とある機械科女子の日常
賑やかなグラウンドに目を向ければ、しょぼくれた白石先生が教員テントに連行されているのが目に入った。
「…はぁ。また何かやらかしたな」
どうやら自分が目を離している隙に、白石先生が問題を起こしたようだ。毎回思うが懲りない先生だと思う。
「大変ですね、月島先生のクラスは」
声のする方を向けば、他所の科の教師が近寄ってきた。
「機械科は元気な生徒が多いし、白石先生はそれを助長されるし、おまけに女子生徒が一人。やりにくいですよね」
「…はぁ、そうですかね。俺はそう思った事はないですが」
こんな事を言われるのも慣れてきた。うちの機械科の成績は群を抜いて高く、〇〇が真面目な事もあり他の教員から優秀だと言われる事が多い。それに白石先生の行動が加わり、良い方でも悪い方でも有名なクラスとなっている。出る杭は打たれる、という言葉があるように目立ちすぎているのだ。だから、プライドの高い教師からすれば気に食わないのだろう。初めて担任を持つ教師が、上手くいきすぎている事に。
「そうですか…月島先生、今日はジャージなんですね。学校行事にはいつも参加されないのに…」
俺の反応が微妙だったので話題を変えてきた。確かにこれまでは学校行事は生徒がするものであって、自分が手出しするものではないと思っていたため見学を貫き通してきた。
「えぇ、はい。参加しないつもりでした」
その事に誰も何も言わなかったし、誘われる事もなかった。生活指導の担当もしており見た目も相まって、生徒達からは苦手意識を持たれていた。しかし、自分が嫌われるだけで決まりが守れるなら別に構わなかった。
そんな蚊帳の外での日常が、一年前からガラリと変わってしまった。『月島先生も機械科ですよね!?』副担任という名ばかりで生徒達とは関わる事などほとんどないのに、クラスの一員として扱う生徒がいた。『月島先生、白石先生があとお願いします、だそうです』問題を起こして職員室に呼ばれた担任が言い残した言葉に、素直に従う生徒がいた。どこかアラがあれば冷たくあしらう事もできたが、何も口出しする事がないほどお手本通りの生徒なのだ。時にはその上をいくため、余計に何も言えない。
「いや、うちの子に頼まれましてね。白石先生がきっと何かやらかすだろうから、準備しておいてくれと」
当たり前のように自分の場所が用意されており、クラス全員がそれを受け入れている。
「月島先生、今日はよろしく頼みます」
「月島先生がいれば最後の綱引き、牛山先生のクラスが相手でも問題ないぜ!」
「今年もクラスマッチ総合優勝だー!」
「「おー!!」」
断る事もさせてくれず、自然に輪の中に入れられた。それに抵抗を感じなくなった時、とうとう自分もこのクラスの雰囲気に慣れてしまったのだと思った。
「月島せんせーい!!出番でーす!!」
俺を巻き込んだ主犯の〇〇が大きな声で呼んでいる。それに手を上げ返事を返し、俺の担当する生徒がいる場所へと向かう。最後に言い忘れた事があったのを思い出し、立ち止まって振り返る。
「…元気なのはどこも同じでしょう。白石先生は…まぁ問題ではありますが、生徒から好かれてます。〇〇は優等生ですから、何も心配いりません」
この教師が妬むのもよくわかる。俺がその立場なら、同じ事を言ったかもしれない。
「うちのクラスは優秀ですよ、勉強も行事もバカ真面目に取り組むんで。加減がわからないのが困りますが、可愛いもんです」
そう言いきり、会釈をして歩き出した。
「白石先生は何をしたんだ?」
「綱引きの綱を自分に巻いてそのまま引けと」
「…はぁ、何を考えてるんだ。よし、お前達列を組み直すぞ。相手は牛山先生の他にも力自慢が沢山いる。体重と腕力のバランスを考えて順番を決めるんだ」
「「ウス!!」」
「こら、〇〇。お前はその返事をするんじゃない」
「はっ!つい…」
彼女もこのクラスに染まっているのだなと思い、小さく笑う。そこでふと思う、生徒の前で笑ったのはいつぶりだろうか。
「…ここまで来たんだ。最後まで気を抜くなよ、お前ら!」
「「おー!!」」
