リトライ・ヴァンパイア
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遂にこの日がやって来た。そう、クリスマスだ。この為にケーキを予約して、さっき受け取ったばかり。出来合いの料理を並べるだけの、ささやかなクリスマスパーティには私の他にもう一人いる。
「ただいま!寒かった~」
「おかえり、シオン」
白竜くんが出迎えてくれる。しかもハグ付きで。あったかいなぁ。本人から聞いたのだが、人間にして貰ったらしい。吸血鬼特有の尖った耳もなくなって、でも性格は変わっていないようで安心した。血を吸えなくなって、料理もちゃんと食べられるようになったんだとか。本当に、何があったんだろう。
「外、凄い雪だった」
「お前、手袋はどうした!」
「マフラーと一緒に忘れちゃって……」
「なにをやっている…」
「ごめん」
白竜くんがため息を吐きながら手を握ってくれる。彼の手は温かい。凍えた身体に熱を伝えるように何度も摩って温めてくれた。
「ありがとう」
「次やったらまた監禁するからな」
「それは困る…」
と苦笑しながら手を引かれダイニングへ行く。食卓の上には美味しそうなポトフやピザなどの料理が所狭しと置かれており、どれから食べるか迷ってしまうほどだ。どれもこれも食べ慣れているものなのに、今日だけ特別なものに思えるから不思議だ。
「あ、シャケもある!」
「お前が食べたいと言ったから買ってきたぞ、海鮮サラダ」
「やった!いただきまーす」
スプーンを握って具沢山のポトフを掬って口に入れる。ほっこりとした味わいが広がっていく。野菜の旨味と塩気が絶妙に合わさっていて最高だ。白竜くんの作った料理、やはりクリスマスということでより一層輝きを放っている気がする。
「おいしい~」
「お前のために作っているんだ。当たり前だろう」
そう自信満々に言う白竜くん。流石だ。普段はクールな態度を取る事が多いのにこういう時に限ってデレるのが反則級である。そんなギャップ萌えも相まって益々好きになってしまう。好きと言う名の麻薬中毒に陥って抜け出せないまま堕ちていくばかりだ。でも今はとにかく目の前の御馳走を堪能しよう。それからしばらくして………。
「よーし、そろそろ本命をだそうか!」
「本命?あぁ、ケーキか」
「ふふふ。今年のケーキは、これだ!」
私は箱からケーキを取りだす。粒揃いの苺がふんだんに使われた、血のように真っ赤なタルトだ。甘い物が苦手な白竜くんでも食べられるような、苺本来の味を活かしたこれをチョイスしたのだ。
「あと、ワインも買ってきたんだ。デザートに合うようなやつ」
「そうか」
私はグラスに注いで渡すと、お互い乾杯して口に含む。フルーティな香りが鼻腔をくすぐり、喉を通るアルコールに酔って心地良さを感じた。
「このワイン美味しいね。すっきりしてて飲みやすい」
「悪くないな」
「でしょう?」
にっこり笑う私に彼も柔らかく微笑む。あぁ幸せすぎる。去年まで一人ぼっちだったのが嘘みたいだ。こんな素敵な人と出会えて一緒にお祝い出来るなんて夢みたいだ。良い気分でタルトとワインを楽しむこと、30分後……。
「シオン~……」
え、嘘。白竜くんが早々に酔った。このとワインそこまで度数高くないはずなのに。まさかの下戸?いやそれはない。だって今までお酒は普通に飲んでたんだよ。人間になって極端に弱くなったのか?彼は私に纏わりついて、
「シオン~…おまえはほんとにかわいいな~…」
と、酒焼けした声を出した。眉を下げて目もとろんとしていて威厳もなにもない。が、白竜くんのこの姿を見られるのは私だけなのかと思うとちょっと良い気分になってしまう。
「わわ、顔熱いよ。大丈夫?」
「へいきだ~……あっつい」
「脱ぐ必要ないよ。寒いから」
「さむくない…」
「寒くなるから服を着なさい」
