人生は白竜ゲー。
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私は魔女のシオンといいます。この森に何百年も前から住んでます。独り身です。最近150歳になりました。そしてこの森は入ったが最後、二度と出られない事で人間達の間では有名なのですが、私はどうやったら出られるのか知っています。人間には絶対に教えません。
人里離れた森の奥。今日も一人で薬草を探しに行っていると、近くの方で啜り泣く声が聞こえてきた。
「?」
声の高さからして恐らく子供だということが分かった。人間達が迷い込む事はあれど、子供がここにくるなど初めての事だ。私は声を頼りに探す。
「ぐすっ・・・ぐすっ・・・」
小さな男の子がキノコの陰で膝を抱えて泣いていた。私は
「大丈夫?」
と優しく声をかけた。
「・・・だ、だれ・・・?」
少年は顔を上げた。
「私は魔女のシオン」
「まじょ・・・?」
少女は私の事を見て首を傾げる。まあ、この森に魔女がいるなんて知らないだろうから仕方ないだろう。
「迷っちゃったの?」
「いくとこない・・・」
「・・・」
可哀想に、捨てられてしまったのだろう。人間め。ゴミや動物を捨てるだけでは飽き足らずこんな年端もいかない子供を置き去りにするなんて。この男の子が不憫に思えてきた。
それなら。
「なら私と一緒に住まない?」
「え・・・いいの・・・?」
「いいよ。歓迎する」
私は少年を家に連れて行った。彼の名前は白竜というらしい。
「どうしてこの森に入ったの?」
「パパとママがここで待ってなさいって」
「・・・そうなんだ」
「こなかった」
「・・・」
心にグサッとくる話だ。白竜くんはそれ以外分からないようだった。
「お腹空いたでしょ?何か作るね」
「いいの・・・?」
「良いんだよ」
私は白竜くんに温かいスープを作ってあげた。彼は美味しそうに飲んでくれた。大粒の涙を流しながら。
「お、美味しい・・・!」
「ふふ、まだまだあるよ」
やはり碌な食事も得られなかったのだろう。がっついている。スープを平らげた後はお風呂に連れて行き、身体を綺麗にした。つぎは私のベッドを貸した。彼は疲れていたのかすぐに眠ってしまった。私は彼の寝顔を見て思った。この子を一人にしてはいけないと。この森で一人で暮らすのは寂しいだろう、と。だから私は彼を家に置いておく事にした。
翌日、私は薬草を取りに行くついでに白竜くんの為に服を作るための材料を探しに行くことにした。ところが。
「どこいくのー?おれも連れてって!」
白竜くんは私から離れようとしないのである。私は彼の頭を撫でながら言った。
「森の中は危ないから一人でお留守番しててね?」
「いやだ!一緒に行きたい!!」
うぅむ困ったものだ。仕方がないので連れて行く事にするか。それにしても白竜くんは私の事を怖がらないみたいだがどうしてだろう?
「あの」
「んー?なあに?」
「白竜くんは私のこと怖くないの?」
すると彼はキョトンとした表情をして言ったのだ。
「全然?だってシオン優しいもん」
「そっか・・・ありがとね」
私はくっついてくる白竜くんの額にキスをした。
「わー!なんかちゅーされたー!」
「これはちょっとした魔法なんだけど、嫌だったかな・・・?」
「ぜーんぜん!シオンはきれいだし!」
「えへへ・・・照れるなぁ」
それからというもの毎日一緒に過ごすようになった。白竜くんは本当にいい子である。料理や洗濯など手伝ってくれるし、何より笑顔が可愛いのだ。私はそんな白竜くんをとても可愛がっていた。もちろん性的な意味ではないぞ。そんなある日の夜のことである。いつものように一緒に寝ていると、今日は寝付けないのか白竜くんがこう言ったのである。
「ねえシオン」
「どうしたの?」
「けっこんて、なに?」
「ぶっふぉ!!!?」
思わず吹いてしまった。あまりにも衝撃的過ぎて言葉が出なかった。白竜くんはまだ幼い子供なのだ。結婚の意味も理解していない筈なのに何故こんなことを言うのだろうか?
