リトライ・ヴァンパイア
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そこから本当に閉じ込められてしまった私には、彼の好きな時間に血を吸われるという仕事が待っていた。吸われたあとは一歩も動けなくなるし、スマホは電池が切れるしで、もうダメだと思った。そして…教会に足を踏み入れてから3日が経った頃、吸血鬼がいない時間を見計らって脱出した。なんかあっさり出られたな…。家にたどり着き、玄関ドアの鍵を掛け、ようやく緊張していた身体が解れていく感覚がした。
『ふぅ……やっと帰ってこれた…やっぱり我が家が一番だね』
三日もあそこにいたので体臭が気になってしょうがない。私は帰って来るなり風呂に入ってリラックスすることにした。シャワーを浴びて湯船に浸かる。生き返った心地がした。
『吸血鬼……ホントにいたんだ……』
色んな作品に出てくる吸血鬼。若い人間の血を吸って生きる怪物。血を吸われたあとはすごく気怠くて眠くなる。何度も眠らされたな。そんなことを思い出しながらぼんやり天井を見上げているとふとあることが頭に浮かんだ。
『でも……意外と悪くなかったかも……』
不本意ではあるものの吸血鬼は私を満たしてくれた。飢えて死にかけていた心が満たされたのかもしれない。いじめられて惨めだったあの日々に比べたら幾分かマシだった。……いけないいけない!そんなこと考えるなんて……頭がおかしくなっちゃったのかな……。ブンブンと首を振る。考えれば考えるほど泥沼にハマりそうなのでこれ以上は止めにして、そろそろ上がろうか。浴槽からザバッと立ち上がり、脱衣所のバスタオルを引っ掴む。濡れた身体を拭いて、服を着る。ドライヤーで髪を乾かして、これでOK!そのあとは掃除をしたり料理をしたりと気ままに時間を潰していくのだった。そして、夜。
『今夜はちょっと暑いな…』
快適に寝るにはいささか気温が高いので窓を網戸だけにして寝ることにした。私の寝室は2階にあるので、誰かが侵入してくる心配はない。キャミソールにショートパンツという涼しげな寝間着でベッドに入る。3日ぶりのベッド。あぁ、帰ってきたんだな…そう安堵しながら私は眠りに落ちていくのだった。
…………うーん、暑い…網戸にしてあるから風は入ってきているんだけど…何かにのしかかられているような…。寝返りを打ちたいのに身体が何かに捕まって動けない。金縛りかな、と思って目を開ける。えっ……?えっ!?誰かいる!?私は目を見開いた。そこにいたのは黒い外套を羽織った、あの吸血鬼だった。
『うわあああああっ!出たぁ!?』
『静かにしろ。近所迷惑だろうが』
大声で叫ぶと吸血鬼は口を手で塞いできた。確かにそうなんだけど……なんで家に居るの!?