酔っぱらいの介抱って、ここまで面倒くさいんだ。初めて知った。取りあえず水を飲ませようと、キッチンへ行こうとするとさらに纏わり付いてくる。動きにくい。まるで大型犬だ。仕方なくソファに連れて行って寝かせると、ぐいと腕を引っ張られて彼の胸の中に閉じ込められた。しかも強く抱き締められる。
「ちょ、ちょっと……離して」
「シオンあいしてる…けっこんしよう…」
「結婚?まだ早いかな」
「なんでだ~…ゆびわ、よういしてるのに~…」
「私まだ大学生だし、経済的に余裕ないからダメだよ」
「ん~?そんなのおれが、かせぐ…」
「おや頼もしい。でもまだだよ」
「いやだ~……」
完全に駄々っ子モードに入っている。こうなってしまったら誰の言うことも聞くまい。こうなったら私がなんとかするしかない。幸いにも話は通じるようなので、優しく頭を撫でつつ宥める。その時、くだを巻く白竜くんから衝撃的な事を言われたのだ。
「シオン…シオン~…あのとき、しなせてごめんなぁ…」
「…え?」
「たすけて、やれなくて、ごめんなぁ…」
「まって、なんの…」
「ひとりにさせて、ごめんなぁ……」
「白竜くん……?」
訳がわからない。助けられなかった?一人にさせた?どういう意味?疑問符が頭上に浮かび上がる中、私は彼の言葉の真意を探ろうとする。すると彼は続けざまに口にするのだ。
「おれはいまも……くいてる…にんげんに、なったのも……シオンに、あやまりたくて…」
人間になったのは私へ謝罪する為だと。どういう事?混乱する私に構わず白竜くんは続ける。
「でも、またあえた……こんどはしなせないから…もういじめないから……おれと、けっこんしよう…」
「白竜くん……」
頭の中がぐしゃぐしゃになる。理解しようとすればするほど思考回路がショートしてしまいそうだ。だけど、彼は私を想ってくれているという事実。それだけは揺るがない真実。
「シオン……おれは……おまえを……ひと、と、して……」
「白竜くん?……寝ちゃった?」
そのまま静かな寝息を立て始めた白竜くん。私はその額にキスを一つ落とす。………真実を、確かめなければ。かつての私と白竜くんに関係するもの、といえば……
すやすや眠る白竜くんに毛布を掛け、物音を立てぬようにコートを羽織る。ブーツも履いて、そっと玄関を開けて外へ出る。雪の結晶がひらひらと舞い落ちる、朝6:00。マフラーも手袋も忘れた、一人ぼっちの小さな冒険をしよう。行き先は……私と彼が出会った場所、廃教会だ。あそこに何かがあるかもしれない。白い吐息が宙に溶けていく。しばらく歩いて森の入口に到着した。やはり雪深い。しかしここで止まる私ではない。誰も見ていないことを、辺りを見回して確認してから森へ入った。雪で覆われた地面を踏みしめる感触。半年前に通った道を、私はちゃんと覚えている。すぐに廃教会にたどり着いた。
「久し振りだね…」
この懐かしさは白竜くんに閉じ込められる以前から感じ取っている。もう何も怖くない。むしろワクワクしている。教会の入口のドアをゆっくり開いて中へと入る。すると、
「あっ…」
首に提げているロザリオの赤い宝石が光っている……まるで私に導いてくれるかのように。その光は奥の祭壇を示している。それを調べてみると、隠し階段が出現した。なるほど、こんな仕組みになっていたのか。
「地下室への入口……かな」
階段の下は暗くて見えないが、恐らくそこにあるのだろう。ロザリオを握り締め、一段ずつ慎重に降りていく。途中で何度も躓きそうになりながらもなんとか最下層まで辿り着いた。赤い光は目の前にある扉を指し示している。意を決し、取っ手を掴んでゆっくり開けると……。
「…お墓だ」
そこにあったのは十字架を象った墓標だった。しかもかなり古い。少なくとも私が生まれる遥か前に建てられたものであろうことは容易に想像できた。でも何故ここに?
