約束守り
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『ああ楽しい!これ本当に面白い!死ぬほど面白い!』
「ギャ…ギャルソンさん、何してるのかな…?」
内容とは裏腹に全く楽しそうではない声色。そして明らかに扉越しにこちらへ大声で訴えかけているとしか思えない声量が部屋にこだましている。
『これは見なきゃ損かも…!えーと…と、とっても可愛いなあ、これは!ああよしよし!』
「と…途中から生物になりましたね」
鈍感なナナシにも気付かれた芝居かかった台詞。思わず乾いた笑いとと困惑した表情になってしまうナナシだったが、それでも約束があるのでじっとその声に耳を傾けるしかなかった。
その後しばらくは何かを可愛がっている声が響いていたが、何も出来ないので放っておくとぴったりと声は止まった。ややあってゆっくりと扉が開いたと思うと、奥の部屋から顔だけ出したギャルソンがナナシを覗くのだった。
「あ。ギャルソンさん、おかえりなさい」
「…ねえナナシさん」
「はい?何でしょうか?」
扉に張り付くようにナナシを見つめていたが、盛大に溜め息をついたかと思うと、重い足取りで近付きナナシの隣に座りこんだ。
「ちょっと真面目過ぎやしませんか…」
「え?何のことですか?」
「あれだけ焦らして好奇心をくすぐって覗くように仕向けたのに…私が馬鹿みたいじゃないですか…」
頑張ったのに、そう言って落胆の表情を浮かべるギャルソンを見て、ナナシはややあって何がしたかったのかやっと気付いたのだった。
「あ…ギャルソンさん、覗いて欲しかったんですか?」
「…そうですよ」
「あらら、ごめんなさい…約束したから覗かないようにしてて…」
「いえいえ、それほど私との約束を大切にしてくれているんですから。嬉しい事ですよ」
それは失礼な事をしてしまったと慌てるナナシに対し、若干疲れたような表情でギャルソンは微笑んだ。
「その…ギャルソンさんとの約束ですから…」
「ふふ、そうですね。そこがナナシさんの素敵な所でしたね。…ですが」
そう言って優しく微笑んでいたが、ゆっくり目を細めると、先程よりも不敵に含みのある笑みを浮かべてはナナシにこう言ったのだ。
「ですが、覗いていたら凄い事になってましたよ」
「すごい事、ですか?」
「ま、今回はナナシさんの私への信頼度が分かりましたし見送りと言う事で」
「見送り?」
「…じきに分かりますから」
ギャルソンが何をしたかったのかはナナシにはわからない。しかし、ギャルソンはナナシが覗いていたらそれはそれで何かあったらしい。
「選択肢、誤らなくてよかったですね」
それを知っているのは、この男だけ。
fin.
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