不器用な男達
二月十四日、バレンタインデー。人によっては学校行事ぐらいに重大なイベントだったりする。好きな人に気持ちを伝える勇気がでない人達のための、お助けイベントだ。
私もそれに便乗するため、一ヶ月前からお菓子作りの練習、渡し方のシミュレーションをしてきた。鞄の中には今までで最高の完成度を誇る一品を厳選して持ってきた。
「なんで黒木なの?」
「別に良くない!?っていうか、今から渡しに行くって言ってんのにそれはないでしょ!」
昼休み。緊張で味のしない弁当をつついていると、友達が失礼な発言をする。
「私はどっちかって言うと、十文字」
「いや、アンタの好みとか知らないし!いいのよ!私が好きだって言ってるんだから!他人が何と言おうと…」
「何が好きなんだろ〜とか、甘さは控えめの方がいいかな〜って散々聞いてきたくせに」
「うっ…そ、それはまた別の話で…」
「はいはい。食べたらとっとと渡してきなよ」
手で追い払われるようにして教室を出た。彼はどの季節でも、大体屋上にいる。バレンタインのプレゼントを確認し、深呼吸をして屋上へと向かった。扉を開け様子を伺えば、意中の人物といつも一緒にいる十文字と戸叶が座って話している。この寒い中、外で話すなんて元気な人達だと思う。もう一度深呼吸をして三人がいる場所に近づいた。
「く…黒木!ちょっといい?」
「あ?何だよ」
黒木はその場からこちらに顔を向けるが、動こうとはしない。
「ちょっとこっち来て!」
「はあぁぁぁ?めんどくせーな」
「いいから来て!」
黒木がゆっくりと立ち上がり、のろのろと近くまでやって来た。
「何だよ?」
「…こ、これ、アンタにあげる!」
準備期間一ヶ月。甘さ控えめのガトーショコラ。
「…お、おう。もしかしてバレンタインデー的なやつか?」
「そ、そうたけど…」
ドキドキしながら反応を待つ。わざわざここまで渡しに来て、これだけ手の込んだプレゼントを貰えば、さすがに私の気持ちに気づくだろう。
「…お、おっしゃぁぁぁ!オラァ!見やがれ!十文字ぃ!俺もチョコ貰ったもんね〜」
「はぁ?いつそんな勝負してたんだよ」
「ついにお前にもモテ期が?」
黒木が勝ち誇ったように二人へと見せびらかしに走る。私はその光景をポカンと見ていた。
「ありがとなー▲▲!」
「え…あ、うん。どういたしまして」
惚れた弱みか本気で嬉しそうな笑顔に、ただ返事をする事しかできなかった。
私は燃え尽きてしまったかのように、ふらふらと教室へ戻った。そして自分の席へ着くと、勢いよく机に突っ伏した。
「…えーと、大丈夫?」
私の様子をおかしく思った友人が、恐る恐る声をかけてくる。
「…大丈夫じゃない…あのバカ、チョコ貰って浮かれてんの。私の気持ちなんて、これっぽっちも伝わんなかった…」
「まぁ、あのお調子者の黒木だし、はっきり言ってやんないとわかんないでしょ」
「でも、飛び上がるくらい喜んでた…そこは可愛い」
「いいのかよ。私だったら殴ってるわ」
「…こうなったら来年よ!来年またチャレンジしてみせる!」
顔を上げて右手を突き上げる。それを見た友人がため息をついた。
「もう普通に告ったら?」
「そんな事できない!なんて言えばいいかわかんないし!」
「普通に好きです、付き合って下さいって言えばいいのよ」
「無理無理!だってそんな真面目な雰囲気になんないもん!」
「はぁ…これは拗れるわ…」
また友人が大きなため息をついた。ため息をつきたいのは私の方だ。一ヶ月頑張った結果が残念なものになってしまったのだから。
「これはホワイトデーに期待するしかないわ」
「そうよ!まだホワイトデーがある!」
ホワイトデーまでの一ヶ月で、私の気持ちに気づいてくれるかもしれない。そんな希望を胸にこの一ヶ月を過ごす事にした。
そして待ちに待ったホワイトデー。朝からソワソワと黒木から声をかけられるのを待っていた。しかし、特に何もなくあっという間に放課後となり終礼のチャイムが虚しく鳴り響く。
「わーん!黒木のバカー!アホー!」
「いいよ、もっと言ってやりな」
期待は裏切られ、終礼が終わるといつもの二人と一緒に部室へ行ってしまったのである。私は友人に泣きついた。
「私の乙女心を弄びやがって!」
「ま、こうなると思ってました。さすがに嫌いになった?」
「……まだ好き」
「あっそう」
鼻水をすすりながら窓の外を見ると、グラウンドで楽しそうに部活の練習準備をしている黒木の姿があった。
「…ちくしょーアメフトに負けたー!楽しそうにしやがって、可愛いかよ!」
「アンタがなんでそこまで黒木が好きなのか、よくわかんないんだけど」
「…中学の時からよく話しててさ、一緒にいると楽しいの。アイツ一時期グレてたけど、私には普通に話しかけてくれてさ…なんか特別なのかな〜と思ってたら、好きになってた…バカやろー!下睫毛長いんだよ、羨ましい!」
「わかったわかった。そんな長い付き合いならわかるでしょ。気づいてるか気づいてないかなんて」
「うぅ…悔しい〜」
「来年ね、来年」
「…うん」
まだ鼻水をすする私の背中を友人があやしながら教室を出た。
部活が終わりアメフト部の部室でだらだらしていると、遊びに来ていた鈴奈に、自分以外の男連中が次々にお菓子を渡している。
「ヤー!みんなありがとー!」
「あ?なんだ?誕生日か?」
「は?」
「はぁ?お前、今日何の日か分かってなかったのかよ」
十文字と戸叶に呆れた顔を向けられる。
「な…なんだよ、悪いかよ」
「今日、ホワイトデーだぞ。先月チョコ貰っただろーが。義理でもお返しすんだろ」
「ほ、ホワイトデー…やべ、すっかり忘れてた…」
「ひっでぇ…貰った時はあんなに喜んでたのによ」
「じゃあ、▲▲にも返してねぇって事か」
「うっ…」
「「うわぁ…」」
「し…仕方ねーだろ!忘れてたんだからよー!明日持ってくるから待ってろ!」
「別にお返しが欲しい訳じゃ…」
「うるせー!貰ったからには返すのが礼儀なんだろ!?準備してくるって言ってんだよ!」
「忘れてたやつがよく言うぜ」
「なー」
次の日、机の上に大きな袋が二つ。中には大量のお菓子が詰まっている。
「何だこれ」
「へっ!バレンタインのお返しだ、こんだけありゃ十分だろ!」
「お前コレ全部ゲーセンか?」
「この黒木様にかかりゃ、クレーンゲームなんて余裕、余裕!」
「つーか、こんなに返すほど貰ってたか?」
「あ?一つは鈴奈だろ。もう一つは▲▲のだよ」
「多すぎんだろ」
「いーんだよ。三倍返しとか言うんだろ〜?それに一日遅れてんだからこれくらいあった方が許してくれんだろ」
ぱんぱんにお菓子の入った袋を叩く。
「忘れねー内に渡してくるかー。いや〜バレンタインにチョコ貰うのも困りもんだなこりゃ」
大きな袋を一つ取り、ため息をつきながら自分の席を離れる。
「言い方腹立つな」
「二つしか貰ってねーだろ。しかも一つは義理」
「うるせぇ!ばーか!」
「「早く行け!!」」
二人の小言が聞こえ、言い返すために振り返れば怒鳴り返された。別に義理でも貰ったのは間違いないのだから自慢して何が悪い。勢いよく教室の扉を閉めてやった。
(えーと、アイツのクラスは確か…ここだったよな)
中学の時から交流があり、高校になってからも顔を合わせれば話をする事があった。一時期グレていた頃、他の奴らは関わりたくないと距離を取っていたというのにアイツだけはいつもと変わらなかった。それが今でも交流が続く理由だろう。
教室の扉を開け中を覗く。目当ての人物は友達とのおしゃべりに夢中のようだ。背後から近づき、目の前にドンと大きな袋を置いた。彼女は「何!?」と小さく悲鳴をあげ、元々ぱっちりとしている瞳をさらに大きく見開いて後ろを振り返った。
「…え!黒木!?何コレ!?」
「…あーその…先月のあれだよあれ。昨日だったの忘れててよ。遅くなった」
先ほどまで普通に渡して帰ればいいと思っていたのに、なんだか恥ずかしくなってきて上手く言葉がでない。
「あ…ありがと…」
「え、これ全部くれんの?すごいじゃん、どんだけ買ってきたの?」
「ちげーよ。ゲーセンで取ってきたんだよ」
「マジで?クレーンゲームの才能あんじゃん」
「へっ!ゲームの名のつくものは大体得意なんだよ。何か欲しいもんがあるなら、俺が取ってやってもいいぜ?」
「…へー丁度良かったじゃん▲▲。アンタ欲しい物あったんじゃない?」
「…へ?」
「いいぜ?この黒木様に任せとけ!」
「…え?」
褒められて気分が良くなった俺は後の事を一切考えずに、▲▲と週末にゲームセンターに行く約束をしてしまったのである。
そして▲▲とゲームセンターに行く約束をした日。普段寝坊する事が多い自分が、待ち合わせ時間よりも早く到着しているなんてあの二人も信じないだろう。俺は一人、待ち合わせ場所でそわそわしていた。
(やっべぇ〜!よくよく考えたら、女子と二人でどっか行くとかした事ねぇ〜!ゲーセン行くのはいいけど、その後どうしたらいいんだ?チクショー二人に聞いとけば良かった!)