「あ、これは……」
お墓の前には石板があり、文字が刻まれている。なんだろう?と、近づくと驚くべきことが書いてあった。
「『聖女シオン此処に眠る』…だって!?」
声が木霊した。信じられない。だってこの名前は、私と同じ。偶然?いやまさか……狼狽えていると、上の階から私の名前を叫ぶ声が聞こえてきた。
「やばい……」
わざとスマホを置いて行ったから白竜くんが探しに来たんだ。しかも隠し階段の入口、光を取り込む為に開けっぱなしにしたから、ここに居ることがバレてるかも。そしてお墓のエリアで行き止まりな訳だから……待ってよ!まだやるべき事が終わっていないのに!しかしここにはお墓以外何もない。情報が少なすぎる。
「なにかないのか…!?」
もたもたしてたら見つかっちゃう。焦っていると、ロザリオの光はお墓の十字架に当たっている。そういうことか。私は左手をそこに近づける。後ろの方で扉を乱暴に開ける音がした。
「シオンッ…!?」
それでも振り向かない。指先はあと1㎝程度。もうすぐだ。………しかし。
「触っちゃダメだ!」
「えっ?」
制止されたが、遅かった。つん、と指が十字架に触れた途端、頭が何かで締め付けられるような激痛に襲われた。目の前が弾けて視界が歪む。耳鳴りが酷い。何が起きているのか理解出来ない。だが脳内でフラッシュバックしている映像は鮮明に思い出される。あれは……。
あぁ、そうだった。
白竜様との子供を身籠もった私は、処刑されたんだった。………彼が留守で私が一人でいるところを捕らえられて、その日のうちに腹の子もろとも殺された。でも、私には死んでからの記憶も蘇ってきた。捨てられていた私の無惨な遺体を見て、白竜様は血みどろになりながら私を掻き抱き、泣いていた。ごめんなさい。罪を犯したから死んでも文句は言えないの。お願いだから泣かないで。と透けた手を伸ばしても彼の背中をすり抜けるだけだった。それから、白竜様は私と赤ちゃんを手厚く弔ってくれた。来る日も来る日も、墓に向かって話しかけてくれた。殺されちゃったのは仕方ないけど、こうして白竜様が毎日会いに来てくれるのは嬉しかったな。
『シオン……お前はお前のまま、生まれ変わるがいい。俺が見つけやすいようにな。吸血鬼は不老不死だから、気長に待ってやる…』
彼のその言葉は、確かに私に届いていた。私は白竜様への愛を糧に現世に留まっていたけれど、未練は無い。またね。いつかきみに逢いに行くから、待っててね……
「……うぅ」
眩暈がする。呼吸を整えよう。私は白竜くんにもたれかかって、深呼吸をした。もう、逃げられない。知ってしまったのだから。
「シオン……ッ!」
「は、白竜くん……」
「どうして……どうして、そんな顔をするんだ!?」
涙声で詰め寄る彼の表情は悲愴感に溢れている。まるで大切なものを失う直前のような、そんな感じがした。でも私は怯まない。もう怯えたりなんかしない。真実を知ってもなお、変わらず傍にいて欲しいから。私は震える声で答えるのだ。
「大丈夫だよ。全部思い出した……私がどんなふうに死んだのかを……」
「全部……?」
「そう。私が殺された理由も、その後何があったのかまで全部思い出したの……」
「ならどうして……泣いているんだ?」
白竜くんの言葉で初めて気づく。自分の頬を濡らしていることに。
「さぁ…なんでだろうね……」
「っ、俺はもう泣かせないつもりだったのに……」
「いいんだよ……」
「今度こそ守る。今度こそお前を幸せにするから……俺から離れていかないでくれ……」
「離れるなんて……しないよ」
「本当か?」
「うん。ずっと一緒!」
