夢のあとさき
新しいジュエリーブランドのリリース記者会見。
目玉となるジュエリーのお披露目も兼ねた、新ブランドの今後を左右する重要な日。
私は徹夜でギリギリまで職人さん達と最後の調整をしてその日を迎えた。
当日は私の憧れのチョン・ジェシカも大きなコンテストのファイナルを迎えていた。
私は一目だけでも大きな舞台で輝く彼女を見て力をもらうべく、
記者会見場に目玉となるジュエリーを届ける前にコンテスト会場へと足を向けた。
私が会場に着いたのは運よくジェシカのファイナルの出番前。
しかし既にコンテストが始まっていたため会場の外は人がまばらだった。
すると、少し奥の方から「何だって!?」という大きな声が聞こえてきた。
明らかに何かトラブルがあったとわかる声色。
バタバタとスタッフらしき人たちが数人前を横切り、会話のところどころで「ジェシカ」という単語が聞こえた。
私はいてもたってもいられず彼らの後ろについてスタッフエリアに立ち入る。
成り行きで入ってしまった裏方エリアの一角では廊下で数人が固まって真剣な表情で話し合っており、
離れたところではまた別の数人が怒りに声を荒げていた。
彼らの声を拾ってみると、どうやらファイナルのためのジェシカの衣装を誰かによって故意にダメにされてしまったらしい。
アクセサリーも盗まれてしまい、どうしようもなくなっていると。
怒りに満ちた嘆きの声と共に、辺りには絶望的な雰囲気が広がっていた。
どんなときも私の心の支えだった憧れのジェシカの大きな舞台。
悔しいけれど完全に部外者である私にはどうしようもなかった。
目の前で起こっている悲惨な状況に何か突破口はないのかと必死に頭を動かす。
何かないか、この状況を打破できるものは。
何か…っ!
ふと、手に持っていたジュエリーボックスの入った紙袋に目をやる。
あいにく私には衣装の問題はどうしようもないが…。
このコンテストはジェシカが世界に羽ばたくかどうかが掛かっている。
それに、新ブランドお披露目のために用意した作品はこれ以外にも数点ある。
どれも自慢の作品だ。
私の作品をジェシカにつけてもらうのが夢だったじゃないか。
これは私の夢が叶う瞬間だ。
気づいたら私は近くを通りがかったスタッフ証をつけた女性にジュエリーの入った紙袋を押し付けていた。
「え?え?何?」
そう驚く彼女の目の前で急いでメモを書いてそれを添え、絶対にジェシカに渡すように念押しした。
「すみません。私はもう行かなくてはならないので失礼します。
それ、絶対にジェシカさんに渡してください。
お願いいたします」
スタッフ証をつけていない私がこの場にいることに気づかれる前に立ち去るべく、
さっと頭を下げてから慌ててスタッフ区域から出る。
ほっと溜息をつくと、手ぶらになった手元を見て思わず苦笑いが漏れた。
結構やらかした自覚はある。
これから新ブランドの発表会見がある会社にとっても、
そして身元不明な者がいきなり見知らぬジュエリーをモデル名指して押し付けたという点でも。
きっと父は激しく怒るに違いないし、一緒にあの作品をつくりあげた仲間達にも言い訳のしようもないことをしてしまった。
だけど、ここであれを渡さなければ私は一生後悔する。
それは確信的な予感だった。
だから、後悔はない。
その後、記者会見場に向かった私の手元には届けるはずだった作品がなく、
直前になってバタバタといろんな変更が生じた。
そして当然ながらこのことは会社で大問題に発展した。
私の知らぬ間に裏でどうにか私をジュエリーデザイナーとして起用できないかと動いてくれた方々がいたらしいのだが、
それは当然流れてしまった。
既に私はデザイナーになる夢を諦めていたが、
周りの方々はこうなってしまった結末を大いに嘆き、どうして大事な時に作品を紛失するのかとしこたま怒られた。
それから父はというと、想像通りの怒髪天で即刻デザインから手を引いて結婚しろと言われた。
私は何も言わずにそれを受け入れた。
結婚話に反対もせず、行方不明の作品の詳細を多くは語ろうとしない私の態度に父は不信を募らせたらしい。
その後、私がデザインした作品達は他のデザイナーの手によるものだと発表され、私の実績は全て無かったことにされた。