『むぐっ!』
『……俺は吸血鬼だから自由に飛べる。このくらい容易い』
『むーっ!』
『全く……不用心だなお前。鍵は掛けても窓は開けておくなど、馬鹿なのか?』
『むむー!ぷはっ!』
拘束を解くと彼は呆れた様子だったが私は恐怖に震えていた。だってそうだよね?普通怖いでしょう!?どうやってここまで来たの!?いやまず何故ここに!?疑問ばかりでパニック状態である。
『こ、こんなとこまで追いかけてくるなんてストーカーじゃ……!』
『なんとでも言えばいい。それで?』
『へ?』
『名前を聞いていなかった。名乗れ』
『不審者に名乗るほど私はバカじゃないよ』
『ほぉ……?』
『あうっ!』
名前を教えてくれないなら力づくで教えてもらうまでだ。そう言いたげに脇腹を突かれて思わず変な声が出る。抵抗しようと腕を突っぱねるけどビクともしない。それどころかどんどん力を増していく。
『ちょっ!やめて!』
『教えろ』
『ああっ!』
『言わない限り辞めるつもりはない』
『ひゃうん!』
『……やはりここが弱いようだな?』
『そこはダメっ!』
『脇腹が効く人間もいるんだな』
『あっ……!』
『さぁ名前を言え』
『わかった!わかったから!名乗るからもうやめてぇ!』
『最初からそうしていればいいものを』
『はぁ……はぁ……』
『どうした?早くしろ』
『はうっ!?やめてよそこっ!』
私の弱点を理解している。こそばゆい感覚に翻弄されて上手く喋れない。そんな様子を楽しんでいるのか更に激しく責めてくる始末だ。
『お前が教えてくれないからこうなるんだ』
『ううっ……ひうっ!?』
『どうした?言えるだろう?』
『はう……わたしはっシオン!』
『シオン……そうか。俺は白竜。覚えろ』
『えっ!?白竜……?』
『なんだ?文句があるのか?』
『いえっ!ないです!』
『それでいい。……シオン』
『何……?』
『血を寄越せ』
『いきなりすぎる!』
『文句言うな。お前が逃げたから今日一日腹が減ってたんだぞ』
『そんなの知らないよぅ!』
有無を言わせず白竜は私の腰を掴むと強引に引き寄せる。そして耳元に口を寄せて低い声で囁いた。
『吸わせろ』
『やめてくださーい!』
『うるさい』
『きゃうっ!?』
『ん…相変わらず感度良好だな』
『痛いーっ!』
『おい。暴れるなよ』
両腕を抑え込まれながら耳を舐められると身体の芯が火照ってくる。抵抗したいけど上に乗っかられていて動けない。耳元から離れると次は鎖骨辺りに唇を落としてきて軽く歯を立てられた。チクッとした刺激を感じつつもそれが心地よくて吐息が漏れる。ああだめだ……頭がボーっとしてきた……
『んぅっ、いつまで吸ってるの……』
『まだまだ足りない』
『わがまますぎ…じゃない?』
『お前が逃げるのが悪い』
『だってあんなところ…三日も居られないよ…』
『お前は俺の餌なのだから文句を言う権利など無い』
『横暴だ…』
『なんとでも言え。……ほら口を開けろ』
白竜の命令に従って口を開くと柔らかいものが押し当てられる。キスされているんだ……と理解した瞬間ゾクッとした。同時に何か甘くて濃いものが流れ込んでくる。白竜の唾液だ。媚毒の成分でも入っているのだろうか。飲み込んだ瞬間身体中に広がっていく。頭がクラクラして思考能力が低下していくのがわかる。そんな私に気づいたのか、彼はフッと笑う。そのままベッドに押し倒された。
『なぁ…取引をしないか?』
『えぇ?いま?』
『お前の血は美味い。極上だ。褒めてやる』
『……?』
『そこでだ。俺に血を提供する代わりに、お前の望みを言え』
『望み…』
『どんな望みも叶えてやろう』
……電○かな?懐かしい。凄く人気だったな、あの番組。私も毎週見てたよ。豪華な俳優に声優、コミカルだけどシリアスなストーリーが面白かったんだよね~。
『おい、聞いているのか?』
『…あっ、ごめんごめん。望み…だったね』