私は優しく微笑みかける。そして白竜くんの目元に唇を寄せた。少し塩っぽい味がした。彼は私を強く抱き寄せる。二度と離すものかという意志の表れなのか力強い腕の中で心地よい安心感に包まれた私は瞼を閉じるのであった。
あれから幾つかの季節が流れた。私も社会人となり、今まで通りの生活を送っている。あの時のことはもう吹っ切れたのか、白竜くんはいつも通りのポーカーフェイスだ。変わったことと言えば……。
「あ、蹴った」
「………」
「何か聞こえる?」
「……特には」
「そっかぁ。パパの声聞いて大きくなってね~」
私の下腹部をさする白竜くん。最近では、胎動を感じるようになった。もうすぐ、私たちの間に子供が産まれるのだ。ちなみに女の子である。
「楽しみだね」
「あぁ」
「名前はどうしようかな」
「そんなに急がなくてもいい」
「そうかな?」
「産まれてくるまでに考えれば問題ない」
「そうだね」
窓辺に飾ってあるのは、白竜くんがくれたロザリオ。赤い宝石は、まるで未来を祝福するかのように輝いている。……こんなに幸せで良いのかな。前世で吸血鬼と交わった私なんかが幸せになっても許されるのだろうか。しかし白竜くんは、そんな私の心情を察したのか優しく語り掛けてくれる。
「幸せになってはいけない奴などいない。ましてや自責で不幸になる必要はないんだ」
「白竜くん……」
「それに、幸せは自分で掴み取るものだと思う。だから、俺が与えたものじゃない。お前自身が得たものなんだ」
彼の言葉で肩の荷が降りたような気がした。そうだよね。どんな選択肢を選んだとしても最後は自分次第。
「ねぇ、白竜くん」
「なんだ?」
「あのさ……」
「……」
「愛してるよ」
「知ってる」
「でも、何度言ってもいいでしょ?」
「……そうだな」
笑みが零れる。これから先もずっと一緒にいること。それが何よりも嬉しいことだと改めて認識するのだった。
おしまい
「ただいま!寒かった~」
「おかえり、シオン」
白竜くんが出迎えてくれる。しかもハグ付きで。あったかいなぁ。本人から聞いたのだが、人間にして貰ったらしい。吸血鬼特有の尖った耳もなくなって、でも性格は変わっていないようで安心した。血を吸えなくなって、料理もちゃんと食べられるようになったんだとか。本当に、何があったんだろう。
「外、凄い雪だった」
「お前、手袋はどうした!」
「マフラーと一緒に忘れちゃって……」
「なにをやっている…」
「ごめん」
白竜くんがため息を吐きながら手を握ってくれる。彼の手は温かい。凍えた身体に熱を伝えるように何度も摩って温めてくれた。
「ありがとう」
「次やったらまた監禁するからな」
「それは困る…」
と苦笑しながら手を引かれダイニングへ行く。食卓の上には美味しそうなポトフやピザなどの料理が所狭しと置かれており、どれから食べるか迷ってしまうほどだ。どれもこれも食べ慣れているものなのに、今日だけ特別なものに思えるから不思議だ。
「あ、シャケもある!」
「お前が食べたいと言ったから買ってきたぞ、海鮮サラダ」
「やった!いただきまーす」
スプーンを握って具沢山のポトフを掬って口に入れる。ほっこりとした味わいが広がっていく。野菜の旨味と塩気が絶妙に合わさっていて最高だ。白竜くんの作った料理、やはりクリスマスということでより一層輝きを放っている気がする。
「おいしい~」
「お前のために作っているんだ。当たり前だろう」
そう自信満々に言う白竜くん。流石だ。普段はクールな態度を取る事が多いのにこういう時に限ってデレるのが反則級である。そんなギャップ萌えも相まって益々好きになってしまう。好きと言う名の麻薬中毒に陥って抜け出せないまま堕ちていくばかりだ。でも今はとにかく目の前の御馳走を堪能しよう。それからしばらくして………。
