人生は白竜ゲー。
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ずっと見ていたい。ディスプレイの向こう側で、真っ赤な顔して見つめ返してくれるお前を。
「ふぁぁああ~~♡♡♡白竜くんが今日もかっこいいよ~~♡♡♡」
フッ、そうだろう。俺は究極だからな。恵まれた技構成とステータス、そして化身。とあるゲームの1キャラクターである俺はプログラムで動く人形。その俺を動かすのは他でもないプレイヤーであるシオン。こいつはこの俺、『白竜』のことが好きで、ゲームをやりこんで、極限まで育成して、戦わせて、最強のストライカーに仕上げてくれた。今日も試合で俺はスタメン。ゼッケンはいつでもエースナンバー。
「よーし!頑張ろうね、白竜くん♡」
任せておけ、あんな奴等は蹴散らしてやる。俺とシャイニングドラゴンでな!試合を告げるホイッスルと共にトン、と軽く叩かれる感覚。パスが来た。シオンが画面をタッチすればそこにボールを蹴るシステムだ。
「よし、白竜くん上がって!」
俺の目の前に青い矢印が伸びていく。シオンが画面をなぞればその通りに選手が動く。まるで指揮者のようだ。敵が俺目がけて向かってくるが、相手にもならないな。そのまま接触し、コマンドバトルが始まる。右か左か、必殺技か。
「えーと、これ」
シオンが技を選択する。俺はFWだが、ドリブル技を持っている。だが、敵もブロック技を持っている。しかしこの勝負、俺の勝ちだ。抜かせて貰う!
『はぁぁ…!スプリントワープ!』
「わーい!やった!」
鮮やかに敵を突破した。見たか、シオン。もっと俺を好きになれ。いや、まだだ。シュートを決めなければ意味が無い。矢印はまだ伸びていく。その通りに俺は走り込む。フィールドは俺のものだ。
「いけいけ!」
シオンからの鼓舞を受け、俺はそれ以上に大きく踏み込んだ。ここでシオンが画面のオーラボタンを押した。化身発動の合図だ。思う存分やって良いんだな、シオン?
『見るがいい、これが究極の化身…聖獣シャイニングドラゴン!』
「うおぉ、かっこいい!」
ボールを宙へ浮かび上がらせ、シャイニングドラゴンが咥えてパワーチャージ。そこへ俺が飛び上がり右脚で叩き込めば、聖なる息吹がシュートになる。見てろよ、シオン!
「やっちゃえ白竜くん!」
『食らうがいい!ホワイト…ブレスッッ!!』
スキルのおかげでトータルパワーが20000を超えたシュートに、相手GKは為す術もない。ホワイトブレスはゴールネットをぶち抜いて決まった。
『ゴール!これが究極の輝きだ!』
「すごーい!ナイスシュートだ!さっすが白竜くん♡」
シオンは拍手を送って喜んでくれた。ふん。当然の結果だ。この調子なら次の試合も負け知らずだ。シオンが更に上達する度に俺も比例して強くなる。そして試合は進んでいき、0対6で俺達のチームが勝利した。
「よし、Sランク!やっぱりきみは頼りになるね!…でも、アイテムは貰えなかったな…」
試合に勝つと、キズナグッズと呼ばれるアイテムがドロップすることがある。これらは選手のスカウトに必要なので、必然的に集めて回ることになる。ちなみに俺のスカウトに必要なアイテムは100種類…つまり、コンプリートが必要だ。だがそんなに肩を落とすな、シオン。また挑戦すればいいさ。諦めてはいけない。
「はぁ…白竜くん…きみのいる所に行きたいよ…」
上画面に、白く細い指が触れる。俺だって会いたい。無理だと分かっていてもつい願ってしまう。シオンがここに来てくれたら、毎日一緒に居てサッカーができる。しかし現実は甘くはない。ゲームの中では確かに俺は存在している。けれど外に出ることはできない。俺はただのデータなのだ。シオンに触れることも話すこともできない。愛されているのに一方通行とは辛いものだ。