かっこつけて二人には秘密の用事があると言ってしまい、女子と二人で遊びに行くなんて話はしていない。少しでも話題に挙げておけば、ヒントくらいは得られただろう。約束の時間が近づくほど緊張してきた。
「ごめん!お待たせ!」
▲▲の声が聞こえ振り返る。いつも見慣れている制服姿ではない彼女に、さらに緊張が増した。
(クソー!一丁前に化粧なんかしやがって!いつも通りでいいのによー!)
私服に加え軽く化粧もしており、直視できずに視線を外す。
「あの遅刻常習犯の黒木が私よりも早いなんて…え、あれ?もしかして怒ってる?」
「怒ってねーよ!行くぞ!」
自分が緊張している事を悟られないように、早足でゲームセンターへと向かった。そして、俺の後ろを▲▲が慌ててついてくる。
「ねぇ、ごめんって!」
「だーかーらー怒ってねぇって…お前が化粧なんかしてるから驚いたんだよ。いいのかよ〜高校生が化粧して」
「はー?未成年で煙草吸ってた人に言われたくないんですけど」
「今は吸ってねぇし!」
「元不良のくせにー!」
「だーっ!うるせー!俺が悪かったっつーの!」
いつものように言い合いをしている内に自然と緊張がほぐれ、なんとか普通に振る舞えそうにはなった。
ゲームセンターに到着し中に入れば、小学生や自分達と変わらないだろう男女の姿がちらほらと見える。
「で?どれを取って欲しいんだよ」
「え、あ…えーと…その前にさ、色々とゲームしない?私あんまりゲームセンターで遊んだ事ないんだ」
「そりゃいいけどよ」
▲▲の提案で、クレーンゲームの前に他のゲームで遊ぶ事にした。エアーホッケーにモグラ叩き、レーシングゲームに格闘ゲーム、もちろんすべて俺の圧勝。
「…ちょ、少しは勝たせてあげようとかないの!?」
「お前、弱すぎんだよ。俺は少しも本気出してないし〜」
「むかつく!…じゃあ、あれ!今度はあれで勝負よ!」
▲▲が指差したのは、迫り来るゾンビを銃で倒すゲームだ。
「別にいいけど、これ対戦じゃねーぞ?」
「どっちがゾンビを多く倒すかで勝負よ!」
「へーへー。わかったわかった」
やる気満々でゲーム機へと向かって行く彼女の後ろをついて行く。このゲームも自分が勝つんだろうなと思いながら、ビニールカーテンをくぐり中へと入った。すでに彼女がお金を入れ、ゲームで使用する銃を握りしめている。
「早く早く!今度こそ負けないんだから!」
「なーんでそんなやる気なんだよ」
少し呆れながら、自分も銃を取り画面へと向けて引き金を引く。『GAME START』という赤い字が表示され、ホラゲーにありがちな廃墟が映し出される。ゲームが始まり敵であるゾンビが登場した瞬間だった。
「いやぁぁぁぁ!気持ち悪い!気持ち悪い!こっち来てる!早く倒してよ黒木ぃ〜!」
「ばっっか!お前、撃てよ!俺一人じゃ倒しきれねぇって!」
開始早々、戦闘を放棄し俺の後ろに隠れた彼女。
「やだぁ!キモすぎて見れない!何でこんなにリアルなのよぉ〜!」
「だーっ!お前の銃貸せ!」
▲▲が持っていた銃を取り上げ、二丁でゾンビ達を倒しまくる。▲▲は俺の背中にしがみついて隠れていた。
「オラオラー!これでとどめだぁー!」
ラスボス的なゾンビが呻き声を上げて倒れ、『GAME CLEAR』の文字が表示された。
「っしゃー!どうだ!俺にかかりゃゾンビだって楽勝だぜ!」
右の拳を高く上げ銃を元の位置に戻すと、スコアが表示された。ゲームが終わった事を確認するために、俺の背中ごしにひょっこりと顔を出す▲▲。
「…あ!私の方がスコアが高い!やった私の勝ち!」
「はあぁぁぁぁ!?ほとんど俺がやってたじゃねぇかよ!」
「でもこっちは私が持ってた銃だから、私の勝ち!」
「卑怯だろ!ざけんな!もう一回だ、もう一回!」
「やだやだ!こんな怖いのもうやりたくない!出ようよ!」
ぐいぐいと押し出されるようにして、ゾンビゲームの機械から出た。
「はぁ〜本気でやりすぎて汗かいたぜ…」
「私も…」
「お前は俺の後ろでギャーギャー言ってただけだろ」
「冷や汗よ!冷や汗!ねぇ喉が渇いたから、どこかカフェ的な所に行かない?」
「は?別にいーけど、お前欲しいもんがあったんじゃねぇのか?」
当初の目的は、クレーンゲームで彼女が取って欲しい物を取りに来た。しかし、ゲームセンターに来てからクレーンゲームには一切触れていない。彼女がうろうろと目を泳がせる。
「えっと〜実はまだ出てなかったみたいで…出たら教えるから、またその時来てくれない?」
「はー?ちゃんと調べとけよ〜」
「ごめん…無駄に付き合わせちゃって…」
彼女が落ち込んでしまったのを見て、罪悪感を感じた。
「…まぁ、久々に色々とゲームができて楽しかったから別にいいけどよぉ。お前弱いから、全勝できて気分良いし」
「最っ低ー!」
「あいてっ!」
ばちんと背中を叩かれ大して痛くもないが大袈裟にリアクションすれば、彼女に笑顔が戻ってきたので安心する。その後は甘ったるい飲み物を口にしながら、他愛のない話に花を咲かせ家へと帰ったのであった。
ガサガサとゲームセンターの名前が書かれた袋から、よくわからないぬいぐるみを取り出し棚へと並べる。これで何個目だろう。棚に並んだぬいぐるみ達を眺めた。
あの日から一ヶ月に一回の頻度で、黒木とゲームセンターに通っている。ここに並んでいるのは、すべてクレーンゲームで黒木が取ってくれた景品だ。正直言うと、これといって欲しい物ではない。あの時は、友達が私と黒木の仲が少しでも近くなりますようにと気を利かせて言ってくれたのだ。おかげで、月一で休みの日に会える事になったのだが進展はイマイチ。友達以上、恋人未満。
(というか、二人でいる事が多いんだから黒木も察してくれればいいのに…休みの日にわざわざ二人で遊びに行ってるんだから、もっと意識してもいいんじゃない?)
