不器用な男達
四月二日。今日は俺の十九歳の誕生日。
「武蔵君、お誕生日おめでと〜!たくさん食べて!ほら!」
「ありがとうございます」
十九歳の誕生日祝いには不似合いな居酒屋のカウンター。高校を卒業後、ヒル魔の協力を得て半ば強引に恋人関係になった〇〇さんと並んで座る。〇〇さんから渡されたメニュー表を見て、自分が食べたい物をいくつか頼んだ。
「本当に良かったの?せっかくの誕生日だっていうのに、いつもの居酒屋がいいだなんて…もっとさ、焼肉とかお寿司とかあったんじゃない?お酒が飲めないのに居酒屋なんてさぁ…私だったら辛いわ…」
大袈裟に目元を覆い泣くふりをする彼女は、すでに一杯目のビールを飲み干し二杯目もほぼ無くなりかけていた。
「慣れた場所の方が気が楽なんで」
「まぁ、それはそうだけど…あ、おじさんビールおかわりお願いしまーす!」
二杯目も飲み干し三杯目を注文する。毎回思うが、この人の飲むペースはウチの工務店の誰よりも早い。届いたビールを受け取り、早速嬉しそうに口をつける彼女の顔を見て小さく笑う。
「…ん?何?どうしたのこっち見て。ダメよ、未成年にお酒は飲ませないからね!」
「わかってます」
理解はしているものの、時に感じる歳の差が鬱陶しく思う。見た目は俺の方が上に見えるのに、実際は八つも違う。それに成人していないとなると、未成年だから、子供だからという理由で一線を引かれてしまう。あと一年待てばいい話だが、全く進展しない関係に焦っているのもある。
「あ、武蔵君。誕生日プレゼントは何が欲しいか決まった?」
〇〇さんが少し赤くなった顔で、覗き込むようにして俺を見る。
「…物とかじゃないんですけど」
言うか迷ったが俺とこの人との関係を進めるには、こういう時しか望めないと思った。
「…あなたと、キスがしたいです」
何度も言うのは恥ずかしいので、一度で聞き取ってもらえるように耳元で伝えた。ゆっくりと離れ、驚いた顔をした〇〇さんと見つめ合う。緊張で背中にじわりと汗が滲んだ。
「…ちょ…おじさん!この子にお酒出した!?」
突然、カウンターから調理場にいる店主に声をかけた。調理場から『ちゃんと確認しとるわ!』と返事が返ってくる。
「えぇ〜?武蔵君、ほんとにそれお茶〜?」
「お茶…だと思いますけど…」
「んー私が酔ってるのかな…ま、いっか!了解了解!」
一人で何かに納得して、ビールのおかわりを注文した。
「あ、武蔵君これ美味しいのよ!食べてみて!」
そして何事もなかったかのように差し出された料理を見て、自分の話はスルーされたのだとわかった。
(…まだ、早いって事か)
やはり、この歳の差が忌々しいと思った。
次の日、まだ誰も来ていない事務所で仕事の準備を始める。今日の作業を確認していると、ドアが開き〇〇さんが入ってきた。
「おはよ〜!今日も早いわね」
「そう言うあなたも早いですよ。二日酔いは大丈夫ですか?」
「あれくらいじゃ二日酔いにはならないよ」
そう言って笑う〇〇さんは誰よりも早めに来て、俺達が仕事にすぐ取り掛かれるように段取りをしてくれている。だから俺も早く来て彼女を手伝う。忙しくてまともに二人きりになれない事が多いため、俺にとっては数少ない貴重な時間なのである。
「はい、武蔵君誕生日プレゼント〜!」
差し出された黒い箱を開けてみれば、高級そうなボールペンが入っていた。
「仕事で使える物がいいと思って。それすごく書き心地いいんだって!」
「ありがとうございます。大切にします」
そう言って丁寧に箱にしまい、机のよく見える位置に置いた。
「いや、使ってよ?」
「大事な書類を書く時に使います」
「えぇ…まぁいっか。あ、まだあるんだった」
再び彼女が隣に立ち、まだ何かあるのかと顔を向けた時だった。彼女の香りが一気に近くなったと思ったと同時に唇に柔らかい感触。それが何なのか理解する前に離れてしまう。
「…はい、これで良い?昨日はお酒飲んでたからね」
そう言って早足に裏口から出ていこうとする彼女をすぐさま追いかけ、壁に追い詰める。
「ちょ…えっ何!?怖い!怖いんだけど!?」
驚く彼女を捕まえて強引に口付ける。
「んーー!!ちょっと!?」
「…たった一回で満足できるわけないでしょ。俺がどれだけ我慢してたと思ってるんすか」
「だからって…んーー!?」
説教が始まりそうだったのでまた唇で口を塞ぐと、くぐもった声が聞こえ可笑しくて笑ってしまう。
「はい、終わり!!もういいでしょ!?あんまりがっつく子は嫌われるわよ!」
自分の口元をガードするように両腕で隠す彼女の顔は真っ赤だった。
「すみません。でも、急にあんな事をする〇〇さんも悪いと思います」
「うっ…それは…そうね」
「これからは定期的にお願いします。でないと俺、今みたいにがっつくと思うんで」
「は!?」
彼女が声を上げたと同じくらいに、外から仕事に来た職人達の声が聞こえてきた。
「誰か来たみたいですね。じゃあ今日も頑張りましょう」
最後にもう一度唇を奪い、裏口から外へ出る。一度だけ振り返れば、両手で真っ赤な顔を覆う彼女が見え嬉しくなる。
この人には敵わない事が多いけれど、いつまでも子供だと思ってもらっては困る。これで少しはわかってもらえただろうと、上機嫌で仕事に取り掛かった。