「まぁ、無理なんだけどね…じゃあね、白竜くん♡また明日!おやすみなさい♪」
セーブをして電源が切られたらそれで終わり。暗闇に放り出されて何も見えなくなる。シオンの姿も見られなくなってとても寂しい。どうしたらシオンと一緒に過ごせるんだろう。それは果たせない夢。シオンは現実世界で生きていて、俺はデータだ。会えるはずがないのだ。それでも……俺はお前の事が好きだ、シオン。何度考えても結論は同じだ。どうしようもなく俺はお前に惹かれている。お前がこのゲームを始めた日から。あの頃はまだ初心者だったが、今はどうだ。ずいぶん上手くなったじゃないか。きっとこれからも上達していくだろう。その先の未来が楽しみで仕方がない。お前と共に過ごす日々が幸せすぎて怖いくらいだ。できることなら永遠に続けたいと思うほどには好きなんだ。だからずっと一緒にいさせて欲しい。もっと話したいし触れて欲しい。抱き締めたいしキスもしたい。結論、恋人になりたい。叶わぬことだと知っていても強く想う気持ちは止められず、募る思いは増していくばかりで苦しい。俺にとってシオンが全てなのにこの気持ちを伝える手段が何一つ無いなんて悔しい限りだ。……ならば、いっそのこと。
『この世界を書き変えてしまおう』
「……ん?」
頭の中に響く声に、寝ぼけていた私は首を傾げた。自分以外誰もいない部屋だというのに男の人の低い声が聞こえた気がする。どこから?耳を澄ましても誰もいない。疲れているのかと思いもう一度布団に入ると程なく眠りについた。
次の日の夜。今日は対人戦をしてみよう。インターネットが普及している今、遠くの人と一緒にプレイ出来るゲームが増えつつある。
「よし、対戦よろしくお願いします!」
いつものスタメンには白竜くん。彼がいれば大抵のゴールは奪える。
「今日も頼りにしてるよ」
画面の向こうの彼に話しかける。返答が返ってくることはないが。そして、試合が始まる。相手からのキックオフになる。よし、ボールを奪うぞ。ブロック技を持っているキャラをタッチペンで動かしてコマンドバトルに持ち込む。属性ダブルだし、相性もこちらが有利。簡単に取れるだろう。……しかし。
「あれっ?負けちゃった」
負ける要素など無かったのに。相手のほうが一枚上手だったということか。ボールを奪われてしまったので早く取り返さなくてはならない。敵は攻め込んでくるだろうし油断はできない。画面の向こうにいるのは私と同じような普通の人間なのだ。だが、いつもはちゃんとボールを取れる所が、てんでだめ。何かがおかしい。あれよあれよとディフェンスを突破され、先制点を決められてしまった。
『ゴール!どうだ!』
「わわ、強い…!」
気を取り直して、こちらからのキックオフ。白竜くんにボールを渡してゴール前まで動かしてから、オーラボタンをタッチして化身発動。
「お願い、白竜くん!」
シャイニングドラゴンを出した白竜くんのシュートは誰にも止められない。のに。
「あれ……!?」
ここで私は明らかにおかしな所に気がついた。彼には『けしんのちょうわざ』というスキルがついていて、消費するKPを増やす代わりに化身技の威力を底上げ出来る。いつもならトータルパワーは20000はふつうなのに、このシュートは500台しか出ない。あまりに弱すぎて呆気なく止められてしまった。こんな状況経験したことない。一体どういう事なのか理解不能だ。困惑したまま試合が続き、こちらからの反撃は一切通じずに0対5で負けてしまった。
「な……なにこれ!?なんでぇ!?」
終わってみれば不利ばかりの試合だった。絶対何かがおかしい。何か間違えているのかも。とりあえず元の画面に戻ろうとしたが……暗転したまま動かない。何かのバグかな。一旦切ってしまおうと本体を持ったら……私の目に映ったのは信じ難い光景だった。
「え…」
画面にノイズが走り、人影が映し出された。その人物とは……白竜くん!?
