人生は白竜ゲー。
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「はっ・・・」
変な夢を見た。なぜか白竜くんに襲われるの。あぁ夢でよかった。ここは私の部屋、いつもの景色だ。なのに、どうして空気が重苦しいのかな。ふと、左手が目に入った。
「え・・・」
薬指。何かが燦めいた。そのとき。
「起きたのか、まだ夜の2時だぞ」
ここにいるはずのない人の声がして私は声の主へ顔を向ける。そこには常夜灯に照らされた白竜くんがいた。彼の顔を認めた途端、あの夜の情事がフラッシュバックした。
「夢じゃ、なかったの・・・?」
「夢?」
「あの夜の出来事も、メッセージも…全部、現実なの・・・?」
「あぁ、現実だ・・・嬉しくないのか?」
「そ、んな……」
私の頭が真っ白になる。そして絶望した。夢なら覚めてくれたのに……覚めなかったなんて。
「夢であってほしかった、とでもいうような顔つきだな」
彼は私の思いを見透かしたかのようにそう言った。私は図星をさされて押し黙ってしまう。そんな彼が気に障ったのか彼は私ににじり寄ってきた。そして私の顎を掴み、強引に自分の方を向かせる。
「っ・・・」
「俺が目の前にいるのに何を考えている?」
「や、めて・・・!」
「うるさい」
そう言って彼は強引に唇を重ねてきた。私は必死に抵抗するが彼の腕力には敵わない。そしてそのままベッドに押し倒された。
「っ、やだぁ・・・!」
現実って、何?こんなに苦しいんだっけ?もう夢と現実の区別が付かなくなってるのかな?それならもう一緒だ。悪夢だ。もう終わった・・・すると白竜くんが、核心を突いてきた。
「あのときお前が教えてくれた、将来の夢。好きな人の花嫁になって、好きな人の子供を産んで、老いて死ぬまで幸せに暮らす・・・フフ、素敵な夢じゃないか。」
「・・・!」
ゆめ、ねがい、りそう、あこがれ、もくひょう、みらい。
そうだった。子供の頃からの、眩しくてかけがえのない宝物であり、原動力だった。・・・思い出せ。私がそもそも幸せな家庭を夢みるきっかけは、一つの写真立てからだった。
あげはさんの家に居候しているときに見つけた、棚に置かれた写真立て。若い男女が微笑んでいる。
『あげはさん』
『なぁに、シオンちゃん』
『この2人は、誰?』
『あぁ、あたしの親友とその旦那さんよ』
『すっごくきれい・・・でも、何で真っ白な服を着ているの?』
『結婚する時はみんな白い服を着るのよ。男の人はタキシード。女の人はウエディングドレスを着るの』
『ウエディングドレス・・・他には?』
『そうね、やっぱり指輪かしら』
『指輪?』
『結婚している人は左手の薬指に指輪をつけるの。一生使うから丈夫で錆びないのがいいのよ。』
『この人達、今はどうしてるの?』
『今は娘さんがいて三人で暮らしているわ。その時の写真、見る?』
『いいの!?見たい!』
あげはさんはスマホを出して一つの写真を表示した。さっきの二人の間に可愛い女の子が満面の笑みで映っている。
『わぁ・・・!』
『シオンちゃんも大人になったら好きな人と結婚して、幸せな生活を送ることになるかもね』
『そうなの?』
あげはさんは大きく頷いた。
『でもあげはさん、どうして結婚してないの?こんなにきれいなのに』
『ふふ、あたしは今の生活が大事だから』
