とある機械科女子の日常
「お疲れ様です、月島先生」
「お疲れ様です、どうされました菊田先生」
同じ紺色の作業着を着た坊主頭の男性を、機械科の職員室の前で待ち伏せしていた。
「いや、ちょっと聞きたい事があってさ」
「聞きたい事とは?」
「ほら、月島先生のクラス。女の子がいるだろ?明日の実習、俺の担当になるんだけどどんな子かな〜ってさ」
「あぁ、〇〇ならいい子です。話もちゃんと聞きますし授業も真面目に受けてます」
「いや、そう言う事じゃなくってさぁ…ほら、女の子って色々あるだろ?」
月島先生は首を傾げる。
「色々…?すみません。自分にはよくわからないです」
「おいおい!ダメだって!もしもの時は、俺達がフォローしないといけないんだぜ?ちゃんと見てやれって!」
「はぁ、わかりました」
いまいちわかっていない様子で頷く月島先生に不安が募る。
(まったく…女の子は繊細だってのによぉ)
〇〇の入学が決まった時は、初の女子生徒にオロオロしていた機械科教師達に『そんなに心配しなくても…初の機械科女子、楽しみじゃないですか』と余裕のある態度で振る舞っていた。しかし実際のところ、不安で冷や汗ダラダラだった。この学校に女子生徒はいるが、挨拶を交わす程度でそこまで関わりはない。だが今回は違う。授業や実習のちには就職もしくは進学についてアドバイスをし、この学校を送り出してやらねばならない。
(今の年頃は難しいからな…下手に触れてセクハラとか言われる可能性もあるし、歳も歳だから加齢臭が〜とか言われたら傷つくな…)
だからこそ、どんな人物なのかあらかじめ知っておきたかったのだが担任も副担任も当てにならなかった。
次の日、実習棟ではベージュ色の作業着を着た生徒達が整列している。その中に作業着のサイズがいまいち合わず、指先が袖に隠れているのが〇〇だ。
(やっぱこうして見ると、小さいなぁ…)
周りの男どもがデカすぎるのもあるが、〇〇もそこまで身長が高い方ではない。
(やっぱ筋力とかも男とは違うから、物を持たせんのも気をつけねぇとな)
「それでは、班ごとに分かれて実習始めて下さーい!」
「「はーい!」」
白石先生の簡単な説明が終わり生徒達が班ごとに分かれ、場所を移動し始める。
(よーし、まずは座学で様子を見るぞ)
「溶接班は、こっちで先に座学するから集まれー」
俺が声をかければ〇〇含めた6人が、ゾロゾロと近寄ってくる。
「今から簡単に溶接について説明するからな。実習の中じゃ、火傷だったり感電だったり危ねぇ作業だからよーく話聞いとけよ」
「え!やだ、死にたくない!」
「ちゃんと話聞いときゃ、死なねぇよ」
溶接作業の危険性を説明すると、大体のやつが嫌そうな顔をする。もちろんこいつらも予想通りの反応だ。しかし例の彼女はというと、メモ帳を取り出して板書の内容や俺が言った事を黙々と書いている。
(こりゃ、真面目ちゃんだな)
そんな熱心に聞いてもらえるとなると、教える方としては嬉しいものだ。
「じゃあ、実際にやってみるぞ。ちゃんと保護面つけてろよ。目、潰れるからな〜」
「待って、先生!やる時はちゃんとやるって言って下さいよ!?」
「わかってるよ、ビビりすぎだっての」
今年の一年は弱気な奴が多いなと、呆れながら準備をする。
「いくぞ〜」
アーク溶接は電圧で金属を溶かして引っ付ける。電圧がかかる際、激しく光るので保護面は必須なのだ。雷のようにバチバチッと大きな音を立てて光を発する、その背後で『キャア!』と悲鳴が上がった。声の質からして〇〇ではない、誰だ悲鳴上げた奴は。
「…これがアーク溶接だ。じゃ、誰からやる?」
「はい!」
初めてやるには恐ろしい作業だ。感電などのリスクがあればやりたがらない奴が多いはずなのだが、まさか立候補したのは〇〇だった。できれば他の奴らがやってるのを見て、見慣れてもらってからが良かったのだが。そんなに目を輝かせ今か今かと待ち侘びている姿に、後でとは言えなかった。
「…わかった。よし、じゃあここに座って…」
自分の前の作業台に座らせ、背後に立ちピタリと止まる。
(…ちょっと待て。教えるのはいいが、最初は手を支えてやんないと難しい…でも、触っていいのか!?)
〇〇は溶接棒を持ち、興味津々に観察している。
(これでセクハラですとかなったら嫌だ!でも、一人でやらせるのは危なすぎる!)
「菊田先生、何やってんすか。早くやんないと時間終わるっすよ」
「わ、わかってる!あー、えーと。〇〇、ちょっと手、触るぞ?いいか?」
「?はい、いいですよ」
〇〇はどうしてそんな事を聞くのかというように首を傾げている。
「お前ら聞いたな!いいな?」
「何の確認とってんすか」
「よし!やるぞ〇〇、ちゃんと面付けてろよ」
「はーい」
〇〇の手に自分の手を重ねる。
(ちっっせぇ手!!)