友達からは『アイツはちゃんと言ってやんないと、わかんないと思うよ』と言われた。確かに自分でもそう思っている。バレンタインの時だって、私の本命チョコをスルーしたのだから。
(…でも、告白して気まずくなるのは嫌だな…)
二人でゲームセンターに行くのも楽しいのだ。黒木が私の事を良い友達だと思っているのなら、告白すればこの関係性は終わってしまうだろう。一番良いのは、彼から告白してくれる事。そうなれば私はすぐにでも良い返事ができるのに。そこまで考えて、勢いよくベッドにダイブした。
(好きなのは自分なのに、全部相手のせいにして最低だ…)
どうすればいいのかわかっているのに、行動に移せない自分が嫌になり大きなため息をついた。
夕日によって間延びした影が三人分並んでいる。
「明日、練習終わったら俺んちでゲームするか?」
「いいぜ。ついでにこの前借りた漫画返しに行くわ」
「…わり。俺、明日用事があるからパース」
「は?」
「はぁ?」
十文字と戸叶が、俺を真ん中にして肩を組む。
「月一のゲーセンデートか」
「モテる男は大変だなー」
「うっせーよ、そんなんじゃねーし!」
「照れんなよ」
「そうだぜ。だってもう何回と行ってんだろ?好きでもない男とそんなに遊びに行くか?」
「まだ、告白されてねぇのかよ」
「だーーーーっ!!うるせーうるせー!俺だって、不思議に思ってんだっつーの!俺の事が好きなら、とっとと告ればいいのによー!いっつも緊張してる俺が馬鹿みたいにじゃねーか!」
「なんだ、お前ら両想いかよ」
「この際、お前から告ればいいんじゃないか?」
「はあぁぁぁぁ!?俺が!?最初に惚れたのはあっちだろ!?」
「そう言ってもな、向こうが言えねぇならお前が言うしかないだろ」
「いい加減はっきりさせないと、ずっとこのままだぞ」
二人の言葉がぐるぐると頭の中を回っている。わかってはいるが、自分の想いを口にするのが恥ずかしい。向こうから言ってくれれば、すんなりと良い返事ができるのに。
お互い意地っ張りで似たもの同士、どうしても素直にはなれなかった。
月日は流れ、いつもと同じようにゲームセンターで遊んで、近場で何かを食べて解散する。いつまでも仲の良い友達として関係を続けていた。
そして三年の冬。自分は就職、▲▲は大学へ行く事になった。
「こうして遊べんのも最後かもなー」
白い息を吐きながら、ぽつりと呟く。隣を歩いていた▲▲が立ち止まったので、歩みを止め振り返る。
「…なんだよ」
「え、あ…いや…最後なんだと思って…忙しいの?仕事」
「さーな。やってみねぇとわかんねーよ。それに俺、アメフトも続けるからよ。こうして遊ぶ時間も減るのかねぇと思ってさ」
さすが卑怯がモットーの俺。これからの事なんてわかりもしないのに、もう会えなくなるかもしれないとアピールをして告白を促す作戦。
(まぁ、自分から言えないっていう情けなさはあるが…)
少し引っかかる所もあるが、自分から言えないので彼女に任せるしかない。ちらりと彼女の様子を伺う。
「…そ、そっかー!私も大学で忙しくなるかもしんないし、お互い時間が合わないかもね!あ、でもさ!連絡先交換してるんだし、暇な時は連絡するよ!そしたらまたゲームセンター行って、ご飯食べに行こ!」
「…おう。仕方ねーから、付き合ってやるよ」
「黒木の方が稼いでるだろうから奢ってね!」
「はあぁぁぁぁ!?なんでだよ!ぜってー奢らねぇ!」
「いいじゃん!ケチ!」
いつものように軽口を言い合い別れた。
この時本当に最後だとわかっていたのなら引き留めてでも言うべきだったと、今でも時々思い出す。
学生時代いつも三人で歩いていた道を、今は一人で歩いている。仕事を始めてからは戸叶と二人で歩いていたのだが、ここ最近戸叶に漫画好きで知り合った彼女ができてからは帰り道が別になってしまった。なんだか少しだけ裏切られた気持ちだ。
(はぁ〜毎日つまんねぇーの)
仕事とアメフト、休日は自分の好きな事をする。充実はしているが、毎日同じだとさすがに飽きてくる。たまには違う事でもしてみるかと、真っ直ぐ家には帰らず寄り道をする事にした。といっても、行く場所は子供の頃からよく行っていたゲームセンター。
(暇つぶしに何か取って帰るか〜)
家で食べられる物が良い。お菓子が酒のつまみになる物。未成年なのでお酒のつまみなんて自分には必要ないのだが、姉さんのご機嫌取りのために取っておいて損はない。うろうろとクレーンゲームを物色していると、通路を塞ぐようにして男が二人と女が一人ゲーム機の前に立っていた。
(邪魔くせーな)
「ね、これ取ったらこの後ちょっと遊ぼうよ」
「いや、あの、この後用事があるというか…」
「少しだけだからさ…じゃあ、連絡先だけでも教えて?」
「……じゃあ、取れたら…」
「やった!ちょっと待ってて、すぐ取るから」
(こんな所でナンパなんかしてんじゃねー!腹立つぜ!)
内心イライラしながらも、この後の展開が気になったので近くでゲームを見ているフリをして様子を伺う。自分的には、失敗してトボトボ帰っていく男の姿が見たい。
(…なんだこいつ。大口叩くから上手いのかと思ってたが、クソ下手じゃねぇかよ。こりゃダメだな)
手応えすらなく失敗し、男がゲーム機の前でがっくりと肩を落とした。期待していた展開にニヤニヤが隠せない。
「あーダメだわ。ここの難しいからさ、別のゲーセン行こうよ。そっちのだったら取れるからさ」
「え!いや、私はあれが欲しくて…」
「今から行くとこにもあるって!」
「おいどけ」
ゲーム機の前にいた男を押しのけ、お金を入れる。男達が唖然としている内に、さっさとアームを動かして一発で景品を落とした。取出し口からよくわからないぬいぐるみを取り出し、男達の目の前にぷらぷらと掲げてやる。
「どこが難しいんだよ。簡単に取れたぜ?」
「はぁ?たまたまだろ?なんだよ、急に入ってきやがって!」
「帰れ帰れ。こいつは俺が取ったんだからナンパすんなら、俺の方に権利があんだろ」
「盗み聞きかよ!汚ねぇ服で来やがって!」
確かに仕事着で来たので汚れてはいるものの、そこまでではない。カチンときたが、一度深呼吸をして落ち着く。今の俺は社会人だ。
「お前らと違って毎日作業着汚しながら仕事してんだよ。働いてる人間を馬鹿にすんじゃねぇ。誰の働いた金で生かしてもらってきたか、家に帰ってよく考えろ!」
元不良がなんとまぁ綺麗事をと思うが、こいつらは俺の過去を知る訳がないので偉そうな事を言ってやる。
「つーか、簡単なゲームで取れた景品を自慢する気なのかよぉ。それってすっげーダサくね?」
「…っ、うるせー!」
言い返す言葉が思いつかなかったのか、男達はさっさとゲームセンターから出て行った。その後姿を見て鼻で笑う。
(俺もガキの頃はあんな感じだったって事か〜ダセぇ〜。って考えると、今の俺ってすっげー成長してんじゃね?すぐ手出さなくなったしよ〜)
「…あの」
自分の成長に感心していると、様子を伺うようにして声をかけられる。そういえば、男達に絡まれていた女性の事をすっかり忘れていた。改めて顔を見れば、可愛い顔をしている。これはナンパされるだろうなと思った。
「邪魔したんだったら悪かったな。コレが欲しかったんだろ?やるよ、俺いらねーし。あと、アイツらみたいに連絡先とかもいらねーから。あんま、遅い時間に一人で来ない方がいいぜ、じゃーな」
ぬいぐるみを女性に押し付け、その場から離れる。
(今の俺、最高にカッコよくねぇか!?)