写真の中の三人家族。笑顔の絶えない空間に、私は心底羨ましく思った。だからそのためになにをするべきかを考えて、時にはあげはさんの力も借りて、実践して。成人して働くようになって家族を支えることの大変さと大切さを学んだ。週末、くたくたになって家に帰ればあげはさんが待っていてくれて、一緒にご飯を食べて、テレビを見て、お風呂に入って。そんな生活が愛おしかった。・・・それが普通だと思ってた。就職して2年経った頃に、あげはさんはとある男の人を連れてきた。
『シオンちゃん、紹介するね・・・あたしの、旦那さんになる人よ』
『君がシオンさんか、よろしくね』
『あっ、こちらこそよろしくお願いします』
リビングで二人のなれ初めや結婚の決め手を聞いて、二人から笑顔が溢れた。それを見てこっちも嬉しくなった。しかし突然、あげはさんは私に残酷な宣言を告げたのだ。
『あたし、結婚を機にここを出て行くことにしたの』
『・・・え?』
『彼の実家は定食屋なんだけど、そこに彼のお父さんとお母さんがいてね、お父さんの方が体調を崩してしまって・・・』
『それで、あげはが僕の実家に嫁いで定食屋を手伝ってくれるんだ。申し訳ない。きみから家族を、取り上げるような事をして・・・』
『っ・・・いいんです、私はただの居候で・・・』
泣くな。泣いたらあげはさんに申し訳ない。幸せを掴み取ろうとしているのなら邪魔しちゃだめだ。必死で堪えていたのに。あげはさんが私を不意に抱きしめるものだから、決壊してしまった。
『ううっ・・・うぁあ・・・!』
『ごめんね、私たちはシオンちゃんの家族だから。これからも、ずっと』
『うぅ~・・・あげはさん・・・』
居候の身の上で私を家族と言ってくれて、身寄りの無い私を拾ってくれて、幸せを沢山分けてくれて、ありがとう。あげはさんは幸せになるべきだ。この二人ならどんな困難も乗り越えてゆくだろう。だから、この言葉に込めて。
『お幸せに』
思えばそれが始まりだった。あげはさんを見送った後にこの家の主となった私は、今以上に幸せを掴もうと決意した。2年も仕事を続けていれば後輩が出来て任される業務も増えてくる。そのうち、残業することも珍しくなくなった。でも、残業していればあの家に帰らなくても良くなる。お帰りなさい、と返ってくることのない空間は私を安心させるどころか押しつぶしてくる。一人分の温もりを追い求める時間も無くて、ただひたすら与えられた仕事を消化する毎日。白竜くんと再会したその日はたまたま仕事が片付いてしまって、また誰も居ない家に帰るのかなぁ、苦しいなぁ、寂しいなぁ。そんな事を考えながら日が落ちた街を歩いていた。すると目の前に赤い提灯がぶら下がっているではないか。居酒屋か。・・・お酒、飲んでみようかな。喧噪から逃れるように私はのれんをくぐった。
『おぉ姉ちゃん!言い飲みっぷりだねぇ!』
『ひっく・・・ぐすっ・・・日本酒もう1杯ください』
『あいよ!』
あぁ、美味しい!日本酒最高!甘いけど、すっきりしていて飲みやすい!何杯でもいけちゃうなぁ!あはは!しかし楽しいはずなのに涙が止まらない。
『・・・あーあ、現実と夢が逆転したらいいのに』
呟きは誰にも届くことなく溶けて無くなった。
「俺が、お前の夢を叶えて・・・」
「白竜くん」
「え・・・?」
「思い出した・・・私の、将来の夢・・・なんで、忘れてたんだろう」
押し倒されたままうわごとのように呟いた。そうだ、私は・・・
「現実から、逃げていたんだ・・・夢を見すぎたんだ・・・」
頬に熱い雫が伝う。彼は目を見開いている。伝えなきゃ、謝らなきゃ。こうなったのは自分のせいだから。頑張れ、今しかないんだ・・・!
