人生は白竜ゲー。
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今日は朝練があるのでサッカー棟へ向かう。今日は晴れだが、雲が少し多い。到着すると何人かのメンバーがユニフォームに着替えて準備をしていた。俺も自分のロッカーに鞄を突っ込み、着替え始める。ん、シオンがまだ来ていない。アイツが俺より遅いのはたまにあることだが…こんなに遅くなるのは初めてだ。着替えが終わったのでグラウンドに行こうとすると、
「…ギャス…」
「わわ、ごめんね、はなして…あっ」
玄関の方から変な声とシオンの困った声が聞こえた。気になって部室の外へ出ると、
「うわぁっ落ち着いて!」
「ギャス」
「こ、こらやめなさい!」
「アギャ」
変な生き物にのしかかられているシオンがいた!
「なんだコイツ!?」
「あっ白竜くん!」
「じっとしてろよ!」
俺はたまたま傍にあったボールをリフトして、謎の生き物目がけて蹴り出す。渾身のシュートはそいつに命中…しなかった。ひらりと身を躱して回避されたが、シオンは自由になったようだ。立ち上がって俺に駆け寄る。
「大丈夫か?」
「うん、助かった…というかあの子、無事……?」
そう言ってシオンが謎の生き物を振り返る。俺も釣られてそちらを見ると紫色の機械のような見た目をしている。大きなトカゲっぽくも見える。生き物なのか?ロボットじゃないのか?
「ギャアス」
「あ」
謎の生き物はまたこっちに近づいて来る。俺は反射的にシオンを背中に隠して守る態勢を取った。
「まだやる気か」
「待って、そういうことじゃないよ」
「なに?」
「襲われたんじゃないの」
「どういうことだ?」
「実は…」
遡ること20分前。
『朝練に遅れる~!急げ~!』
うっかり寝坊してしまい、走ってサッカー棟へ向かっている途中、
『?』
竜のような見たことないものが倒れていた。気になった私は、急いでいるのも忘れて近づく。よく見たら紫色の機械みたいだ。故障したロボットだろうか?
『何だろう…この子』
『グギュ…』
『わ、起きた…』
その子は首だけ持ち上げて私を見た。元気がなさそうだ。
『…お腹、空いてる?よければ、これどうぞ』
私は鞄からサンドイッチを取りだして、一つをその子の口元に近づけた。機械に食べ物だなんて、と思いきや、その子はクンクン匂いを嗅ぐと、ご馳走だ!といった様子でぱくりと食べてくれた。しばらく咀嚼して飲み込むと、
『アギャッス』
立ち上がって嬉しそうな声を出して尻尾を振ってくれた。かわいいな。よしよしと撫でてあげると金属みたいにツルツルして冷たい。しかし気持ちよさそうな顔をしてくれた。
『まだあるよ、食べる?』
『ギャス!』
私は今日のお昼に食べるはずだったサンドイッチを、すべてその子に食べさせた。満足したその子は私の頬を舐めてきた。
『ギュウ』
『わぁ、擽ったい』
『ギャス、アギャ』
『ふふふ、可愛いね…あっ!』
公園の時計が集合時刻10分前を指していた。あー!遅刻確定!やってしまった、怒られる!
『もう間に合わないよ…!』
『グギュ?』
『ごめんね、もう行かないと…!』
私は立ち上がって公園から走り出そうとした。しかしその子は私のジャージの裾を咥え、クイクイ引っ張る。
『えぇ?なに?』
『ギャスギャス!』
何か伝えようとしているのか?しかし朝練に行かなければ。すると、その子の身体が光ったのだ。
『わっ!?』
『グオオオオ!』
溜まらず目を瞑る。そしてもう一度目を開けると、その子の姿が変わっていたのだ。銀色だった腹が水色になり、身体がジェット噴射で浮かんでいる。頭のアンテナみたいな所からは稲妻が走っている。強そうだ。
『凄い…きゃ!?』
呆気にとられていると、その子が私を自らの腕に閉じ込めてきた。まさか、食べられる?!やだ!下ろして!と抵抗すると、
『アギャース!』
『うわーーー!!』
あろう事かその子はそのまま空高く飛び上がったのだ!しかも超スピードで!
『ギャス!』
『なにこれぇぇえええ!!』
『ギャウン!』
何という展開だ…変な機械に空に攫われるなんて。私の不運も遂にここまで来たか。
『ぅ…あ、あれ…?』
飛んでいると、その子は何かを見つけたらしい。徐々に高度が下がる。やがて降り立ったのはサッカー棟の目の前だった。もしかして、送ってくれたのだろうか。エネルギーを使い果たしたのか、その子は元の姿に戻っていく。
『ひえぇ……びっくりした……きみすごいね。ありがとう…』
『アギャッス』
『じゃあ私朝練あるから……またね』
『ギャスギャース!』
『わぁ!ちょっと……!』
私が中に入ろうとするとまた戯れてきた。もう、目の前なのに…!
