人生は白竜ゲー。
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俺の家にシオンが泊まりに来ている。朝早くから来て、日が落ちて月が登り、次の朝が来るまで一緒に過ごす。今は寝る前のスキンシップタイムだ。俺ごとシオンを布団でくるんで抱きしめてやる。
「・・・」
「どうした、ボーッとして」
「白竜くんは、私がネオジェンヌになったらどうする?」
「ネオジェンヌ・・・」
いつだかシオンが行きたがっていたネオ銀座とやらに連れて行ったが、ネオジェンヌとは彼女曰く『お客様に幸せな時間を提供する女性』・・・端的に言えば、キャバ嬢。詳しい話についてはタイトル画面の♡を数回押してみろ。
「無理だろ、お前みたいな色気のない子供じゃ」
「たとえ話だよ」
シオンは笑って付け加える。
「ネオジェンヌになれたら、白竜くんに釣り合うかもしれないなって」
「お前、キャバ嬢をなんだと思ってるんだ」
「でも、私は白竜くんしか見てないよ。だから、もし私がネオジェンヌになったとして・・・白竜くんが他の子を見るのは嫌だな・・・」
シオンは寂しそうに呟く。俺は彼女を一層強く抱き締める。
「俺はそんなことはしない。それに、お前がネオジェンヌになったら俺が客になってやる。それでいいだろう?」
「・・・うん」
シオンは俺の手に自分の手を重ねる。俺はその手にキスを落とし、彼女の手に自分の手を重ねた。
「おやすみ」
「おやすみ、白竜くん・・・」
それから一週間後、シオンから家に泊まりに来ないかと聞かれた。その顔は熟れたリンゴの如く真っ赤に染まっていた。断る理由?そんなものがこの世に存在するのか?フッ、可愛い奴め。今夜は楽しくなりそうだ。学校終わりに早速シオンの家に向かう。もちろん本人と一緒だ。
「確か同居人が居ると言ってなかったか、いいのか?」
「あげはさんに許可は取ったよ」
「そうか」
「楽しみだね・・・」
彼女はそういって俺の左手に指を絡ませた。彼女の体温が直に伝わってくる。そして数分後には家に着いた。扉を開けると目の前に眼鏡をかけた女性が出迎えた。
「ただいま!」
「おかえり!あ、お友達もいらっしゃい」
優しい声。だが何処か色気を感じる。きっと俺の気のせいだ。この人はただ優しく微笑んでいるだけだ。
俺がシオンの見舞いに行ったときに初めて会った人だ。
「シオンのチームメイトの白竜といいます」
「私はあげは。シオンちゃんの親代わりを務めてます、よろしくね」
「ねぇ、あげはさん。ちょっと話したいことが・・・」
「大丈夫よ。夕飯まで時間があるからゆっくりしてて」
そして俺達は彼女の部屋に入った。
来るのは見舞いの時以来だ。少し散らかっているが、まぁ・・・可愛い方じゃないか?
「今日は・・・私のお願いを聞いてもらう日だよね・・・」
「そうだったな。俺にできることならなんでも聞くぞ」
「それじゃあ・・・今夜は寝ないで起きていて?」
「なんだそんなことか」
シオンの肩を掴み唇を合わせようとしたときだった。
「二人ともー。夕食の支度ができたけど・・・あれ、まだお話中?」
「ふぇ?!あっ・・・ううん!」
ドアが開いた音と同時にシオンが慌てて声を上げたので仕方なく離れることにした。
「もう少しだけ待ってくれませんか」
「わかった。ゆっくりしててね」
ドアが閉まり、シオンがこちらに向き直す。その瞳には困惑の感情が浮かんでいた。
「びっくりした〜。急に入ってくるなんて思わないじゃん・・・」
「別に見られたところで俺達の関係は何も変わらないだろう。それとも何か変わるか?」
「変わるよぉ〜・・・恥ずかしいじゃん」
「気にするな」
そしてまた抱き寄せてキスをしてやる。すると彼女はぎゅっと俺を抱き返してきた。
「ぷはっ・・・ねぇ、続きは後でね」
「ああ」
リビングに入ると既に夕食の準備は終わっていた。席についていただきますと言う。今日のメニューは肉じゃがと焼き魚とサラダという家庭的なものである。どれも美味いのだが一番驚いたのはやはり米だ。
炊飯器から出された白ご飯に感動してしまった。
「シオンちゃん、行ってくるわね」
「うん。気をつけて」
夕食をごちそうになった後、風呂も貸してくれた。シオンには『一緒に入るぞ』と促したのだが、
「やることがあるから、今日はちょっと・・・」
と言われ、自室に引っ込んでしまった。断れない性格のシオンを無理やり引っ張って風呂に連れて行く事も出来るが、それでは彼女の意思を尊重しない事になるのでやめた。リビングに戻るとシオンがあげはさんを見送っているところだった。
「こんな時間にどこへ?」
「あげはさんはスナックのママやってるの。だから夜出勤。」
「そうなのか」
「お風呂どうだった?」
「良かったぞ。悪いな、貸してくれて・・・」
「全然いいよ!じゃ、お風呂交代ね!」
シオンはパタパタと風呂場に行ってしまった。なんだかつれない。さっきの口ぶりでは今夜はずっと一緒だと思ったのだが・・・まぁ仕方ない。シオンの後ろ姿を見送りながら、ソファに腰掛ける。さて、これからどうするかな・・・とりあえずソファに座ったままで目を瞑る。しばらくそうしているうちに眠気が襲ってきた・・・ハッ!!いかん!寝てしまっていた!寝ずに待っていろと言われていたのに!すると階段を降りてくる足音が聞こえた。シオン?
