残り香
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彼女との楽しい会話も夜が開ける前には終わってしまう。
「お邪魔しました。おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい。お気をつけてお帰り下さい」
この瞬間が何よりも口惜しい。帰って欲しくない気持ちが大きいがそうもいかない為、私には笑顔で見送るしか出来ない。
「…」
扉が閉まるとその笑顔も消え、私は早急に先程二人で居た部屋へと向かった。
早く、早くしなければならない。これは時間との勝負なのだ。
慌てて部屋に向かうと、先程まで彼女の座っていた椅子の前に跪き、彼女が腰掛けていた部分へと頬を付ける。
「あったかい…」
まだ、温かい。居たのだ、彼女はここに居たのだ。私に微笑み、私に声かけ、私の為に居た彼女の温もりがこの頬に伝わってくる。
「…ナナシさん」
それだけでは満足できない。温かなんて私の元より無い温度じゃ直ぐに消えてしまう。これでは直ぐに彼女が感じられなくなってしまう。
だから、そう
「ん…」
だから私は椅子に顔を埋め、この香りを狂おしく感じ取る。
傍から見たらさぞ無様な様子だろう。だけど、そんな事今はいい。この香りを早く堪能したいのだ。
背もたれの上のほうが良く香る。頭を付けるから。顔を埋めてその香りを感じると、ぞくぞくするような感覚と変態じみた行為に背徳感を感じずにはいられらなかった。
「ナナシ…ナナシ…」
椅子を抱きしめながら匂いを嗅ぐのはもう慣れた。頭の中で彼女を抱きしめている妄想とこの香りは、何をやってるかなんて考えさせないくらいに私の中をかき乱す。
まだ手も繋いだ事ないのに、私は何を考えているのだろう。でももし、もしもだ。彼女をこの腕で抱いて、あの香りを直接感じたらどうなる?あの温かさ、あの柔らかそうな身体、この香りを…
「あぁ…考えただけで素晴らしいですね…」
一人部屋でそう呟いた頃には何もかも消えていた。
早く、早く彼女が来ますように。早く私に彼女を感じさせて下さい。
fin.
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