「武蔵君、お誕生日おめでと〜!たくさん食べて!ほら!」
「ありがとうございます」
十九歳の誕生日祝いには不似合いな居酒屋のカウンター。高校を卒業後、ヒル魔の協力を得て半ば強引に恋人関係になった〇〇さんと並んで座る。〇〇さんから渡されたメニュー表を見て、自分が食べたい物をいくつか頼んだ。
「本当に良かったの?せっかくの誕生日だっていうのに、いつもの居酒屋がいいだなんて…もっとさ、焼肉とかお寿司とかあったんじゃない?お酒が飲めないのに居酒屋なんてさぁ…私だったら辛いわ…」
大袈裟に目元を覆い泣くふりをする彼女は、すでに一杯目のビールを飲み干し二杯目もほぼ無くなりかけていた。
「慣れた場所の方が気が楽なんで」
「まぁ、それはそうだけど…あ、おじさんビールおかわりお願いしまーす!」
二杯目も飲み干し三杯目を注文する。毎回思うが、この人の飲むペースはウチの工務店の誰よりも早い。届いたビールを受け取り、早速嬉しそうに口をつける彼女の顔を見て小さく笑う。
「…ん?何?どうしたのこっち見て。ダメよ、未成年にお酒は飲ませないからね!」
「わかってます」
理解はしているものの、時に感じる歳の差が鬱陶しく思う。見た目は俺の方が上に見えるのに、実際は八つも違う。それに成人していないとなると、未成年だから、子供だからという理由で一線を引かれてしまう。あと一年待てばいい話だが、全く進展しない関係に焦っているのもある。
「あ、武蔵君。誕生日プレゼントは何が欲しいか決まった?」
〇〇さんが少し赤くなった顔で、覗き込むようにして俺を見る。
「…物とかじゃないんですけど」
言うか迷ったが俺とこの人との関係を進めるには、こういう時しか望めないと思った。
「…あなたと、キスがしたいです」
何度も言うのは恥ずかしいので、一度で聞き取ってもらえるように耳元で伝えた。ゆっくりと離れ、驚いた顔をした〇〇さんと見つめ合う。緊張で背中にじわりと汗が滲んだ。
「…ちょ…おじさん!この子にお酒出した!?」
突然、カウンターから調理場にいる店主に声をかけた。調理場から『ちゃんと確認しとるわ!』と返事が返ってくる。
「えぇ〜?武蔵君、ほんとにそれお茶〜?」
「お茶…だと思いますけど…」
「んー私が酔ってるのかな…ま、いっか!了解了解!」
一人で何かに納得して、ビールのおかわりを注文した。
「あ、武蔵君これ美味しいのよ!食べてみて!」
そして何事もなかったかのように差し出された料理を見て、自分の話はスルーされたのだとわかった。
(…まだ、早いって事か)
やはり、この歳の差が忌々しいと思った。
次の日、まだ誰も来ていない事務所で仕事の準備を始める。今日の作業を確認していると、ドアが開き〇〇さんが入ってきた。
「おはよ〜!今日も早いわね」
「そう言うあなたも早いですよ。二日酔いは大丈夫ですか?」
「あれくらいじゃ二日酔いにはならないよ」
そう言って笑う〇〇さんは誰よりも早めに来て、俺達が仕事にすぐ取り掛かれるように段取りをしてくれている。だから俺も早く来て彼女を手伝う。忙しくてまともに二人きりになれない事が多いため、俺にとっては数少ない貴重な時間なのである。
「はい、武蔵君誕生日プレゼント〜!」
差し出された黒い箱を開けてみれば、高級そうなボールペンが入っていた。
「仕事で使える物がいいと思って。それすごく書き心地いいんだって!」
「ありがとうございます。大切にします」
そう言って丁寧に箱にしまい、机のよく見える位置に置いた。
「いや、使ってよ?」
「大事な書類を書く時に使います」
「えぇ…まぁいっか。あ、まだあるんだった」
再び彼女が隣に立ち、まだ何かあるのかと顔を向けた時だった。彼女の香りが一気に近くなったと思ったと同時に唇に柔らかい感触。それが何なのか理解する前に離れてしまう。
「…はい、これで良い?昨日はお酒飲んでたからね」
そう言って早足に裏口から出ていこうとする彼女をすぐさま追いかけ、壁に追い詰める。
「ちょ…えっ何!?怖い!怖いんだけど!?」
驚く彼女を捕まえて強引に口付ける。
「んーー!!ちょっと!?」
「…たった一回で満足できるわけないでしょ。俺がどれだけ我慢してたと思ってるんすか」
「だからって…んーー!?」
説教が始まりそうだったのでまた唇で口を塞ぐと、くぐもった声が聞こえ可笑しくて笑ってしまう。
「はい、終わり!!もういいでしょ!?あんまりがっつく子は嫌われるわよ!」
自分の口元をガードするように両腕で隠す彼女の顔は真っ赤だった。
「すみません。でも、急にあんな事をする〇〇さんも悪いと思います」
「うっ…それは…そうね」
「これからは定期的にお願いします。でないと俺、今みたいにがっつくと思うんで」
「は!?」
彼女が声を上げたと同じくらいに、外から仕事に来た職人達の声が聞こえてきた。
「誰か来たみたいですね。じゃあ今日も頑張りましょう」
最後にもう一度唇を奪い、裏口から外へ出る。一度だけ振り返れば、両手で真っ赤な顔を覆う彼女が見え嬉しくなる。
この人には敵わない事が多いけれど、いつまでも子供だと思ってもらっては困る。これで少しはわかってもらえただろうと、上機嫌で仕事に取り掛かった。