「おまたせ、白竜くん」
やっと俺の所に戻ってくれたか。早くこっちに来い、今夜は寝るなとお前が言ったんだから俺を待たせた分・・・えっ???
「シオン・・・!?その格好は・・・」
「ふふ・・・」
そこには青色のドレスを纏ったシオンが立っていた。髪には黄金の薔薇の髪飾り、首元にはチェーンををあしらったチョーカーをつけている。頬紅を乗せた顔はとても大人びて見える。
「白竜くんのためにネオジェンヌごっこをやってみたいと思います・・・!」
とシオンは恥ずかしそうに俯く。確かに先週に『ネオジェンヌになったらどんな感じか知りたい』とは言っていたが・・・まさかここまで再現してくれるとは思わなかった。
「ほら座って座って!」
「あっあぁ・・・」
呆然としたまま俺は言われた通りにソファに座り込む。そんな俺を見てシオンは楽しそうにクスクス笑った。
「それじゃあ乾杯しようか。なにがいい?」
「えっと・・・む、麦茶で・・・」
「はーい」
シオンはグラスに氷を入れて冷蔵庫から取り出した飲み物を注ぐ。
それを持ったまま隣に座ってニコニコ笑顔を向けられるとなぜか緊張してしまう・・・
「はいこれ白竜くんの分」
「あっ・・・ありがとう・・・」
「ふふっ。乾杯♪」
「カンパイ・・・」
カチンッとガラスとガラスがぶつかる音がしてそれを口に含む。普通に美味しい麦茶だがいつもより甘く感じてしまう。そんなことを考えながらちらりと彼女の方を見る。すると視線に気づいたようで首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや・・・その・・・びっくりした。だが、綺麗だ・・・」
「えへへ。ありがとう!」
照れ臭そうな表情も愛らしい。そう思うと途端に顔が熱くなってきて俺は慌てて目を逸らす。シオンは立ち上がりテーブルの横を通って隣に座ってきた。青いドレスに白い肌が映えて眩しい。しかも目線が彼女のより高いので見下ろす形になる。つまり、谷間の影が拝めるのだ。それが気になってどうしてもチラリと見てしまう。その度に脳内の警報装置が鳴り響く。見るな!!!俺よ!!!見るんじゃない!!!!
「白竜くん?」
名前を呼ばれてハッと我に帰るとシオンと目が合った。彼女は不思議そうにこちらを見つめてくる。慌てて顔を背けるとシオンの小さなため息が聞こえた。
「やっぱり変かな?この服・・・」
「いっいや違う!あまりにも綺麗すぎて驚いただけだ!本当に似合ってると思う!」
「本当?嬉しい」
俺の言葉を聞いた途端パァッと表情が明るくなるのがわかった。ホッとしたのも束の間すぐに別の事が浮上する。彼女は今ネオジェンヌの恰好をしている。ということは当然そういう行為も含まれるのではないか?ならば。
「シオン・・・」
俺は彼女の肩を抱き寄せようと腕を伸ばした。しかし。
「ネオジェンヌはお触り禁止だよ」
「・・・」
真顔で止められた。俺のシュート技をゴッドハンドか何かで完封された感じがする。そこまで再現するのか・・・行き場のない腕を下ろす。
「ネオジェンヌといえば、接客。白竜くんは初めて来たお客様という設定だからね」
「わかった」
「それじゃ白竜くん、きみが今夢中になってるものは何?」
「夢中になっているもの・・・」
頭の中に選択肢が浮かぶ。ここでの解答として相応しいのはこれしかない。
「サッカーだ」
「サッカー?白竜くんはサッカー選手なんだね」
「勿論そうだ。世界の舞台で戦うために日々努力を重ねている」
「すごいね!私も応援してるよ!」
シオンは笑顔で俺を見上げてきた。思わずドキッとするが彼女はそのまま続ける。
「それから?他には何がある?」
「あとは・・・好きな人だ」
「へぇ。どんな人なの?」
「ドジで運が悪くて、でも時々儚く見えて、俺を魅了して離さない女がいる」
そう言ってからハッとした。自分でも驚くほど自然に口から出てきた言葉に戸惑う。だが嘘ではない。本当のことなのだ。
「そいつの心を掴む何か、その、コツやアドバイスを聞きたい」
「そっかぁ・・・そうだな。うーん・・・」
シオンはどんな答えを出すのだろう。優しい彼女のことだ。相手に寄り添い、その上で誰もが納得できる最適解を導き出すのだろう。
「褒めること、だと思うな。私だって好きな人に褒められるの嬉しいし。それに大事にされてるなって感じるし。だから、その子の良いところを見つけたらどんどん伝えてあげて。きっと喜ぶと思う!」
「なるほど・・・参考にする」
シオンらしいアドバイスだ。それも俺にとっては最高の策だ。
俺はそっと、さりげなく彼女の手に触れようとしたがその瞬間。
「ダメ!お触りは禁止です!」
「むぅ・・・」
またもや拒絶されてしまった・・・そう、これはごっこ遊びだ。猛烈にシオンに触れたいが、耐えなければ。俺が肩を落としていると彼女は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「あっあのね・・・別に意地悪してるわけじゃないよ?白竜くんに私の気持ちを知ってもらいたくて・・・」
「シオンの気持ち?」
「白竜くんが女の子に触れるのは私だけにしてほしい・・・」
彼女の顔がみるみると赤く染まっていく。なんだこのかわいい生き物は。俺はシオン以外興味はない。そもそもコイツ以外の人間に触れようという発想が浮かばない。なのに何故?疑問が湧いたが、すぐに答えが出た。
「聞いてたら、白竜くんが知らない誰かを好きになっちゃう想像して・・・ちょっと、妬いた」
「!!」
俺の好きな奴はお前だというのに!俺の心を見越した作戦か!?・・・可愛い。可愛すぎる。今すぐ抱きしめてキスしたい衝動に駆られるがグッと堪える。
「・・・大丈夫だ。俺はシオンだけを愛してるから安心してくれ」
「ホント・・・?」
「ああ」
その言葉を聞いた途端シオンは安堵の表情を浮かべた。しかしすぐにハッとして慌てて言う。
「わわ、ダメ!これはネオジェンヌごっこ!恋愛もNGっ!」
「さすがにガード堅すぎないか?!」
「これくらいがちょうどいいんだよ!」
「これごっこ遊びだろ?!」
完璧に再現しようとしているのがまた俺の心を擽る。もし本当にシオンがネオジェンヌになったら通って貢ぐ自信がある。ん?そうなると・・・他の奴にもこういう接客をするのか?