「…ということなんだ」
「本当なのか、それ」
「信じられないだろうけど……見ての通りなんだよ…わっ」
そんなやり取りをしてる間に謎の生き物はまたシオンに擦り寄ってきた。
「アギャ」
「もう、さっきからこんな感じで…」
「餌付けしたからじゃないのか」
「だとしてもこんなに懐くの?」
「無責任な餌やりはするな」
「ごめん」
「ギャス、グギュウ」
「おーい、朝練はじまるよー?」
後ろから天馬の呼ぶ声がする。あ、この展開まずいな。そう思ったときにはもう遅い。謎の生き物が天馬の目にとまってしまった。そして、
「なにこれ!?」
瞬く間にメンバー全員の知るところとなる。
「なんか妙な生き物がいるんだけど……!?」
「すっげぇ怪しい…」
「なんか機械みたいな奴だな」
「誰かのペットか……?」
そいつは全く動じていない。頭に?マークが浮かんでいるみたいだ。すると、チームメンバーの一人、西園が声を上げた。
「あ!僕知ってるよ!『ミライドン』でしょ!」
「ミライドン?」
「なんだそれは」
「アギャス」
「知らないの?最近流行りのポケモンのゲームに出てくる、未来のポケモン」
「ポケモン?てことは…」
「ゲームの世界から来た、ということか?」
「それは違うと思うよ」
西園の後ろからフェイが現れて、説明してくれた。曰く、ミライドンはポケットモンスター、縮めてポケモンが現実に存在するパラレルワールドから来たのではないかと推測されている。ゲームでは専ら乗用として使われるポケモンらしい。
「もしもの世界から来た、というのは前にもあったね」
「何なら二つの世界が交わった、なんてこともあったな…」
「もう驚かなくなってきたよ、私」
パラレルワールドなら充分あり得る。もう何でもありなんだな…。俺はミライドンを遠い目で見るしかなかった。そして…予定より遅れて練習が始まった。ミライドンはというと…サッカーボールに興味があるようだ。
「アギャ」
「きみもサッカーやる?」
「アギャッス」
「じゃあ一緒にやろう!」
当たり前のように練習に混ざっている…しかもシオンと一緒に。いつもは俺がこいつの相手なのに。モヤモヤする。不愉快だ。ポケモンだか何だか知らんが調子に乗るな。そんな思いで俺は練習に打ち込んだ。シオンと一緒にパス練してるやつを見ないために。しかしどうしても視界に入ってくる。くそ…!
「白竜の機嫌が悪い……」
「まあ仕方がないね」
「ミライドンは何も悪くないのに」
「シオンさんも大変ですね…」
外野どもめ、聞こえているぞ。
「……ハァ」
休憩時間に入り、俺はベンチに座って水分補給をする。汗をタオルで拭いていると、近くにいたシオンたちの会話が耳に入った。
「ミライドン、サッカー上手だね!」
「アギャッス!」
「きみは賢いなぁ」
「ギャウ?」
「それに可愛い!」
「ギャース♡」
「おいシオン」
「ミライドン、サッカー選手になれるんじゃない?」
「アギャス?」
「ポケモンのいる世界か…どんな感じなんだろう?」
「グギュ」
「……シオン」
聞いているだけで胸の奥が重くなっていく、ミライドンへの褒め言葉。可愛いとか賢いとかサッカーが上手いとか……俺より褒めてないか?気に入らない。俺の方がこんな機械竜よりサッカーが上手いのは知っているくせに。あぁ腹が立つ!