「きみに手を差し伸べられていたのに、それすら気付かなかった・・・っ!」
「シオン・・・っ」
「ごめんなさい・・・!ごめん、なさいっ・・・わたしのせいで、はく、りゅっ、くん・・・っ!う、わぁぁぁぁぁあああん!!!」
とうとう抑えきれなくなって号泣する。あぁ、我慢していた分まで涙が出る。喉が痛い。息が苦しい。
「シオン!」
白竜くんが私を抱きおこしてギューッと腕の中に閉じ込め、背中をさすってくれた。それだけで胸が高鳴る。・・・暖かい。
「シオン・・・俺も、間違っていた」
「うぁあああっ・・・!」
「すまなかった。お前の気持ちを考えもせず、俺の勝手なエゴで傷つけた。俺の方こそ大馬鹿者だ・・・」
白竜くんは何も悪くない。悪いのは私だ。だから私は首を横に振った。すると彼は悲痛そうに眉を下げた。
「違う・・・こんなことするのは間違っている。お前の心を乱すことなど俺はしたくなかった。シオンのそばにいるだけで良かった。共に生きられたらそれで良かったんだ。ただそれだけで・・・っ!」
彼はそこで初めて涙を流した。私のために泣いてくれている。・・・嬉しい。
「シオンのいない未来など意味がない。俺はお前に生涯の伴侶として添い遂げる・・・」
「ひっぐ・・・ぇぐっ・・・」
「頼む。もう一度、俺にチャンスをくれ。必ずお前を幸せにする。・・・もう二度と、泣かせたりしない」
あぁ。白竜くんに愛されている。私も同じ想いだよ。この想いにも無意識に蓋をしていたんだ。きみのためならなんだって出来る。なんだって捧げる。
「うん・・・わたしもだよ・・・。ずっと一緒にいよう・・・?」
「あぁ・・・!!」
強く抱き合った私たちを窓から覗く月が優しく照らした。
そして私たちが抱き合ってから数時間が過ぎて朝を迎えた。今日の天気は雨らしい。私は彼が眠る隣で昨晩のことを振り返る。
あのあと私たちはもう一度深く唇を重ね合い、その後のことはあまり覚えていない。ただ一言覚えているのは彼の最後の叫びだ。
『愛している・・・!』
そのあと彼は意識を失って私を抱いたまま寝入ってしまった。もちろん私も疲労が祟って意識を手放した。そして今に至る。彼の左手を絡ませるように握るとゆっくり彼の瞼があがる。そして美しい赤色の瞳が現れた。
「おはよう、白竜くん」
「おはよう、シオン・・・」
おはよう。毎日繰り返す挨拶。当たり前のように感じていたけれど今は違う。この人と迎える朝はきっとどんなものよりも美しく見えるから。
「あのね・・・」
私の想いを届けよう。きみと一緒にいたいから。私はゆっくりと話し始めた。
「ずっと言いたかった。でも言えなかった。伝えたら全てが終わってしまうと思っていた。でも白竜くんが教えてくれたから。・・・目覚めさせてくれたから」
「・・・」
「私も、きみを愛している。あのときからずっと」
「シオン・・・」
「だから。これからも私と一緒に生きてほしい」
「・・・あぁ。もちろんだ」
白竜くんは泣きそうな笑顔で頷いた。そして私を抱き寄せてくれる。
「もう離さない。絶対にだ」
「うん・・・約束だよ」
私たちは再び抱き合うとまた深い口づけを交わした。幸せすぎて死んでしまいそうだ。でもこれだけは忘れないようにしよう。私はもうこの人に囚われてしまったということを。そしてこれからもずっと側にいて欲しいということを。
永遠の誓い。互いの体温を分け合って混ぜ合わせて溶け合って。そしてひとつになったような感覚を味わいながら私たちはもう一度誓いの口付けをした。
「これでおしまいだね」
朝早くから準備を進めたおかげか予定より早く準備を終えることができた。といってもほとんどの家具は既に運び出しているのであとは玄関掃除くらいなのだが。それでも長い付き合いだったので名残惜しい。
「忘れ物はないか?」
「えーっと・・・ないよ。多分」
白竜くんは私の忘れ物チェック係となっていた。まぁ彼らしいといえばそうなのだが。彼はふっと微笑むと私を抱き寄せて額に口づけをしてきた。
「大丈夫だ。何かあったら俺がフォローするさ。行くぞ」
「うん!」
私たちは玄関を開けて外に出る。すると綺麗な青空が広がっていて心地良い風が吹いてきた。