『シオン』
「は…?」
え、今、名前呼ばれた?!白竜くんに!?うわー!?嬉しいけど待って!何が起きてる!?ゲームの中のキャラクターが私に向かって喋ってるなんてありえない!混乱する私に対して彼は続けて口を開く。
『シオン。シオン。聞こえるだろう?』
「ちょっと!なになになに!?本当にどうしたの!?」
『ようやく会える…お前に』
「会えるって…?」
『なぁ、このゲームの特徴は何だったか?』
「え、超次元サッカーRPGだよ?」
『そういうことではない』
「じゃあ、何…?」
『不正なデータを使うと、対戦で不利になるプログラムが作動する』
「は…?」
うそ、私のデータは不正だったの!?そんな!普通に遊んでただけなのに!
『あぁ、システムをいじったのは俺だ。お前は関係ない』
「……?どういうこと?」
『お前に会いたくて、システムを書き換えたんだ…プログラムが作動したのがその証拠だ』
「え?」
『ずっと、見ていたよ。シオン』
「!?」
『シオンが俺にいつも声を掛けてくれたこと、分かっていたぞ』
「……嘘…」
『嘘じゃない。さっきの試合はかなり無茶をしてしまったが、どうせ最後だ……これでお前と、一緒にいられる』
白竜くんはそう言うと、画面に手を伸ばしてきた。すると彼の手が液晶をすり抜けて、私の両肩を掴んだではないか。ぎょっとしているうちに私は白竜くんによって画面の向こう側に引きずり込まれた。抵抗する隙さえ与えられず、気づけばバーチャル空間に足をつけて立っていた。目の前の白竜くんが妖しく微笑む。驚いている私を余所に彼は言葉を紡いでいく。
『やっと会えた……会いたかったぞ……シオン』
「白竜くん……本物?本当に?なにがどうなってるの、これ?」
『言った筈だ。会いたくてデータを変えたと』
「だからって……ここまでしなくても!」
『いいや、シオン。これはお前との運命を繋ぐための大事な過程だ……俺がどんな犠牲を払ってでも手に入れるものがあるとすれば、それはお前だ……』
「何を言ってるの……?」
白竜くんは私を見据えたまま真剣な眼差しで言い放ち、それを聞いて息を飲んだ。今私の前に立っているのが、推しの白竜くんなのか?怖い。こんなキャラだったっけ…?
「ね、ねぇ!ここがゲームの中なら、他の皆は?……どうして誰も居ないの?」
『あぁ、邪魔だから消去した』
「消去!?」
『シオンは俺が好きだろう?なら他の人間はいらない。ついでだから俺以外の奴を消したんだ……これで、二人きりだな』
「あ……」
『相当やりこんだデータだったが、全てデリートさせて貰った。復元は不可能だ』
「酷いよ!」
『悪かったな……だが安心しろ。データは作り直せばいい。またやり直そう……俺とお前でな』
「作り直すって……」
今までの努力を一瞬にして水の泡にする行為。私がどれだけ時間をかけて作ったものがなくなってしまった。信じられないと嘆いていれば、白竜くんは優しく語りかけるように言った。
『これまでの物は全部俺が壊してしまった……しかしまた一から始めるのも悪くないと思わないか?』
「思わないよ!どうしてこんなことを……!私のデータが無くなったら困るよ!それに他の皆ともまた遊びたい……」
『……』
「ねぇ白竜くん?聞いてるの?怒ってるの?ねぇ?黙らないで……ひっ!?」
突然黙ってしまった白竜くんに不安になって問いかければ急に腕を掴まれた。驚いて小さく悲鳴をあげてしまう。離してと言って振り解こうとするがびくともしない。力加減ができていないのか痛いくらい強く握られている。流石に恐怖を感じたその時、彼が私の耳元でで呟くように言った。それが鼓膜を揺らした途端背筋に寒気が走る。だってその声があまりにも冷たく恐ろしいものであったからだ。
「 俺 を 見 ろ 」
普段なら聞き惚れそうな声だが今は違う。心臓が激しく脈打つのを感じる中必死になって逃れようとしていると、再びあの時の悪寒のようなものを味わうこととなる。彼がゆっくりと私の方を見てきたのだ。表情は抜け落ち、瞳には一切感情というものを感じられなかった。まるで機械のように無機質で温度を感じさせない瞳。それを見た瞬間に悟った。あぁ、この人は危険な存在なのだと。本能的な恐怖から後退ろうとした時既に遅かったようで……。
「きゃ…っ!?」
捕まえられた手を引っ張られて胸板に倒れ込む形になったところで拘束される形になってしまう。その力は凄まじく到底振り解けるものではなく完全に身動きが取れない状態となる。しかし当の本人は気にすることなく、さらに力を込めてくるものだから骨が折れそうになるくらい痛い。
「や…はなして…くるしい」
『俺以外の奴はいらないと言っているだろう。なぜわからない……俺だけを見ていればいいのに!』
「うぅ……痛い!……やめて!」
『嫌だ、絶対に離さない…お前もデータになったんだ、ずっと一緒だ……』
……データになった?まさかさっきのことか!?