「なぁ、一つ聞いても良いか?」
「なに?白竜くん」
「もし、今の・・・ネオジェンヌの仕事をやめて自分と結婚しろと言われたらどうする?」
「えっ」
少し意地悪すぎたかな。でも知りたい。客の男に惚れられた、ネオジェンヌのシオン。そいつが持つ天使のような笑顔を自分だけのものにしたくて彼女に仕事を辞めさせようとする。客が俺ならそうする。もちろんお前は困惑するだろう。あくまで客と店の関係なのに勘違いする輩は絶対いる。こんな好意を向けられたら・・・お前は、どうする?どう答える?期待してシオンを見ると・・・頬を朱に染めながらも答えてくれた。
「その人のことを・・・もっと深く知ろうと思うかな」
「えっ」
「それで・・・私と一緒にいたい理由とか、お店に来てくれるときにいろいろ教えてもらって・・・お互いのことを知りながら関係を築いていけたらいいなって思う」
「・・・!」
正直言って意外だった。客とはいえ知らない人との結婚を前提とした交際など即NOと言われても仕方がないと思っていたから。・・・まさかOKする(?)とは思わなかった。嬉しさ半分嫉妬半分といった複雑な心境だ。
俺みたいな奴の話をさせてしまっていることに腹が立つ反面彼女の純粋さに救われている自分がいる。だがこれはごっこ遊びだ。本番じゃない。
「・・・仮に俺がその、結婚したいと言い出した人物だったらどうする?」
「えぇ?!」
シオンはさらに驚いている様子だったが俺の質問を聞いて真剣な眼差しになった。
「そう・・・だね。もし白竜くんとそういう状況になったら、嬉しいよ」
「嬉しい・・・?」
「うん。だって私好きな人と結婚したいから。それに・・・白竜くんなら・・・その・・・」
そこで言葉を区切った。何を言おうとしているんだ?続きを促すように見つめるとシオンはもじもじしながらも言った。
「多分断れないし・・・流されちゃうかも・・・あはは」
「ッ・・・!!」
理性が崩壊しそうだった。今すぐ押し倒してしまいたい衝動に駆られたが必死に抑えつけた。危なかった。あと一歩で手を出してしまいそうだったぞ!落ち着け俺!!深呼吸を繰り返し冷静を取り戻す。
「ぐぅぅ・・・!!」
「どうしたの?白竜くん」
小首を傾げる彼女はまるで猫のようだ。愛くるしい顔して悪魔のような誘惑をしてくる。全く罪深い女だ。
「えっとその・・・私も聞きたいことがあるんだけど・・・」
「なんだ?」
「白竜くんは好きな人を振り向かせるためにどんな行動をするの?」
「それは勿論・・・まず徹底的にそいつを口説き、ライバルがいたら牽制する。それから隙あらば手を握ったり抱き寄せて距離を縮める」
「おぉ・・・」
「次にそいつの好きなものを把握し好みを分析してプレゼントを贈る。最後に告白だな」
「わぁ・・・す、すごく情熱的だね・・・」
「当然だ」
「わ、わかった・・・覚えておくね・・・」
シオンは照れたように俯いてしまった。こうすれば多少は俺の事を意識してくれるだろうか。期待を込めて彼女を覗き込む。
「なぁシオン」
「ひゃいっ」
小さく跳ねたあとこちらを見上げた。大きな目で見つめられてドキドキしてしまう。
「もう一度訊くが・・・結婚したいと言ったら承諾するのか?」
「うん・・・白竜くんにそう言われたら断れないし、喜んで受け入れます」
「そうか」
素直に認められてしまった。これは脈ありと思ってもいいのだろうか。いや脈ありに決まってるだろう。そんなことを考えているうちに俺はいつの間にか彼女の耳元まで近づいていた。
「じゃあ・・・俺が結婚しようと言ったら受け入れろ」
「えっ」
「断れば監禁するからな」
「ひぃっ!」
突然のプロポーズ宣言に驚いたのかシオンは固まってしまった。慌てて首を縦に振ってくれた。
「は・・・はい・・・!」
よかった。嫌がられなくて。シオンは緊張した面持ちで俺を見つめている。そんな彼女が愛おしくて堪らない。俺は再び口を開いた。
「なぁシオン」
「うん・・・なに?」
「キスしてもいいか?」
シオンの目が大きく見開かれる。予想外の発言だったのだろう。頬が赤く染まり湯気が立ち昇る錯覚さえ起きるほど照れている。だが俺は構わず続けた。
「頼む」
「あ、えっと・・・」
「もうごっこ遊びはおしまいだ」
「わっ・・!」
シオンの腰を自分に引き寄せる。そして彼女の左手に俺の右手を重ねる。誓いのキスがここになるとはな。大人になったらちゃんとした場所で出来るのに。もう我慢が出来ない。ゆっくり顔を近づける。唇まであと・・・
フッ・・・
「!?なに・・・?」
突然視界がモノクロになった。目の前のシオンが驚いた顔のまま固まっている。俺以外の時間が止まっているようだった。そのとき。
ドクンッ・・・
「うっ!?な、なんだ、熱い・・・!」
突然胸の中が発熱した。思わず押さえる。何かが爆発したような感じがする。待て、何かが、出て来ようとしている・・・?!
