきり言いなさいな」
「その、これ…こぼして」
「遅刻までしてきたナナシさんの為に、私がわざわざ入れた紅茶とミルクですよ?まさか、この期に及んで要らないとか言わないですよね」
『要るも要らないも頂く状況ではない』先ほど大丈夫だと油断した自分に、後悔の念が押し寄せてくる。
彼の目は冗談を言っているわけではなさそうで、まるでゴミを見るかのように上から見下ろしては彼女を威圧していた。
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