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「もうこれ止めたいにゃ…なんか喋っててむず痒いにゃ…」
「その格好で地声出すのやめてください!それにやってくれると言ったのはそっちじゃないですか」
「だって…あんまりにも落ち込んでたから…」
急に女の声色が別の男のものになった。
女というのもナナシの姿をした化け猫であり、もちろん男というのもギャルソンである。ナナシの顔のまま嫌そうな表情の化け猫は、ギャルソンにした約束を後悔し始めたのだった。
約束というのも、事の発端はナナシがゴールデンウィークで旅行に出る為、しばらく店に来れないと話をした事に始まる。店の一同、彼女のお土産やら旅話を期待しつつ笑顔で見送り旅の無事を祈っていたのだが、彼女が旅行に出て二日目、一人だけそれに耐え兼ねる男がいた。
「…平気ですよ別に。たかが一週間くらいでしょうに、そんなちょっとの間なら平気ですよほんと私から見たらそんな期間一瞬ですよ一瞬、お土産楽しみですし平気ですよほんと」
ぶつぶつと一人、店の一室でうずくまりながら俯くギャルソン。誰がどう見ても平気そうには見えない様子で独り言ばかり呟いていた。これは哀れだと感じ取った化け猫は、本当に小さな善意から彼に声を掛けたのだった。
「し…支配人?」
「ていうか誰と旅行してるんですかねお友達とは言ってましたけど性別まで言ってなかったしナナシさんが友達だと思ってても相手がそうじゃなかったらこの一週間で色々進展」
「支配人!落ち着け!」
「っ…な、何ですか急に!大きな声を出して驚くじゃないですか」
「こりゃあダメだ…」
だいぶ悲しい妄想にとりつかれているギャルソンに、化け猫は返す言葉もなかった。ややあって化け猫は、こんなに酷い事になっている彼に何か出来ないものかと考え抜いた末、自分が出来る最大の慰めを思いついたのだった。
「支配人、そんなにナナシちゃんに会えなくて寂しいのにゃ?」
「別にたかが一週間ですし寂しがる必要なんて全然ないんですけどねですけど」
「わ、わかったにゃ言い方変えるにゃ…ナナシちゃんに会いたいなら会わせてあげるにゃ」
「…え、それは…本当に?」
「もちろん!本人って訳じゃにゃいけど…」
訝しげにこちらを見るギャルソンの前で化け猫はくるりと一回転すると、二日前に見たナナシの姿へと変わったのだ。
「どうですか?一応化け猫なんでこういう事も出来ちゃうんですよ!」
「…」
「声だってちゃーんと真似て…って、支配人?」
変化したのもつかの間、せっかくナナシへと姿を変えたのにも関わらず、一向に嬉しそうな顔をしないギャルソンに化け猫は変化に不満でもあったのかと不安になった。
「…ぎゃるそんさん」
「はい?」
「ナナシさんはギャルソンさんって呼ぶんです…」
「え…あ、はい。えっと…ギャルソンさん…」
「それからナナシさんは笑った時こんなに大雑把に笑いません…もっとはにかんだ感じで…」
「…」
これが化け猫の後悔した約束である。
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