「ぅあ・・・!」
俺の胸から眩い光が溢れた。出てきたのは・・・
「光る、蝶・・・?」
大きくて後翅が長い、虹色に光る蝶が姿を現した。まるで羽化を見ているようだった。目が離せないでいると、ふわりと蝶が飛び立つ。すると、今度はシオンの胸に何か淡い黄色い蕾があるではないか。
「シオン?」
見ているとそれが開いて美しい花が現れた。ゲッカビジンにそっくりだ。すると光る蝶が花に止まる。そしてそれらが更に眩い光を放つ・・・!
「うっ・・・!!」
俺は思わず目を閉じる。次に瞼を開けると・・・
「白竜くん!どうしたの?」
「・・・」
シオンの手を取ったまま呆然としてしまう。時間が動き始めたのか?いや、蝶と花はどうなった・・・?
「具合が悪いの?」
「・・・えっ!?あ、ああ・・・大丈夫だ」
まだ混乱している頭を無理矢理働かせようとする。何が起こった?先程の体験は一体・・・
「もうこんな時間だね。そろそろ寝ようか」
気づけば時計の針が深夜12時をさしていた。この時間までお喋りしていたので俺もシオンも眠気に襲われる。
「そう・・・だな」
部屋へ戻ろうとして気がつく。手を繋いだままだ。俺は咄嵯にシオンの手を引いて寝室へ向かった。一つになりたい。同じベッドで抱き締めあって眠りにつきたい。勢いよく扉を開ける。シオンが後から入ってくるのを確認すると、そのまま彼女を抱き寄せてベッドに押し倒す。
「・・・白竜くん?」
「今夜は寝かせないからな」
「ふぇ?!」
「覚悟しろ」
有無を言わさぬ口調で迫る。シオンは抵抗せずただ黙って見上げていた。その瞳には恐怖よりも期待の方が多く混じっているように見える。
「うん・・・きて」
そう答えると静かに目を瞑った。その態度に満足した俺は彼女に覆い被さるようにして顔を寄せる。今夜はめちゃくちゃにした後にずっとお前を抱いて眠ってやるぞ。・・・でも、もう少しだけ、触れさせて欲しい。頼むから拒絶しないでくれ。そんな願いと共に俺達はキスをした。
「ん・・・」
微睡みの中でぼんやりと思考回路が働き始める。朝だ。カーテンの隙間から漏れ出る日差しと鳥の囀りが耳に入る。今日は土曜日だからまだ寝ていてもいいのだが・・・ん?
誰かに包まれている感覚がある。温かくて柔らかい。この匂いは・・・シオンか。
昨晩のことを思い出す。そうだ。昨夜はシオンと同じベッドで寝たんだ。俺はシオンを腕枕していた。彼女は俺の胸に額をくっつけて眠っている。
「フッ・・・幸せそうな顔して・・・」
穏やかな寝顔だ。可愛らしい。その頬に軽くキスをするとピクリと反応した。起こしたかと思ったがまだ眠り続けているようだ。俺は少し身体を起こすとシオンの頭を撫でてやった。
「んぅ・・・」
くすぐったかったのか身動ぎをする。それでも起きる気配は無い。無防備だな。俺は何度も彼女を抱きしめたり頬擦りしたりした。シオン・・・可愛い。俺の大切な人。
「愛してる」
愛おしさで胸がいっぱいになる。この気持ちを伝えたくて仕方が無い。
「ん・・・」
薄っすらと目を開けるシオン。起きたようだ。目を擦りながら俺を見るとふにゃりと笑った。
「おはよう・・・白竜くん・・・」
「ああ。おはよう。昨日のことは覚えているか?」
そう訊ねるとシオンは思い出したようにハッとした表情になる。
「ごっごめん・・・!私途中から記憶が曖昧で・・・!」
「気にしなくていい。それより身体に違和感はないか?」
俺の質問に首を振るシオン。その様子だと問題無いみたいだな。安心した。もし万が一彼女に何かあったらどうしようかと思った。「白竜くんは元気?」
「ああ」
俺も特に異常は無い・・・だが気になる点はある。あの光る蝶と花のことは誰にも話していない。もしかしたらあれは・・・俺の精神を具現化したものかもしれないな。あれから何故か満たされたような気分なんだ。
「朝ご飯食べようか」
「そうだな」
俺とシオンは立ち上がってキッチンへ向かう。そしてトースターに食パンをセットし焼き上がるまでの間二人並んでコーヒーを飲むことにした。しばらくして香ばしい匂いと共にチンッという音が鳴り響く。皿に乗せてテーブルに運び席に着く。いただきますと言って一口齧り付く。サクッとした歯ごたえとともにバターの風味が広がる。今日も一日が始まる。
「ねぇ白竜くん」
「なんだ?」
「またしようね、ネオジェンヌごっこ」
突然の提案に俺は目を丸くした。そしてすぐに微笑み返す。
「・・・気が向いたらな」
やはりシオンは俺にとってかけがえのない存在だ。
「・・・」
「どうした、ボーッとして」
「白竜くんは、私がネオジェンヌになったらどうする?」
「ネオジェンヌ・・・」