そんなことを考えていたら現実に呼び戻された。望み…か。私が彼に望む物。それはただ一つ。
『なら、あのいじめっ子たちを改心させたい』
あの人たちにもういじめをさせたくない。その心を取り除きたい。自分を守るためにも。それ以外は要らない。その願いを聞いた白竜はこう言った。
『お前を教会にやった連中の事か。あんな人間の屑共に情けをかけるのがお前の望みなのか?あいつらに更生の見込みはない。殺してやっても良いんだぞ』
『殺すのはなしだよ、私の負けになるから。更生じゃなくて、いじめの心そのものを消して欲しいんだ』
『ほう……』
『白竜くん…だっけ?は吸血鬼でしょ?何かしら魔法とか使えるのかな?』
『究極の吸血鬼である俺に出来ないことはない』
『きゅうきょくのきゅうけつき…』
『笑う所じゃないぞ。…その願い、聞き届けた』
『ありがとう』
『取引は成立だ…俺の餌よ、精々俺を満足させろよ?』
『お、お手柔らかに…』
『それは保証できないがな』
白竜くんの言葉を聞いて身構えたが彼は何もしない。不思議に思って見上げると少し微笑んでいたような気がした。その表情にドキッとしたが、それを悟られるのが嫌だったので慌てて目を逸らす。すると彼が口を開いた。
『よし、今日からここに住む』
『ええっ、私の家で寝泊まりするってこと?』
『他にどこがある?』
『……あのおんぼろ教会とか?』
『却下だ』
『即答!?』
『当たり前だ。棺桶があるとはいえ、あんな不衛生な場所で休むなど論外だ。第一埃っぽすぎて鼻が詰まったらどうしてくれる』
『あの棺桶、きみのだったんだ…というか、自分で掃除したらいいのに……』
『面倒だ』
あんな不潔な場所で生活してるほうがおかしいと言わんばかりに言い放った。吸血鬼って潔癖なのかな……まぁ確かにあの古めかしい建物の中で過ごすのは無理があると思うけどさ。自分の願いを叶えてくれるんだから、ここで文句を言うのはいけない。こうして吸血鬼と人間の共同生活が、人知れず幕を開けるのであった。
ここまでが彼との同居に至った経緯。白竜くんに生活拠点と私の血を提供する見返りとして、自分の願いを叶えて貰った。あれからいじめっ子グループからの干渉はなく、大学でも一人ぼっちながらもうまくやっている。他に悩みがあるとするならば……この吸血鬼の、私の血液への執着心が半端ではないところだ。
「吸われる側の事も考えてほしいなぁ」
「そう言いながら喜んでいるように見えるが?」
「喜んでないよ。断じて」
「嘘つけ」
「わっ!うぁ…!」
「んっ……今日はこれで最後にしてやる。ありがたく思うんだな」
「はい……」
「しかし…何度飲んでも飽きないな。最高の味だ」
「はぁっ……はっ……」
帰宅してすぐに、白竜くんに血を吸われる私。彼と暮らし始めて分かったのは、人間より圧倒的に筋力があって体力もあるということ。1日に2回、結構な量を吸われるので私は立つこともできずにソファにへたり込む。そして彼は満足げに私の隣で寛いでいる。これが日常になってしまったけれど別に嫌ではない。最初は戸惑っていたけど今では慣れてしまったというのもあるが。
「白竜くんって他の人の血は吸わないの?」
ちょっとげっそりしながらも白竜くんに尋ねてみた。今まで私の血しか飲んだことがないように見えるから気になるのだ。白竜くんは、少し考えるような仕草をした後答えを述べた。
「以前はそこら辺にいる適当な女を捕まえて飲んでいた。だが最近はお前の血ばかりで他の血の味には興味が失せたな」
「なんてことを…」
「前にも言ったが、俺にとって人間はただの食糧に過ぎん。」
「ひどい……!でも、何で私の血だけ特別視するの?」
私は思わず聞き返す。確かに私の血は美味しいらしいけど何でだろう。疑問に思ったけど彼はぴしゃりと言い放つ。
「……お前が知る必要はない」
「え?」
「余計な詮索をするな」
