とある機械科女子の日常

工業高校は普通教科の他に、科ごとの専門教科がある。座学のみではなく実技も含まれる。その為、教室がある建物とは別に実習をするための建物がある。
そんな説明を俯きながら聞く私は、今年工業高校の機械科に入学した。工作好きだったので機械科に入れた事は嬉しかった。入学式後、機械科の教室に行くまでの話だが。
(視線が痛い…)
機械科の教室で初めてわかった。クラス四十人中、女子は自分一人だけだと。
(試験の時は何人かいたと思うんだけど…)
男子達の視線が刺さる中、明日からの学校生活についての説明を受けた。
(大丈夫かな、明日から…)
人見知りというのもあって、明日からの高校生活が不安でしかない。機械科の教室から早足で出れば、他のクラスからの視線を感じる。
(…何ジロジロ見てんの…嫌だな)
別に女子が機械科に入ってはいけないなんて決まりはないのに、どうしてそんなに注目されなければならないのか。
階段の途中で、掲示板を見ている女子生徒がいた。
「機械科見た?女子一人だけだってー」
「なんで機械科?一人とか可哀想ー」
自分の事を話されていると思い、足が止まる。
「男狙いとか?」
「ウケる!」
(男欲しさで高校選ぶか!)
知りもしないくせに、そんな大きい声で言わないでほしい。ますます気分が落ち込んできた。
「見てこれ、機械科の集合写真。一人だけ制服違くて目立ってる!」
入学してすぐに撮ったクラス写真。男子は学ランなので、一人だけ違うのがとても目立つ。散々私を笑い物にした女子達がやっといなくなり、クラス写真を改めて見る。
(…白黒だから余計に目立つんだ…塗り潰してやろうかな、これ)
そんな捻くれた事を考えていた時だった。
「…あ、あったー!これかークラス写真かー」
背後からわざとらしく驚いたような声が聞こえた。誰だかわからないが、絡まれると面倒だと早足でその場から離れようとする。
「え、あっ!ちょっと待って!」
呼び止められ仕方なく振り返り驚く。呼び止めた男子の顔が、驚くほど真っ赤だったからだ。
「…え、大丈夫…?」
思わず心配になってしまうほど赤かった。
「同じクラスなのに緊張しすぎ!」
「こいつ、女子の前だとこうなるんだ」
「…え、あ、そう…なんだ」
ゆでだこ状態の坊主を挟んで、イケメンが一人と頬に大きな傷跡がある坊主が一人。
「…ていうか!なんで俺に行かせるんだよ!こうなるの知ってんだろ!?」
「練習だよ、練習。女子と話せるようになるためにね」
「同じ機械科なんだから、仲良くしないとな」
(同じ機械科なんだ…)
ずっと下を向いていたので、同じ機械科の男子の顔なんて見てる余裕なんてなかった。
「えーと、その反応だと名前とか覚えてなさそうだね」
「…えっと、ごめん」
「よし!じゃあもう一回自己紹介するね。俺は三島、二人とは同じ中学卒業」
「お、岡田文夫…です。えぇと…よろしく」
「野間、よろしく」
「えっと、〇〇です。こちらこそ…よろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、三島君が笑った。
「硬いなー同じ機械科なんだから、リラックスしてよ〜」
「…あ、はい」
流石イケメン、直視できずに目線を逸らす。
(今までいなかったタイプだ…どうしよ。真ん中は女子が苦手だし、もう一人は何考えてんのかわかんないし…というか、めっちゃ見てくる)
野間という男子が、特に何か話すわけでもないのにじっと自分を見ている。
「…わ、私用事があるからまた明日!」
居た堪れなくなり、早足でその場から離れた。
「えっ!あ、じゃあねー!」
後ろから声が聞こえたが、振り返らずに走って逃げた。本当にこんな感じで三年間乗り越えられるのか、不安な高校生活の始まりだった。

次の日。重い足取りで学校へ行き、教室の前で大きなため息をつく。
(大人しくしてれば、いずれ誰も私の事を気にしなくなるだろう…)
静かに戸を開け教室に入れば、まだ誰も来ておらずほっと息をつく。一番後ろの窓際が自分の席で、目立ちにくい場所だったのは嬉しかった。席に座り新品の教科書を取り出して眺める。こんな状況だが、機械科の授業は楽しみなのである。少しすると廊下が騒がしくなり、ちらほらと教室に人が増えていく。私はなるべく目に入らないように、小さく身体を縮こませ教科書に集中した。それでも、チクチクとした視線が刺さる。
(…何がそんなに気になるのさ)
教室内の人口が増え騒がしくなっていき、みんな楽しそうに話をしている。
(…私には縁がなさそう)
せっかくの高校生活を空気として過ごすのだと思うと虚しくなってきた。将来のために勉強だけはちゃんとやっておこう、一人の方が邪魔されないし勉強が捗る。自分を納得させるために色んな言い訳を考えていると、目の前の席に誰かが座った。教科書からほんの少しだけ顔を上げれば、坊主頭の極太眉毛に頬の大きな傷跡が見えた。
(昨日ガン見してきた人だ…というかそこの席だっけ?)
「…はよ」
「!?え、あ、おはよう…」
今のは私に言ったのか、それとも幻聴か。昨日はあんなに見てきたのに、今は真横を向いている。
「何、読んでんの?」
「えっ、教科書…工作の」
真横を向いたままさらに話しかけてきた。とりあえず、幻聴ではなかった。
「野間ぁっ!!なんで勝手に行くんだよ!探したんだぞ!」
「あ、〇〇さんにちょっかいかけてる」
昨日のゆでだこ君とイケメン君が、大きなエナメルの鞄を持って教室に入ってきた。
「悪い風に言うな。仲良くなろうとしてんだ」
「へー〇〇さん、おはよー」
「あ、お…おはよう…」
「…お、おはよう…」
挨拶を交わしそのまま各自の席へ戻るかと思いきや、自分を囲んで話し始める三人。教科書に目線を戻すが、突然話を振られ答えるために顔を上げると他の男子達が見ているではないか。せっかく空気として生きていこうと思っていたのに、私の周りで三人が騒ぐので目立ってしまう。
これからどうなる、私の高校生活。
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