「ミライドンはどうやって生まれてきたんだろ……卵産んだりするのかな?」
「アギャ?」
「生まれた時のこと覚えていない?」
「ギャウ」
「そっか。なら私がお母さんになっちゃおうかな…なーんて……」
「おいシオン!!」
ついに耐え切れず俺は叫んだ。シオンが驚いて目を見開く。ミライドンは何事かとこちらを振り向く。構うものか。
「どうしたの白竜くん?」
「……一体どういうつもりだ」
「え?」
「俺よりそんな機械みたいなトカゲの方がいいのか?」
「白竜くん…?」
「俺の方がサッカーも上手いし、ポケモンとかいうわけのわからない生き物よりも強い」
「それはそうだけど…」
「あと、そいつの母親になるだと?お前、ミライドンが何を食べるのか知っているのか?」
「サンドイッチなら食べてくれたよ」
シオンは時々ズレた事を言う。そういうことを言っているんじゃない。あぁもう…。
「よし、お昼だね!皆で食べよう!」
「あ~お腹減った~」
「やっと飯ぜよ~」
「ミライドンも一緒に食おうぜ!」
「アギャッス!」
いつの間にか昼食の時間になっていた。ミライドンはもうチームに馴染んでいてもう何なんだ。考えても仕方ない、俺も飯を食うことにするか。
「シオン、昼飯だぞ」
「あ…今日はない」
「ない?」
「ミライドンにあげちゃった、全部」
「……」
はぁ、と大きなため息が出た。自分の弁当を知らない生き物にやるなど、馬鹿のやることだ。しかしそれはシオンの優しさから来ている行為であるとも理解している。だからこそ、どうしようもなくイラつく。
「……俺の弁当を半分くれてやる。それで我慢しろ」
「いいの?ごめんね」
「いいから早く食え」
「いただきます!」
俺の弁当を美味そうに食べ進めるシオンを見て少しだけ溜飲が下がった。
「白竜くん。お弁当ありがとう」
「別に良い」
「お米だけでも良かったのに」
「あんな奴に弁当を食わせるからだろ」
「だってお腹空いてそうだったから……」
昼食を終えて午後の練習のためにグラウンドに出た。すると、ミライドンがそこのど真ん中で昼寝をしている。邪魔だ。寝るならよそへ行け。
「起こしちゃ悪いから外に行こうか」
「…あぁ」
俺とシオンは二人で外周コースへ向かった。他のメンバーはグラウンドを使うようだ。暫く走っているとシオンが俺に聞いてきた。
「ねぇ白竜くん。何か怒ってる?」
「…なんのことだ」
「さっきからなんか不機嫌そうだから」
「気のせいだ」
「嘘だよね。機嫌悪いでしょ。なんで?」
「気のせいだと言ってるだろう」
「む……」
「なんだ」
「教えてくれないなら…こうだ!」
シオンはそう言い放ち走る速度を上げた。やれやれ……こんなことで教えて貰えると思っているのか。
「フン。その程度か?」
「っ!」
「俺を出し抜くにはまだまだ甘いぞ」
「はぁ……!速い……!」
すぐに追いついて並走する。当然俺の方が足が速いのだから追いつくに決まっている。悔しそうな顔をして睨んでくるシオン。まったく可愛い女だな…って俺は何を考えているんだ。
「ぜぇ……はぁ……やっぱり勝てない……」
「フッ、当たり前だ」
「もう…!意地悪してないで理由教えてよ」
「……」
「…私に非があるなら言って。人から指摘された悪いところは直すべきだから」
「……アイツに構いすぎだ」
「アイツ?ミライドンのこと?」
「いくら助けられたからといってあんなにべったりするのはおかしい。…少なくとも俺は快く思わない」
「…ごめん」
お前に非があるわけじゃない。なのに素直になれずに頭ごなしに叱ってしまう俺の方に非があるんだ。この世界の存在ではないミライドンを助けるくらいの優しい心を持つシオンは傷ついてはいけない。なのに俺はまた自分本位な考えで人を傷つけてしまった。
「機嫌悪くするの承知で聞くけど…もしかして、やきもち?」
「…はっ!?」
「だよね…?それしか理由が思いつかないから」
「ちがっ、違うっ!」
「そうかな?白竜くん普段はもっと落ち着いてるし、優しいよ。」
「そんなことはない!」
「白竜くんは意外と分かりやすいんだね、私と同じだ!」
「うるさい…!」
図星を突かれて耳まで熱くなる。確かにやきもちだ。認めたくはないが。シオンが俺以外の奴に構うのが許せないんだ、例え人間でなくとも。シオンにとって特別な存在でありたい。他の輩に取られたくない。それが今の俺の気持ちだ。
「……でもね。ミライドンは私たちとは違う世界から来て、きっと不安なんだと思うの。だから私なりにできることがあればと思って」
「それは……」
「それに白竜くんに言われて気付いたけど、やっぱりずっと構いっぱなしだったね……反省する」
「あ、いや……」
「これからは控えるようにするね」
「俺の方こそ……悪い。酷い態度をとって」
「ううん。お互い様だよ」
仲直りしよう。シオンの笑顔は暖かい。その笑顔を見ると喧嘩したという事が馬鹿らしくなるほど安心感がある。俺の好きな表情だ。
