とある機械科女子の日常

将来の夢は人をあっと驚かせるものを作りたい。そう思って工業高校へ通い、希望した会社を受けた。成績もそこそこで面接も上手くできていたはずなのに、届いたのは不採用通知。諦めきれず似たような会社を受けまくったが全て不採用だった。はっきりとした理由はわからないが、自分が気づかずにしている事が足を引っ張っているのだろう。結局、どこにも就職できずアルバイトをしながら生活する日々。同級生達は手に職をつけているというのに、自分はふらふらとしているのが情けなかった。
(…はぁ、高校生の時に戻りたい…)
寂しくなって物置から高校時代のアルバムを取り出し読み始める。
「…楽しかったなぁこの時。もう一回、やり直したいなぁ…」
やり直す事なんてできないのに、つい口に出してしまう。そのまま布団の上に大の字に寝転んだ。
「やり直したいよぉ…そしたら次は失敗しないと思うのになぁ……あ!!」
首の筋を痛めるくらい、勢いよく起き上がった。
「やり直しはできないけど、戻る事はできるじゃん!!」
そう叫んでスマホを取り、素早い指捌きで見たい記事を探す。
「…あった。よーし!これで、再スタートだぁ!!」
ドンと隣から壁を叩かれ、慌てて口を塞ぐ。そして、ニヤニヤとスマホの画面を見つめるのだった。

あれだけ就職に手こずったと言うのに、教員免許はあっさり取れてしまった。というのも、必死に勉強したからではあるが。とにかく、第二の夢に向かって一歩を踏み出したのだ。
「俺みたいな失敗をしないように、しっかりと子供達を導いてやるぜ!」
しかし、大変なのはここからだった。なかなか担任を任せてもらえず、授業や実習の補助程度しかやらせてもらえないのだ。これでは、生徒達と深く関わる事ができない。自らアピールしてみるも、失敗談が濃厚過ぎて引かれる始末。余計に担任候補から遠のいてしまう。そして、担任を持つ前に学校を転々とし今の学校に来て三年が経とうとしていた。
「今年の一年生の担任は、月島先生に頼もうと思うんだけどいいかな?」
工業科をまとめる鶴見先生が、月島先生を見てそう言った。またダメかと肩を落とす。去年、生徒会の担当者になって派手にやらかしたのがいけなかったのかと色々な原因を思い出しため息をついた。
「今年の機械科は女の子が一人いるからね。男ばっかりだったから大変だとは思うけど、同じように接してあげて欲しいんだ」
「俺は男子生徒だろうが女子生徒だろうが、自分の態度は変わりません」
「うん、そう言ってくれると思ってたよ」
(確かに月島先生だったらみんな言う事聞くだろうなぁ…いいなぁ、楽しいだろうな〜女の子がいるんだぜ?今までのどの機械科にもいなかった女の子!)
もしも自分が担任になった時の理想像を思い浮かべて現実逃避をする。
「…ですが、彼女が三年間楽しく過ごしていけるかと言われると自信がありません。今回は俺ではなく、白石先生を担任にしてはどうでしょうか?」
「えっ!?」
突然白羽の矢が刺さり、妄想の世界から一気に現実へと引き戻される。機械科の教員達の視線が一斉に向けられた。
「白石先生がやりたいと言えばの話ですが…」
「や、やりたい!やりたいです!!」
手を上げ鶴見先生へと詰め寄る。
「月島先生が推薦するなら構わないが、理由は?」
チラリと月島先生が俺を見て、鶴見先生の方へと向き直る。
「白石先生は担当授業を持っていませんが、生徒達に慕われています。クラス内で何かあった時、教師との仲が悪いと解決が遅れます。白石先生なら生徒達とすぐ打ち解けられると思いました」
「…なるほど。月島先生が言うならそうなんだろう…白石先生、やってみますか?」
「…はっ、はい!大船に乗ったつもりでお任せ下さい!!」
「俺が副担任に着きます。もし何かあった時は、俺が対処しますので」
「や、優しくお願いしま〜す…」
ぼきぼきと指の骨を鳴らす月島先生を見て、しゅんと小さくなる。
「…うん、じゃあ機械科一年生の担任は白石先生に決定で!」
「…あ、ありがとうございます!…やったぁー!初めての俺のクラスだぁー!」
長い長い見習い期間からやっと抜け出す事ができ、自身の経験が生徒達の未来の役に立てる時が来たのだ。譲ってくれた月島先生には感謝しかない、ただ失敗した時は恐ろしいが。
「早く四月にならないかなー!俺の生徒達ー待ってるぜー!」
機械科の教員室を出て、嬉しい気持ちを抑えきれず大きな声で叫んだ。
「おい、うるさいぞ!まだこっちは会議中なんだ!」
「す、すみませんでしたぁ!」
電気科の教員に怒鳴られ、慌てて中へと戻った。
「大丈夫かぁ〜?俺は機械科の女の子より、白石先生の方が不安だぞ」
「大丈夫ですって、菊田せんせ!ばっちり俺が面白いクラスにしてみますんで!」
「いや、面白いクラスにする必要はねぇよ」
他の機械科教師が不安そうな顔になる中、俺の頭の中には入学式の事しか頭になかった。
(最初の挨拶は何を話そうか…どんな子達が来るんだろうなぁ…楽しみだぜ!)

そして入学式。もらった名簿を何度も見て全員の名前を覚えた。最初に話す事も決めた。入学式が終わり、クラスごとに分かれ簡単な顔合わせをする。教室の中には四十人の生徒達が、新品の制服に身を包んで座っていた。
(…これが俺のクラス!)
野球部であろう坊主頭が半数。女子にモテそうなイケメンが数人。双子ちゃん。ぱっと見ただけで、個性の強い色んな生徒達が集まっている。そしてその中に俯いたままの女の子。
(…大丈夫!きっと、みんなと楽しい三年間にしてみせる!)
大きく深呼吸をした。
「初めましてっ!このクラスの担任、白石です!初めての担任で慣れない事もあるけど、一緒に楽しい学校生活にしていこうね!」
まばらな返事が返ってくる。これは予想通り、慣れない環境でみんな緊張しているのだ。
「勉強、就職、進学はもちろん!恋愛、友達関係なんでも相談してね!ちなみに俺、就職試験は五回落ちて、三人に告白して全部振られてるから!」
「いや、不安すぎる!!」
俺の話を聞いた生徒達が、ざわざわと隣と顔を見合わせたりしている。
「何言ってんの〜俺が失敗した話を聞いて、みんなはそれをマネしなければいいんだよ!俺の失敗を笑って聞いて、自分に生かして欲しいんだ!それが、俺が教師になった理由だから」
かっこいい言葉なんて思いつかない。自分が見せられるのはカッコ悪い所だけ。それが彼らのためになるのなら、何も恥ずかしい事なんてない。
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