いつだかシオンが行きたがっていたネオ銀座とやらに連れて行ったが、ネオジェンヌとは彼女曰く『お客様に幸せな時間を提供する女性』・・・端的に言えば、キャバ嬢。詳しい話についてはタイトル画面の♡を数回押してみろ。
「無理だろ、お前みたいな色気のない子供じゃ」
「たとえ話だよ」
シオンは笑って付け加える。
「ネオジェンヌになれたら、白竜くんに釣り合うかもしれないなって」
「お前、キャバ嬢をなんだと思ってるんだ」
「でも、私は白竜くんしか見てないよ。だから、もし私がネオジェンヌになったとして・・・白竜くんが他の子を見るのは嫌だな・・・」
シオンは寂しそうに呟く。俺は彼女を一層強く抱き締める。
「俺はそんなことはしない。それに、お前がネオジェンヌになったら俺が客になってやる。それでいいだろう?」
「・・・うん」
シオンは俺の手に自分の手を重ねる。俺はその手にキスを落とし、彼女の手に自分の手を重ねた。
「おやすみ」
「おやすみ、白竜くん・・・」
それから一週間後、シオンから家に泊まりに来ないかと聞かれた。その顔は熟れたリンゴの如く真っ赤に染まっていた。断る理由?そんなものがこの世に存在するのか?フッ、可愛い奴め。今夜は楽しくなりそうだ。学校終わりに早速シオンの家に向かう。もちろん本人と一緒だ。
「確か同居人が居ると言ってなかったか、いいのか?」
「あげはさんに許可は取ったよ」
「そうか」
「楽しみだね・・・」
彼女はそういって俺の左手に指を絡ませた。彼女の体温が直に伝わってくる。そして数分後には家に着いた。扉を開けると目の前に眼鏡をかけた女性が出迎えた。
「ただいま!」
「おかえり!あ、お友達もいらっしゃい」
優しい声。だが何処か色気を感じる。きっと俺の気のせいだ。この人はただ優しく微笑んでいるだけだ。
俺がシオンの見舞いに行ったときに初めて会った人だ。
「シオンのチームメイトの白竜といいます」
「私はあげは。シオンちゃんの親代わりを務めてます、よろしくね」
「ねぇ、あげはさん。ちょっと話したいことが・・・」
「大丈夫よ。夕飯まで時間があるからゆっくりしてて」
そして俺達は彼女の部屋に入った。
来るのは見舞いの時以来だ。少し散らかっているが、まぁ・・・可愛い方じゃないか?
「今日は・・・私のお願いを聞いてもらう日だよね・・・」
「そうだったな。俺にできることならなんでも聞くぞ」
「それじゃあ・・・今夜は寝ないで起きていて?」
「なんだそんなことか」
シオンの肩を掴み唇を合わせようとしたときだった。
「二人ともー。夕食の支度ができたけど・・・あれ、まだお話中?」
「ふぇ?!あっ・・・ううん!」
ドアが開いた音と同時にシオンが慌てて声を上げたので仕方なく離れることにした。
「もう少しだけ待ってくれませんか」
「わかった。ゆっくりしててね」
ドアが閉まり、シオンがこちらに向き直す。その瞳には困惑の感情が浮かんでいた。
「びっくりした〜。急に入ってくるなんて思わないじゃん・・・」
「別に見られたところで俺達の関係は何も変わらないだろう。それとも何か変わるか?」
「変わるよぉ〜・・・恥ずかしいじゃん」
「気にするな」
そしてまた抱き寄せてキスをしてやる。すると彼女はぎゅっと俺を抱き返してきた。
「ぷはっ・・・ねぇ、続きは後でね」
「ああ」
リビングに入ると既に夕食の準備は終わっていた。席についていただきますと言う。今日のメニューは肉じゃがと焼き魚とサラダという家庭的なものである。どれも美味いのだが一番驚いたのはやはり米だ。
炊飯器から出された白ご飯に感動してしまった。
「シオンちゃん、行ってくるわね」
「うん。気をつけて」
夕食をごちそうになった後、風呂も貸してくれた。シオンには『一緒に入るぞ』と促したのだが、
「やることがあるから、今日はちょっと・・・」
と言われ、自室に引っ込んでしまった。断れない性格のシオンを無理やり引っ張って風呂に連れて行く事も出来るが、それでは彼女の意思を尊重しない事になるのでやめた。リビングに戻るとシオンがあげはさんを見送っているところだった。
「こんな時間にどこへ?」
「あげはさんはスナックのママやってるの。だから夜出勤。」
「そうなのか」
「お風呂どうだった?」
「良かったぞ。悪いな、貸してくれて・・・」
「全然いいよ!じゃ、お風呂交代ね!」
シオンはパタパタと風呂場に行ってしまった。なんだかつれない。さっきの口ぶりでは今夜はずっと一緒だと思ったのだが・・・まぁ仕方ない。シオンの後ろ姿を見送りながら、ソファに腰掛ける。さて、これからどうするかな・・・とりあえずソファに座ったままで目を瞑る。しばらくそうしているうちに眠気が襲ってきた・・・ハッ!!いかん!寝てしまっていた!寝ずに待っていろと言われていたのに!すると階段を降りてくる足音が聞こえた。シオン?