ナンパ野郎から困っている女性を助けたかっこいい自分に満足し、上機嫌で帰ろうとした時だった。
「ま、待って!黒木!」
「はぁ?」
名前を名乗った覚えはないので作業着に刺繍してある名前でも見たのか。それにしても初対面で、ナンパから助けてもらった恩人を呼び捨てとは。
「…お姉さんよぉ」
「私よ!私!▲▲!わかんないの!?ついこの間まで一緒に遊んでたじゃん!」
そう言われて、じっと彼女の顔をもう一度よく見る。言われてみればなんとなく昔の面影を感じた。化粧をすると印象が変わると聞くが、今ならわかる。知っているはずなのに、いまいちピンとこない。
「…あー、いや覚えてっけど、化粧するとわかんねー」
「そんなに変わる!?もしかしてやりすぎ?」
「別に変じゃねぇけどよ。学校のお前に見慣れてると、わかんねーんだよ。つか、一人で何やってんだよ危ねーだろ」
「ゲームセンターでゲームする以外、何があるって言うのよ」
「女が一人で来るなって言ってんだよ。あんな馬鹿がいるんだから、せめて友達と来りゃいいだろ」
今日は自分がいたから良かったものの、さっきのやり取りを見た感じ誰かが止めねば簡単に連れていかれていただろう。
「だって、ゲームセンターに付き合ってくれる友達いないんだもん…」
「じゃあ、もっと人の多い所行けよ。ここは地元の人間くらいしか寄んねぇんだから」
「…だから来てるのよ」
彼女が小声で何か言ったように見えたが、周りのゲームの音がうるさくてよく聞き取れなかった。
「あ?何か言ったか?」
「なんでもない!」
彼女と向かい合って無言の時間が過ぎる。ゲームの説明をするテンションの高い声やジャラジャラとメダルが流れる音で騒がしいはずなのに、まるで耳に膜が張ったようにどこか遠くに聞こえる。
(あーちくしょう!どうしたらいいんだよ!こういう時は、とりあえず飯でも行くか?って言えばいいのか?でも、俺仕事着だし、ちょっとだけ汚れてるし…)
さっきのナンパ男に言われた事が少し引っかかっている。しかし、ここで別れてしまってはまた変な男に絡まれてしまう可能性がある。せめて、家の近くまで送り届けてやるのが良いだろう。そう言おうと口を開こうとした時だった。
「ね、ねぇ!前みたいにご飯行かない!?」
自分と同じ様に緊張していたのか、声が若干裏返っていた。
「なーに、緊張してんだよ」
「緊張なんかしてないわよ!で、行くの!?行かないの!?」
「へーへー。仕方ねぇ、付き合ってやるよ」
「なによ、その言い方!ヤな奴!」
「そのヤな奴を誘って、飯行くんだろ?」
ニヤニヤと見下ろせば、顔を赤くしている彼女。
「…そ、そうよ!悪い!?ヤな奴だけど、一緒にいると楽しいから誘ってんの!何度も一緒に遊びに行ってるのに、私の気持ちに気づかない鈍感男をね!」
「はあぁぁぁぁ!?お前こそ鈍感女だろ!好きでもない奴と二人だけで遊びに行くかっつーの!」
「え?」
「あ?」
勢いあまって、ぽろっと出てしまった本音。彼女の大きく見開かれた瞳に自分のマヌケ面が写って見える。慌てて表情を引き締め、目線を逸らした。
「…まーあれだ。腹減ってるし、とりあえず何か食いに行こうぜ?」
「…え、あ、ハイ。うん」
心ここに在らずというような返事に不安を覚えながらも、ゲームセンターを出た。いつもより歩幅は小さくゆっくりと、少し後ろからついてくる足音に気を配る。
どっちが先に好きになったとか、先に好きになった方が告白するとか、今思えば子供みたいな考え方だ。好きなのだからはっきりと
気持ちを伝えればいいのに。
(その後の事は、まぁ自分次第でどうにかなんだろ。はぁ〜ほんっとガキだな俺もよぉ〜)
恥ずかしさと良好な関係が崩れてしまう事が怖くて言えなかった、学生の頃の自分が憎い。
「なぁ、さっきよ。こいつ取ったら言う事聞くとか言ってただろ?」
そう言って、彼女が持っているぬいぐるみを指差す。
「いや、言う事聞くとは言ってない」
「いーんだよ、細かい事は!こいつ、俺が取ったんだからちょっと聞いてくれよ」
「はぁ?なに、飯代奢れとか?」
「俺と付き合ってくれよ」
彼女の顔を見て言えないのは、まだどこか恥ずかしい気持ちがあるから。学生の頃から少し時間は経ってしまったが、あの日の事を後悔するくらい彼女の事を想っている。彼女の方も、ゲームセンターでのやり取りからしてまだ俺に好意を持ってくれていると思いたい。
「……うん。でも、もっと早く言って欲しかった」
「…はあぁぁぁぁ!?お前、告白されといてそれはないだろ!?」
「だって!高校の時、一緒に遊んでくれてたってそう言う事でしょ!?だったらあの時…」
「そーゆーお前こそ!手の込んだチョコくれるんだったら、そん時にでも言えば良かったんじゃねーの!?三回チャンスあっただろ!」
「うっ!そ、それは…っていうか気づいてたの!?」
「は?そりゃ、他の奴と全然違うから丸わかりだろ」
「やだ、恥ずかし…なによぉ…本命だって気づいてたなら、そんな雰囲気出しなさいよ!」
「俺が悪いのかよ!あーもうやめやめ!昔の事をぐだぐだ言ったって仕方ねぇよ!もう付き合ってるんだから、昔の話はなしだ!ナシナシ!」
「わ…なんかテキトーに逃げた…」
「いーんだよ、最終的に上手くまとまれば。一件落着。飯だ飯」
「…まぁ、いいけど」
そう言って隣を歩く彼女の表情は不満気ではあるものの、嬉しさを隠しきれていないようで口元が少しにやけている。
少し先を歩いていたはずが、いつの間にか彼女の歩幅に合わせる様にして隣に並んでいた。自分達の性格からして小言は絶えないだろうが、そんなの中学の頃から慣れっこだ。
(よっしゃ〜!これで俺も彼女ができたって自慢できるぜぇ〜!)