眉をひそめてそっぽを向かれたら、何も聞けなかった。ぽつっと謝罪の言葉を述べた後、私はソファから立ち上がって自室に引っ込んだ。貧血気味の身体はいともたやすくベッドに沈み込む。……誰にだって知られたくない秘密を隠している。それを暴こうとするのは失礼にあたるだろう。たとえ同居人であっても。…今日はもう寝よう。血を吸われたら疲れた。私はそのまま眠気に身を委ねるのだった。
………自分の部屋へ戻っていくシオンを見つめる。少し言い過ぎてしまったか。だが、アイツはいじめ甲斐があってつい意地悪をしたくなる。我ながら性格が悪いとは思うがそれも致し方なし。いきなり噛んでみたり、わざと焦らしてみたりしてアイツの色々な反応を見るのが楽しい。弱々しく震えている様にも嗜虐心が刺激されてどうしようもなく興奮する。……しかし、アイツを守らなければならない。あの時の二の舞には、なってはいけない……。
「……今度こそ」
目覚まし時計のアラームが私を夢の世界から引きずり出す。ベッドから上体を起こすと、隣に白竜くんが寝ている。一人暮らしの小さな家には客室なんてない。彼が最初に家に来たときにソファかベッド、どっちが良いかと聞いたら『ベッド』と答えたので、私の方はソファで寝ようと思ったら首根っこを掴まれてベッドに寝かされてしまった。またなにかされるのかと身構えていたが、特に何もされなかったので拍子抜けしたのが思い出だ。
「白竜くん、朝だよ」
「………」
声を掛けても起きなかったのでそのまま寝かせて寝室を出る。朝ご飯の支度に取りかかろう。今日は…目玉焼きにしようかな。トーストもつけちゃお。冷蔵庫から卵を取り出しフライパンに割り入れる。油が跳ねてジュウッという音が響いたところで蓋をして放置する。その間に食パンをトースターに入れてスイッチを入れる。あとはインスタントのコーヒーでも淹れようかな。カップにお湯を注ぐと漂ってくる香りに癒される。うんうん。完璧な朝食だ。一日が良い気分で始まる……訳などなかった。
「痛った!?」
後ろから首を噛みつかれた。そしてちゅうっと吸われると同時に媚薬みたいなものが身体の中に入ってくる感じ。またやられた。もう、どうして私ばっかりこんな目に遭うの?抗議の声を上げようと振り向こうとすると耳元で囁かれた。
「美味い…」
低く落ち着いた声音にドキッとしてしまう。怒りたくても上手く言葉にならずに口を噤んだままの私。それを知ってか知らずか白竜くんは続ける。
「昨日はあまり吸わなかったからな」
「そういう問題じゃないんだけど……」
「何だ?不満があるなら言ってみろ」
「もっと加減してほしいな」
「嫌だ」
やっぱりこうなるよね……。諦めて受け入れるしかないんだろうか。肩を落としたその時ふと思い出したことがあったので聞いてみた。
「ねぇ白竜くん」
「何だ」
「……なんでいつも同じ箇所を噛むの?」
不思議に思っていたことを質問してみた。首の左側を重点的に噛む理由。それを聞くと白竜くんはしばらく黙った後にボソッと呟いた。よく聞こえなかったので聞き返そうとしたら今度はハッキリと言う。
「それは……その方が興奮するからだ、シオンが」
「え?」
「お前の反応が一番良いのがここだからな」
「ちょっと何言ってるのかわからないです……」
「簡単に言うとお前はここを噛まれると感じるんだ」
「嫌ぁ!変態!」
「フッ、否定はしない」
「誇らしげに言わないの!もうおしまい!」
平然と言われて顔が熱くなった。恥ずかしさのあまり叫びながら彼の腕から抜け出す。目玉焼きは少し焦がしてしまった。もう、白竜くんのせいで失敗しちゃったよ……!私は小さくため息をつく。彼はいつも意地悪してくる。そのせいで毎回迷惑を被っているが……嫌でもないから困る。
「朝から随分と荒ぶるものだな」
「誰のせいだと……」
「何か言ったか?」
「なんでもありません」
「それでよし」
「はぁ……ご飯食べようよ」
「ああ」