「おまたせ、白竜くん」
やっと俺の所に戻ってくれたか。早くこっちに来い、今夜は寝るなとお前が言ったんだから俺を待たせた分・・・えっ???
「シオン・・・!?その格好は・・・」
「ふふ・・・」
そこには青色のドレスを纏ったシオンが立っていた。髪には黄金の薔薇の髪飾り、首元にはチェーンををあしらったチョーカーをつけている。頬紅を乗せた顔はとても大人びて見える。
「白竜くんのためにネオジェンヌごっこをやってみたいと思います・・・!」
とシオンは恥ずかしそうに俯く。確かに先週に『ネオジェンヌになったらどんな感じか知りたい』とは言っていたが・・・まさかここまで再現してくれるとは思わなかった。
「ほら座って座って!」
「あっあぁ・・・」
呆然としたまま俺は言われた通りにソファに座り込む。そんな俺を見てシオンは楽しそうにクスクス笑った。
「それじゃあ乾杯しようか。なにがいい?」
「えっと・・・む、麦茶で・・・」
「はーい」
シオンはグラスに氷を入れて冷蔵庫から取り出した飲み物を注ぐ。
それを持ったまま隣に座ってニコニコ笑顔を向けられるとなぜか緊張してしまう・・・
「はいこれ白竜くんの分」
「あっ・・・ありがとう・・・」
「ふふっ。乾杯♪」
「カンパイ・・・」
カチンッとガラスとガラスがぶつかる音がしてそれを口に含む。普通に美味しい麦茶だがいつもより甘く感じてしまう。そんなことを考えながらちらりと彼女の方を見る。すると視線に気づいたようで首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや・・・その・・・びっくりした。だが、綺麗だ・・・」
「えへへ。ありがとう!」
照れ臭そうな表情も愛らしい。そう思うと途端に顔が熱くなってきて俺は慌てて目を逸らす。シオンは立ち上がりテーブルの横を通って隣に座ってきた。青いドレスに白い肌が映えて眩しい。しかも目線が彼女のより高いので見下ろす形になる。つまり、谷間の影が拝めるのだ。それが気になってどうしてもチラリと見てしまう。その度に脳内の警報装置が鳴り響く。見るな!!!俺よ!!!見るんじゃない!!!!
「白竜くん?」
名前を呼ばれてハッと我に帰るとシオンと目が合った。彼女は不思議そうにこちらを見つめてくる。慌てて顔を背けるとシオンの小さなため息が聞こえた。
「やっぱり変かな?この服・・・」
「いっいや違う!あまりにも綺麗すぎて驚いただけだ!本当に似合ってると思う!」
「本当?嬉しい」
俺の言葉を聞いた途端パァッと表情が明るくなるのがわかった。ホッとしたのも束の間すぐに別の事が浮上する。彼女は今ネオジェンヌの恰好をしている。ということは当然そういう行為も含まれるのではないか?ならば。
「シオン・・・」
俺は彼女の肩を抱き寄せようと腕を伸ばした。しかし。
「ネオジェンヌはお触り禁止だよ」
「・・・」
真顔で止められた。俺のシュート技をゴッドハンドか何かで完封された感じがする。そこまで再現するのか・・・行き場のない腕を下ろす。
「ネオジェンヌといえば、接客。白竜くんは初めて来たお客様という設定だからね」
「わかった」
「それじゃ白竜くん、きみが今夢中になってるものは何?」
「夢中になっているもの・・・」
頭の中に選択肢が浮かぶ。ここでの解答として相応しいのはこれしかない。
「サッカーだ」
「サッカー?白竜くんはサッカー選手なんだね」
「勿論そうだ。世界の舞台で戦うために日々努力を重ねている」
「すごいね!私も応援してるよ!」
シオンは笑顔で俺を見上げてきた。思わずドキッとするが彼女はそのまま続ける。
「それから?他には何がある?」
「あとは・・・好きな人だ」
「へぇ。どんな人なの?」
「ドジで運が悪くて、でも時々儚く見えて、俺を魅了して離さない女がいる」
そう言ってからハッとした。自分でも驚くほど自然に口から出てきた言葉に戸惑う。だが嘘ではない。本当のことなのだ。
「そいつの心を掴む何か、その、コツやアドバイスを聞きたい」
「そっかぁ・・・そうだな。うーん・・・」
シオンはどんな答えを出すのだろう。優しい彼女のことだ。相手に寄り添い、その上で誰もが納得できる最適解を導き出すのだろう。
「褒めること、だと思うな。私だって好きな人に褒められるの嬉しいし。それに大事にされてるなって感じるし。だから、その子の良いところを見つけたらどんどん伝えてあげて。きっと喜ぶと思う!」
「なるほど・・・参考にする」
シオンらしいアドバイスだ。それも俺にとっては最高の策だ。
俺はそっと、さりげなく彼女の手に触れようとしたがその瞬間。
「ダメ!お触りは禁止です!」
「むぅ・・・」
またもや拒絶されてしまった・・・そう、これはごっこ遊びだ。猛烈にシオンに触れたいが、耐えなければ。俺が肩を落としていると彼女は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「あっあのね・・・別に意地悪してるわけじゃないよ?白竜くんに私の気持ちを知ってもらいたくて・・・」
「シオンの気持ち?」
「白竜くんが女の子に触れるのは私だけにしてほしい・・・」
彼女の顔がみるみると赤く染まっていく。なんだこのかわいい生き物は。俺はシオン以外興味はない。そもそもコイツ以外の人間に触れようという発想が浮かばない。なのに何故?疑問が湧いたが、すぐに答えが出た。
「聞いてたら、白竜くんが知らない誰かを好きになっちゃう想像して・・・ちょっと、妬いた」
「!!」
俺の好きな奴はお前だというのに!俺の心を見越した作戦か!?・・・可愛い。可愛すぎる。今すぐ抱きしめてキスしたい衝動に駆られるがグッと堪える。
「・・・大丈夫だ。俺はシオンだけを愛してるから安心してくれ」
「ホント・・・?」
「ああ」
その言葉を聞いた途端シオンは安堵の表情を浮かべた。しかしすぐにハッとして慌てて言う。
「わわ、ダメ!これはネオジェンヌごっこ!恋愛もNGっ!」
「さすがにガード堅すぎないか?!」
「これくらいがちょうどいいんだよ!」
「これごっこ遊びだろ?!」
完璧に再現しようとしているのがまた俺の心を擽る。もし本当にシオンがネオジェンヌになったら通って貢ぐ自信がある。ん?そうなると・・・他の奴にもこういう接客をするのか?