戸叶に彼女ができてちょっとだけ悔しかったし、羨ましいと思った。だからと言って誰でもいいというわけではなく、浮かんできたのは今隣を歩いている彼女の顔。
へそ曲がりで意地っ張り同士。遠回りにはなってしまったが、終わりよければ全て良しだ。
私もそれに便乗するため、一ヶ月前からお菓子作りの練習、渡し方のシミュレーションをしてきた。鞄の中には今までで最高の完成度を誇る一品を厳選して持ってきた。
「なんで黒木なの?」
「別に良くない!?っていうか、今から渡しに行くって言ってんのにそれはないでしょ!」
昼休み。緊張で味のしない弁当をつついていると、友達が失礼な発言をする。
「私はどっちかって言うと、十文字」
「いや、アンタの好みとか知らないし!いいのよ!私が好きだって言ってるんだから!他人が何と言おうと…」
「何が好きなんだろ〜とか、甘さは控えめの方がいいかな〜って散々聞いてきたくせに」
「うっ…そ、それはまた別の話で…」
「はいはい。食べたらとっとと渡してきなよ」
手で追い払われるようにして教室を出た。彼はどの季節でも、大体屋上にいる。バレンタインのプレゼントを確認し、深呼吸をして屋上へと向かった。扉を開け様子を伺えば、意中の人物といつも一緒にいる十文字と戸叶が座って話している。この寒い中、外で話すなんて元気な人達だと思う。もう一度深呼吸をして三人がいる場所に近づいた。
「く…黒木!ちょっといい?」
「あ?何だよ」
黒木はその場からこちらに顔を向けるが、動こうとはしない。
「ちょっとこっち来て!」
「はあぁぁぁ?めんどくせーな」
「いいから来て!」
黒木がゆっくりと立ち上がり、のろのろと近くまでやって来た。
「何だよ?」
「…こ、これ、アンタにあげる!」
準備期間一ヶ月。甘さ控えめのガトーショコラ。
「…お、おう。もしかしてバレンタインデー的なやつか?」
「そ、そうたけど…」
ドキドキしながら反応を待つ。わざわざここまで渡しに来て、これだけ手の込んだプレゼントを貰えば、さすがに私の気持ちに気づくだろう。
「…お、おっしゃぁぁぁ!オラァ!見やがれ!十文字ぃ!俺もチョコ貰ったもんね〜」
「はぁ?いつそんな勝負してたんだよ」
「ついにお前にもモテ期が?」
黒木が勝ち誇ったように二人へと見せびらかしに走る。私はその光景をポカンと見ていた。
「ありがとなー▲▲!」
「え…あ、うん。どういたしまして」
惚れた弱みか本気で嬉しそうな笑顔に、ただ返事をする事しかできなかった。
私は燃え尽きてしまったかのように、ふらふらと教室へ戻った。そして自分の席へ着くと、勢いよく机に突っ伏した。
「…えーと、大丈夫?」
私の様子をおかしく思った友人が、恐る恐る声をかけてくる。
「…大丈夫じゃない…あのバカ、チョコ貰って浮かれてんの。私の気持ちなんて、これっぽっちも伝わんなかった…」
「まぁ、あのお調子者の黒木だし、はっきり言ってやんないとわかんないでしょ」
「でも、飛び上がるくらい喜んでた…そこは可愛い」
「いいのかよ。私だったら殴ってるわ」
「…こうなったら来年よ!来年またチャレンジしてみせる!」
顔を上げて右手を突き上げる。それを見た友人がため息をついた。
「もう普通に告ったら?」
「そんな事できない!なんて言えばいいかわかんないし!」
「普通に好きです、付き合って下さいって言えばいいのよ」
「無理無理!だってそんな真面目な雰囲気になんないもん!」
「はぁ…これは拗れるわ…」
また友人が大きなため息をついた。ため息をつきたいのは私の方だ。一ヶ月頑張った結果が残念なものになってしまったのだから。
「これはホワイトデーに期待するしかないわ」
「そうよ!まだホワイトデーがある!」
ホワイトデーまでの一ヶ月で、私の気持ちに気づいてくれるかもしれない。そんな希望を胸にこの一ヶ月を過ごす事にした。
そして待ちに待ったホワイトデー。朝からソワソワと黒木から声をかけられるのを待っていた。しかし、特に何もなくあっという間に放課後となり終礼のチャイムが虚しく鳴り響く。
「わーん!黒木のバカー!アホー!」
「いいよ、もっと言ってやりな」
期待は裏切られ、終礼が終わるといつもの二人と一緒に部室へ行ってしまったのである。私は友人に泣きついた。
「私の乙女心を弄びやがって!」
「ま、こうなると思ってました。さすがに嫌いになった?」
「……まだ好き」
「あっそう」
鼻水をすすりながら窓の外を見ると、グラウンドで楽しそうに部活の練習準備をしている黒木の姿があった。
「…ちくしょーアメフトに負けたー!楽しそうにしやがって、可愛いかよ!」
「アンタがなんでそこまで黒木が好きなのか、よくわかんないんだけど」
「…中学の時からよく話しててさ、一緒にいると楽しいの。アイツ一時期グレてたけど、私には普通に話しかけてくれてさ…なんか特別なのかな〜と思ってたら、好きになってた…バカやろー!下睫毛長いんだよ、羨ましい!」
「わかったわかった。そんな長い付き合いならわかるでしょ。気づいてるか気づいてないかなんて」
「うぅ…悔しい〜」
「来年ね、来年」
「…うん」
まだ鼻水をすする私の背中を友人があやしながら教室を出た。
部活が終わりアメフト部の部室でだらだらしていると、遊びに来ていた鈴奈に、自分以外の男連中が次々にお菓子を渡している。
「ヤー!みんなありがとー!」
「あ?なんだ?誕生日か?」
「は?」
「はぁ?お前、今日何の日か分かってなかったのかよ」
十文字と戸叶に呆れた顔を向けられる。
「な…なんだよ、悪いかよ」
「今日、ホワイトデーだぞ。先月チョコ貰っただろーが。義理でもお返しすんだろ」
「ほ、ホワイトデー…やべ、すっかり忘れてた…」
「ひっでぇ…貰った時はあんなに喜んでたのによ」
「じゃあ、▲▲にも返してねぇって事か」
「うっ…」
「「うわぁ…」」
「し…仕方ねーだろ!忘れてたんだからよー!明日持ってくるから待ってろ!」
「別にお返しが欲しい訳じゃ…」
「うるせー!貰ったからには返すのが礼儀なんだろ!?準備してくるって言ってんだよ!」
「忘れてたやつがよく言うぜ」
「なー」
次の日、机の上に大きな袋が二つ。中には大量のお菓子が詰まっている。
「何だこれ」
「へっ!バレンタインのお返しだ、こんだけありゃ十分だろ!」
「お前コレ全部ゲーセンか?」
「この黒木様にかかりゃ、クレーンゲームなんて余裕、余裕!」
「つーか、こんなに返すほど貰ってたか?」
「あ?一つは鈴奈だろ。もう一つは▲▲のだよ」
「多すぎんだろ」
「いーんだよ。三倍返しとか言うんだろ〜?それに一日遅れてんだからこれくらいあった方が許してくれんだろ」
ぱんぱんにお菓子の入った袋を叩く。
「忘れねー内に渡してくるかー。いや〜バレンタインにチョコ貰うのも困りもんだなこりゃ」
大きな袋を一つ取り、ため息をつきながら自分の席を離れる。
「言い方腹立つな」
「二つしか貰ってねーだろ。しかも一つは義理」
「うるせぇ!ばーか!」
「「早く行け!!」」
二人の小言が聞こえ、言い返すために振り返れば怒鳴り返された。別に義理でも貰ったのは間違いないのだから自慢して何が悪い。勢いよく教室の扉を閉めてやった。
(えーと、アイツのクラスは確か…ここだったよな)
中学の時から交流があり、高校になってからも顔を合わせれば話をする事があった。一時期グレていた頃、他の奴らは関わりたくないと距離を取っていたというのにアイツだけはいつもと変わらなかった。それが今でも交流が続く理由だろう。
教室の扉を開け中を覗く。目当ての人物は友達とのおしゃべりに夢中のようだ。背後から近づき、目の前にドンと大きな袋を置いた。彼女は「何!?」と小さく悲鳴をあげ、元々ぱっちりとしている瞳をさらに大きく見開いて後ろを振り返った。
「…え!黒木!?何コレ!?」
「…あーその…先月のあれだよあれ。昨日だったの忘れててよ。遅くなった」
先ほどまで普通に渡して帰ればいいと思っていたのに、なんだか恥ずかしくなってきて上手く言葉がでない。
「あ…ありがと…」
「え、これ全部くれんの?すごいじゃん、どんだけ買ってきたの?」
「ちげーよ。ゲーセンで取ってきたんだよ」
「マジで?クレーンゲームの才能あんじゃん」
「へっ!ゲームの名のつくものは大体得意なんだよ。何か欲しいもんがあるなら、俺が取ってやってもいいぜ?」
「…へー丁度良かったじゃん▲▲。アンタ欲しい物あったんじゃない?」
「…へ?」
「いいぜ?この黒木様に任せとけ!」
「…え?」
褒められて気分が良くなった俺は後の事を一切考えずに、▲▲と週末にゲームセンターに行く約束をしてしまったのである。
そして▲▲とゲームセンターに行く約束をした日。普段寝坊する事が多い自分が、待ち合わせ時間よりも早く到着しているなんてあの二人も信じないだろう。俺は一人、待ち合わせ場所でそわそわしていた。
(やっべぇ〜!よくよく考えたら、女子と二人でどっか行くとかした事ねぇ〜!ゲーセン行くのはいいけど、その後どうしたらいいんだ?チクショー二人に聞いとけば良かった!)