「よーし、そろそろ本命をだそうか!」
「本命?あぁ、ケーキか」
「ふふふ。今年のケーキは、これだ!」
私は箱からケーキを取りだす。粒揃いの苺がふんだんに使われた、血のように真っ赤なタルトだ。甘い物が苦手な白竜くんでも食べられるような、苺本来の味を活かしたこれをチョイスしたのだ。
「あと、ワインも買ってきたんだ。デザートに合うようなやつ」
「そうか」
私はグラスに注いで渡すと、お互い乾杯して口に含む。フルーティな香りが鼻腔をくすぐり、喉を通るアルコールに酔って心地良さを感じた。
「このワイン美味しいね。すっきりしてて飲みやすい」
「悪くないな」
「でしょう?」
にっこり笑う私に彼も柔らかく微笑む。あぁ幸せすぎる。去年まで一人ぼっちだったのが嘘みたいだ。こんな素敵な人と出会えて一緒にお祝い出来るなんて夢みたいだ。良い気分でタルトとワインを楽しむこと、30分後……。
「シオン~……」
え、嘘。白竜くんが早々に酔った。このとワインそこまで度数高くないはずなのに。まさかの下戸?いやそれはない。だって今までお酒は普通に飲んでたんだよ。人間になって極端に弱くなったのか?彼は私に纏わりついて、
「シオン~…おまえはほんとにかわいいな~…」
と、酒焼けした声を出した。眉を下げて目もとろんとしていて威厳もなにもない。が、白竜くんのこの姿を見られるのは私だけなのかと思うとちょっと良い気分になってしまう。
「わわ、顔熱いよ。大丈夫?」
「へいきだ~……あっつい」
「脱ぐ必要ないよ。寒いから」
「さむくない…」
「寒くなるから服を着なさい」
酔っぱらいの介抱って、ここまで面倒くさいんだ。初めて知った。取りあえず水を飲ませようと、キッチンへ行こうとするとさらに纏わり付いてくる。動きにくい。まるで大型犬だ。仕方なくソファに連れて行って寝かせると、ぐいと腕を引っ張られて彼の胸の中に閉じ込められた。しかも強く抱き締められる。
「ちょ、ちょっと……離して」
「シオンあいしてる…けっこんしよう…」
「結婚?まだ早いかな」
「なんでだ~…ゆびわ、よういしてるのに~…」
「私まだ大学生だし、経済的に余裕ないからダメだよ」
「ん~?そんなのおれが、かせぐ…」
「おや頼もしい。でもまだだよ」
「いやだ~……」
完全に駄々っ子モードに入っている。こうなってしまったら誰の言うことも聞くまい。こうなったら私がなんとかするしかない。幸いにも話は通じるようなので、優しく頭を撫でつつ宥める。その時、くだを巻く白竜くんから衝撃的な事を言われたのだ。
「シオン…シオン~…あのとき、しなせてごめんなぁ…」
「…え?」
「たすけて、やれなくて、ごめんなぁ…」
「まって、なんの…」
「ひとりにさせて、ごめんなぁ……」
「白竜くん……?」
訳がわからない。助けられなかった?一人にさせた?どういう意味?疑問符が頭上に浮かび上がる中、私は彼の言葉の真意を探ろうとする。すると彼は続けざまに口にするのだ。
「おれはいまも……くいてる…にんげんに、なったのも……シオンに、あやまりたくて…」
人間になったのは私へ謝罪する為だと。どういう事?混乱する私に構わず白竜くんは続ける。
「でも、またあえた……こんどはしなせないから…もういじめないから……おれと、けっこんしよう…」
「白竜くん……」
頭の中がぐしゃぐしゃになる。理解しようとすればするほど思考回路がショートしてしまいそうだ。だけど、彼は私を想ってくれているという事実。それだけは揺るがない真実。
「シオン……おれは……おまえを……ひと、と、して……」
「白竜くん?……寝ちゃった?」
そのまま静かな寝息を立て始めた白竜くん。私はその額にキスを一つ落とす。………真実を、確かめなければ。かつての私と白竜くんに関係するもの、といえば……