私たちは新しい生活へと歩き出した。もう後ろを振り返ったりなんかしない。だってこれからは前だけを見て生きていけばいいのだから。私が不安になると彼はいつでも手を差し伸べてくれた。何度でもキスをして抱きしめてくれた。それだけであとは何も要らないと思えるくらいに私は彼に依存してしまった。でもそれはきっと幸せなことで。彼もきっとそう思ってくれていると思う。
「シオンは俺のものだ」
「白竜くん?」
「そして、俺はお前のものだ。俺の心も身体も魂さえも全てお前のものだ」
そう言って彼はまた私をきつく抱き締めてくれた。そして耳元で囁いた。
「愛している。世界中の誰よりもお前だけを」
「っ!・・・私も、だよ」
お互いの存在を感じられるように強く抱き締め合って私たちは家を出る。その瞬間から私たちの新生活が始まるのだ。
「行くか」
「うん!」
差し伸べられた手を取り私たちは新しい場所へと歩き出した。
これからもきっと辛いことが待ち受けているかもしれない。でももう迷わない。私には大切な人がいるのだから。彼とならどんなことでも乗り越えられる気がする。だから・・・大好きだよ。
おしまい
変な夢を見た。なぜか白竜くんに襲われるの。あぁ夢でよかった。ここは私の部屋、いつもの景色だ。なのに、どうして空気が重苦しいのかな。ふと、左手が目に入った。
「え・・・」
薬指。何かが燦めいた。そのとき。
「起きたのか、まだ夜の2時だぞ」
ここにいるはずのない人の声がして私は声の主へ顔を向ける。そこには常夜灯に照らされた白竜くんがいた。彼の顔を認めた途端、あの夜の情事がフラッシュバックした。
「夢じゃ、なかったの・・・?」
「夢?」
「あの夜の出来事も、メッセージも…全部、現実なの・・・?」
「あぁ、現実だ・・・嬉しくないのか?」
「そ、んな……」
私の頭が真っ白になる。そして絶望した。夢なら覚めてくれたのに……覚めなかったなんて。
「夢であってほしかった、とでもいうような顔つきだな」
彼は私の思いを見透かしたかのようにそう言った。私は図星をさされて押し黙ってしまう。そんな彼が気に障ったのか彼は私ににじり寄ってきた。そして私の顎を掴み、強引に自分の方を向かせる。
「っ・・・」
「俺が目の前にいるのに何を考えている?」
「や、めて・・・!」
「うるさい」
そう言って彼は強引に唇を重ねてきた。私は必死に抵抗するが彼の腕力には敵わない。そしてそのままベッドに押し倒された。
「っ、やだぁ・・・!」
現実って、何?こんなに苦しいんだっけ?もう夢と現実の区別が付かなくなってるのかな?それならもう一緒だ。悪夢だ。もう終わった・・・すると白竜くんが、核心を突いてきた。
「あのときお前が教えてくれた、将来の夢。好きな人の花嫁になって、好きな人の子供を産んで、老いて死ぬまで幸せに暮らす・・・フフ、素敵な夢じゃないか。」
「・・・!」
ゆめ、ねがい、りそう、あこがれ、もくひょう、みらい。
そうだった。子供の頃からの、眩しくてかけがえのない宝物であり、原動力だった。・・・思い出せ。私がそもそも幸せな家庭を夢みるきっかけは、一つの写真立てからだった。
あげはさんの家に居候しているときに見つけた、棚に置かれた写真立て。若い男女が微笑んでいる。
『あげはさん』
『なぁに、シオンちゃん』
『この2人は、誰?』
『あぁ、あたしの親友とその旦那さんよ』
『すっごくきれい・・・でも、何で真っ白な服を着ているの?』
『結婚する時はみんな白い服を着るのよ。男の人はタキシード。女の人はウエディングドレスを着るの』
『ウエディングドレス・・・他には?』
『そうね、やっぱり指輪かしら』
『指輪?』
『結婚している人は左手の薬指に指輪をつけるの。一生使うから丈夫で錆びないのがいいのよ。』
『この人達、今はどうしてるの?』
『今は娘さんがいて三人で暮らしているわ。その時の写真、見る?』
『いいの!?見たい!』
あげはさんはスマホを出して一つの写真を表示した。さっきの二人の間に可愛い女の子が満面の笑みで映っている。
『わぁ・・・!』
『シオンちゃんも大人になったら好きな人と結婚して、幸せな生活を送ることになるかもね』
『そうなの?』
あげはさんは大きく頷いた。
『でもあげはさん、どうして結婚してないの?こんなにきれいなのに』
『ふふ、あたしは今の生活が大事だから』