あまりの小ささに驚きながら、あまり身体が触れないようになんとか溶接を終わらせる。
「…ふぅ、よし良い感じにできてるぞ〇〇」
「…わぁ!!」
保護面を外し自分の溶接跡を見て嬉しそうにしている彼女を見て、まるで自分の娘になったかのような感覚を覚えた。
「…お前筋がいいな。よし、別のやり方も教えてやるよ」
「菊田先生、俺らは?」
「空いてる所使ってやっていいぞ」
「なんか雑じゃね?」
「お前ら俺の話、真面目に聞いてなかったろうが!俺は真面目なやつしか相手しないぞ!」
「「えぇーー」」
半分冗談半分本気で叫ぶと、他の奴らはぶつぶつ言いながら作業に取り掛かかる。一人ずつ側についてやってみたが、どいつもこいつもビビって腰が引けていた。そんな中、〇〇だけは楽しそうに作業してるのを見て自分で選んで機械科に入っただけはあると感心した。
「いや〜ほんと真面目でいい子だな〇〇は!ちょっと怖いもの知らずな所は心配じゃあるが…」
実習授業が無事終わり、機械科の職員室でコーヒーを飲みながらほっと息をつく。
「怖いもの知らずというか、大体の事は平気な顔してますよ」
「まぁ〜クラスメイトがパンツ一丁でも平気な顔してますしね〜ちょっと前までは驚いてたけど」
「…は?」
「弟がいると言っていたので、見慣れたものなんでしょう」
「へぇー弟いるんだ!いずれこの高校に入ってきたりして!」
女子がいるというのに、野郎共がパンツ一丁でうろついてるというのはどういう事だ。見慣れたという事は、頻繁にその状態が発生しているという事になる。
「…お、お前達に任せられねぇ!〇〇はウチのクラスに入れる!」
「え、でも菊田先生は二年生の担任じゃ…」
「あいつなら飛び級しても大丈夫だ!んな事よりも、そんな環境に〇〇を置いとけねぇ!悪い影響受けたらどうすんだ!」
「良し悪しの判断くらいできますよ」
「クラスメイトのパンイチ姿に慣れちゃってんのが、もうダメだろ!俺、科長の所行って話してくる!」
「待って待って!わかりました!ちゃんと指導しますから!」
「…はぁ、自分で心配する必要ないって言ってたじゃないですか」
あの時の余裕な態度はどこへ行ったのかと、月島先生が大きなため息をついた。
「お疲れ様です、どうされました菊田先生」
同じ紺色の作業着を着た坊主頭の男性を、機械科の職員室の前で待ち伏せしていた。
「いや、ちょっと聞きたい事があってさ」
「聞きたい事とは?」
「ほら、月島先生のクラス。女の子がいるだろ?明日の実習、俺の担当になるんだけどどんな子かな〜ってさ」
「あぁ、〇〇ならいい子です。話もちゃんと聞きますし授業も真面目に受けてます」
「いや、そう言う事じゃなくってさぁ…ほら、女の子って色々あるだろ?」
月島先生は首を傾げる。
「色々…?すみません。自分にはよくわからないです」
「おいおい!ダメだって!もしもの時は、俺達がフォローしないといけないんだぜ?ちゃんと見てやれって!」
「はぁ、わかりました」
いまいちわかっていない様子で頷く月島先生に不安が募る。
(まったく…女の子は繊細だってのによぉ)
〇〇の入学が決まった時は、初の女子生徒にオロオロしていた機械科教師達に『そんなに心配しなくても…初の機械科女子、楽しみじゃないですか』と余裕のある態度で振る舞っていた。しかし実際のところ、不安で冷や汗ダラダラだった。この学校に女子生徒はいるが、挨拶を交わす程度でそこまで関わりはない。だが今回は違う。授業や実習のちには就職もしくは進学についてアドバイスをし、この学校を送り出してやらねばならない。
(今の年頃は難しいからな…下手に触れてセクハラとか言われる可能性もあるし、歳も歳だから加齢臭が〜とか言われたら傷つくな…)
だからこそ、どんな人物なのかあらかじめ知っておきたかったのだが担任も副担任も当てにならなかった。
次の日、実習棟ではベージュ色の作業着を着た生徒達が整列している。その中に作業着のサイズがいまいち合わず、指先が袖に隠れているのが〇〇だ。
(やっぱこうして見ると、小さいなぁ…)
周りの男どもがデカすぎるのもあるが、〇〇もそこまで身長が高い方ではない。
(やっぱ筋力とかも男とは違うから、物を持たせんのも気をつけねぇとな)
「それでは、班ごとに分かれて実習始めて下さーい!」
「「はーい!」」
白石先生の簡単な説明が終わり生徒達が班ごとに分かれ、場所を移動し始める。
(よーし、まずは座学で様子を見るぞ)
「溶接班は、こっちで先に座学するから集まれー」
俺が声をかければ〇〇含めた6人が、ゾロゾロと近寄ってくる。