野太い声の中に少し高い声が混ざる。教師は生徒に教えるもの。しかし、新しく何かを学ぶのは生徒だけではないのだと思うのだった。
「…はぁ。また何かやらかしたな」
どうやら自分が目を離している隙に、白石先生が問題を起こしたようだ。毎回思うが懲りない先生だと思う。
「大変ですね、月島先生のクラスは」
声のする方を向けば、他所の科の教師が近寄ってきた。
「機械科は元気な生徒が多いし、白石先生はそれを助長されるし、おまけに女子生徒が一人。やりにくいですよね」
「…はぁ、そうですかね。俺はそう思った事はないですが」
こんな事を言われるのも慣れてきた。うちの機械科の成績は群を抜いて高く、〇〇が真面目な事もあり他の教員から優秀だと言われる事が多い。それに白石先生の行動が加わり、良い方でも悪い方でも有名なクラスとなっている。出る杭は打たれる、という言葉があるように目立ちすぎているのだ。だから、プライドの高い教師からすれば気に食わないのだろう。初めて担任を持つ教師が、上手くいきすぎている事に。
「そうですか…月島先生、今日はジャージなんですね。学校行事にはいつも参加されないのに…」
俺の反応が微妙だったので話題を変えてきた。確かにこれまでは学校行事は生徒がするものであって、自分が手出しするものではないと思っていたため見学を貫き通してきた。
「えぇ、はい。参加しないつもりでした」
その事に誰も何も言わなかったし、誘われる事もなかった。生活指導の担当もしており見た目も相まって、生徒達からは苦手意識を持たれていた。しかし、自分が嫌われるだけで決まりが守れるなら別に構わなかった。
そんな蚊帳の外での日常が、一年前からガラリと変わってしまった。『月島先生も機械科ですよね!?』副担任という名ばかりで生徒達とは関わる事などほとんどないのに、クラスの一員として扱う生徒がいた。『月島先生、白石先生があとお願いします、だそうです』問題を起こして職員室に呼ばれた担任が言い残した言葉に、素直に従う生徒がいた。どこかアラがあれば冷たくあしらう事もできたが、何も口出しする事がないほどお手本通りの生徒なのだ。時にはその上をいくため、余計に何も言えない。
「いや、うちの子に頼まれましてね。白石先生がきっと何かやらかすだろうから、準備しておいてくれと」
当たり前のように自分の場所が用意されており、クラス全員がそれを受け入れている。
「月島先生、今日はよろしく頼みます」
「月島先生がいれば最後の綱引き、牛山先生のクラスが相手でも問題ないぜ!」
「今年もクラスマッチ総合優勝だー!」
「「おー!!」」
断る事もさせてくれず、自然に輪の中に入れられた。それに抵抗を感じなくなった時、とうとう自分もこのクラスの雰囲気に慣れてしまったのだと思った。
「月島せんせーい!!出番でーす!!」
俺を巻き込んだ主犯の〇〇が大きな声で呼んでいる。それに手を上げ返事を返し、俺の担当する生徒がいる場所へと向かう。最後に言い忘れた事があったのを思い出し、立ち止まって振り返る。
「…元気なのはどこも同じでしょう。白石先生は…まぁ問題ではありますが、生徒から好かれてます。〇〇は優等生ですから、何も心配いりません」
この教師が妬むのもよくわかる。俺がその立場なら、同じ事を言ったかもしれない。
「うちのクラスは優秀ですよ、勉強も行事もバカ真面目に取り組むんで。加減がわからないのが困りますが、可愛いもんです」
そう言いきり、会釈をして歩き出した。
「白石先生は何をしたんだ?」
「綱引きの綱を自分に巻いてそのまま引けと」
「…はぁ、何を考えてるんだ。よし、お前達列を組み直すぞ。相手は牛山先生の他にも力自慢が沢山いる。体重と腕力のバランスを考えて順番を決めるんだ」
「「ウス!!」」
「こら、〇〇。お前はその返事をするんじゃない」
「はっ!つい…」
彼女もこのクラスに染まっているのだなと思い、小さく笑う。そこでふと思う、生徒の前で笑ったのはいつぶりだろうか。
「…ここまで来たんだ。最後まで気を抜くなよ、お前ら!」
「「おー!!」」
野太い声の中に少し高い声が混ざる。教師は生徒に教えるもの。しかし、新しく何かを学ぶのは生徒だけではないのだと思うのだった。