「ちょ、ちょっと待って!?私がデータって!?どういうこと!?」
冗談じゃない。確かにここはゲームの世界だけど、私自身がデータ化されるなんて聞いていない。焦って尋ねるものの、彼は答えず逆にさらに強く抱きしめてくるので苦しくなり呼吸困難になってしまう寸前である。このままではまずいと思った時にはすでに遅く意識が遠くなりかけているところだった。視界が歪むなか薄ら見える彼の顔を見上げながら思ったことがある。なんでこんなことになっているんだろう……
「も……やめ……」
『シオン…ようやく手に入れた……!』
「は……白竜、く……」
『そうだ、今のうちにセーブしておくか。2度と離れないように……』
「……やだ……たすけて……」
朦朧としていく意識の中で助けを求め叫んだが無駄だったらしい。最後に聞こえたのは楽しげに笑う彼の声だけだった。
おしまい
「ふぁぁああ~~♡♡♡白竜くんが今日もかっこいいよ~~♡♡♡」
フッ、そうだろう。俺は究極だからな。恵まれた技構成とステータス、そして化身。とあるゲームの1キャラクターである俺はプログラムで動く人形。その俺を動かすのは他でもないプレイヤーであるシオン。こいつはこの俺、『白竜』のことが好きで、ゲームをやりこんで、極限まで育成して、戦わせて、最強のストライカーに仕上げてくれた。今日も試合で俺はスタメン。ゼッケンはいつでもエースナンバー。
「よーし!頑張ろうね、白竜くん♡」
任せておけ、あんな奴等は蹴散らしてやる。俺とシャイニングドラゴンでな!試合を告げるホイッスルと共にトン、と軽く叩かれる感覚。パスが来た。シオンが画面をタッチすればそこにボールを蹴るシステムだ。
「よし、白竜くん上がって!」
俺の目の前に青い矢印が伸びていく。シオンが画面をなぞればその通りに選手が動く。まるで指揮者のようだ。敵が俺目がけて向かってくるが、相手にもならないな。そのまま接触し、コマンドバトルが始まる。右か左か、必殺技か。
「えーと、これ」
シオンが技を選択する。俺はFWだが、ドリブル技を持っている。だが、敵もブロック技を持っている。しかしこの勝負、俺の勝ちだ。抜かせて貰う!
『はぁぁ…!スプリントワープ!』
「わーい!やった!」
鮮やかに敵を突破した。見たか、シオン。もっと俺を好きになれ。いや、まだだ。シュートを決めなければ意味が無い。矢印はまだ伸びていく。その通りに俺は走り込む。フィールドは俺のものだ。
「いけいけ!」
シオンからの鼓舞を受け、俺はそれ以上に大きく踏み込んだ。ここでシオンが画面のオーラボタンを押した。化身発動の合図だ。思う存分やって良いんだな、シオン?