私は深呼吸で落ち着きを取り戻し答える。
「夫婦になることだよ」
「できる?」
「きみはまだできないよ」
「えぇ~」
「でも、結婚の約束はできるよ」
「ほんと?!」
「うん、約束の約束」
そう説明すると納得してくれたようである。
「おれ、シオンとけっこんするー!」
「なるほど。じゃあ大人になったらしようね」
「やったー!!」
白竜くんは心底喜んでいる様子であった。私も嬉しかったが恥ずかしさの方が勝ったので布団を被り寝ることにした。まあ子供特有の口約束だ。本気にするはずがない。
8年後――― 白竜くんは13歳になりすっかり成長した姿になった。とてもイケメンではあるが偉そうな性格に。当の本人はというと・・・あ、その前に。今日は行くところがある。師匠の家だ。
「こんにちは~」
ドアを開けると中から返事が返ってきた。
「はい、いらっしゃい」
奥の方から黒髪の素朴な印象の少年がやってくる。
「元気そうだね、シオン」
「おかげさまで」
彼は私の師匠・シュウである。昔からお世話になっている人であり尊敬している人物だ。
「それで?今日はどうしたんだい?」
「はい。白竜くんの事なんですけど・・・」
「あの白竜がどうかしたのかい?」
私はこれまでの経緯を話した。
「そうか・・・あいつも大きくなったねぇ・・・」
「ええ。最初の頃とは比べ物にならないぐらい逞しくなりましたよ。今では私が守られる立場になっていますからね。本当に立派になったものです」
私は少し寂しい気持ちになりながら続けた。
「ただ一つ問題があるんですよ。それが白竜くん自身に」
「というと?」
「そのですね・・・最近妙に距離が近くて・・・」
「ふーん・・・」
「しかも『好き』とか言ってきますし」
それを聞いた途端に彼はニヤリとした笑みを浮かべるとこう言ったのだ。
「それはつまり・・・そういう事じゃないかな?」
どういう意味なのか分からずにいると彼はさらに続ける。
「白竜は君に対して恋愛感情を持っているんじゃないかな」
「・・・はぁ!?」
思わず大声を出してしまった。
「嘘ですよね!?あんなまだ若い子が大人の女性に惚れる訳ないじゃないですか!」
そう反論するものの内心動揺していた。白竜くんは私を好いていると言うのか!?まさか・・・いやあり得るかもしれない・・・
「いい加減認めたらどうなんだい。自分の気持ちに素直になりなさい」
師匠の言葉にハッとする。確かに私は彼の事が好きなのかもしれなかった。でも認めたくない自分がいるのも確かだった。なぜなら彼は子供だからだ。年齢的に考えれば明らかに犯罪行為だと言えるだろう。それでも彼と一緒に居たいと思う自分がいるのだ。葛藤を繰り広げているうちにいつの間にか外は暗くなっていたようで師匠が心配そうな目でこちらを見ていた。
「大丈夫かい?」
「えっと・・・実はまだ自分でもよく分からないんです・・・」
「無理しなくていいよ。ゆっくり考えていけばいいさ」
「はい・・・」
そう言われてもやっぱり考えてしまうのが乙女心というものなのである。私は一旦考えるのを止めて帰ることにしたのだった。
「じゃあねーシオン」
「それでは」
師匠の見送りを背にしながら歩いて、家に辿り着くと白竜くんが私の元にやってくる。
「帰ったか、シオン」
「あぁ・・・また・・・」
彼は私を抱きしめると顔を埋めて匂いを嗅いでいた。この年齢になってもこんな調子なのである。しかも既に身長が私を超えている。このままではマズイと思いながらも何も出来ずにいた。
「ねぇ」
「なんだ」
「もう13歳だから少し自重を・・・」
「何か言ったか?」
「いえなんでもありません」
威圧的にそう言われてしまえば反論できない・・・この台詞はもう何度も聞いている筈なのに全く効き目がないようだ。
「気持ちいい・・・」
「また駄目か・・・」
そしてそのままベッドに連れて行かれて押し倒されてしまった。これも日常茶飯事となっている光景だ。抵抗しようとすれば魔法で簡単に振り払えるのだがどうしても強く言えない自分が情けなく思うばかりである。
「いいだろ。俺はお前の夫だ。好きにして何が悪い」
「あー・・・はい・・・」
結婚してないけどね。そう付け加え、諦めてされるがままになるしかないと思ったところで彼はある事に気づいたようだ。