外周から戻ると、何やら騒がしい。それもそのはず。ミライドンの姿が変わって、ゴール前に立ちはだかっているからだ。
「あれは…!?」
「グオオオオ!」
「凄いね、ミライドン!みんなのシュート全部止めちゃった!」
流れる汗を拭いながら天馬が褒めている。フィールドプレイヤーよりキーパーの方が向いているのかお前。ミライドンはまだまだやる気が漲っているらしい。
「アギャ」
「ほう…天馬や剣城のシュートを防いだか。なら、俺のシュートはどうかな?」
「ギャォオス!」
「フッ、良いだろう。三本勝負だ。俺のシュートを止めて見せろ!」
「アギャー!」
「二人とも頑張って!」
シオンが俺とミライドンに向かってエールを送る。ポケモンと一騎打ちなんて考えてもみなかった…面白い。真剣勝負といこうか。
「ホワイト…ハリケーンッ!」
俺はボールを打ち上げて、巨大な台風をボールに纏わせて打ち出す。今まで何度も決めた得意のシュート。キーパーがプロの大人であっても止められるものではない。……しかし今回は違った。ミライドンが自らを電気で覆って回転して、シュートを弾き飛ばした。
「なっ!?」
「おお、止めた!」
「やるな、ミライドン!」
「すごい……!白竜くんのシュートを……!」
「アギャ」
「ぐ……俺のシュートを止めるとは……!」
一本目はミライドンに軍配が上がった。ここでまた止められればアイツの勝ちになる。しかし、俺とて負けるわけにはいかない。次だ。俺はボールをもう一度蹴り上げる。
「ドラゴン……ブラスターッ!!」
竜のオーラを脚にためて打ち出す、もう一つの得意技。さぁ止めて見せろ!
「グオオ、グオオオン!」
さっきと同じように雷を纏い、回転してシュートを止めようとするミライドン。しかし今度のシュートは貫通力があり、その電気を突破していく。
「アギャッ?!」
「ミライドン!」
俺のシュートはミライドンを吹き飛ばし、そのままボールはゴールネットへ吸い込まれていった。
「凄い…やっぱり白竜は強い」
「どうだ、これが格の違いだ」
「さっきは止められてたのに?」
「だっ黙れ狩屋!」
「これで1対1か…次で勝負が決るね」
二本目は俺が制した。そして最終決戦。俺はボールを地面に置く。ミライドンも気合い充分。会ったときよりいい顔をしている気がする。ならこちらも全力の必殺技で応じてやろう。
「シオン、お前も来い」
「えっ私?」
「二人の力をミライドンに見せつけてやる。一緒にやるぞ」
「…!オッケー!」
俺はシオンを呼んで、隣に立たせる。行くぞ、俺とコイツのシュート、お前に止められるかな!
「いくぞ!」
「うん!」
「「はああああ!!」」
シオンが闇を、俺が光を溢れさせ、一つにするシュート技。その名も、
「「ゼロマグナム!!」」
「アギャァス!!」
ミライドンもこれまで以上に雄叫びを上げる。凄まじい威力のシュートに負けないよう全身全霊で止めにかかる。だが、
「グギュ……!!」
その勢いは凄まじく、ミライドンを押していく。そしてついに、
「ガッ……!」
俺とシオンのシュートがゴールを揺らした。これにて勝敗が決定したわけだ。ミライドンは元の姿に戻って倒れている。
「ギュウ~…」
「ミライドン、大丈夫!?」
「俺の勝ちだな」
「白竜くんすごかったよ。でも最後まで粘ってたミライドンも偉いよ」
「当然だ。…お前、なかなかやるな。シオンの言っていた通りにサッカーの才能がある」
「アギャ?」
俺は初めてミライドンの身体を触る。金属っぽくて冷たい。そんなこいつの頭を撫でてやる。少し嬉しそうに鳴いた。やはりシオンの言うことは正しいようだ。ポケモンでもサッカーをやるやつはいい奴らしい。
「頑張ったな、ミライドン」
「アギャッス!」
「お、おい!舐めるな!」
「アギャ♡」
「やめろって!」
「あはは!白竜くんも好きになったの、ミライドン?」
「見てないで何とかしろ、シオン!コラッやめろ!重いだろ!」
「ギャース♡」
「よかったね!白竜くんと仲良くなれて!」
「アギャア!」
ミライドンに抱き着かれ、顔を舐められながらシオンが喜んでいる様子を見る。もうどうにでもなれ。まぁでもシオンが楽しいなら良いか。それに、ミライドンは悪い奴じゃないしな……。
おしまい
おまけ
「ミライドンは可愛いなぁ。やっぱり私、きみのお母さんになりたいよ」
「ギュオン♡」
「は?」
「あっしまった…」
「まだそんなこと考えてたのか…?」
「あはは…だってこんなに懐いてくれてるんだし…」
「お前にはお仕置きが必要らしいな…」
「あわわ、ごめんなさ~い!」
「待てこら逃げるな!」
「アギャ!」
「…ギャス…」
「わわ、ごめんね、はなして…あっ」
玄関の方から変な声とシオンの困った声が聞こえた。気になって部室の外へ出ると、
「うわぁっ落ち着いて!」
「ギャス」
「こ、こらやめなさい!」
「アギャ」
変な生き物にのしかかられているシオンがいた!