「なぁ、一つ聞いても良いか?」
「なに?白竜くん」
「もし、今の・・・ネオジェンヌの仕事をやめて自分と結婚しろと言われたらどうする?」
「えっ」
少し意地悪すぎたかな。でも知りたい。客の男に惚れられた、ネオジェンヌのシオン。そいつが持つ天使のような笑顔を自分だけのものにしたくて彼女に仕事を辞めさせようとする。客が俺ならそうする。もちろんお前は困惑するだろう。あくまで客と店の関係なのに勘違いする輩は絶対いる。こんな好意を向けられたら・・・お前は、どうする?どう答える?期待してシオンを見ると・・・頬を朱に染めながらも答えてくれた。
「その人のことを・・・もっと深く知ろうと思うかな」
「えっ」
「それで・・・私と一緒にいたい理由とか、お店に来てくれるときにいろいろ教えてもらって・・・お互いのことを知りながら関係を築いていけたらいいなって思う」
「・・・!」
正直言って意外だった。客とはいえ知らない人との結婚を前提とした交際など即NOと言われても仕方がないと思っていたから。・・・まさかOKする(?)とは思わなかった。嬉しさ半分嫉妬半分といった複雑な心境だ。
俺みたいな奴の話をさせてしまっていることに腹が立つ反面彼女の純粋さに救われている自分がいる。だがこれはごっこ遊びだ。本番じゃない。
「・・・仮に俺がその、結婚したいと言い出した人物だったらどうする?」
「えぇ?!」
シオンはさらに驚いている様子だったが俺の質問を聞いて真剣な眼差しになった。
「そう・・・だね。もし白竜くんとそういう状況になったら、嬉しいよ」
「嬉しい・・・?」
「うん。だって私好きな人と結婚したいから。それに・・・白竜くんなら・・・その・・・」
そこで言葉を区切った。何を言おうとしているんだ?続きを促すように見つめるとシオンはもじもじしながらも言った。
「多分断れないし・・・流されちゃうかも・・・あはは」
「ッ・・・!!」
理性が崩壊しそうだった。今すぐ押し倒してしまいたい衝動に駆られたが必死に抑えつけた。危なかった。あと一歩で手を出してしまいそうだったぞ!落ち着け俺!!深呼吸を繰り返し冷静を取り戻す。
「ぐぅぅ・・・!!」
「どうしたの?白竜くん」
小首を傾げる彼女はまるで猫のようだ。愛くるしい顔して悪魔のような誘惑をしてくる。全く罪深い女だ。
「えっとその・・・私も聞きたいことがあるんだけど・・・」
「なんだ?」
「白竜くんは好きな人を振り向かせるためにどんな行動をするの?」
「それは勿論・・・まず徹底的にそいつを口説き、ライバルがいたら牽制する。それから隙あらば手を握ったり抱き寄せて距離を縮める」
「おぉ・・・」
「次にそいつの好きなものを把握し好みを分析してプレゼントを贈る。最後に告白だな」
「わぁ・・・す、すごく情熱的だね・・・」
「当然だ」
「わ、わかった・・・覚えておくね・・・」
シオンは照れたように俯いてしまった。こうすれば多少は俺の事を意識してくれるだろうか。期待を込めて彼女を覗き込む。
「なぁシオン」
「ひゃいっ」
小さく跳ねたあとこちらを見上げた。大きな目で見つめられてドキドキしてしまう。
「もう一度訊くが・・・結婚したいと言ったら承諾するのか?」
「うん・・・白竜くんにそう言われたら断れないし、喜んで受け入れます」
「そうか」
素直に認められてしまった。これは脈ありと思ってもいいのだろうか。いや脈ありに決まってるだろう。そんなことを考えているうちに俺はいつの間にか彼女の耳元まで近づいていた。
「じゃあ・・・俺が結婚しようと言ったら受け入れろ」
「えっ」
「断れば監禁するからな」
「ひぃっ!」
突然のプロポーズ宣言に驚いたのかシオンは固まってしまった。慌てて首を縦に振ってくれた。
「は・・・はい・・・!」
よかった。嫌がられなくて。シオンは緊張した面持ちで俺を見つめている。そんな彼女が愛おしくて堪らない。俺は再び口を開いた。
「なぁシオン」
「うん・・・なに?」
「キスしてもいいか?」
シオンの目が大きく見開かれる。予想外の発言だったのだろう。頬が赤く染まり湯気が立ち昇る錯覚さえ起きるほど照れている。だが俺は構わず続けた。
「頼む」
「あ、えっと・・・」
「もうごっこ遊びはおしまいだ」
「わっ・・!」
シオンの腰を自分に引き寄せる。そして彼女の左手に俺の右手を重ねる。誓いのキスがここになるとはな。大人になったらちゃんとした場所で出来るのに。もう我慢が出来ない。ゆっくり顔を近づける。唇まであと・・・
フッ・・・
「!?なに・・・?」
突然視界がモノクロになった。目の前のシオンが驚いた顔のまま固まっている。俺以外の時間が止まっているようだった。そのとき。
ドクンッ・・・
「うっ!?な、なんだ、熱い・・・!」
突然胸の中が発熱した。思わず押さえる。何かが爆発したような感じがする。待て、何かが、出て来ようとしている・・・?!