「いつになったら俺との約束を果たすつもりだ」
「えっと・・・それは・・・」
「まさか忘れてはいないだろうな」
「覚えてます」
その瞬間は鋭い視線を感じるのと共に背筋が凍る感覚があった。
「そうか、安心した。俺は今すぐでも構わないぞ」
そして白竜くんは私を引き寄せ唇を奪った。突然の行動に戸惑いながらも受け入れていくうちに段々と意識が薄れていき気がつけば朝を迎えていた。ご飯食べ損ねた・・・目を覚ますと横には裸姿の少年の姿があった。私は昨日の夜のことを思い出し赤面してしまう。ベッドから降りると、窓際に筒状に丸めた紙が置いてあった。
「師匠からかな?えっと・・・」
『宮廷を護る騎士団募集のお知らせ』
というタイトルが書かれており内容を見たところ王都にある王宮守る騎士として働かないかというものだった。報酬金もかなり良く待遇もいい感じ。そうだ!修行という形で、彼を独り立ちさせることにしよう!早速白竜くんに相談することにした。部屋に戻ると彼は既に起きており、剣の手入れをしている最中であった。
「おはよう」
「ん、おはよう」
「あのさ、白竜くん」
「行かせんぞ」
「えっまだ何も言っていないんだけど」
「街へ行くつもりなんだろう、行きたいなら俺も連れていけ」
「違うよ、これみて」
「・・・?」
私から紙を受けとると覗き込んだ。しかし、しばらく眺めたあとポイッと投げ捨ててしまった。
「興味ない」
「えっ」
「誰かに仕える騎士なら間に合っている」
「そんなこと言わずに」
「俺にはお前さえいればそれでいい」
これでは彼のためにならない。師匠として看過できないな。白竜くんは強いけども私の弟子。ここはきみのために心を鬼にしよう。
「いい加減にしなさい!」
「!?」
「私はね、きみに世界の広さを知ってもらいたいの。人々との関わり合いの大切さを学んでほしいの。」
「そんなのシオンが、」
「質問する。きみは私の何?」
「お前の弟子であり婚約者だ」
「婚約者は余計」
「おい」
「いい?きみはこの、『硝子の魔女』の一番弟子。そしてこの『聖剣サンドリヨン』の使い手・・・この意味、わかるよね?」
「それは・・・!」
彼は顔を歪めた。白竜くんは今までずっと私の家で育ったために街に出た事が無い。だからこそ、さらに見聞を深めてほしいのだ。そうでなければこれから先きっと苦労することになると分かっているから。
「サンドリヨンは私が作り上げた最後の聖剣。その力を最大限に引き出せるのが白竜くんなんだよ。・・・きみだけだ、私の作った剣を振るってくれるのは。」
「シオン・・・」
もともと私は、聖剣の魔女と呼ばれていて、正しき人のために魔法で剣を錬成しているが、そのどれもが脆い。自分で言うのも何だが、強大な力と引き換えにすぐに壊れてしまうからいつしかそれをガラスに例えられて、『硝子の魔女』と呼ばれるようになった。でも白竜くんはその剣を丁寧に扱ってくれている。そんな彼を応援したいというのが私の気持ちだった。だからこそ、この提案を受けてもらいたいと考えているわけで・・・
「お願いします」
頭を下げて懇願すると、意外にもあっさり承諾してくれた。やはり心の底では気にかけていたようだ。
「分かった・・・行ってやる」
「ありがとう!!」
「ただし条件がある」
「うん?」
「俺がいない間は他の奴に色目を使うな」
「使わないよ!そもそも私がそんな事する相手なんていないし!?」
「本当か?」
「本当だってば!」
白竜くんが王都へ行って7年が経った。相も変わらず私は一人で森の中で暮らしている。彼とは手紙でやりとりをしているが、『いつ修行が終わるのか』とか『早く会いたい』だの、そういう内容が来る。そのたびに『まだだよ』という返事を出す。今日のお昼頃、トントンと、家のドアをノックする音が聞こえた。玄関を開けると
「やぁ、調子はどう?」
「師匠!」
師匠は使い魔に白竜くんの様子を見て貰っているのを私にも伝えてくれた。ちなみに師匠の使い魔はヤギ。
「白竜は頑張ってるよ。今は王都騎士団の団長だって」
「ええ!すごい!」
「あんなに小さかったのに随分成長したものだ。それにライバルも出来たみたいだし、今や立派な青年になったよ」
「そうですか!良かった」
「シオンは寂しくないかい?」