写真の中の三人家族。笑顔の絶えない空間に、私は心底羨ましく思った。だからそのためになにをするべきかを考えて、時にはあげはさんの力も借りて、実践して。成人して働くようになって家族を支えることの大変さと大切さを学んだ。週末、くたくたになって家に帰ればあげはさんが待っていてくれて、一緒にご飯を食べて、テレビを見て、お風呂に入って。そんな生活が愛おしかった。・・・それが普通だと思ってた。就職して2年経った頃に、あげはさんはとある男の人を連れてきた。
『シオンちゃん、紹介するね・・・あたしの、旦那さんになる人よ』
『君がシオンさんか、よろしくね』
『あっ、こちらこそよろしくお願いします』
リビングで二人のなれ初めや結婚の決め手を聞いて、二人から笑顔が溢れた。それを見てこっちも嬉しくなった。しかし突然、あげはさんは私に残酷な宣言を告げたのだ。
『あたし、結婚を機にここを出て行くことにしたの』
『・・・え?』
『彼の実家は定食屋なんだけど、そこに彼のお父さんとお母さんがいてね、お父さんの方が体調を崩してしまって・・・』
『それで、あげはが僕の実家に嫁いで定食屋を手伝ってくれるんだ。申し訳ない。きみから家族を、取り上げるような事をして・・・』
『っ・・・いいんです、私はただの居候で・・・』
泣くな。泣いたらあげはさんに申し訳ない。幸せを掴み取ろうとしているのなら邪魔しちゃだめだ。必死で堪えていたのに。あげはさんが私を不意に抱きしめるものだから、決壊してしまった。
『ううっ・・・うぁあ・・・!』
『ごめんね、私たちはシオンちゃんの家族だから。これからも、ずっと』
『うぅ~・・・あげはさん・・・』
居候の身の上で私を家族と言ってくれて、身寄りの無い私を拾ってくれて、幸せを沢山分けてくれて、ありがとう。あげはさんは幸せになるべきだ。この二人ならどんな困難も乗り越えてゆくだろう。だから、この言葉に込めて。
『お幸せに』
思えばそれが始まりだった。あげはさんを見送った後にこの家の主となった私は、今以上に幸せを掴もうと決意した。2年も仕事を続けていれば後輩が出来て任される業務も増えてくる。そのうち、残業することも珍しくなくなった。でも、残業していればあの家に帰らなくても良くなる。お帰りなさい、と返ってくることのない空間は私を安心させるどころか押しつぶしてくる。一人分の温もりを追い求める時間も無くて、ただひたすら与えられた仕事を消化する毎日。白竜くんと再会したその日はたまたま仕事が片付いてしまって、また誰も居ない家に帰るのかなぁ、苦しいなぁ、寂しいなぁ。そんな事を考えながら日が落ちた街を歩いていた。すると目の前に赤い提灯がぶら下がっているではないか。居酒屋か。・・・お酒、飲んでみようかな。喧噪から逃れるように私はのれんをくぐった。
『おぉ姉ちゃん!言い飲みっぷりだねぇ!』
『ひっく・・・ぐすっ・・・日本酒もう1杯ください』
『あいよ!』
あぁ、美味しい!日本酒最高!甘いけど、すっきりしていて飲みやすい!何杯でもいけちゃうなぁ!あはは!しかし楽しいはずなのに涙が止まらない。
『・・・あーあ、現実と夢が逆転したらいいのに』
呟きは誰にも届くことなく溶けて無くなった。
「俺が、お前の夢を叶えて・・・」
「白竜くん」
「え・・・?」
「思い出した・・・私の、将来の夢・・・なんで、忘れてたんだろう」
押し倒されたままうわごとのように呟いた。そうだ、私は・・・
「現実から、逃げていたんだ・・・夢を見すぎたんだ・・・」
頬に熱い雫が伝う。彼は目を見開いている。伝えなきゃ、謝らなきゃ。こうなったのは自分のせいだから。頑張れ、今しかないんだ・・・!
「きみに手を差し伸べられていたのに、それすら気付かなかった・・・っ!」
「シオン・・・っ」
「ごめんなさい・・・!ごめん、なさいっ・・・わたしのせいで、はく、りゅっ、くん・・・っ!う、わぁぁぁぁぁあああん!!!」
とうとう抑えきれなくなって号泣する。あぁ、我慢していた分まで涙が出る。喉が痛い。息が苦しい。
「シオン!」
白竜くんが私を抱きおこしてギューッと腕の中に閉じ込め、背中をさすってくれた。それだけで胸が高鳴る。・・・暖かい。
「シオン・・・俺も、間違っていた」
「うぁあああっ・・・!」
「すまなかった。お前の気持ちを考えもせず、俺の勝手なエゴで傷つけた。俺の方こそ大馬鹿者だ・・・」
白竜くんは何も悪くない。悪いのは私だ。だから私は首を横に振った。すると彼は悲痛そうに眉を下げた。
「違う・・・こんなことするのは間違っている。お前の心を乱すことなど俺はしたくなかった。シオンのそばにいるだけで良かった。共に生きられたらそれで良かったんだ。ただそれだけで・・・っ!」