「ぅあ・・・!」
俺の胸から眩い光が溢れた。出てきたのは・・・
「光る、蝶・・・?」
大きくて後翅が長い、虹色に光る蝶が姿を現した。まるで羽化を見ているようだった。目が離せないでいると、ふわりと蝶が飛び立つ。すると、今度はシオンの胸に何か淡い黄色い蕾があるではないか。
「シオン?」
見ているとそれが開いて美しい花が現れた。ゲッカビジンにそっくりだ。すると光る蝶が花に止まる。そしてそれらが更に眩い光を放つ・・・!
「うっ・・・!!」
俺は思わず目を閉じる。次に瞼を開けると・・・
「白竜くん!どうしたの?」
「・・・」
シオンの手を取ったまま呆然としてしまう。時間が動き始めたのか?いや、蝶と花はどうなった・・・?
「具合が悪いの?」
「・・・えっ!?あ、ああ・・・大丈夫だ」
まだ混乱している頭を無理矢理働かせようとする。何が起こった?先程の体験は一体・・・
「もうこんな時間だね。そろそろ寝ようか」
気づけば時計の針が深夜12時をさしていた。この時間までお喋りしていたので俺もシオンも眠気に襲われる。
「そう・・・だな」
部屋へ戻ろうとして気がつく。手を繋いだままだ。俺は咄嵯にシオンの手を引いて寝室へ向かった。一つになりたい。同じベッドで抱き締めあって眠りにつきたい。勢いよく扉を開ける。シオンが後から入ってくるのを確認すると、そのまま彼女を抱き寄せてベッドに押し倒す。
「・・・白竜くん?」
「今夜は寝かせないからな」
「ふぇ?!」
「覚悟しろ」
有無を言わさぬ口調で迫る。シオンは抵抗せずただ黙って見上げていた。その瞳には恐怖よりも期待の方が多く混じっているように見える。
「うん・・・きて」
そう答えると静かに目を瞑った。その態度に満足した俺は彼女に覆い被さるようにして顔を寄せる。今夜はめちゃくちゃにした後にずっとお前を抱いて眠ってやるぞ。・・・でも、もう少しだけ、触れさせて欲しい。頼むから拒絶しないでくれ。そんな願いと共に俺達はキスをした。
「ん・・・」
微睡みの中でぼんやりと思考回路が働き始める。朝だ。カーテンの隙間から漏れ出る日差しと鳥の囀りが耳に入る。今日は土曜日だからまだ寝ていてもいいのだが・・・ん?
誰かに包まれている感覚がある。温かくて柔らかい。この匂いは・・・シオンか。
昨晩のことを思い出す。そうだ。昨夜はシオンと同じベッドで寝たんだ。俺はシオンを腕枕していた。彼女は俺の胸に額をくっつけて眠っている。
「フッ・・・幸せそうな顔して・・・」
穏やかな寝顔だ。可愛らしい。その頬に軽くキスをするとピクリと反応した。起こしたかと思ったがまだ眠り続けているようだ。俺は少し身体を起こすとシオンの頭を撫でてやった。
「んぅ・・・」
くすぐったかったのか身動ぎをする。それでも起きる気配は無い。無防備だな。俺は何度も彼女を抱きしめたり頬擦りしたりした。シオン・・・可愛い。俺の大切な人。
「愛してる」
愛おしさで胸がいっぱいになる。この気持ちを伝えたくて仕方が無い。
「ん・・・」
薄っすらと目を開けるシオン。起きたようだ。目を擦りながら俺を見るとふにゃりと笑った。
「おはよう・・・白竜くん・・・」
「ああ。おはよう。昨日のことは覚えているか?」
そう訊ねるとシオンは思い出したようにハッとした表情になる。
「ごっごめん・・・!私途中から記憶が曖昧で・・・!」
「気にしなくていい。それより身体に違和感はないか?」
俺の質問に首を振るシオン。その様子だと問題無いみたいだな。安心した。もし万が一彼女に何かあったらどうしようかと思った。「白竜くんは元気?」
「ああ」
俺も特に異常は無い・・・だが気になる点はある。あの光る蝶と花のことは誰にも話していない。もしかしたらあれは・・・俺の精神を具現化したものかもしれないな。あれから何故か満たされたような気分なんだ。
「朝ご飯食べようか」
「そうだな」
俺とシオンは立ち上がってキッチンへ向かう。そしてトースターに食パンをセットし焼き上がるまでの間二人並んでコーヒーを飲むことにした。しばらくして香ばしい匂いと共にチンッという音が鳴り響く。皿に乗せてテーブルに運び席に着く。いただきますと言って一口齧り付く。サクッとした歯ごたえとともにバターの風味が広がる。今日も一日が始まる。
「ねぇ白竜くん」
「なんだ?」
「またしようね、ネオジェンヌごっこ」
突然の提案に俺は目を丸くした。そしてすぐに微笑み返す。
「・・・気が向いたらな」
やはりシオンは俺にとってかけがえのない存在だ。