「寂しくないです!・・・でもちょっと恋しいかな」
答えると師匠は笑い出した。そして一頻り笑った後こう言ってきた。
「君も大概だよね。あんなに小さい頃から一緒に居るんだから当然といえば当然かもしれないけど。ところで君の方は進展はあったのかい?」
「ないです」
「・・・」
「白竜くんは何やらライバルとか出来たようですし大丈夫でしょう」
「シオンが白竜を修行の一環で送り出したのは、何か理由が?」
「それは・・・ちょっと大きな声で言えないんですけど・・・」
「言ってみて。誰にも言わないから」
「・・・魔王を倒すと彼がこの国の王女と結婚できるからです」
「・・・」
師匠は呆れた様子で聞いていた。確かに私自身も馬鹿げていると思っているけれど、もし万が一白竜くんが魔王を打ち倒した暁には王位継承権が与えられるかもしれない可能性が出て来ると思ったのだ。なので彼には相応しい相手と結婚していただきたい、という魂胆です。
「だってそもそも寿命が違うじゃないですか。私達なら千年生きることはザラですけど白竜くんは人間。生きられても100年ですから、そんな結婚したら最終的に悲しいだけです・・・」
「・・・」
師匠は肩を落としてこう言った。
「それは君の価値観であって白竜には当てはまらないよ。確かに寿命の違いはあるけどさ・・・」
「・・・・・・」
「白竜は、自分の意思でシオンと共にいたいと言ったんだ。彼は君が好きなんだろう」
「・・・そうかもしれませんね」
「僕は思うんだけどね。好きっていう気持ちさえあれば種族なんて関係無いと思う。現に僕の妻も人間じゃないからね」
「・・・」
「寿命か何かでそれを否定しても彼は聞かない。あいつは必ずきみを娶る」
「そんなことは」
私の言葉を遮るように彼は続ける。
「僕はね。きみには愛されて欲しいんだ。それは白竜に限ったことではないけどね」
「愛されて・・・」
「きみは孤独だと聞く。僕の目にはそう映らないけど」
師匠は微笑むと私の頭を撫でた。そして帰り際師匠は、
「また来るから。今度は3人で会えると良いね」
それからまた1年後、王都の騎士団が魔王を倒したという知らせが入ったのが今日というわけだ。白竜くんは王女と結婚したかな。修行じゃなくて独り立ちさせるためなのがバレたら、私はどうなるか分からない。その時だった。勢いよく扉が開かれた音と共に誰かが入ってくる気配を感じる。振り向くとそこには大人になって格好よくなった白竜くんが立っていた。
「シオン・・・」
「白竜くん!!」
あぁ、こんなに大きくなっちゃって・・・思わず駆け寄ろうとしたが、ストップ。あれ、怒ってる?なんかオーラがどす黒い。白竜くんはつかつかと歩み寄ると私の頬を引っ張り上げた。
「ひゃい(いたい)」
「貴様ぁ・・・・・・」
「ひぃ!?」
「何が独り立ちだ!ふざけるな!」
怒り心頭といった様子で凄んでいる。どうやらバレてしまったみたいだ。私は震える声で謝罪した。
「ごめんなさい・・・!でも必要と思って」
「必要かどうかは俺が決める事だ。お前じゃない」
「だって師匠も・・・」
「シュウの奴は共犯者か?後で殺してやる」
怖すぎる。こんなに怒っている白竜くんは初めて見た。まるで別人みたいだ。私は一番気にしていたことを恐る恐る訊ねてみた。
「結婚は?魔王討伐の報酬ですよね?」
「は?あんな奴いらん」
即答だった。私は安堵したと同時に少し残念な気持ちになった。
「なんで!?せっかくいい機会だったのに!きみだってそろそろ所帯を持つべきだと思うんだけど!!」
「貴様が言うなとっとと俺の嫁になれ」
その瞬間、脳裏によみがえったのは8年前の白竜くんが告白してきたときの記憶だった。子供の頃の約束がまだ有効だったなんて。
「白竜くん・・・まさかあれ、まだ本気なの?」
「当たり前だろう!」
「きゃー!」
「待てこら逃げるな!」
家の中で追いかけっこをする。捕まえられそうになったところでドアを開けて外へ出ると、ちょうど師匠がいた。
「おーい、何してるの?」
「師匠~!助けてください!」
「よし来なさい」
「白竜くんが急にプロポーズしてきたんですけど!?」
「まぁそうだろうね」
「なんでそんな人ごとなんですか?!」
「まぁまぁ落ち着いて」
「落ち着いてられますか!」
