私雨

Jessica side


パニ「じゃあ、いってきま~す…
着いたら連絡するね」


ユナ「いってらっしゃ~い」


シカ「気を付けて」


目を真っ赤に腫らしたティファニーは、お昼頃に荷物をたくさん抱えてアメリカへと旅立った
散々探し回った末にテヨンと会えたと言っていたのに泣き腫らしたような彼女の様子を見れば、
昨日の夜にテヨンと何があったかはだいたい想像がつく


二人が未だすれ違っていることに少し安堵してしまう自分がいることは確か
だけど、こんな生殺しみたいな状態が続くのはもう本当に勘弁してほしかった


ティファニーを送り出して部屋に戻っていると、
前方にいたユナが元気よく声を出す


ユナ「よし!洗濯しよ!
シカオンニは何か洗濯物ある?
私、今日は皆のシーツとかまとめて洗おうと思ってるの」


シカ「う~ん…ちょっと待って
部屋を見てくるわ」


ユナ「何回か洗濯するから、もしあったら持ってきてね」


シカ「わかった
ありがとう」



洗濯をお願いするようなものはあったかと部屋に戻ってベッド周りを見る
昨日、私が涙をぬぐい、目元を冷やすために使ったタオルは、
すでにユナによって回収されているようだった

途端にやることがなくなってしまい、
部屋を出て自分の部屋を片付けていたユナに声をかける


シカ「ユナ~、手伝うわ
他の部屋のシーツとか剥がして持っていけばいい?」


ユナ「あ、オンニありがと~
でも、私やるから大丈夫だよ
オンニは私にジュースを準備してくれたら嬉しいな♪」


シカ「あははっ わかったわ
でも、少しは手伝うわよ
シーツ剥がすだけでもやるから」



私はさっと自分の部屋に戻って自分とスヨンの枕カバーとシーツを回収し、
次に、ユナがまだ手をつけていなかったテヨン達の部屋に入った



カチャッ




そそくさとベッドに近づいてテヨンの枕を手に取る
枕カバーを外しながら、無意識にテヨンのベッドに一目散に向かってしまった自分に小さく笑った


やめよやめよ
余計なことは考えない
今はシーツの回収に来たんだから



自分を誤魔化すようにシーツを勢いよく引っ張ると、
ベッドの奥の方で巻き込まれたままのシーツがビリッと嫌な音を立てる


やばっ…


慌てて音がした方に向かい、
ベッドのマットレスを少し持ち上げてシーツを丁寧に取り出す
破れたかと思ったけれど、どうやらそんなことにはなっていないようだった
ほっとしながら今度はシーツを丁寧に剥ぎ取り、
同じようにソニのベッドのものも回収した

両方のベッドの洗濯物を一ヶ所に集めてから、
最後に部屋全体を見回してタオルなどが置いてないかチェックする
なんとなくテヨンのベッドの方を念入りに見ると、
クローゼットの扉がちゃんと閉まり切っていなかった


もう…しょうがないわね



そう心の中で呟きながら、嬉々としてテヨンのクローゼットを少しだけ開いて中を覗く
すると、テヨンが少し前に私だけにこっそり教えてくれた期間限定ポテトチップスの段ボール箱が、
縦に二つ重なってクローゼットの端に寄せられていた


テヨンってば二箱も買ったわけ?
よく飽きないわね

そういえば残りの袋の数もチェックしてるって言ってたっけ
ふふふっ 本当にちゃんとチェックしてるのか試してみようかしら


ここで私が一袋取ってそれがバレたら、テヨンはすぐに私の仕業だと気づくだろう
彼女はこのポテトチップスの存在を私にしか教えていないはずだから

ばれなかったらまた取ればいいし、
ばれたらきっとテヨンに半泣きで責められる
だけど、ばれてもいい
寧ろばれてほしい
そうやって少しでもテヨンとじゃれ合う口実が欲しかった


見つかりにくいように、2つ重なっていたうちの上段の箱をおろし、
下に置かれていた箱から1袋取ることにした
段ボールの上部に貼られているガムテープを、剥がしたことがばれないように丁寧にめくっていく
だけど、それは思ったより粘着力が失われていて案外簡単に剥がれてしまった

ぴっちり閉じてるように見せかけて、ただ載っているだけのようなガムテープ
確かに袋をチェックするたびに毎回新しいものに替えるのは手間だ
テヨンの細やかな小細工に笑いを耐えながら段ボールの上部を開けた



何これ…




ポテトチップスだと思って開けた段ボールの中身は、ポテトチップスどころか食べ物でさえなかった
スケッチブックが数冊と、フォトブックだと思わしきものが十冊以上、
そして、細々とした雑貨や可愛らしいぬいぐるみ
それらが少し乱雑に詰め込まれていた

好奇心に駆られてフォトブックと思わしきものを一冊を取り出して中を見ると、
デビューして2年くらい経った頃のテヨンとティファニーの写真がたくさん入っていた
また別の冊子を取ると、今度は練習生時代の二人の写真
どの冊子をめくってもめくっても二人の写真


何これ
あんた達、どんだけ撮ったのよ…


二人の強い絆を見せられたようで、ひどく胸が痛んだ
そして、遅れてこの段ボールを閉じていたはずのガムテープの粘着力が失われていた意味を悟る


もしかして、何度も開けて見てたわけ…?


醜い嫉妬の黒と、救いようのない悲しみの深く暗い青に心が塗りつぶされ、
思わず眉をしかめ、手に力が入った
それからこのどうしようもない想いをぶつけるように乱暴に段ボールを閉じ、
元あったように上部にもう一つの段ボールを重ねてクローゼットを閉める
部屋の入り口にかためて置いていた二人分のシーツ類を腕に抱え、
黙々と足早に部屋を出た




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