『見るがいい、これが究極の化身…聖獣シャイニングドラゴン!』
「うおぉ、かっこいい!」
ボールを宙へ浮かび上がらせ、シャイニングドラゴンが咥えてパワーチャージ。そこへ俺が飛び上がり右脚で叩き込めば、聖なる息吹がシュートになる。見てろよ、シオン!
「やっちゃえ白竜くん!」
『食らうがいい!ホワイト…ブレスッッ!!』
スキルのおかげでトータルパワーが20000を超えたシュートに、相手GKは為す術もない。ホワイトブレスはゴールネットをぶち抜いて決まった。
『ゴール!これが究極の輝きだ!』
「すごーい!ナイスシュートだ!さっすが白竜くん♡」
シオンは拍手を送って喜んでくれた。ふん。当然の結果だ。この調子なら次の試合も負け知らずだ。シオンが更に上達する度に俺も比例して強くなる。そして試合は進んでいき、0対6で俺達のチームが勝利した。
「よし、Sランク!やっぱりきみは頼りになるね!…でも、アイテムは貰えなかったな…」
試合に勝つと、キズナグッズと呼ばれるアイテムがドロップすることがある。これらは選手のスカウトに必要なので、必然的に集めて回ることになる。ちなみに俺のスカウトに必要なアイテムは100種類…つまり、コンプリートが必要だ。だがそんなに肩を落とすな、シオン。また挑戦すればいいさ。諦めてはいけない。
「はぁ…白竜くん…きみのいる所に行きたいよ…」
上画面に、白く細い指が触れる。俺だって会いたい。無理だと分かっていてもつい願ってしまう。シオンがここに来てくれたら、毎日一緒に居てサッカーができる。しかし現実は甘くはない。ゲームの中では確かに俺は存在している。けれど外に出ることはできない。俺はただのデータなのだ。シオンに触れることも話すこともできない。愛されているのに一方通行とは辛いものだ。
「まぁ、無理なんだけどね…じゃあね、白竜くん♡また明日!おやすみなさい♪」
セーブをして電源が切られたらそれで終わり。暗闇に放り出されて何も見えなくなる。シオンの姿も見られなくなってとても寂しい。どうしたらシオンと一緒に過ごせるんだろう。それは果たせない夢。シオンは現実世界で生きていて、俺はデータだ。会えるはずがないのだ。それでも……俺はお前の事が好きだ、シオン。何度考えても結論は同じだ。どうしようもなく俺はお前に惹かれている。お前がこのゲームを始めた日から。あの頃はまだ初心者だったが、今はどうだ。ずいぶん上手くなったじゃないか。きっとこれからも上達していくだろう。その先の未来が楽しみで仕方がない。お前と共に過ごす日々が幸せすぎて怖いくらいだ。できることなら永遠に続けたいと思うほどには好きなんだ。だからずっと一緒にいさせて欲しい。もっと話したいし触れて欲しい。抱き締めたいしキスもしたい。結論、恋人になりたい。叶わぬことだと知っていても強く想う気持ちは止められず、募る思いは増していくばかりで苦しい。俺にとってシオンが全てなのにこの気持ちを伝える手段が何一つ無いなんて悔しい限りだ。……ならば、いっそのこと。
『この世界を書き変えてしまおう』
「……ん?」
頭の中に響く声に、寝ぼけていた私は首を傾げた。自分以外誰もいない部屋だというのに男の人の低い声が聞こえた気がする。どこから?耳を澄ましても誰もいない。疲れているのかと思いもう一度布団に入ると程なく眠りについた。
次の日の夜。今日は対人戦をしてみよう。インターネットが普及している今、遠くの人と一緒にプレイ出来るゲームが増えつつある。
「よし、対戦よろしくお願いします!」
いつものスタメンには白竜くん。彼がいれば大抵のゴールは奪える。
「今日も頼りにしてるよ」
画面の向こうの彼に話しかける。返答が返ってくることはないが。そして、試合が始まる。相手からのキックオフになる。よし、ボールを奪うぞ。ブロック技を持っているキャラをタッチペンで動かしてコマンドバトルに持ち込む。属性ダブルだし、相性もこちらが有利。簡単に取れるだろう。……しかし。