その後は無言のままテーブルに向かい合って座りそれぞれのペースで食べ始めた。私がトーストを手で食べている傍らで白竜くんはナイフを使って目玉焼きを綺麗に切り分けている姿を見て思わず感嘆してしまう。所作が洗練されているというかスマートというべきか。まるで王子様みたいに見えてしまうほど優雅だった。普段の態度からは想像出来ないけど育ちの良さが滲み出ているように感じるのは気のせいじゃないと思う。
「なんだ?食べないのか」
「えっ!あっ……食べるよ!食べる!」
「ぼーっとしてないで早く食べろ。遅刻するぞ」
「……はい」
言われるままに急いで食べる。終わったら準備をして家を出る。皿洗いは白竜くんにお願いしたが……やってくれるかどうかはわからない。まぁやらなかったとしても帰ってきたら洗えば良い。私は講堂への道を少し急いで歩くのだった。
『ふぅ……やっと帰ってこれた…やっぱり我が家が一番だね』
三日もあそこにいたので体臭が気になってしょうがない。私は帰って来るなり風呂に入ってリラックスすることにした。シャワーを浴びて湯船に浸かる。生き返った心地がした。
『吸血鬼……ホントにいたんだ……』
色んな作品に出てくる吸血鬼。若い人間の血を吸って生きる怪物。血を吸われたあとはすごく気怠くて眠くなる。何度も眠らされたな。そんなことを思い出しながらぼんやり天井を見上げているとふとあることが頭に浮かんだ。
『でも……意外と悪くなかったかも……』
不本意ではあるものの吸血鬼は私を満たしてくれた。飢えて死にかけていた心が満たされたのかもしれない。いじめられて惨めだったあの日々に比べたら幾分かマシだった。……いけないいけない!そんなこと考えるなんて……頭がおかしくなっちゃったのかな……。ブンブンと首を振る。考えれば考えるほど泥沼にハマりそうなのでこれ以上は止めにして、そろそろ上がろうか。浴槽からザバッと立ち上がり、脱衣所のバスタオルを引っ掴む。濡れた身体を拭いて、服を着る。ドライヤーで髪を乾かして、これでOK!そのあとは掃除をしたり料理をしたりと気ままに時間を潰していくのだった。そして、夜。
『今夜はちょっと暑いな…』
快適に寝るにはいささか気温が高いので窓を網戸だけにして寝ることにした。私の寝室は2階にあるので、誰かが侵入してくる心配はない。キャミソールにショートパンツという涼しげな寝間着でベッドに入る。3日ぶりのベッド。あぁ、帰ってきたんだな…そう安堵しながら私は眠りに落ちていくのだった。
…………うーん、暑い…網戸にしてあるから風は入ってきているんだけど…何かにのしかかられているような…。寝返りを打ちたいのに身体が何かに捕まって動けない。金縛りかな、と思って目を開ける。えっ……?えっ!?誰かいる!?私は目を見開いた。そこにいたのは黒い外套を羽織った、あの吸血鬼だった。
『うわあああああっ!出たぁ!?』
『静かにしろ。近所迷惑だろうが』
大声で叫ぶと吸血鬼は口を手で塞いできた。確かにそうなんだけど……なんで家に居るの!?
『むぐっ!』
『……俺は吸血鬼だから自由に飛べる。このくらい容易い』
『むーっ!』
『全く……不用心だなお前。鍵は掛けても窓は開けておくなど、馬鹿なのか?』
『むむー!ぷはっ!』
拘束を解くと彼は呆れた様子だったが私は恐怖に震えていた。だってそうだよね?普通怖いでしょう!?どうやってここまで来たの!?いやまず何故ここに!?疑問ばかりでパニック状態である。
『こ、こんなとこまで追いかけてくるなんてストーカーじゃ……!』
『なんとでも言えばいい。それで?』
『へ?』
『名前を聞いていなかった。名乗れ』
『不審者に名乗るほど私はバカじゃないよ』
『ほぉ……?』
『あうっ!』
名前を教えてくれないなら力づくで教えてもらうまでだ。そう言いたげに脇腹を突かれて思わず変な声が出る。抵抗しようと腕を突っぱねるけどビクともしない。それどころかどんどん力を増していく。