目玉となるジュエリーのお披露目も兼ねた、新ブランドの今後を左右する重要な日。
私は徹夜でギリギリまで職人さん達と最後の調整をしてその日を迎えた。
当日は私の憧れのチョン・ジェシカも大きなコンテストのファイナルを迎えていた。
私は一目だけでも大きな舞台で輝く彼女を見て力をもらうべく、
記者会見場に目玉となるジュエリーを届ける前にコンテスト会場へと足を向けた。
私が会場に着いたのは運よくジェシカのファイナルの出番前。
しかし既にコンテストが始まっていたため会場の外は人がまばらだった。
すると、少し奥の方から「何だって!?」という大きな声が聞こえてきた。
明らかに何かトラブルがあったとわかる声色。
バタバタとスタッフらしき人たちが数人前を横切り、会話のところどころで「ジェシカ」という単語が聞こえた。
私はいてもたってもいられず彼らの後ろについてスタッフエリアに立ち入る。
成り行きで入ってしまった裏方エリアの一角では廊下で数人が固まって真剣な表情で話し合っており、
離れたところではまた別の数人が怒りに声を荒げていた。
彼らの声を拾ってみると、どうやらファイナルのためのジェシカの衣装を誰かによって故意にダメにされてしまったらしい。
アクセサリーも盗まれてしまい、どうしようもなくなっていると。
怒りに満ちた嘆きの声と共に、辺りには絶望的な雰囲気が広がっていた。
どんなときも私の心の支えだった憧れのジェシカの大きな舞台。
悔しいけれど完全に部外者である私にはどうしようもなかった。
目の前で起こっている悲惨な状況に何か突破口はないのかと必死に頭を動かす。
何かないか、この状況を打破できるものは。
何か…っ!
ふと、手に持っていたジュエリーボックスの入った紙袋に目をやる。
あいにく私には衣装の問題はどうしようもないが…。
このコンテストはジェシカが世界に羽ばたくかどうかが掛かっている。
それに、新ブランドお披露目のために用意した作品はこれ以外にも数点ある。
どれも自慢の作品だ。
私の作品をジェシカにつけてもらうのが夢だったじゃないか。
これは私の夢が叶う瞬間だ。
気づいたら私は近くを通りがかったスタッフ証をつけた女性にジュエリーの入った紙袋を押し付けていた。
「え?え?何?」
そう驚く彼女の目の前で急いでメモを書いてそれを添え、絶対にジェシカに渡すように念押しした。
「すみません。私はもう行かなくてはならないので失礼します。
それ、絶対にジェシカさんに渡してください。
お願いいたします」
スタッフ証をつけていない私がこの場にいることに気づかれる前に立ち去るべく、
さっと頭を下げてから慌ててスタッフ区域から出る。
ほっと溜息をつくと、手ぶらになった手元を見て思わず苦笑いが漏れた。
結構やらかした自覚はある。
これから新ブランドの発表会見がある会社にとっても、
そして身元不明な者がいきなり見知らぬジュエリーをモデル名指して押し付けたという点でも。
きっと父は激しく怒るに違いないし、一緒にあの作品をつくりあげた仲間達にも言い訳のしようもないことをしてしまった。
だけど、ここであれを渡さなければ私は一生後悔する。
それは確信的な予感だった。
だから、後悔はない。
その後、記者会見場に向かった私の手元には届けるはずだった作品がなく、
直前になってバタバタといろんな変更が生じた。
そして当然ながらこのことは会社で大問題に発展した。
私の知らぬ間に裏でどうにか私をジュエリーデザイナーとして起用できないかと動いてくれた方々がいたらしいのだが、
それは当然流れてしまった。
既に私はデザイナーになる夢を諦めていたが、
周りの方々はこうなってしまった結末を大いに嘆き、どうして大事な時に作品を紛失するのかとしこたま怒られた。
それから父はというと、想像通りの怒髪天で即刻デザインから手を引いて結婚しろと言われた。
私は何も言わずにそれを受け入れた。
結婚話に反対もせず、行方不明の作品の詳細を多くは語ろうとしない私の態度に父は不信を募らせたらしい。
その後、私がデザインした作品達は他のデザイナーの手によるものだと発表され、私の実績は全て無かったことにされた。