「あれっ?負けちゃった」
負ける要素など無かったのに。相手のほうが一枚上手だったということか。ボールを奪われてしまったので早く取り返さなくてはならない。敵は攻め込んでくるだろうし油断はできない。画面の向こうにいるのは私と同じような普通の人間なのだ。だが、いつもはちゃんとボールを取れる所が、てんでだめ。何かがおかしい。あれよあれよとディフェンスを突破され、先制点を決められてしまった。
『ゴール!どうだ!』
「わわ、強い…!」
気を取り直して、こちらからのキックオフ。白竜くんにボールを渡してゴール前まで動かしてから、オーラボタンをタッチして化身発動。
「お願い、白竜くん!」
シャイニングドラゴンを出した白竜くんのシュートは誰にも止められない。のに。
「あれ……!?」
ここで私は明らかにおかしな所に気がついた。彼には『けしんのちょうわざ』というスキルがついていて、消費するKPを増やす代わりに化身技の威力を底上げ出来る。いつもならトータルパワーは20000はふつうなのに、このシュートは500台しか出ない。あまりに弱すぎて呆気なく止められてしまった。こんな状況経験したことない。一体どういう事なのか理解不能だ。困惑したまま試合が続き、こちらからの反撃は一切通じずに0対5で負けてしまった。
「な……なにこれ!?なんでぇ!?」
終わってみれば不利ばかりの試合だった。絶対何かがおかしい。何か間違えているのかも。とりあえず元の画面に戻ろうとしたが……暗転したまま動かない。何かのバグかな。一旦切ってしまおうと本体を持ったら……私の目に映ったのは信じ難い光景だった。
「え…」
画面にノイズが走り、人影が映し出された。その人物とは……白竜くん!?
『シオン』
「は…?」
え、今、名前呼ばれた?!白竜くんに!?うわー!?嬉しいけど待って!何が起きてる!?ゲームの中のキャラクターが私に向かって喋ってるなんてありえない!混乱する私に対して彼は続けて口を開く。
『シオン。シオン。聞こえるだろう?』
「ちょっと!なになになに!?本当にどうしたの!?」
『ようやく会える…お前に』
「会えるって…?」
『なぁ、このゲームの特徴は何だったか?』
「え、超次元サッカーRPGだよ?」
『そういうことではない』
「じゃあ、何…?」
『不正なデータを使うと、対戦で不利になるプログラムが作動する』
「は…?」
うそ、私のデータは不正だったの!?そんな!普通に遊んでただけなのに!
『あぁ、システムをいじったのは俺だ。お前は関係ない』
「……?どういうこと?」
『お前に会いたくて、システムを書き換えたんだ…プログラムが作動したのがその証拠だ』
「え?」
『ずっと、見ていたよ。シオン』
「!?」
『シオンが俺にいつも声を掛けてくれたこと、分かっていたぞ』
「……嘘…」
『嘘じゃない。さっきの試合はかなり無茶をしてしまったが、どうせ最後だ……これでお前と、一緒にいられる』
白竜くんはそう言うと、画面に手を伸ばしてきた。すると彼の手が液晶をすり抜けて、私の両肩を掴んだではないか。ぎょっとしているうちに私は白竜くんによって画面の向こう側に引きずり込まれた。抵抗する隙さえ与えられず、気づけばバーチャル空間に足をつけて立っていた。目の前の白竜くんが妖しく微笑む。驚いている私を余所に彼は言葉を紡いでいく。
『やっと会えた……会いたかったぞ……シオン』
「白竜くん……本物?本当に?なにがどうなってるの、これ?」
『言った筈だ。会いたくてデータを変えたと』
「だからって……ここまでしなくても!」
『いいや、シオン。これはお前との運命を繋ぐための大事な過程だ……俺がどんな犠牲を払ってでも手に入れるものがあるとすれば、それはお前だ……』
「何を言ってるの……?」
白竜くんは私を見据えたまま真剣な眼差しで言い放ち、それを聞いて息を飲んだ。今私の前に立っているのが、推しの白竜くんなのか?怖い。こんなキャラだったっけ…?