彼はそこで初めて涙を流した。私のために泣いてくれている。・・・嬉しい。
「シオンのいない未来など意味がない。俺はお前に生涯の伴侶として添い遂げる・・・」
「ひっぐ・・・ぇぐっ・・・」
「頼む。もう一度、俺にチャンスをくれ。必ずお前を幸せにする。・・・もう二度と、泣かせたりしない」
あぁ。白竜くんに愛されている。私も同じ想いだよ。この想いにも無意識に蓋をしていたんだ。きみのためならなんだって出来る。なんだって捧げる。
「うん・・・わたしもだよ・・・。ずっと一緒にいよう・・・?」
「あぁ・・・!!」
強く抱き合った私たちを窓から覗く月が優しく照らした。
そして私たちが抱き合ってから数時間が過ぎて朝を迎えた。今日の天気は雨らしい。私は彼が眠る隣で昨晩のことを振り返る。
あのあと私たちはもう一度深く唇を重ね合い、その後のことはあまり覚えていない。ただ一言覚えているのは彼の最後の叫びだ。
『愛している・・・!』
そのあと彼は意識を失って私を抱いたまま寝入ってしまった。もちろん私も疲労が祟って意識を手放した。そして今に至る。彼の左手を絡ませるように握るとゆっくり彼の瞼があがる。そして美しい赤色の瞳が現れた。
「おはよう、白竜くん」
「おはよう、シオン・・・」
おはよう。毎日繰り返す挨拶。当たり前のように感じていたけれど今は違う。この人と迎える朝はきっとどんなものよりも美しく見えるから。
「あのね・・・」
私の想いを届けよう。きみと一緒にいたいから。私はゆっくりと話し始めた。
「ずっと言いたかった。でも言えなかった。伝えたら全てが終わってしまうと思っていた。でも白竜くんが教えてくれたから。・・・目覚めさせてくれたから」
「・・・」
「私も、きみを愛している。あのときからずっと」
「シオン・・・」
「だから。これからも私と一緒に生きてほしい」
「・・・あぁ。もちろんだ」
白竜くんは泣きそうな笑顔で頷いた。そして私を抱き寄せてくれる。
「もう離さない。絶対にだ」
「うん・・・約束だよ」
私たちは再び抱き合うとまた深い口づけを交わした。幸せすぎて死んでしまいそうだ。でもこれだけは忘れないようにしよう。私はもうこの人に囚われてしまったということを。そしてこれからもずっと側にいて欲しいということを。
永遠の誓い。互いの体温を分け合って混ぜ合わせて溶け合って。そしてひとつになったような感覚を味わいながら私たちはもう一度誓いの口付けをした。
「これでおしまいだね」
朝早くから準備を進めたおかげか予定より早く準備を終えることができた。といってもほとんどの家具は既に運び出しているのであとは玄関掃除くらいなのだが。それでも長い付き合いだったので名残惜しい。
「忘れ物はないか?」
「えーっと・・・ないよ。多分」
白竜くんは私の忘れ物チェック係となっていた。まぁ彼らしいといえばそうなのだが。彼はふっと微笑むと私を抱き寄せて額に口づけをしてきた。
「大丈夫だ。何かあったら俺がフォローするさ。行くぞ」
「うん!」
私たちは玄関を開けて外に出る。すると綺麗な青空が広がっていて心地良い風が吹いてきた。
私たちは新しい生活へと歩き出した。もう後ろを振り返ったりなんかしない。だってこれからは前だけを見て生きていけばいいのだから。私が不安になると彼はいつでも手を差し伸べてくれた。何度でもキスをして抱きしめてくれた。それだけであとは何も要らないと思えるくらいに私は彼に依存してしまった。でもそれはきっと幸せなことで。彼もきっとそう思ってくれていると思う。
「シオンは俺のものだ」
「白竜くん?」
「そして、俺はお前のものだ。俺の心も身体も魂さえも全てお前のものだ」
そう言って彼はまた私をきつく抱き締めてくれた。そして耳元で囁いた。
「愛している。世界中の誰よりもお前だけを」
「っ!・・・私も、だよ」
お互いの存在を感じられるように強く抱き締め合って私たちは家を出る。その瞬間から私たちの新生活が始まるのだ。
「行くか」
「うん!」
差し伸べられた手を取り私たちは新しい場所へと歩き出した。
これからもきっと辛いことが待ち受けているかもしれない。でももう迷わない。私には大切な人がいるのだから。彼とならどんなことでも乗り越えられる気がする。だから・・・大好きだよ。
おしまい