すやすや眠る白竜くんに毛布を掛け、物音を立てぬようにコートを羽織る。ブーツも履いて、そっと玄関を開けて外へ出る。雪の結晶がひらひらと舞い落ちる、朝6:00。マフラーも手袋も忘れた、一人ぼっちの小さな冒険をしよう。行き先は……私と彼が出会った場所、廃教会だ。あそこに何かがあるかもしれない。白い吐息が宙に溶けていく。しばらく歩いて森の入口に到着した。やはり雪深い。しかしここで止まる私ではない。誰も見ていないことを、辺りを見回して確認してから森へ入った。雪で覆われた地面を踏みしめる感触。半年前に通った道を、私はちゃんと覚えている。すぐに廃教会にたどり着いた。
「久し振りだね…」
この懐かしさは白竜くんに閉じ込められる以前から感じ取っている。もう何も怖くない。むしろワクワクしている。教会の入口のドアをゆっくり開いて中へと入る。すると、
「あっ…」
首に提げているロザリオの赤い宝石が光っている……まるで私に導いてくれるかのように。その光は奥の祭壇を示している。それを調べてみると、隠し階段が出現した。なるほど、こんな仕組みになっていたのか。
「地下室への入口……かな」
階段の下は暗くて見えないが、恐らくそこにあるのだろう。ロザリオを握り締め、一段ずつ慎重に降りていく。途中で何度も躓きそうになりながらもなんとか最下層まで辿り着いた。赤い光は目の前にある扉を指し示している。意を決し、取っ手を掴んでゆっくり開けると……。
「…お墓だ」
そこにあったのは十字架を象った墓標だった。しかもかなり古い。少なくとも私が生まれる遥か前に建てられたものであろうことは容易に想像できた。でも何故ここに?
「あ、これは……」
お墓の前には石板があり、文字が刻まれている。なんだろう?と、近づくと驚くべきことが書いてあった。
「『聖女シオン此処に眠る』…だって!?」
声が木霊した。信じられない。だってこの名前は、私と同じ。偶然?いやまさか……狼狽えていると、上の階から私の名前を叫ぶ声が聞こえてきた。
「やばい……」
わざとスマホを置いて行ったから白竜くんが探しに来たんだ。しかも隠し階段の入口、光を取り込む為に開けっぱなしにしたから、ここに居ることがバレてるかも。そしてお墓のエリアで行き止まりな訳だから……待ってよ!まだやるべき事が終わっていないのに!しかしここにはお墓以外何もない。情報が少なすぎる。
「なにかないのか…!?」
もたもたしてたら見つかっちゃう。焦っていると、ロザリオの光はお墓の十字架に当たっている。そういうことか。私は左手をそこに近づける。後ろの方で扉を乱暴に開ける音がした。
「シオンッ…!?」
それでも振り向かない。指先はあと1㎝程度。もうすぐだ。………しかし。
「触っちゃダメだ!」
「えっ?」
制止されたが、遅かった。つん、と指が十字架に触れた途端、頭が何かで締め付けられるような激痛に襲われた。目の前が弾けて視界が歪む。耳鳴りが酷い。何が起きているのか理解出来ない。だが脳内でフラッシュバックしている映像は鮮明に思い出される。あれは……。
あぁ、そうだった。
白竜様との子供を身籠もった私は、処刑されたんだった。………彼が留守で私が一人でいるところを捕らえられて、その日のうちに腹の子もろとも殺された。でも、私には死んでからの記憶も蘇ってきた。捨てられていた私の無惨な遺体を見て、白竜様は血みどろになりながら私を掻き抱き、泣いていた。ごめんなさい。罪を犯したから死んでも文句は言えないの。お願いだから泣かないで。と透けた手を伸ばしても彼の背中をすり抜けるだけだった。それから、白竜様は私と赤ちゃんを手厚く弔ってくれた。来る日も来る日も、墓に向かって話しかけてくれた。殺されちゃったのは仕方ないけど、こうして白竜様が毎日会いに来てくれるのは嬉しかったな。