こんなはずじゃなかったのにー!どうしてこうなるの!?私の作戦は虚しく失敗、いや大失敗に終わった。師匠は助けてくれなかったので追ってきた白竜くんに捕まえられてしまった。その後はというと・・・言うまでもないだろう。
おしまい
おまけ
「あ・・・」
彼が私のお腹を触った。まだ膨らみ始めたばかりなので目立たないが、確実に新しい命が宿っていることを実感していた。もうすぐ母になるんだ・・・この『硝子の魔女』が。嬉しいような複雑な心境の中、白竜くんは満足そうに頷いた。これでもう逃げられないと言わんばかりに。私は諦めの溜息をつくしかなかった。
「ほんと、きみには敵わないね」
人里離れた森の奥。今日も一人で薬草を探しに行っていると、近くの方で啜り泣く声が聞こえてきた。
「?」
声の高さからして恐らく子供だということが分かった。人間達が迷い込む事はあれど、子供がここにくるなど初めての事だ。私は声を頼りに探す。
「ぐすっ・・・ぐすっ・・・」
小さな男の子がキノコの陰で膝を抱えて泣いていた。私は
「大丈夫?」
と優しく声をかけた。
「・・・だ、だれ・・・?」
少年は顔を上げた。
「私は魔女のシオン」
「まじょ・・・?」
少女は私の事を見て首を傾げる。まあ、この森に魔女がいるなんて知らないだろうから仕方ないだろう。
「迷っちゃったの?」
「いくとこない・・・」
「・・・」
可哀想に、捨てられてしまったのだろう。人間め。ゴミや動物を捨てるだけでは飽き足らずこんな年端もいかない子供を置き去りにするなんて。この男の子が不憫に思えてきた。
それなら。
「なら私と一緒に住まない?」
「え・・・いいの・・・?」
「いいよ。歓迎する」
私は少年を家に連れて行った。彼の名前は白竜というらしい。
「どうしてこの森に入ったの?」
「パパとママがここで待ってなさいって」
「・・・そうなんだ」
「こなかった」
「・・・」
心にグサッとくる話だ。白竜くんはそれ以外分からないようだった。
「お腹空いたでしょ?何か作るね」
「いいの・・・?」
「良いんだよ」
私は白竜くんに温かいスープを作ってあげた。彼は美味しそうに飲んでくれた。大粒の涙を流しながら。
「お、美味しい・・・!」
「ふふ、まだまだあるよ」
やはり碌な食事も得られなかったのだろう。がっついている。スープを平らげた後はお風呂に連れて行き、身体を綺麗にした。つぎは私のベッドを貸した。彼は疲れていたのかすぐに眠ってしまった。私は彼の寝顔を見て思った。この子を一人にしてはいけないと。この森で一人で暮らすのは寂しいだろう、と。だから私は彼を家に置いておく事にした。
翌日、私は薬草を取りに行くついでに白竜くんの為に服を作るための材料を探しに行くことにした。ところが。
「どこいくのー?おれも連れてって!」
白竜くんは私から離れようとしないのである。私は彼の頭を撫でながら言った。
「森の中は危ないから一人でお留守番しててね?」
「いやだ!一緒に行きたい!!」
うぅむ困ったものだ。仕方がないので連れて行く事にするか。それにしても白竜くんは私の事を怖がらないみたいだがどうしてだろう?
「あの」
「んー?なあに?」
「白竜くんは私のこと怖くないの?」
すると彼はキョトンとした表情をして言ったのだ。
「全然?だってシオン優しいもん」
「そっか・・・ありがとね」
私はくっついてくる白竜くんの額にキスをした。
「わー!なんかちゅーされたー!」
「これはちょっとした魔法なんだけど、嫌だったかな・・・?」
「ぜーんぜん!シオンはきれいだし!」
「えへへ・・・照れるなぁ」
それからというもの毎日一緒に過ごすようになった。白竜くんは本当にいい子である。料理や洗濯など手伝ってくれるし、何より笑顔が可愛いのだ。私はそんな白竜くんをとても可愛がっていた。もちろん性的な意味ではないぞ。そんなある日の夜のことである。いつものように一緒に寝ていると、今日は寝付けないのか白竜くんがこう言ったのである。
「ねえシオン」
「どうしたの?」
「けっこんて、なに?」
「ぶっふぉ!!!?」
思わず吹いてしまった。あまりにも衝撃的過ぎて言葉が出なかった。白竜くんはまだ幼い子供なのだ。結婚の意味も理解していない筈なのに何故こんなことを言うのだろうか?