かっこつけて二人には秘密の用事があると言ってしまい、女子と二人で遊びに行くなんて話はしていない。少しでも話題に挙げておけば、ヒントくらいは得られただろう。約束の時間が近づくほど緊張してきた。
「ごめん!お待たせ!」
▲▲の声が聞こえ振り返る。いつも見慣れている制服姿ではない彼女に、さらに緊張が増した。
(クソー!一丁前に化粧なんかしやがって!いつも通りでいいのによー!)
私服に加え軽く化粧もしており、直視できずに視線を外す。
「あの遅刻常習犯の黒木が私よりも早いなんて…え、あれ?もしかして怒ってる?」
「怒ってねーよ!行くぞ!」
自分が緊張している事を悟られないように、早足でゲームセンターへと向かった。そして、俺の後ろを▲▲が慌ててついてくる。
「ねぇ、ごめんって!」
「だーかーらー怒ってねぇって…お前が化粧なんかしてるから驚いたんだよ。いいのかよ〜高校生が化粧して」
「はー?未成年で煙草吸ってた人に言われたくないんですけど」
「今は吸ってねぇし!」
「元不良のくせにー!」
「だーっ!うるせー!俺が悪かったっつーの!」
いつものように言い合いをしている内に自然と緊張がほぐれ、なんとか普通に振る舞えそうにはなった。
ゲームセンターに到着し中に入れば、小学生や自分達と変わらないだろう男女の姿がちらほらと見える。
「で?どれを取って欲しいんだよ」
「え、あ…えーと…その前にさ、色々とゲームしない?私あんまりゲームセンターで遊んだ事ないんだ」
「そりゃいいけどよ」
▲▲の提案で、クレーンゲームの前に他のゲームで遊ぶ事にした。エアーホッケーにモグラ叩き、レーシングゲームに格闘ゲーム、もちろんすべて俺の圧勝。
「…ちょ、少しは勝たせてあげようとかないの!?」
「お前、弱すぎんだよ。俺は少しも本気出してないし〜」
「むかつく!…じゃあ、あれ!今度はあれで勝負よ!」
▲▲が指差したのは、迫り来るゾンビを銃で倒すゲームだ。
「別にいいけど、これ対戦じゃねーぞ?」
「どっちがゾンビを多く倒すかで勝負よ!」
「へーへー。わかったわかった」
やる気満々でゲーム機へと向かって行く彼女の後ろをついて行く。このゲームも自分が勝つんだろうなと思いながら、ビニールカーテンをくぐり中へと入った。すでに彼女がお金を入れ、ゲームで使用する銃を握りしめている。
「早く早く!今度こそ負けないんだから!」
「なーんでそんなやる気なんだよ」
少し呆れながら、自分も銃を取り画面へと向けて引き金を引く。『GAME START』という赤い字が表示され、ホラゲーにありがちな廃墟が映し出される。ゲームが始まり敵であるゾンビが登場した瞬間だった。
「いやぁぁぁぁ!気持ち悪い!気持ち悪い!こっち来てる!早く倒してよ黒木ぃ〜!」
「ばっっか!お前、撃てよ!俺一人じゃ倒しきれねぇって!」
開始早々、戦闘を放棄し俺の後ろに隠れた彼女。
「やだぁ!キモすぎて見れない!何でこんなにリアルなのよぉ〜!」
「だーっ!お前の銃貸せ!」
▲▲が持っていた銃を取り上げ、二丁でゾンビ達を倒しまくる。▲▲は俺の背中にしがみついて隠れていた。
「オラオラー!これでとどめだぁー!」
ラスボス的なゾンビが呻き声を上げて倒れ、『GAME CLEAR』の文字が表示された。
「っしゃー!どうだ!俺にかかりゃゾンビだって楽勝だぜ!」
右の拳を高く上げ銃を元の位置に戻すと、スコアが表示された。ゲームが終わった事を確認するために、俺の背中ごしにひょっこりと顔を出す▲▲。
「…あ!私の方がスコアが高い!やった私の勝ち!」
「はあぁぁぁぁ!?ほとんど俺がやってたじゃねぇかよ!」
「でもこっちは私が持ってた銃だから、私の勝ち!」
「卑怯だろ!ざけんな!もう一回だ、もう一回!」
「やだやだ!こんな怖いのもうやりたくない!出ようよ!」
ぐいぐいと押し出されるようにして、ゾンビゲームの機械から出た。
「はぁ〜本気でやりすぎて汗かいたぜ…」
「私も…」
「お前は俺の後ろでギャーギャー言ってただけだろ」
「冷や汗よ!冷や汗!ねぇ喉が渇いたから、どこかカフェ的な所に行かない?」
「は?別にいーけど、お前欲しいもんがあったんじゃねぇのか?」
当初の目的は、クレーンゲームで彼女が取って欲しい物を取りに来た。しかし、ゲームセンターに来てからクレーンゲームには一切触れていない。彼女がうろうろと目を泳がせる。
「えっと〜実はまだ出てなかったみたいで…出たら教えるから、またその時来てくれない?」
「はー?ちゃんと調べとけよ〜」
「ごめん…無駄に付き合わせちゃって…」
彼女が落ち込んでしまったのを見て、罪悪感を感じた。
「…まぁ、久々に色々とゲームができて楽しかったから別にいいけどよぉ。お前弱いから、全勝できて気分良いし」
「最っ低ー!」
「あいてっ!」
ばちんと背中を叩かれ大して痛くもないが大袈裟にリアクションすれば、彼女に笑顔が戻ってきたので安心する。その後は甘ったるい飲み物を口にしながら、他愛のない話に花を咲かせ家へと帰ったのであった。
ガサガサとゲームセンターの名前が書かれた袋から、よくわからないぬいぐるみを取り出し棚へと並べる。これで何個目だろう。棚に並んだぬいぐるみ達を眺めた。
あの日から一ヶ月に一回の頻度で、黒木とゲームセンターに通っている。ここに並んでいるのは、すべてクレーンゲームで黒木が取ってくれた景品だ。正直言うと、これといって欲しい物ではない。あの時は、友達が私と黒木の仲が少しでも近くなりますようにと気を利かせて言ってくれたのだ。おかげで、月一で休みの日に会える事になったのだが進展はイマイチ。友達以上、恋人未満。
(というか、二人でいる事が多いんだから黒木も察してくれればいいのに…休みの日にわざわざ二人で遊びに行ってるんだから、もっと意識してもいいんじゃない?)
