とある機械科女子の日常

放課後の家庭科室。本日は特別に機械科一年の貸切状態となっている。
「で、どうやって作るんだ?あの美味そうな名前の鍋」
そう、現在機械科一年生による鍋パーティーが始まろうとしていた。ことの発端は、二週間前。
「今年の学年末!誰一人赤点を取らなければ、実習班対抗鍋パーティーをしたいと思います!」
帰りのホームルームで、そう言い放つ白石先生。教室には歓声が響き渡り、月島先生がまたどこか遠くを見ている。
食べ盛りの男子高校生達のやる気を出させるには良い案だと思う。しかし…
「肉!とりあえず、肉入れるぞ!」
「闇鍋やろうよ!ね、洋平!」
「変わったもん入れよう、浩平!」
皆、もう鍋の事しか頭にない。
「明日の自由時間は、鍋の中身について各班で話し合いをしようと思いまーす!」
そして、担任も鍋の事しか頭にない。この前のクラスマッチとは違い、クラスの大半が苦手とする勉強なのにこうも浮かれてしまってはこの作戦は失敗なのではと不安になる。
「なぁ、〇〇。俺、食いたい鍋があるんだけど」
前の席の野間君が振り返り、私に話しかける。
「何?」
「なんかケーキの名前みたいな鍋」
「…ミルフィーユ鍋の事かな…」
「うん、多分それ。俺らの班はそれにしよう」
まだ鍋パーティーができると決まった訳でもないのに、彼らの頭の中は鍋の中身で一杯のようだった。
(…今回はダメかもな…)
そう思っていた学年末テスト。それほどまでして鍋パーティーがしたかったのか、全員赤点を回避し現在に至る。
「白菜と豚肉を適当に入れて煮たら良いのか?」
「それじゃ、あのケーキみたいな名前の意味ないだろー。肉と野菜交互に入れるんだよ」
ミルフィーユ鍋だと何度も言っているのに誰一人覚えてくれない。
「…〇〇やってくれ」
「…私あんまり料理得意じゃないんだけど」
「ほらこの写真みたいに入れればいいんだよ!」
岡田君が調べた写真を参考に、白菜と豚肉を鍋に詰めていく。
「めんどくせぇなこれ」
「アンタがこれを食べたいって言ったんでしょうが」
「…ねぇ、なんか変な匂いしない?」
岡田君に言われ鼻を効かせると、鍋を作っているとは言い難い香りがする。
「…何?この匂い…」
鍋を作っているはずなのに、どこからかお菓子作りでもしているような香りがした。
「二階堂!何入れたんだよそれ!」
離れたテーブルで杉元君が叫んでいる。この甘い香りは二階堂双子がいる班の鍋から漂っているようだ。
「何って、チョコだよ」
「チョコ鍋だよ!」
(それは鍋ではなくてチョコレートフォンデュ的なやつでは?)
チョコ鍋が気になった男子達が次々と様子を見に行っては、悲鳴をあげて逃げ帰る。
「…え、ただのチョコじゃないの?」
「あいつら、うどんの麺入れてる」
「チョコとうどん!?」
恐ろしいコラボに顔が引きつる。ちゃんと責任持って全部食べてくれないと大問題だ。
「俺らは白菜と豚肉だけだから、味は大丈夫だろー!」
「ぽん酢で食えば、大体美味くなる」
私はもう何も言わなかった。とりあえず完成したミルフィーユ鍋。見た目は写真のように綺麗ではないが、味は間違えようがないため普通に美味しい。
「やっぱりぽん酢だな」
「普通が一番って言えよ」
「ねぇ、野間の所のちょっと食べても良い?」
三島君が茶碗を持ってやってくる。
「いいけど、お前の所も食わせろ」
「いいよ、食べに行けば?」
そう言うと野間君が茶碗を持って立ち上がりどこかへ歩いて行く。代わりに三島君が空いた席に座った。
「僕の所は鶏鍋にしたんだけど、やっぱり誰が作るかで印象が変わるよね」
「あ〜安心感があるのは確かだな」
三島君と岡田君が私を見て頷き、箸を進めた。
「だだいま」
「お帰り〜…って、お前何持って帰って来た!?」
各班の鍋を食べ歩いてきた野間君は、茶碗に茶色のドロドロとしたものを入れて帰ってきた。
「二階堂のとこのチョコ鍋、食うだろ?」
「いらねぇ…」
「遠慮すんな、全員分貰ってきた」
「え、僕も?」
空いた器にボトボトと異常な音をさせながら入れられた、目の前の茶色い液体を凝視する。チョコのいい香りなのだが、うどんが入っていると聞くと抵抗がある。
「…まじで食べんのコレ」
各々がチョコレートでコーティングされたうどんを箸で持ち上げる。すると、ずるずると麺をすする音が聞こえ顔を上げると野間君が結構な量を口に入れていた。
「野間すっげぇ…大丈夫?」
「……ゔぇ」
「うわぁ!バカ出すなよ、汚ねぇ!」
野間君の口からうどんが出てくる所を見て、余計に食欲がなくなってしまった。
「野間が吐き出すくらいの物なんて、僕らが食べられるの?」
「…でも、作ったからには責任持って食べるべき…だと思う」
「わかってるよ…ちゃんと食べる」
三島君と顔を見合わせ覚悟を決める。せっかくの鍋パーティーが罰ゲームになった瞬間だった。
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