「なんだコイツ!?」
「あっ白竜くん!」
「じっとしてろよ!」
俺はたまたま傍にあったボールをリフトして、謎の生き物目がけて蹴り出す。渾身のシュートはそいつに命中…しなかった。ひらりと身を躱して回避されたが、シオンは自由になったようだ。立ち上がって俺に駆け寄る。
「大丈夫か?」
「うん、助かった…というかあの子、無事……?」
そう言ってシオンが謎の生き物を振り返る。俺も釣られてそちらを見ると紫色の機械のような見た目をしている。大きなトカゲっぽくも見える。生き物なのか?ロボットじゃないのか?
「ギャアス」
「あ」
謎の生き物はまたこっちに近づいて来る。俺は反射的にシオンを背中に隠して守る態勢を取った。
「まだやる気か」
「待って、そういうことじゃないよ」
「なに?」
「襲われたんじゃないの」
「どういうことだ?」
「実は…」
遡ること20分前。
『朝練に遅れる~!急げ~!』
うっかり寝坊してしまい、走ってサッカー棟へ向かっている途中、
『?』
竜のような見たことないものが倒れていた。気になった私は、急いでいるのも忘れて近づく。よく見たら紫色の機械みたいだ。故障したロボットだろうか?
『何だろう…この子』
『グギュ…』
『わ、起きた…』
その子は首だけ持ち上げて私を見た。元気がなさそうだ。
『…お腹、空いてる?よければ、これどうぞ』
私は鞄からサンドイッチを取りだして、一つをその子の口元に近づけた。機械に食べ物だなんて、と思いきや、その子はクンクン匂いを嗅ぐと、ご馳走だ!といった様子でぱくりと食べてくれた。しばらく咀嚼して飲み込むと、
『アギャッス』
立ち上がって嬉しそうな声を出して尻尾を振ってくれた。かわいいな。よしよしと撫でてあげると金属みたいにツルツルして冷たい。しかし気持ちよさそうな顔をしてくれた。
『まだあるよ、食べる?』
『ギャス!』
私は今日のお昼に食べるはずだったサンドイッチを、すべてその子に食べさせた。満足したその子は私の頬を舐めてきた。
『ギュウ』
『わぁ、擽ったい』
『ギャス、アギャ』
『ふふふ、可愛いね…あっ!』
公園の時計が集合時刻10分前を指していた。あー!遅刻確定!やってしまった、怒られる!
『もう間に合わないよ…!』
『グギュ?』
『ごめんね、もう行かないと…!』
私は立ち上がって公園から走り出そうとした。しかしその子は私のジャージの裾を咥え、クイクイ引っ張る。
『えぇ?なに?』
『ギャスギャス!』
何か伝えようとしているのか?しかし朝練に行かなければ。すると、その子の身体が光ったのだ。
『わっ!?』
『グオオオオ!』
溜まらず目を瞑る。そしてもう一度目を開けると、その子の姿が変わっていたのだ。銀色だった腹が水色になり、身体がジェット噴射で浮かんでいる。頭のアンテナみたいな所からは稲妻が走っている。強そうだ。
『凄い…きゃ!?』
呆気にとられていると、その子が私を自らの腕に閉じ込めてきた。まさか、食べられる?!やだ!下ろして!と抵抗すると、
『アギャース!』
『うわーーー!!』
あろう事かその子はそのまま空高く飛び上がったのだ!しかも超スピードで!
『ギャス!』
『なにこれぇぇえええ!!』
『ギャウン!』
何という展開だ…変な機械に空に攫われるなんて。私の不運も遂にここまで来たか。
『ぅ…あ、あれ…?』
飛んでいると、その子は何かを見つけたらしい。徐々に高度が下がる。やがて降り立ったのはサッカー棟の目の前だった。もしかして、送ってくれたのだろうか。エネルギーを使い果たしたのか、その子は元の姿に戻っていく。
『ひえぇ……びっくりした……きみすごいね。ありがとう…』
『アギャッス』
『じゃあ私朝練あるから……またね』
『ギャスギャース!』
『わぁ!ちょっと……!』
私が中に入ろうとするとまた戯れてきた。もう、目の前なのに…!