私は深呼吸で落ち着きを取り戻し答える。
「夫婦になることだよ」
「できる?」
「きみはまだできないよ」
「えぇ~」
「でも、結婚の約束はできるよ」
「ほんと?!」
「うん、約束の約束」
そう説明すると納得してくれたようである。
「おれ、シオンとけっこんするー!」
「なるほど。じゃあ大人になったらしようね」
「やったー!!」
白竜くんは心底喜んでいる様子であった。私も嬉しかったが恥ずかしさの方が勝ったので布団を被り寝ることにした。まあ子供特有の口約束だ。本気にするはずがない。
8年後――― 白竜くんは13歳になりすっかり成長した姿になった。とてもイケメンではあるが偉そうな性格に。当の本人はというと・・・あ、その前に。今日は行くところがある。師匠の家だ。
「こんにちは~」
ドアを開けると中から返事が返ってきた。
「はい、いらっしゃい」
奥の方から黒髪の素朴な印象の少年がやってくる。
「元気そうだね、シオン」
「おかげさまで」
彼は私の師匠・シュウである。昔からお世話になっている人であり尊敬している人物だ。
「それで?今日はどうしたんだい?」
「はい。白竜くんの事なんですけど・・・」
「あの白竜がどうかしたのかい?」
私はこれまでの経緯を話した。
「そうか・・・あいつも大きくなったねぇ・・・」
「ええ。最初の頃とは比べ物にならないぐらい逞しくなりましたよ。今では私が守られる立場になっていますからね。本当に立派になったものです」
私は少し寂しい気持ちになりながら続けた。
「ただ一つ問題があるんですよ。それが白竜くん自身に」
「というと?」
「そのですね・・・最近妙に距離が近くて・・・」
「ふーん・・・」
「しかも『好き』とか言ってきますし」
それを聞いた途端に彼はニヤリとした笑みを浮かべるとこう言ったのだ。
「それはつまり・・・そういう事じゃないかな?」
どういう意味なのか分からずにいると彼はさらに続ける。
「白竜は君に対して恋愛感情を持っているんじゃないかな」
「・・・はぁ!?」
思わず大声を出してしまった。
「嘘ですよね!?あんなまだ若い子が大人の女性に惚れる訳ないじゃないですか!」
そう反論するものの内心動揺していた。白竜くんは私を好いていると言うのか!?まさか・・・いやあり得るかもしれない・・・
「いい加減認めたらどうなんだい。自分の気持ちに素直になりなさい」
師匠の言葉にハッとする。確かに私は彼の事が好きなのかもしれなかった。でも認めたくない自分がいるのも確かだった。なぜなら彼は子供だからだ。年齢的に考えれば明らかに犯罪行為だと言えるだろう。それでも彼と一緒に居たいと思う自分がいるのだ。葛藤を繰り広げているうちにいつの間にか外は暗くなっていたようで師匠が心配そうな目でこちらを見ていた。
「大丈夫かい?」
「えっと・・・実はまだ自分でもよく分からないんです・・・」
「無理しなくていいよ。ゆっくり考えていけばいいさ」
「はい・・・」
そう言われてもやっぱり考えてしまうのが乙女心というものなのである。私は一旦考えるのを止めて帰ることにしたのだった。
「じゃあねーシオン」
「それでは」
師匠の見送りを背にしながら歩いて、家に辿り着くと白竜くんが私の元にやってくる。
「帰ったか、シオン」
「あぁ・・・また・・・」
彼は私を抱きしめると顔を埋めて匂いを嗅いでいた。この年齢になってもこんな調子なのである。しかも既に身長が私を超えている。このままではマズイと思いながらも何も出来ずにいた。
「ねぇ」
「なんだ」
「もう13歳だから少し自重を・・・」
「何か言ったか?」
「いえなんでもありません」
威圧的にそう言われてしまえば反論できない・・・この台詞はもう何度も聞いている筈なのに全く効き目がないようだ。
「気持ちいい・・・」
「また駄目か・・・」
そしてそのままベッドに連れて行かれて押し倒されてしまった。これも日常茶飯事となっている光景だ。抵抗しようとすれば魔法で簡単に振り払えるのだがどうしても強く言えない自分が情けなく思うばかりである。
「いいだろ。俺はお前の夫だ。好きにして何が悪い」
「あー・・・はい・・・」
結婚してないけどね。そう付け加え、諦めてされるがままになるしかないと思ったところで彼はある事に気づいたようだ。
「いつになったら俺との約束を果たすつもりだ」
「えっと・・・それは・・・」
「まさか忘れてはいないだろうな」
「覚えてます」
その瞬間は鋭い視線を感じるのと共に背筋が凍る感覚があった。