『ちょっ!やめて!』
『教えろ』
『ああっ!』
『言わない限り辞めるつもりはない』
『ひゃうん!』
『……やはりここが弱いようだな?』
『そこはダメっ!』
『脇腹が効く人間もいるんだな』
『あっ……!』
『さぁ名前を言え』
『わかった!わかったから!名乗るからもうやめてぇ!』
『最初からそうしていればいいものを』
『はぁ……はぁ……』
『どうした?早くしろ』
『はうっ!?やめてよそこっ!』
私の弱点を理解している。こそばゆい感覚に翻弄されて上手く喋れない。そんな様子を楽しんでいるのか更に激しく責めてくる始末だ。
『お前が教えてくれないからこうなるんだ』
『ううっ……ひうっ!?』
『どうした?言えるだろう?』
『はう……わたしはっシオン!』
『シオン……そうか。俺は白竜。覚えろ』
『えっ!?白竜……?』
『なんだ?文句があるのか?』
『いえっ!ないです!』
『それでいい。……シオン』
『何……?』
『血を寄越せ』
『いきなりすぎる!』
『文句言うな。お前が逃げたから今日一日腹が減ってたんだぞ』
『そんなの知らないよぅ!』
有無を言わせず白竜は私の腰を掴むと強引に引き寄せる。そして耳元に口を寄せて低い声で囁いた。
『吸わせろ』
『やめてくださーい!』
『うるさい』
『きゃうっ!?』
『ん…相変わらず感度良好だな』
『痛いーっ!』
『おい。暴れるなよ』
両腕を抑え込まれながら耳を舐められると身体の芯が火照ってくる。抵抗したいけど上に乗っかられていて動けない。耳元から離れると次は鎖骨辺りに唇を落としてきて軽く歯を立てられた。チクッとした刺激を感じつつもそれが心地よくて吐息が漏れる。ああだめだ……頭がボーっとしてきた……
『んぅっ、いつまで吸ってるの……』
『まだまだ足りない』
『わがまますぎ…じゃない?』
『お前が逃げるのが悪い』
『だってあんなところ…三日も居られないよ…』
『お前は俺の餌なのだから文句を言う権利など無い』
『横暴だ…』
『なんとでも言え。……ほら口を開けろ』
白竜の命令に従って口を開くと柔らかいものが押し当てられる。キスされているんだ……と理解した瞬間ゾクッとした。同時に何か甘くて濃いものが流れ込んでくる。白竜の唾液だ。媚毒の成分でも入っているのだろうか。飲み込んだ瞬間身体中に広がっていく。頭がクラクラして思考能力が低下していくのがわかる。そんな私に気づいたのか、彼はフッと笑う。そのままベッドに押し倒された。
『なぁ…取引をしないか?』
『えぇ?いま?』
『お前の血は美味い。極上だ。褒めてやる』
『……?』
『そこでだ。俺に血を提供する代わりに、お前の望みを言え』
『望み…』
『どんな望みも叶えてやろう』
……電○かな?懐かしい。凄く人気だったな、あの番組。私も毎週見てたよ。豪華な俳優に声優、コミカルだけどシリアスなストーリーが面白かったんだよね~。
『おい、聞いているのか?』
『…あっ、ごめんごめん。望み…だったね』
そんなことを考えていたら現実に呼び戻された。望み…か。私が彼に望む物。それはただ一つ。
『なら、あのいじめっ子たちを改心させたい』
あの人たちにもういじめをさせたくない。その心を取り除きたい。自分を守るためにも。それ以外は要らない。その願いを聞いた白竜はこう言った。
『お前を教会にやった連中の事か。あんな人間の屑共に情けをかけるのがお前の望みなのか?あいつらに更生の見込みはない。殺してやっても良いんだぞ』
『殺すのはなしだよ、私の負けになるから。更生じゃなくて、いじめの心そのものを消して欲しいんだ』
『ほう……』
『白竜くん…だっけ?は吸血鬼でしょ?何かしら魔法とか使えるのかな?』
『究極の吸血鬼である俺に出来ないことはない』
『きゅうきょくのきゅうけつき…』
『笑う所じゃないぞ。…その願い、聞き届けた』
『ありがとう』