友達からは『アイツはちゃんと言ってやんないと、わかんないと思うよ』と言われた。確かに自分でもそう思っている。バレンタインの時だって、私の本命チョコをスルーしたのだから。
(…でも、告白して気まずくなるのは嫌だな…)
二人でゲームセンターに行くのも楽しいのだ。黒木が私の事を良い友達だと思っているのなら、告白すればこの関係性は終わってしまうだろう。一番良いのは、彼から告白してくれる事。そうなれば私はすぐにでも良い返事ができるのに。そこまで考えて、勢いよくベッドにダイブした。
(好きなのは自分なのに、全部相手のせいにして最低だ…)
どうすればいいのかわかっているのに、行動に移せない自分が嫌になり大きなため息をついた。
夕日によって間延びした影が三人分並んでいる。
「明日、練習終わったら俺んちでゲームするか?」
「いいぜ。ついでにこの前借りた漫画返しに行くわ」
「…わり。俺、明日用事があるからパース」
「は?」
「はぁ?」
十文字と戸叶が、俺を真ん中にして肩を組む。
「月一のゲーセンデートか」
「モテる男は大変だなー」
「うっせーよ、そんなんじゃねーし!」
「照れんなよ」
「そうだぜ。だってもう何回と行ってんだろ?好きでもない男とそんなに遊びに行くか?」
「まだ、告白されてねぇのかよ」
「だーーーーっ!!うるせーうるせー!俺だって、不思議に思ってんだっつーの!俺の事が好きなら、とっとと告ればいいのによー!いっつも緊張してる俺が馬鹿みたいにじゃねーか!」
「なんだ、お前ら両想いかよ」
「この際、お前から告ればいいんじゃないか?」
「はあぁぁぁぁ!?俺が!?最初に惚れたのはあっちだろ!?」
「そう言ってもな、向こうが言えねぇならお前が言うしかないだろ」
「いい加減はっきりさせないと、ずっとこのままだぞ」
二人の言葉がぐるぐると頭の中を回っている。わかってはいるが、自分の想いを口にするのが恥ずかしい。向こうから言ってくれれば、すんなりと良い返事ができるのに。
お互い意地っ張りで似たもの同士、どうしても素直にはなれなかった。
月日は流れ、いつもと同じようにゲームセンターで遊んで、近場で何かを食べて解散する。いつまでも仲の良い友達として関係を続けていた。
そして三年の冬。自分は就職、▲▲は大学へ行く事になった。
「こうして遊べんのも最後かもなー」
白い息を吐きながら、ぽつりと呟く。隣を歩いていた▲▲が立ち止まったので、歩みを止め振り返る。
「…なんだよ」
「え、あ…いや…最後なんだと思って…忙しいの?仕事」
「さーな。やってみねぇとわかんねーよ。それに俺、アメフトも続けるからよ。こうして遊ぶ時間も減るのかねぇと思ってさ」
さすが卑怯がモットーの俺。これからの事なんてわかりもしないのに、もう会えなくなるかもしれないとアピールをして告白を促す作戦。
(まぁ、自分から言えないっていう情けなさはあるが…)
少し引っかかる所もあるが、自分から言えないので彼女に任せるしかない。ちらりと彼女の様子を伺う。
「…そ、そっかー!私も大学で忙しくなるかもしんないし、お互い時間が合わないかもね!あ、でもさ!連絡先交換してるんだし、暇な時は連絡するよ!そしたらまたゲームセンター行って、ご飯食べに行こ!」
「…おう。仕方ねーから、付き合ってやるよ」
「黒木の方が稼いでるだろうから奢ってね!」
「はあぁぁぁぁ!?なんでだよ!ぜってー奢らねぇ!」
「いいじゃん!ケチ!」
いつものように軽口を言い合い別れた。
この時本当に最後だとわかっていたのなら引き留めてでも言うべきだったと、今でも時々思い出す。
学生時代いつも三人で歩いていた道を、今は一人で歩いている。仕事を始めてからは戸叶と二人で歩いていたのだが、ここ最近戸叶に漫画好きで知り合った彼女ができてからは帰り道が別になってしまった。なんだか少しだけ裏切られた気持ちだ。
(はぁ〜毎日つまんねぇーの)
仕事とアメフト、休日は自分の好きな事をする。充実はしているが、毎日同じだとさすがに飽きてくる。たまには違う事でもしてみるかと、真っ直ぐ家には帰らず寄り道をする事にした。といっても、行く場所は子供の頃からよく行っていたゲームセンター。
(暇つぶしに何か取って帰るか〜)
家で食べられる物が良い。お菓子が酒のつまみになる物。未成年なのでお酒のつまみなんて自分には必要ないのだが、姉さんのご機嫌取りのために取っておいて損はない。うろうろとクレーンゲームを物色していると、通路を塞ぐようにして男が二人と女が一人ゲーム機の前に立っていた。
(邪魔くせーな)
「ね、これ取ったらこの後ちょっと遊ぼうよ」
「いや、あの、この後用事があるというか…」
「少しだけだからさ…じゃあ、連絡先だけでも教えて?」
「……じゃあ、取れたら…」
「やった!ちょっと待ってて、すぐ取るから」
(こんな所でナンパなんかしてんじゃねー!腹立つぜ!)
内心イライラしながらも、この後の展開が気になったので近くでゲームを見ているフリをして様子を伺う。自分的には、失敗してトボトボ帰っていく男の姿が見たい。
(…なんだこいつ。大口叩くから上手いのかと思ってたが、クソ下手じゃねぇかよ。こりゃダメだな)
手応えすらなく失敗し、男がゲーム機の前でがっくりと肩を落とした。期待していた展開にニヤニヤが隠せない。
「あーダメだわ。ここの難しいからさ、別のゲーセン行こうよ。そっちのだったら取れるからさ」
「え!いや、私はあれが欲しくて…」
「今から行くとこにもあるって!」
「おいどけ」
ゲーム機の前にいた男を押しのけ、お金を入れる。男達が唖然としている内に、さっさとアームを動かして一発で景品を落とした。取出し口からよくわからないぬいぐるみを取り出し、男達の目の前にぷらぷらと掲げてやる。
「どこが難しいんだよ。簡単に取れたぜ?」
「はぁ?たまたまだろ?なんだよ、急に入ってきやがって!」
「帰れ帰れ。こいつは俺が取ったんだからナンパすんなら、俺の方に権利があんだろ」
「盗み聞きかよ!汚ねぇ服で来やがって!」
確かに仕事着で来たので汚れてはいるものの、そこまでではない。カチンときたが、一度深呼吸をして落ち着く。今の俺は社会人だ。
「お前らと違って毎日作業着汚しながら仕事してんだよ。働いてる人間を馬鹿にすんじゃねぇ。誰の働いた金で生かしてもらってきたか、家に帰ってよく考えろ!」
元不良がなんとまぁ綺麗事をと思うが、こいつらは俺の過去を知る訳がないので偉そうな事を言ってやる。
「つーか、簡単なゲームで取れた景品を自慢する気なのかよぉ。それってすっげーダサくね?」
「…っ、うるせー!」
言い返す言葉が思いつかなかったのか、男達はさっさとゲームセンターから出て行った。その後姿を見て鼻で笑う。
(俺もガキの頃はあんな感じだったって事か〜ダセぇ〜。って考えると、今の俺ってすっげー成長してんじゃね?すぐ手出さなくなったしよ〜)
「…あの」
自分の成長に感心していると、様子を伺うようにして声をかけられる。そういえば、男達に絡まれていた女性の事をすっかり忘れていた。改めて顔を見れば、可愛い顔をしている。これはナンパされるだろうなと思った。
「邪魔したんだったら悪かったな。コレが欲しかったんだろ?やるよ、俺いらねーし。あと、アイツらみたいに連絡先とかもいらねーから。あんま、遅い時間に一人で来ない方がいいぜ、じゃーな」
ぬいぐるみを女性に押し付け、その場から離れる。
(今の俺、最高にカッコよくねぇか!?)