「…ということなんだ」
「本当なのか、それ」
「信じられないだろうけど……見ての通りなんだよ…わっ」
そんなやり取りをしてる間に謎の生き物はまたシオンに擦り寄ってきた。
「アギャ」
「もう、さっきからこんな感じで…」
「餌付けしたからじゃないのか」
「だとしてもこんなに懐くの?」
「無責任な餌やりはするな」
「ごめん」
「ギャス、グギュウ」
「おーい、朝練はじまるよー?」
後ろから天馬の呼ぶ声がする。あ、この展開まずいな。そう思ったときにはもう遅い。謎の生き物が天馬の目にとまってしまった。そして、
「なにこれ!?」
瞬く間にメンバー全員の知るところとなる。
「なんか妙な生き物がいるんだけど……!?」
「すっげぇ怪しい…」
「なんか機械みたいな奴だな」
「誰かのペットか……?」
そいつは全く動じていない。頭に?マークが浮かんでいるみたいだ。すると、チームメンバーの一人、西園が声を上げた。
「あ!僕知ってるよ!『ミライドン』でしょ!」
「ミライドン?」
「なんだそれは」
「アギャス」
「知らないの?最近流行りのポケモンのゲームに出てくる、未来のポケモン」
「ポケモン?てことは…」
「ゲームの世界から来た、ということか?」
「それは違うと思うよ」
西園の後ろからフェイが現れて、説明してくれた。曰く、ミライドンはポケットモンスター、縮めてポケモンが現実に存在するパラレルワールドから来たのではないかと推測されている。ゲームでは専ら乗用として使われるポケモンらしい。
「もしもの世界から来た、というのは前にもあったね」
「何なら二つの世界が交わった、なんてこともあったな…」
「もう驚かなくなってきたよ、私」
パラレルワールドなら充分あり得る。もう何でもありなんだな…。俺はミライドンを遠い目で見るしかなかった。そして…予定より遅れて練習が始まった。ミライドンはというと…サッカーボールに興味があるようだ。
「アギャ」
「きみもサッカーやる?」
「アギャッス」
「じゃあ一緒にやろう!」
当たり前のように練習に混ざっている…しかもシオンと一緒に。いつもは俺がこいつの相手なのに。モヤモヤする。不愉快だ。ポケモンだか何だか知らんが調子に乗るな。そんな思いで俺は練習に打ち込んだ。シオンと一緒にパス練してるやつを見ないために。しかしどうしても視界に入ってくる。くそ…!
「白竜の機嫌が悪い……」
「まあ仕方がないね」
「ミライドンは何も悪くないのに」
「シオンさんも大変ですね…」
外野どもめ、聞こえているぞ。
「……ハァ」
休憩時間に入り、俺はベンチに座って水分補給をする。汗をタオルで拭いていると、近くにいたシオンたちの会話が耳に入った。
「ミライドン、サッカー上手だね!」
「アギャッス!」
「きみは賢いなぁ」
「ギャウ?」
「それに可愛い!」
「ギャース♡」
「おいシオン」
「ミライドン、サッカー選手になれるんじゃない?」
「アギャス?」
「ポケモンのいる世界か…どんな感じなんだろう?」
「グギュ」
「……シオン」
聞いているだけで胸の奥が重くなっていく、ミライドンへの褒め言葉。可愛いとか賢いとかサッカーが上手いとか……俺より褒めてないか?気に入らない。俺の方がこんな機械竜よりサッカーが上手いのは知っているくせに。あぁ腹が立つ!