『取引は成立だ…俺の餌よ、精々俺を満足させろよ?』
『お、お手柔らかに…』
『それは保証できないがな』
白竜くんの言葉を聞いて身構えたが彼は何もしない。不思議に思って見上げると少し微笑んでいたような気がした。その表情にドキッとしたが、それを悟られるのが嫌だったので慌てて目を逸らす。すると彼が口を開いた。
『よし、今日からここに住む』
『ええっ、私の家で寝泊まりするってこと?』
『他にどこがある?』
『……あのおんぼろ教会とか?』
『却下だ』
『即答!?』
『当たり前だ。棺桶があるとはいえ、あんな不衛生な場所で休むなど論外だ。第一埃っぽすぎて鼻が詰まったらどうしてくれる』
『あの棺桶、きみのだったんだ…というか、自分で掃除したらいいのに……』
『面倒だ』
あんな不潔な場所で生活してるほうがおかしいと言わんばかりに言い放った。吸血鬼って潔癖なのかな……まぁ確かにあの古めかしい建物の中で過ごすのは無理があると思うけどさ。自分の願いを叶えてくれるんだから、ここで文句を言うのはいけない。こうして吸血鬼と人間の共同生活が、人知れず幕を開けるのであった。
ここまでが彼との同居に至った経緯。白竜くんに生活拠点と私の血を提供する見返りとして、自分の願いを叶えて貰った。あれからいじめっ子グループからの干渉はなく、大学でも一人ぼっちながらもうまくやっている。他に悩みがあるとするならば……この吸血鬼の、私の血液への執着心が半端ではないところだ。
「吸われる側の事も考えてほしいなぁ」
「そう言いながら喜んでいるように見えるが?」
「喜んでないよ。断じて」
「嘘つけ」
「わっ!うぁ…!」
「んっ……今日はこれで最後にしてやる。ありがたく思うんだな」
「はい……」
「しかし…何度飲んでも飽きないな。最高の味だ」
「はぁっ……はっ……」
帰宅してすぐに、白竜くんに血を吸われる私。彼と暮らし始めて分かったのは、人間より圧倒的に筋力があって体力もあるということ。1日に2回、結構な量を吸われるので私は立つこともできずにソファにへたり込む。そして彼は満足げに私の隣で寛いでいる。これが日常になってしまったけれど別に嫌ではない。最初は戸惑っていたけど今では慣れてしまったというのもあるが。
「白竜くんって他の人の血は吸わないの?」
ちょっとげっそりしながらも白竜くんに尋ねてみた。今まで私の血しか飲んだことがないように見えるから気になるのだ。白竜くんは、少し考えるような仕草をした後答えを述べた。
「以前はそこら辺にいる適当な女を捕まえて飲んでいた。だが最近はお前の血ばかりで他の血の味には興味が失せたな」
「なんてことを…」
「前にも言ったが、俺にとって人間はただの食糧に過ぎん。」
「ひどい……!でも、何で私の血だけ特別視するの?」
私は思わず聞き返す。確かに私の血は美味しいらしいけど何でだろう。疑問に思ったけど彼はぴしゃりと言い放つ。
「……お前が知る必要はない」
「え?」
「余計な詮索をするな」
眉をひそめてそっぽを向かれたら、何も聞けなかった。ぽつっと謝罪の言葉を述べた後、私はソファから立ち上がって自室に引っ込んだ。貧血気味の身体はいともたやすくベッドに沈み込む。……誰にだって知られたくない秘密を隠している。それを暴こうとするのは失礼にあたるだろう。たとえ同居人であっても。…今日はもう寝よう。血を吸われたら疲れた。私はそのまま眠気に身を委ねるのだった。
………自分の部屋へ戻っていくシオンを見つめる。少し言い過ぎてしまったか。だが、アイツはいじめ甲斐があってつい意地悪をしたくなる。我ながら性格が悪いとは思うがそれも致し方なし。いきなり噛んでみたり、わざと焦らしてみたりしてアイツの色々な反応を見るのが楽しい。弱々しく震えている様にも嗜虐心が刺激されてどうしようもなく興奮する。……しかし、アイツを守らなければならない。あの時の二の舞には、なってはいけない……。
