不器用な男達

「みんなお疲れ様ー!各自、休憩取ってねー!」
「りょうかーい!」
金属と金属がぶつかり合う音、重機のエンジン音などでうるさい現場によく通る声。
各々が使っていた工具を片付け、軽く食事を摂ったり煙草を吸ったりと思い思いに休む。そんな中、俺はあの人の背中を追いかけた。
その人は仮の休憩所である建物の裏へと歩いて行く。そして日陰になっている壁にもたれかかると、ポケットから小さな箱を取り出して、白い棒状の物を咥えた。その仕草には覚えがある。自分も一時期、嗜んでいたのだから。
「〇〇さん…それ…」
「ん?」
彼女が煙草を吸っている事なんて知らなかったし、煙草の匂いもしなかった。自分が知らなかった事実に、かなりショックを受ける。
俺が口元を見ているのに気づき、咥えていた物を指で挟むと取り出した箱と一緒に見せてくる。
「お菓子よ、お菓子!びっくりした?」
「…なんだ、菓子か…」
ほっと息をつき、彼女の隣へと並ぶ。
「武蔵君も一本いる?」
「ください」
器用にトンと一本頭を出したのをもらい、口に咥える。
「いや〜絵になるわ〜!あ、火もいる?」
「火?」
ただのラムネ菓子に火なんて必要ないのに、何の事かと彼女を見ると、何やら挑発的な笑みで口に咥えたラムネを上下に動かしていた。
(あぁ…そう言う事か)
「そうスね、火もください」
自分が咥えたラムネの先端と彼女のラムネの先端を、コツンと合わせる。
「ありゃ、知ってたかぁ。つまんないの」
本当は直接の方が良かったが、一応仕事場なのでこれで我慢する。
「うおっ!二人して煙草吸ってんのかよ!」
「はあぁぁぁ!?ガラ悪いぞ!」
黒木と戸叶が缶ジュース片手にやって来た。
「どの口がガラ悪いって?これは煙草じゃありませーん!お菓子でーす!」
「懐かしいもん食ってんな。まだ売ってんのか、コレ」
「何だ菓子かよ!姉さんはともかく、おっさんはまた吸い出したのかと思ったぜ!」
「…また?」
まずいと思った時にはもう遅かった。先程までの甘い空気はどこへやら。黒木の余計な一言のせいで、一瞬にして空気が凍りつく。二人もそれに気づいたのか目線をウロウロと泳がせている。
「武蔵君、またってどういう事かな?」
「…それは、その…」
「ちょっと、そこ座ろうか」
「…はい」
こっそりと逃げようとする二人の肩を掴む。
「おい、逃げんな。〇〇さん、こいつらも昔吸ってました」
「は?」
「はあぁぁぁ!?チクってんじゃねぇよ!おっさん!!」
「元はと言えば、お前が余計な事を言うからだろ。連帯責任だ」
「黒木君、戸叶君。そこ座ろうか」
「普段のちゃん呼びじゃねぇのが、マジ怖ぇ…」
大人しく三人で正座して説教を受ける。
「何も吸うなって言ってないの!ちゃんと決められた年齢を守りなさい、わかった?」
「「はーい…」」
「よろしい」
フラフラと立ち上がる。
「吸い殻のポイ捨てなんかもダメよ?ちゃんと決められた場所にね!」
「大丈夫だって!もう吸う事なんてねーからよ!」
「アメフトやってるからな。煙草のせいで息切れとか格好悪いし」
「運動したあと不味いんだよなー」
「という訳だ。俺ら吸わねーから、心配すんな姉さん」
「…そ、良い心がけね二人とも」
「「だろ!!」」
二人は自信満々に答えると仲良くつばえながら去って行った。
「不良を更生させるなんて、アメフトも大したものね」
「あいつら根はいい奴らなんで」
「あら、後輩が真面目に取り組んでくれて嬉しいくせに。照れちゃって!」
脇腹を肘でつつかれる。
「武蔵君は?」
「俺も吸いませんよ。今の話で身体に悪いってのが、嫌と言うほどわかったんで」
「本当?力説したかいがあったわ〜」
彼女が一本ラムネ菓子を取り出す。それを奪い取り口に咥えた。
「あ、コラ!」
「俺は煙草よりも、こっちの方が好きみたいです。…また火、着けてもらってもいいですか?」
そう言って顔を近づけた。
彼女は余計な事を教えてしまったと呆れ顔をしていたが、新しいものを取り出し咥えた。コツンと先端がぶつかる。
これなら自分にも他人にも害はない。
むしろ、心身ともに健康的だと俺は思う。
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