「ミライドンはどうやって生まれてきたんだろ……卵産んだりするのかな?」
「アギャ?」
「生まれた時のこと覚えていない?」
「ギャウ」
「そっか。なら私がお母さんになっちゃおうかな…なーんて……」
「おいシオン!!」
ついに耐え切れず俺は叫んだ。シオンが驚いて目を見開く。ミライドンは何事かとこちらを振り向く。構うものか。
「どうしたの白竜くん?」
「……一体どういうつもりだ」
「え?」
「俺よりそんな機械みたいなトカゲの方がいいのか?」
「白竜くん…?」
「俺の方がサッカーも上手いし、ポケモンとかいうわけのわからない生き物よりも強い」
「それはそうだけど…」
「あと、そいつの母親になるだと?お前、ミライドンが何を食べるのか知っているのか?」
「サンドイッチなら食べてくれたよ」
シオンは時々ズレた事を言う。そういうことを言っているんじゃない。あぁもう…。
「よし、お昼だね!皆で食べよう!」
「あ~お腹減った~」
「やっと飯ぜよ~」
「ミライドンも一緒に食おうぜ!」
「アギャッス!」
いつの間にか昼食の時間になっていた。ミライドンはもうチームに馴染んでいてもう何なんだ。考えても仕方ない、俺も飯を食うことにするか。
「シオン、昼飯だぞ」
「あ…今日はない」
「ない?」
「ミライドンにあげちゃった、全部」
「……」
はぁ、と大きなため息が出た。自分の弁当を知らない生き物にやるなど、馬鹿のやることだ。しかしそれはシオンの優しさから来ている行為であるとも理解している。だからこそ、どうしようもなくイラつく。
「……俺の弁当を半分くれてやる。それで我慢しろ」
「いいの?ごめんね」
「いいから早く食え」
「いただきます!」
俺の弁当を美味そうに食べ進めるシオンを見て少しだけ溜飲が下がった。
「白竜くん。お弁当ありがとう」
「別に良い」
「お米だけでも良かったのに」
「あんな奴に弁当を食わせるからだろ」
「だってお腹空いてそうだったから……」
昼食を終えて午後の練習のためにグラウンドに出た。すると、ミライドンがそこのど真ん中で昼寝をしている。邪魔だ。寝るならよそへ行け。
「起こしちゃ悪いから外に行こうか」
「…あぁ」
俺とシオンは二人で外周コースへ向かった。他のメンバーはグラウンドを使うようだ。暫く走っているとシオンが俺に聞いてきた。
「ねぇ白竜くん。何か怒ってる?」
「…なんのことだ」
「さっきからなんか不機嫌そうだから」
「気のせいだ」
「嘘だよね。機嫌悪いでしょ。なんで?」
「気のせいだと言ってるだろう」
「む……」
「なんだ」
「教えてくれないなら…こうだ!」
シオンはそう言い放ち走る速度を上げた。やれやれ……こんなことで教えて貰えると思っているのか。
「フン。その程度か?」
「っ!」
「俺を出し抜くにはまだまだ甘いぞ」
「はぁ……!速い……!」
すぐに追いついて並走する。当然俺の方が足が速いのだから追いつくに決まっている。悔しそうな顔をして睨んでくるシオン。まったく可愛い女だな…って俺は何を考えているんだ。
「ぜぇ……はぁ……やっぱり勝てない……」
「フッ、当たり前だ」
「もう…!意地悪してないで理由教えてよ」
「……」
「…私に非があるなら言って。人から指摘された悪いところは直すべきだから」
「……アイツに構いすぎだ」
「アイツ?ミライドンのこと?」
「いくら助けられたからといってあんなにべったりするのはおかしい。…少なくとも俺は快く思わない」
「…ごめん」
お前に非があるわけじゃない。なのに素直になれずに頭ごなしに叱ってしまう俺の方に非があるんだ。この世界の存在ではないミライドンを助けるくらいの優しい心を持つシオンは傷ついてはいけない。なのに俺はまた自分本位な考えで人を傷つけてしまった。
「機嫌悪くするの承知で聞くけど…もしかして、やきもち?」
「…はっ!?」
「だよね…?それしか理由が思いつかないから」
「ちがっ、違うっ!」
「そうかな?白竜くん普段はもっと落ち着いてるし、優しいよ。」
「そんなことはない!」
「白竜くんは意外と分かりやすいんだね、私と同じだ!」
「うるさい…!」
図星を突かれて耳まで熱くなる。確かにやきもちだ。認めたくはないが。シオンが俺以外の奴に構うのが許せないんだ、例え人間でなくとも。シオンにとって特別な存在でありたい。他の輩に取られたくない。それが今の俺の気持ちだ。
「……でもね。ミライドンは私たちとは違う世界から来て、きっと不安なんだと思うの。だから私なりにできることがあればと思って」
「それは……」
「それに白竜くんに言われて気付いたけど、やっぱりずっと構いっぱなしだったね……反省する」
「あ、いや……」
「これからは控えるようにするね」
「俺の方こそ……悪い。酷い態度をとって」
「ううん。お互い様だよ」
仲直りしよう。シオンの笑顔は暖かい。その笑顔を見ると喧嘩したという事が馬鹿らしくなるほど安心感がある。俺の好きな表情だ。
外周から戻ると、何やら騒がしい。それもそのはず。ミライドンの姿が変わって、ゴール前に立ちはだかっているからだ。
「あれは…!?」
「グオオオオ!」
「凄いね、ミライドン!みんなのシュート全部止めちゃった!」
流れる汗を拭いながら天馬が褒めている。フィールドプレイヤーよりキーパーの方が向いているのかお前。ミライドンはまだまだやる気が漲っているらしい。
「アギャ」
「ほう…天馬や剣城のシュートを防いだか。なら、俺のシュートはどうかな?」
「ギャォオス!」
「フッ、良いだろう。三本勝負だ。俺のシュートを止めて見せろ!」
「アギャー!」
「二人とも頑張って!」
シオンが俺とミライドンに向かってエールを送る。ポケモンと一騎打ちなんて考えてもみなかった…面白い。真剣勝負といこうか。
「ホワイト…ハリケーンッ!」
俺はボールを打ち上げて、巨大な台風をボールに纏わせて打ち出す。今まで何度も決めた得意のシュート。キーパーがプロの大人であっても止められるものではない。……しかし今回は違った。ミライドンが自らを電気で覆って回転して、シュートを弾き飛ばした。
「なっ!?」
「おお、止めた!」
「やるな、ミライドン!」
「すごい……!白竜くんのシュートを……!」
「アギャ」
「ぐ……俺のシュートを止めるとは……!」
一本目はミライドンに軍配が上がった。ここでまた止められればアイツの勝ちになる。しかし、俺とて負けるわけにはいかない。次だ。俺はボールをもう一度蹴り上げる。
「ドラゴン……ブラスターッ!!」
竜のオーラを脚にためて打ち出す、もう一つの得意技。さぁ止めて見せろ!