「……今度こそ」
目覚まし時計のアラームが私を夢の世界から引きずり出す。ベッドから上体を起こすと、隣に白竜くんが寝ている。一人暮らしの小さな家には客室なんてない。彼が最初に家に来たときにソファかベッド、どっちが良いかと聞いたら『ベッド』と答えたので、私の方はソファで寝ようと思ったら首根っこを掴まれてベッドに寝かされてしまった。またなにかされるのかと身構えていたが、特に何もされなかったので拍子抜けしたのが思い出だ。
「白竜くん、朝だよ」
「………」
声を掛けても起きなかったのでそのまま寝かせて寝室を出る。朝ご飯の支度に取りかかろう。今日は…目玉焼きにしようかな。トーストもつけちゃお。冷蔵庫から卵を取り出しフライパンに割り入れる。油が跳ねてジュウッという音が響いたところで蓋をして放置する。その間に食パンをトースターに入れてスイッチを入れる。あとはインスタントのコーヒーでも淹れようかな。カップにお湯を注ぐと漂ってくる香りに癒される。うんうん。完璧な朝食だ。一日が良い気分で始まる……訳などなかった。
「痛った!?」
後ろから首を噛みつかれた。そしてちゅうっと吸われると同時に媚薬みたいなものが身体の中に入ってくる感じ。またやられた。もう、どうして私ばっかりこんな目に遭うの?抗議の声を上げようと振り向こうとすると耳元で囁かれた。
「美味い…」
低く落ち着いた声音にドキッとしてしまう。怒りたくても上手く言葉にならずに口を噤んだままの私。それを知ってか知らずか白竜くんは続ける。
「昨日はあまり吸わなかったからな」
「そういう問題じゃないんだけど……」
「何だ?不満があるなら言ってみろ」
「もっと加減してほしいな」
「嫌だ」
やっぱりこうなるよね……。諦めて受け入れるしかないんだろうか。肩を落としたその時ふと思い出したことがあったので聞いてみた。
「ねぇ白竜くん」
「何だ」
「……なんでいつも同じ箇所を噛むの?」
不思議に思っていたことを質問してみた。首の左側を重点的に噛む理由。それを聞くと白竜くんはしばらく黙った後にボソッと呟いた。よく聞こえなかったので聞き返そうとしたら今度はハッキリと言う。
「それは……その方が興奮するからだ、シオンが」
「え?」
「お前の反応が一番良いのがここだからな」
「ちょっと何言ってるのかわからないです……」
「簡単に言うとお前はここを噛まれると感じるんだ」
「嫌ぁ!変態!」
「フッ、否定はしない」
「誇らしげに言わないの!もうおしまい!」
平然と言われて顔が熱くなった。恥ずかしさのあまり叫びながら彼の腕から抜け出す。目玉焼きは少し焦がしてしまった。もう、白竜くんのせいで失敗しちゃったよ……!私は小さくため息をつく。彼はいつも意地悪してくる。そのせいで毎回迷惑を被っているが……嫌でもないから困る。
「朝から随分と荒ぶるものだな」
「誰のせいだと……」
「何か言ったか?」
「なんでもありません」
「それでよし」
「はぁ……ご飯食べようよ」
「ああ」
その後は無言のままテーブルに向かい合って座りそれぞれのペースで食べ始めた。私がトーストを手で食べている傍らで白竜くんはナイフを使って目玉焼きを綺麗に切り分けている姿を見て思わず感嘆してしまう。所作が洗練されているというかスマートというべきか。まるで王子様みたいに見えてしまうほど優雅だった。普段の態度からは想像出来ないけど育ちの良さが滲み出ているように感じるのは気のせいじゃないと思う。
「なんだ?食べないのか」
「えっ!あっ……食べるよ!食べる!」
「ぼーっとしてないで早く食べろ。遅刻するぞ」
「……はい」
言われるままに急いで食べる。終わったら準備をして家を出る。皿洗いは白竜くんにお願いしたが……やってくれるかどうかはわからない。まぁやらなかったとしても帰ってきたら洗えば良い。私は講堂への道を少し急いで歩くのだった。