とある機械科女子の日常

本日最後の授業が終わるチャイムが鳴った。掃除を終え自分の席へと戻り、帰り支度をしようと机の中に手を入れればノートの切れ端が入っていた。
(…なんだろコレ)
綺麗に二つ折りにされた紙を開くと『今日の放課後、話したい事があるので実習棟に来てください。岡田』と書かれていた。
(なんでわざわざ…)
視線を感じ顔を向ければ、手紙を入れた本人と目が合う。しかし、すぐに目を逸らされてしまった。
岡田君は優しい性格で機械科のいじられ役。女子が苦手で話そうとするとすぐ顔が赤くなってしまい、自分と話す時もよくゆでだこ状態だった。でもそれは一年の時までの話で、二年になった今は普通に話せるようになりクラスの中でも仲が良い方だと思っている。
(…私、何かしたかな)
わざわざ呼び出すほど他の人には知られたくない事があるのか、その手紙に従う事にした。

誰もいない実習室の大きな机に荷物を置き、丸椅子を取り出して岡田君を待つ。少ししてバタバタと騒がしい足音と物が擦れ合う音が近づいてきた。
「はぁはぁ…ごめん〇〇!」
学校鞄と学校名が入ったエナメルバック、野球帽に大きな弁当箱、相変わらずの大荷物で岡田君が息を切らせ実習室へ入ってきた。
「大丈夫。今日、部活ないから」
丸椅子をもう一つ取り出して、岡田君の方へと寄せる。
「あ、ありがとう」
岡田君は緊張しているのか、荷物を全部持ったまま椅子に座った。
「…荷物、置いたら?重いでしょ」
「あ!そうだよね」
そう言って岡田君は、手に持っていた弁当箱と帽子だけを机の上に置いた。私は全部置いたらと思って言ったのだが、岡田君はかなり緊張しているようである。
「…で、話したい事って何?」
「え、あ、そ…それなんだけど…」
岡田君の顔が少しずつ赤くなっていく。
(一年生の時以来だなぁ)
久しぶりに見たゆでだこ状態の彼に、懐かしい気持ちになった。
「もしかして、この前のテスト。赤点取ったから勉強教えてとか?」
「違っ…!いや、違わなくないか…勉強は教えて!あ、でも今日呼んだのは勉強じゃなくて…」
そう言って俯いてしまう。そんなに深刻な問題なのかと顔を覗き込もうとした瞬間、岡田君が突然立ち上がった。
「…お、俺!電気科の佐藤さんが好きなんだ!!」
「…あ、やっぱりそうなんだ」
「えっ!知ってたの!?」
「なんとなく…女子が苦手な岡田君が頑張って話しかけてるの見た時から、好きなのかなーって」
「そ、そんなぁ…俺、恥ずかしい…」
へなへなと椅子に座り、机の上に伏せる。
「でも、何で私に言ったの?」
「…なんかアドバイスが欲しいなって…野間とか三島に言うと絶対からかわれるし…俺はいいけど、佐藤さんにまで迷惑かかるのは嫌だから…」
元々優しい人だと思っていたが、相手の事を考えて行動できる姿は親友の彼等にも見習って欲しいと思った。特に野間君。
「確かに野球部のノリは嫌がられるかもね」
「だろ?特に俺は絶対言われる!わかるもん!」
「でも私、恋愛とかよくわかんないんだけど…」
「わかんなくてもいいよ、俺もわかんねぇもん。ただ話を聞いてくれるだけでもいいし、〇〇がどう思うかってのも参考になるかなって…まぁ、無理にとは言わないよ」
恋愛事には疎いのだが、いつもお世話になっているし応援してあげたいという思いが強かった。
「いいよ、参考になるかはわからないけど協力する」
「ほんと!?ありがとう〇〇ー!」
「おう、〇〇。ついでに勉強の方も見てやってくれると助かる」
「「うわーーーっ!?」」
実習室の入口が突然開き、野球のユニフォームを着た月島先生とグレーのジャージを着た菊田先生が入ってきた。
「びっくりした…先生達、もしかして聞いてました?」
「あんだけ大きな声で叫べばな」
そうだろうなとは思った。隣の岡田君を見れば真っ青な顔をしている。今日は赤くなったり青くなったり大変だなと思った。
「いいねぇ、青春してるじゃねぇか」
「先生、この事は秘密でお願いします」
「わかってるわかってる。なぁ、月島先生」
「〇〇にお願いされたら仕方ないな」
岡田君と顔を見合わせ、ほっと息をつく。
「うつつを抜かすのはいいが、勉強や部活が疎かになるのは許さんぞ。俺がグラウンドに出るまでに準備しておけよ、岡田」
「は、はい!ありがと〇〇!俺行くわ、また明日!」
「うん、じゃーね」
岡田君は軍人のように月島先生に一礼した後、大荷物を持ってバタバタと実習室を出ていった。
「お前も大変だな。勉強の次は恋愛相談か」
「大変ですけど、毎日楽しいですよ」
「そりゃ良かった。お前さんが楽しいなら、俺達は何も心配する事ないからな。さ、今日は部活ないんだろ?暗くなんない内に帰りな」
「まだ、十七時にもなってないですけど…」
「何があるかわかんねぇだろ?いつ不審者が出たっておかしくないんだからな!」
「さっき心配する事ないって言ってませんでしたか?」
「それとこれとは別!ほら、見送ってやるから帰るぞ!」
「えぇ…」
「過保護すぎませんか?」
「いいの!」
菊田先生に背中を押されて、実習室を後にした。先生達に見送られ学校を出る。グラウンドの横を通ると、岡田君が野間君達と一緒に準備運動をしていた。普段の彼を見ていれば、自分がアドバイスなんてしなくても自然に良い印象を与えられるだろう。
(岡田君はいい人だし優しいから、上手くいくと思うな…)
どこからかわからないが、そんな自信が湧いてくる。菊田先生が言っていたように、青春を謳歌しているなと思いながら家へと帰る道を歩いた。
7/17ページ
スキ