ナンパ野郎から困っている女性を助けたかっこいい自分に満足し、上機嫌で帰ろうとした時だった。
「ま、待って!黒木!」
「はぁ?」
名前を名乗った覚えはないので作業着に刺繍してある名前でも見たのか。それにしても初対面で、ナンパから助けてもらった恩人を呼び捨てとは。
「…お姉さんよぉ」
「私よ!私!▲▲!わかんないの!?ついこの間まで一緒に遊んでたじゃん!」
そう言われて、じっと彼女の顔をもう一度よく見る。言われてみればなんとなく昔の面影を感じた。化粧をすると印象が変わると聞くが、今ならわかる。知っているはずなのに、いまいちピンとこない。
「…あー、いや覚えてっけど、化粧するとわかんねー」
「そんなに変わる!?もしかしてやりすぎ?」
「別に変じゃねぇけどよ。学校のお前に見慣れてると、わかんねーんだよ。つか、一人で何やってんだよ危ねーだろ」
「ゲームセンターでゲームする以外、何があるって言うのよ」
「女が一人で来るなって言ってんだよ。あんな馬鹿がいるんだから、せめて友達と来りゃいいだろ」
今日は自分がいたから良かったものの、さっきのやり取りを見た感じ誰かが止めねば簡単に連れていかれていただろう。
「だって、ゲームセンターに付き合ってくれる友達いないんだもん…」
「じゃあ、もっと人の多い所行けよ。ここは地元の人間くらいしか寄んねぇんだから」
「…だから来てるのよ」
彼女が小声で何か言ったように見えたが、周りのゲームの音がうるさくてよく聞き取れなかった。
「あ?何か言ったか?」
「なんでもない!」
彼女と向かい合って無言の時間が過ぎる。ゲームの説明をするテンションの高い声やジャラジャラとメダルが流れる音で騒がしいはずなのに、まるで耳に膜が張ったようにどこか遠くに聞こえる。
(あーちくしょう!どうしたらいいんだよ!こういう時は、とりあえず飯でも行くか?って言えばいいのか?でも、俺仕事着だし、ちょっとだけ汚れてるし…)
さっきのナンパ男に言われた事が少し引っかかっている。しかし、ここで別れてしまってはまた変な男に絡まれてしまう可能性がある。せめて、家の近くまで送り届けてやるのが良いだろう。そう言おうと口を開こうとした時だった。
「ね、ねぇ!前みたいにご飯行かない!?」
自分と同じ様に緊張していたのか、声が若干裏返っていた。
「なーに、緊張してんだよ」
「緊張なんかしてないわよ!で、行くの!?行かないの!?」
「へーへー。仕方ねぇ、付き合ってやるよ」
「なによ、その言い方!ヤな奴!」
「そのヤな奴を誘って、飯行くんだろ?」
ニヤニヤと見下ろせば、顔を赤くしている彼女。
「…そ、そうよ!悪い!?ヤな奴だけど、一緒にいると楽しいから誘ってんの!何度も一緒に遊びに行ってるのに、私の気持ちに気づかない鈍感男をね!」
「はあぁぁぁぁ!?お前こそ鈍感女だろ!好きでもない奴と二人だけで遊びに行くかっつーの!」
「え?」
「あ?」
勢いあまって、ぽろっと出てしまった本音。彼女の大きく見開かれた瞳に自分のマヌケ面が写って見える。慌てて表情を引き締め、目線を逸らした。
「…まーあれだ。腹減ってるし、とりあえず何か食いに行こうぜ?」
「…え、あ、ハイ。うん」
心ここに在らずというような返事に不安を覚えながらも、ゲームセンターを出た。いつもより歩幅は小さくゆっくりと、少し後ろからついてくる足音に気を配る。
どっちが先に好きになったとか、先に好きになった方が告白するとか、今思えば子供みたいな考え方だ。好きなのだからはっきりと
気持ちを伝えればいいのに。
(その後の事は、まぁ自分次第でどうにかなんだろ。はぁ〜ほんっとガキだな俺もよぉ〜)
恥ずかしさと良好な関係が崩れてしまう事が怖くて言えなかった、学生の頃の自分が憎い。
「なぁ、さっきよ。こいつ取ったら言う事聞くとか言ってただろ?」
そう言って、彼女が持っているぬいぐるみを指差す。
「いや、言う事聞くとは言ってない」
「いーんだよ、細かい事は!こいつ、俺が取ったんだからちょっと聞いてくれよ」
「はぁ?なに、飯代奢れとか?」
「俺と付き合ってくれよ」
彼女の顔を見て言えないのは、まだどこか恥ずかしい気持ちがあるから。学生の頃から少し時間は経ってしまったが、あの日の事を後悔するくらい彼女の事を想っている。彼女の方も、ゲームセンターでのやり取りからしてまだ俺に好意を持ってくれていると思いたい。
「……うん。でも、もっと早く言って欲しかった」
「…はあぁぁぁぁ!?お前、告白されといてそれはないだろ!?」
「だって!高校の時、一緒に遊んでくれてたってそう言う事でしょ!?だったらあの時…」
「そーゆーお前こそ!手の込んだチョコくれるんだったら、そん時にでも言えば良かったんじゃねーの!?三回チャンスあっただろ!」
「うっ!そ、それは…っていうか気づいてたの!?」
「は?そりゃ、他の奴と全然違うから丸わかりだろ」
「やだ、恥ずかし…なによぉ…本命だって気づいてたなら、そんな雰囲気出しなさいよ!」
「俺が悪いのかよ!あーもうやめやめ!昔の事をぐだぐだ言ったって仕方ねぇよ!もう付き合ってるんだから、昔の話はなしだ!ナシナシ!」
「わ…なんかテキトーに逃げた…」
「いーんだよ、最終的に上手くまとまれば。一件落着。飯だ飯」
「…まぁ、いいけど」
そう言って隣を歩く彼女の表情は不満気ではあるものの、嬉しさを隠しきれていないようで口元が少しにやけている。
少し先を歩いていたはずが、いつの間にか彼女の歩幅に合わせる様にして隣に並んでいた。自分達の性格からして小言は絶えないだろうが、そんなの中学の頃から慣れっこだ。
(よっしゃ〜!これで俺も彼女ができたって自慢できるぜぇ〜!)
戸叶に彼女ができてちょっとだけ悔しかったし、羨ましいと思った。だからと言って誰でもいいというわけではなく、浮かんできたのは今隣を歩いている彼女の顔。
へそ曲がりで意地っ張り同士。遠回りにはなってしまったが、終わりよければ全て良しだ。