「そうか、安心した。俺は今すぐでも構わないぞ」
そして白竜くんは私を引き寄せ唇を奪った。突然の行動に戸惑いながらも受け入れていくうちに段々と意識が薄れていき気がつけば朝を迎えていた。ご飯食べ損ねた・・・目を覚ますと横には裸姿の少年の姿があった。私は昨日の夜のことを思い出し赤面してしまう。ベッドから降りると、窓際に筒状に丸めた紙が置いてあった。
「師匠からかな?えっと・・・」
『宮廷を護る騎士団募集のお知らせ』
というタイトルが書かれており内容を見たところ王都にある王宮守る騎士として働かないかというものだった。報酬金もかなり良く待遇もいい感じ。そうだ!修行という形で、彼を独り立ちさせることにしよう!早速白竜くんに相談することにした。部屋に戻ると彼は既に起きており、剣の手入れをしている最中であった。
「おはよう」
「ん、おはよう」
「あのさ、白竜くん」
「行かせんぞ」
「えっまだ何も言っていないんだけど」
「街へ行くつもりなんだろう、行きたいなら俺も連れていけ」
「違うよ、これみて」
「・・・?」
私から紙を受けとると覗き込んだ。しかし、しばらく眺めたあとポイッと投げ捨ててしまった。
「興味ない」
「えっ」
「誰かに仕える騎士なら間に合っている」
「そんなこと言わずに」
「俺にはお前さえいればそれでいい」
これでは彼のためにならない。師匠として看過できないな。白竜くんは強いけども私の弟子。ここはきみのために心を鬼にしよう。
「いい加減にしなさい!」
「!?」
「私はね、きみに世界の広さを知ってもらいたいの。人々との関わり合いの大切さを学んでほしいの。」
「そんなのシオンが、」
「質問する。きみは私の何?」
「お前の弟子であり婚約者だ」
「婚約者は余計」
「おい」
「いい?きみはこの、『硝子の魔女』の一番弟子。そしてこの『聖剣サンドリヨン』の使い手・・・この意味、わかるよね?」
「それは・・・!」
彼は顔を歪めた。白竜くんは今までずっと私の家で育ったために街に出た事が無い。だからこそ、さらに見聞を深めてほしいのだ。そうでなければこれから先きっと苦労することになると分かっているから。
「サンドリヨンは私が作り上げた最後の聖剣。その力を最大限に引き出せるのが白竜くんなんだよ。・・・きみだけだ、私の作った剣を振るってくれるのは。」
「シオン・・・」
もともと私は、聖剣の魔女と呼ばれていて、正しき人のために魔法で剣を錬成しているが、そのどれもが脆い。自分で言うのも何だが、強大な力と引き換えにすぐに壊れてしまうからいつしかそれをガラスに例えられて、『硝子の魔女』と呼ばれるようになった。でも白竜くんはその剣を丁寧に扱ってくれている。そんな彼を応援したいというのが私の気持ちだった。だからこそ、この提案を受けてもらいたいと考えているわけで・・・
「お願いします」
頭を下げて懇願すると、意外にもあっさり承諾してくれた。やはり心の底では気にかけていたようだ。
「分かった・・・行ってやる」
「ありがとう!!」
「ただし条件がある」
「うん?」
「俺がいない間は他の奴に色目を使うな」
「使わないよ!そもそも私がそんな事する相手なんていないし!?」
「本当か?」
「本当だってば!」
白竜くんが王都へ行って7年が経った。相も変わらず私は一人で森の中で暮らしている。彼とは手紙でやりとりをしているが、『いつ修行が終わるのか』とか『早く会いたい』だの、そういう内容が来る。そのたびに『まだだよ』という返事を出す。今日のお昼頃、トントンと、家のドアをノックする音が聞こえた。玄関を開けると
「やぁ、調子はどう?」
「師匠!」
師匠は使い魔に白竜くんの様子を見て貰っているのを私にも伝えてくれた。ちなみに師匠の使い魔はヤギ。
「白竜は頑張ってるよ。今は王都騎士団の団長だって」
「ええ!すごい!」
「あんなに小さかったのに随分成長したものだ。それにライバルも出来たみたいだし、今や立派な青年になったよ」
「そうですか!良かった」
「シオンは寂しくないかい?」
「寂しくないです!・・・でもちょっと恋しいかな」
答えると師匠は笑い出した。そして一頻り笑った後こう言ってきた。
「君も大概だよね。あんなに小さい頃から一緒に居るんだから当然といえば当然かもしれないけど。ところで君の方は進展はあったのかい?」
「ないです」
「・・・」
「白竜くんは何やらライバルとか出来たようですし大丈夫でしょう」
「シオンが白竜を修行の一環で送り出したのは、何か理由が?」