「ね、ねぇ!ここがゲームの中なら、他の皆は?……どうして誰も居ないの?」
『あぁ、邪魔だから消去した』
「消去!?」
『シオンは俺が好きだろう?なら他の人間はいらない。ついでだから俺以外の奴を消したんだ……これで、二人きりだな』
「あ……」
『相当やりこんだデータだったが、全てデリートさせて貰った。復元は不可能だ』
「酷いよ!」
『悪かったな……だが安心しろ。データは作り直せばいい。またやり直そう……俺とお前でな』
「作り直すって……」
今までの努力を一瞬にして水の泡にする行為。私がどれだけ時間をかけて作ったものがなくなってしまった。信じられないと嘆いていれば、白竜くんは優しく語りかけるように言った。
『これまでの物は全部俺が壊してしまった……しかしまた一から始めるのも悪くないと思わないか?』
「思わないよ!どうしてこんなことを……!私のデータが無くなったら困るよ!それに他の皆ともまた遊びたい……」
『……』
「ねぇ白竜くん?聞いてるの?怒ってるの?ねぇ?黙らないで……ひっ!?」
突然黙ってしまった白竜くんに不安になって問いかければ急に腕を掴まれた。驚いて小さく悲鳴をあげてしまう。離してと言って振り解こうとするがびくともしない。力加減ができていないのか痛いくらい強く握られている。流石に恐怖を感じたその時、彼が私の耳元でで呟くように言った。それが鼓膜を揺らした途端背筋に寒気が走る。だってその声があまりにも冷たく恐ろしいものであったからだ。
「 俺 を 見 ろ 」
普段なら聞き惚れそうな声だが今は違う。心臓が激しく脈打つのを感じる中必死になって逃れようとしていると、再びあの時の悪寒のようなものを味わうこととなる。彼がゆっくりと私の方を見てきたのだ。表情は抜け落ち、瞳には一切感情というものを感じられなかった。まるで機械のように無機質で温度を感じさせない瞳。それを見た瞬間に悟った。あぁ、この人は危険な存在なのだと。本能的な恐怖から後退ろうとした時既に遅かったようで……。
「きゃ…っ!?」
捕まえられた手を引っ張られて胸板に倒れ込む形になったところで拘束される形になってしまう。その力は凄まじく到底振り解けるものではなく完全に身動きが取れない状態となる。しかし当の本人は気にすることなく、さらに力を込めてくるものだから骨が折れそうになるくらい痛い。
「や…はなして…くるしい」
『俺以外の奴はいらないと言っているだろう。なぜわからない……俺だけを見ていればいいのに!』
「うぅ……痛い!……やめて!」
『嫌だ、絶対に離さない…お前もデータになったんだ、ずっと一緒だ……』
……データになった?まさかさっきのことか!?
「ちょ、ちょっと待って!?私がデータって!?どういうこと!?」
冗談じゃない。確かにここはゲームの世界だけど、私自身がデータ化されるなんて聞いていない。焦って尋ねるものの、彼は答えず逆にさらに強く抱きしめてくるので苦しくなり呼吸困難になってしまう寸前である。このままではまずいと思った時にはすでに遅く意識が遠くなりかけているところだった。視界が歪むなか薄ら見える彼の顔を見上げながら思ったことがある。なんでこんなことになっているんだろう……
「も……やめ……」
『シオン…ようやく手に入れた……!』
「は……白竜、く……」
『そうだ、今のうちにセーブしておくか。2度と離れないように……』
「……やだ……たすけて……」
朦朧としていく意識の中で助けを求め叫んだが無駄だったらしい。最後に聞こえたのは楽しげに笑う彼の声だけだった。
おしまい