「今から簡単に溶接について説明するからな。実習の中じゃ、火傷だったり感電だったり危ねぇ作業だからよーく話聞いとけよ」
「え!やだ、死にたくない!」
「ちゃんと話聞いときゃ、死なねぇよ」
溶接作業の危険性を説明すると、大体のやつが嫌そうな顔をする。もちろんこいつらも予想通りの反応だ。しかし例の彼女はというと、メモ帳を取り出して板書の内容や俺が言った事を黙々と書いている。
(こりゃ、真面目ちゃんだな)
そんな熱心に聞いてもらえるとなると、教える方としては嬉しいものだ。
「じゃあ、実際にやってみるぞ。ちゃんと保護面つけてろよ。目、潰れるからな〜」
「待って、先生!やる時はちゃんとやるって言って下さいよ!?」
「わかってるよ、ビビりすぎだっての」
今年の一年は弱気な奴が多いなと、呆れながら準備をする。
「いくぞ〜」
アーク溶接は電圧で金属を溶かして引っ付ける。電圧がかかる際、激しく光るので保護面は必須なのだ。雷のようにバチバチッと大きな音を立てて光を発する、その背後で『キャア!』と悲鳴が上がった。声の質からして〇〇ではない、誰だ悲鳴上げた奴は。
「…これがアーク溶接だ。じゃ、誰からやる?」
「はい!」
初めてやるには恐ろしい作業だ。感電などのリスクがあればやりたがらない奴が多いはずなのだが、まさか立候補したのは〇〇だった。できれば他の奴らがやってるのを見て、見慣れてもらってからが良かったのだが。そんなに目を輝かせ今か今かと待ち侘びている姿に、後でとは言えなかった。
「…わかった。よし、じゃあここに座って…」
自分の前の作業台に座らせ、背後に立ちピタリと止まる。
(…ちょっと待て。教えるのはいいが、最初は手を支えてやんないと難しい…でも、触っていいのか!?)
〇〇は溶接棒を持ち、興味津々に観察している。
(これでセクハラですとかなったら嫌だ!でも、一人でやらせるのは危なすぎる!)
「菊田先生、何やってんすか。早くやんないと時間終わるっすよ」
「わ、わかってる!あー、えーと。〇〇、ちょっと手、触るぞ?いいか?」
「?はい、いいですよ」
〇〇はどうしてそんな事を聞くのかというように首を傾げている。
「お前ら聞いたな!いいな?」
「何の確認とってんすか」
「よし!やるぞ〇〇、ちゃんと面付けてろよ」
「はーい」
〇〇の手に自分の手を重ねる。
(ちっっせぇ手!!)
あまりの小ささに驚きながら、あまり身体が触れないようになんとか溶接を終わらせる。
「…ふぅ、よし良い感じにできてるぞ〇〇」
「…わぁ!!」
保護面を外し自分の溶接跡を見て嬉しそうにしている彼女を見て、まるで自分の娘になったかのような感覚を覚えた。
「…お前筋がいいな。よし、別のやり方も教えてやるよ」
「菊田先生、俺らは?」
「空いてる所使ってやっていいぞ」
「なんか雑じゃね?」
「お前ら俺の話、真面目に聞いてなかったろうが!俺は真面目なやつしか相手しないぞ!」
「「えぇーー」」
半分冗談半分本気で叫ぶと、他の奴らはぶつぶつ言いながら作業に取り掛かかる。一人ずつ側についてやってみたが、どいつもこいつもビビって腰が引けていた。そんな中、〇〇だけは楽しそうに作業してるのを見て自分で選んで機械科に入っただけはあると感心した。
「いや〜ほんと真面目でいい子だな〇〇は!ちょっと怖いもの知らずな所は心配じゃあるが…」
実習授業が無事終わり、機械科の職員室でコーヒーを飲みながらほっと息をつく。
「怖いもの知らずというか、大体の事は平気な顔してますよ」
「まぁ〜クラスメイトがパンツ一丁でも平気な顔してますしね〜ちょっと前までは驚いてたけど」
「…は?」
「弟がいると言っていたので、見慣れたものなんでしょう」
「へぇー弟いるんだ!いずれこの高校に入ってきたりして!」
女子がいるというのに、野郎共がパンツ一丁でうろついてるというのはどういう事だ。見慣れたという事は、頻繁にその状態が発生しているという事になる。
「…お、お前達に任せられねぇ!〇〇はウチのクラスに入れる!」
「え、でも菊田先生は二年生の担任じゃ…」
「あいつなら飛び級しても大丈夫だ!んな事よりも、そんな環境に〇〇を置いとけねぇ!悪い影響受けたらどうすんだ!」
「良し悪しの判断くらいできますよ」
「クラスメイトのパンイチ姿に慣れちゃってんのが、もうダメだろ!俺、科長の所行って話してくる!」
「待って待って!わかりました!ちゃんと指導しますから!」
「…はぁ、自分で心配する必要ないって言ってたじゃないですか」
あの時の余裕な態度はどこへ行ったのかと、月島先生が大きなため息をついた。