「グオオ、グオオオン!」
さっきと同じように雷を纏い、回転してシュートを止めようとするミライドン。しかし今度のシュートは貫通力があり、その電気を突破していく。
「アギャッ?!」
「ミライドン!」
俺のシュートはミライドンを吹き飛ばし、そのままボールはゴールネットへ吸い込まれていった。
「凄い…やっぱり白竜は強い」
「どうだ、これが格の違いだ」
「さっきは止められてたのに?」
「だっ黙れ狩屋!」
「これで1対1か…次で勝負が決るね」
二本目は俺が制した。そして最終決戦。俺はボールを地面に置く。ミライドンも気合い充分。会ったときよりいい顔をしている気がする。ならこちらも全力の必殺技で応じてやろう。
「シオン、お前も来い」
「えっ私?」
「二人の力をミライドンに見せつけてやる。一緒にやるぞ」
「…!オッケー!」
俺はシオンを呼んで、隣に立たせる。行くぞ、俺とコイツのシュート、お前に止められるかな!
「いくぞ!」
「うん!」
「「はああああ!!」」
シオンが闇を、俺が光を溢れさせ、一つにするシュート技。その名も、
「「ゼロマグナム!!」」
「アギャァス!!」
ミライドンもこれまで以上に雄叫びを上げる。凄まじい威力のシュートに負けないよう全身全霊で止めにかかる。だが、
「グギュ……!!」
その勢いは凄まじく、ミライドンを押していく。そしてついに、
「ガッ……!」
俺とシオンのシュートがゴールを揺らした。これにて勝敗が決定したわけだ。ミライドンは元の姿に戻って倒れている。
「ギュウ~…」
「ミライドン、大丈夫!?」
「俺の勝ちだな」
「白竜くんすごかったよ。でも最後まで粘ってたミライドンも偉いよ」
「当然だ。…お前、なかなかやるな。シオンの言っていた通りにサッカーの才能がある」
「アギャ?」
俺は初めてミライドンの身体を触る。金属っぽくて冷たい。そんなこいつの頭を撫でてやる。少し嬉しそうに鳴いた。やはりシオンの言うことは正しいようだ。ポケモンでもサッカーをやるやつはいい奴らしい。
「頑張ったな、ミライドン」
「アギャッス!」
「お、おい!舐めるな!」
「アギャ♡」
「やめろって!」
「あはは!白竜くんも好きになったの、ミライドン?」
「見てないで何とかしろ、シオン!コラッやめろ!重いだろ!」
「ギャース♡」
「よかったね!白竜くんと仲良くなれて!」
「アギャア!」
ミライドンに抱き着かれ、顔を舐められながらシオンが喜んでいる様子を見る。もうどうにでもなれ。まぁでもシオンが楽しいなら良いか。それに、ミライドンは悪い奴じゃないしな……。
おしまい
おまけ
「ミライドンは可愛いなぁ。やっぱり私、きみのお母さんになりたいよ」
「ギュオン♡」
「は?」
「あっしまった…」
「まだそんなこと考えてたのか…?」
「あはは…だってこんなに懐いてくれてるんだし…」
「お前にはお仕置きが必要らしいな…」
「あわわ、ごめんなさ~い!」
「待てこら逃げるな!」
「アギャ!」