「それは・・・ちょっと大きな声で言えないんですけど・・・」
「言ってみて。誰にも言わないから」
「・・・魔王を倒すと彼がこの国の王女と結婚できるからです」
「・・・」
師匠は呆れた様子で聞いていた。確かに私自身も馬鹿げていると思っているけれど、もし万が一白竜くんが魔王を打ち倒した暁には王位継承権が与えられるかもしれない可能性が出て来ると思ったのだ。なので彼には相応しい相手と結婚していただきたい、という魂胆です。
「だってそもそも寿命が違うじゃないですか。私達なら千年生きることはザラですけど白竜くんは人間。生きられても100年ですから、そんな結婚したら最終的に悲しいだけです・・・」
「・・・」
師匠は肩を落としてこう言った。
「それは君の価値観であって白竜には当てはまらないよ。確かに寿命の違いはあるけどさ・・・」
「・・・・・・」
「白竜は、自分の意思でシオンと共にいたいと言ったんだ。彼は君が好きなんだろう」
「・・・そうかもしれませんね」
「僕は思うんだけどね。好きっていう気持ちさえあれば種族なんて関係無いと思う。現に僕の妻も人間じゃないからね」
「・・・」
「寿命か何かでそれを否定しても彼は聞かない。あいつは必ずきみを娶る」
「そんなことは」
私の言葉を遮るように彼は続ける。
「僕はね。きみには愛されて欲しいんだ。それは白竜に限ったことではないけどね」
「愛されて・・・」
「きみは孤独だと聞く。僕の目にはそう映らないけど」
師匠は微笑むと私の頭を撫でた。そして帰り際師匠は、
「また来るから。今度は3人で会えると良いね」
それからまた1年後、王都の騎士団が魔王を倒したという知らせが入ったのが今日というわけだ。白竜くんは王女と結婚したかな。修行じゃなくて独り立ちさせるためなのがバレたら、私はどうなるか分からない。その時だった。勢いよく扉が開かれた音と共に誰かが入ってくる気配を感じる。振り向くとそこには大人になって格好よくなった白竜くんが立っていた。
「シオン・・・」
「白竜くん!!」
あぁ、こんなに大きくなっちゃって・・・思わず駆け寄ろうとしたが、ストップ。あれ、怒ってる?なんかオーラがどす黒い。白竜くんはつかつかと歩み寄ると私の頬を引っ張り上げた。
「ひゃい(いたい)」
「貴様ぁ・・・・・・」
「ひぃ!?」
「何が独り立ちだ!ふざけるな!」
怒り心頭といった様子で凄んでいる。どうやらバレてしまったみたいだ。私は震える声で謝罪した。
「ごめんなさい・・・!でも必要と思って」
「必要かどうかは俺が決める事だ。お前じゃない」
「だって師匠も・・・」
「シュウの奴は共犯者か?後で殺してやる」
怖すぎる。こんなに怒っている白竜くんは初めて見た。まるで別人みたいだ。私は一番気にしていたことを恐る恐る訊ねてみた。
「結婚は?魔王討伐の報酬ですよね?」
「は?あんな奴いらん」
即答だった。私は安堵したと同時に少し残念な気持ちになった。
「なんで!?せっかくいい機会だったのに!きみだってそろそろ所帯を持つべきだと思うんだけど!!」
「貴様が言うなとっとと俺の嫁になれ」
その瞬間、脳裏によみがえったのは8年前の白竜くんが告白してきたときの記憶だった。子供の頃の約束がまだ有効だったなんて。
「白竜くん・・・まさかあれ、まだ本気なの?」
「当たり前だろう!」
「きゃー!」
「待てこら逃げるな!」
家の中で追いかけっこをする。捕まえられそうになったところでドアを開けて外へ出ると、ちょうど師匠がいた。
「おーい、何してるの?」
「師匠~!助けてください!」
「よし来なさい」
「白竜くんが急にプロポーズしてきたんですけど!?」
「まぁそうだろうね」
「なんでそんな人ごとなんですか?!」
「まぁまぁ落ち着いて」
「落ち着いてられますか!」
こんなはずじゃなかったのにー!どうしてこうなるの!?私の作戦は虚しく失敗、いや大失敗に終わった。師匠は助けてくれなかったので追ってきた白竜くんに捕まえられてしまった。その後はというと・・・言うまでもないだろう。
おしまい
おまけ
「あ・・・」
彼が私のお腹を触った。まだ膨らみ始めたばかりなので目立たないが、確実に新しい命が宿っていることを実感していた。もうすぐ母になるんだ・・・この『硝子の魔女』が。嬉しいような複雑な心境の中、白竜くんは満足そうに頷いた。これでもう逃げられないと言わんばかりに。私は諦めの溜息をつくしかなかった。
「ほんと、きみには敵わないね」