『シオン……お前はお前のまま、生まれ変わるがいい。俺が見つけやすいようにな。吸血鬼は不老不死だから、気長に待ってやる…』
彼のその言葉は、確かに私に届いていた。私は白竜様への愛を糧に現世に留まっていたけれど、未練は無い。またね。いつかきみに逢いに行くから、待っててね……
「……うぅ」
眩暈がする。呼吸を整えよう。私は白竜くんにもたれかかって、深呼吸をした。もう、逃げられない。知ってしまったのだから。
「シオン……ッ!」
「は、白竜くん……」
「どうして……どうして、そんな顔をするんだ!?」
涙声で詰め寄る彼の表情は悲愴感に溢れている。まるで大切なものを失う直前のような、そんな感じがした。でも私は怯まない。もう怯えたりなんかしない。真実を知ってもなお、変わらず傍にいて欲しいから。私は震える声で答えるのだ。
「大丈夫だよ。全部思い出した……私がどんなふうに死んだのかを……」
「全部……?」
「そう。私が殺された理由も、その後何があったのかまで全部思い出したの……」
「ならどうして……泣いているんだ?」
白竜くんの言葉で初めて気づく。自分の頬を濡らしていることに。
「さぁ…なんでだろうね……」
「っ、俺はもう泣かせないつもりだったのに……」
「いいんだよ……」
「今度こそ守る。今度こそお前を幸せにするから……俺から離れていかないでくれ……」
「離れるなんて……しないよ」
「本当か?」
「うん。ずっと一緒!」
私は優しく微笑みかける。そして白竜くんの目元に唇を寄せた。少し塩っぽい味がした。彼は私を強く抱き寄せる。二度と離すものかという意志の表れなのか力強い腕の中で心地よい安心感に包まれた私は瞼を閉じるのであった。
あれから幾つかの季節が流れた。私も社会人となり、今まで通りの生活を送っている。あの時のことはもう吹っ切れたのか、白竜くんはいつも通りのポーカーフェイスだ。変わったことと言えば……。
「あ、蹴った」
「………」
「何か聞こえる?」
「……特には」
「そっかぁ。パパの声聞いて大きくなってね~」
私の下腹部をさする白竜くん。最近では、胎動を感じるようになった。もうすぐ、私たちの間に子供が産まれるのだ。ちなみに女の子である。
「楽しみだね」
「あぁ」
「名前はどうしようかな」
「そんなに急がなくてもいい」
「そうかな?」
「産まれてくるまでに考えれば問題ない」
「そうだね」
窓辺に飾ってあるのは、白竜くんがくれたロザリオ。赤い宝石は、まるで未来を祝福するかのように輝いている。……こんなに幸せで良いのかな。前世で吸血鬼と交わった私なんかが幸せになっても許されるのだろうか。しかし白竜くんは、そんな私の心情を察したのか優しく語り掛けてくれる。
「幸せになってはいけない奴などいない。ましてや自責で不幸になる必要はないんだ」
「白竜くん……」
「それに、幸せは自分で掴み取るものだと思う。だから、俺が与えたものじゃない。お前自身が得たものなんだ」
彼の言葉で肩の荷が降りたような気がした。そうだよね。どんな選択肢を選んだとしても最後は自分次第。
「ねぇ、白竜くん」
「なんだ?」
「あのさ……」
「……」
「愛してるよ」
「知ってる」
「でも、何度言ってもいいでしょ?」
「……そうだな」
笑みが零れる。これから先もずっと一緒にいること。それが何よりも嬉しいことだと改めて認識するのだった。
おしまい
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