香水
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「…おや?」
ギャルソンがその変化に気付いたのは、ナナシを部屋へと招き入れ、彼女が前を横切った時だった。
「何やらいつもと違う香りがしますね」
鼻腔を衝く知らない香りに、くんくんとわざとらしく香りを嗅ぐ仕草をした。さらさらと流れていく彼女の髪からはいつもとは違った香りがする。
ナナシはギャルソンが香りに気付くと嬉しそうにその香りについて語った。
「あ、気付いてくれました?実は新しい香水買ってみたんです。殆ど衝動買いというか…気に入っちゃって」
「あぁ…どうりで」
もう少し顔を近づけて香りを嗅ぐと、甘く良い香りがギャルソンの鼻をくすぐる。そしてすぐに顔を離して浮かない顔をするのだった。
これに香りが合わなかったのではとナナシは慌てだした。
「ふむ…」
「あれ、あんまり好きな香りじゃありませんでした…?」
「あぁ、いえ。そうではないのですがね」
否定するギャルソンの言葉に安堵したナナシだったが、今だギャルソンの表情は曇っている。歯切れの悪い物言いに直ぐさま不安へ転じた。
「…香水を変えるのは恋人を変える時というジンクスがありましてね」
「え!」
ギャルソンは溜め息をつきつつ、ちらちらとナナシを見ては臭い三文芝居のように悲しそうな表情を浮かべていた。
そんなことを言われてしまうとは思いもよらず、事実無根の疑いをかけられているため声を荒らげてしまった。
「そんなジンクスがあるんですか!?」
「ええ、古い話ですけどね。古い話ですけど…ねえ。あぁ…」
「わ…私そんな事しようなんて思ってません!ただ何となく新しいのを買っただけですって!」
ナナシは気付いていなかった。
「いいのです、わかってますから。ちゃんと…ッフハ」
この時ギャルソンの口元が笑いを堪えている事を。そして必死に悩んで何かしようとするナナシの行動が可愛くて仕方が無い事を。
「し、信じてください!えぇっと…!」
そんなことは露知らず、どうにかしてギャルソンの疑いを晴らそうとするナナシは今だ身振り手振りで話している。
業を煮やしたのか、急にギャルソンの手を掴んで握り締めた。そしてその目を見つめると改めて弁解し始めるのだった。
「ギャルソンさん!」
「はい、なんでしょう」
「私…ギャルソンさん大好きです!いつも優しくて頼り概があってお話しするのがすっごく上手くて私のこと好きでいてくれて…えっと、とにかく…私はギャルソンさんが誰よりも大好きなんです!他の人なんて考えられないんです!」
「うんうん」
「あ…く、口では何とでも言えますよね…どうしよう…!」
「…ハグしてキスしてみたらいかがです」
「わかりました!失礼します」
これはいいな、と棚ぼた気分の悪魔が心も口も笑った。
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