ゴールデンカムイ

今日は日曜日。
『たまには変わったお店に行きたい!』と、母の希望でスウェーデン発祥の世界最大家具メーカーとして有名な店に行く事になった。
車の運転は俺、助手席には2つ歳下の彼女、後ろに親父と母。
「外国のベッドって言うのはどんなんだろうねぇ…布団とは違うのかねぇ?大きい姿見が欲しいんだけど…」
「ウチの家に外国のもんなんて合わねぇぞ」
車の中で母が胸を躍らせている横で正論を言う親父。
確かに俺もそう思う。なんてったって、俺の家は昔ながらの日本の家なのだ。外国製の家具なんて絶対に浮く。
「これを機に、リフォームってのも良くないかい?」
「どこも悪くねぇのにしてどうすんだ」
後ろで両親が言い合いを始めた。彼女がいるってんのに恥ずかしい。
チラッと助手席の彼女を見れば、ナビの画面に集中している。
「…あ、そろそろ右折なので、右に寄っていた方がよさそうです!」
「了解」
こんな賑わった所を走るのは久しぶりなので、非常に助かる。
「〇〇は、今から行く所行ったことあるのか?」
「いえ、初めてですね!だから、どんなお店なのか楽しみです!」
「そっか」
「一時期、サメのぬいぐるみが話題になってて、ちょっと欲しいなと思ってたんですよ。まだお店にあるかな?」
「そう言えばあったな…」
SNSで、椅子に座ったサメのぬいぐるみの写真が話題になっていた事があった。その時は、人気で売り切れになったらしい。
(あったら買ってやろう)
サメのぬいぐるみを抱き喜ぶ彼女を思い浮かべる。
彼女のナビのおかげで目的地に無事到着。車から降り、人の多さに引いている親父を引きずるようにして店に入っていく母を見送る。
「…わ〜すごい人ですね…」
「思ってた以上に人気なんだな…」
俺も人が多い所は苦手な方なので気は重いが、せっかくここまで来たし彼女にサメのぬいぐるみを買ってあげたい。
あと、興奮状態の母がとんでもない物を買う前に止めねばならない。パッと見た限り、うちの家には不似合いの家具ばかりのような気がする。
人の流れに乗って店の中を見て歩く。
テーブル、イス、ソファ、ベッドなどなど…所々にモデルルームなんかも作られている。
彼女が言っていたサメはどこにいるのか。そろそろ終盤となった所で、色々な人形が飾られた入り口が見えてくる。
(あるならここか…)
先に進めば、大きなカゴがいくつも並びその中にあふれるくらいにぬいぐるみが入っている。中には、なんだこれ?と思うものもあったが、スルーして目的のものを探す。早く見つけてやりたくて、少し早足になる。
探していたサメのぬいぐるみは、1番進んだ先にあった。人気だからか、カゴ2個分用意してある。数もまだまだあったので、ホッと息をつく。
「〇〇が探してたサメのぬいぐるみあったぞ…?〇〇?」
隣を歩いているはずの彼女に声をかけるが、返事が帰ってこない。不思議に思い振り返れば、少し後ろの方で立ち止まり別のぬいぐるみを見ている。
「…そいつが気になるのか?」
「あっ‼︎ごめんなさい!立ち止まってしまって…」
彼女が見ていたのは、まあまあ大きい熊のぬいぐるみ。仰向けに寝ているようなポーズで、腹がぱんぱんに膨らんでる。
「〇〇は、熊好きだよな」
「はい!だからつい見ちゃって…お腹が柔らかくて気持ちいいですよ」
丸々太った熊の腹をポンポンと叩く彼女に倣い自分も触る。確かに柔らかくて気持ちいい。
「うん、確かにいいな」
「ですよね!あ、サメさんいましたか?」
「あぁ、あっちにいたぞ」
熊のカゴから離れ、サメの入ってるカゴへ行く。
「わぁ〜!写真で見たのと同じです!可愛い!」
1匹抱きかかえ、くるくると回転させ観察している。
どいつにするか選んでいるのだろう。俺にはわからないが、同じ物でも人形1つ1つに違いがあるらしい。
黙って彼女が選ぶのを待っていると、持っていたサメをカゴの中へそっと戻した。
(こいつじゃなかったか…)
さて次はどのサメを取るのかと思っていたら、彼女がモジモジしだした。
「どうした?」
「…あの、自分から言っておいてなんですが…さっきの熊さんを見ていいですか?」
申し訳なさそうに俺を見て、さっきの熊のぬいぐるみが置いてあるカゴを指差す姿にキュッと口が引き締まる。
「…いいよ、熊も可愛かったしな」
俺の返事に安心した彼女は、早足で熊の所へ行く。そして、少し奥に置いてある熊を抱き上げると、ニコニコしながら俺の方を向いた。
「この子が1番可愛いと思います!」
「……うん。じゃあそいつにしよう」
一連の行動に胸がいっぱいになりながらも、なんとか返事を返した。
一通り店の中を見て回り、熊のぬいぐるみだけを持って終了。途中、馬鹿でかいベッドを買う買わないで喧嘩していた両親を回収。
「せっかく来たのに何も買わないなんて…」と言う母に、和室に合いそうな座椅子を彼女が提案する。最近、膝が痛くて正座をするのが辛いと言っていたので、これは良いと2人とも納得し座椅子を2つ購入することで落ち着いた。
帰りの車の中、人の多さに疲れた親父とはしゃぎ過ぎて疲れた母が後ろで爆睡している。親父に関してはいびきまでかいて寝ている。恥ずかしいから勘弁してくれ。
隣に座る彼女は、今日買った熊を膝の上に乗せ丸々した腹をポンポン叩いて満足そうだ。
最初の目的とは違ったが、彼女が喜んでいるなら良いだろう。
彼女を家まで送る途中、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「なぁ、何でそんなに熊が好きなの?」
付き合う前は熊が好きというのを聞いた事がないし、そんな風でもなかった。だが、今は持ち物のほとんどに熊がいる。スマホケース、財布、鞄、さりげなく熊がいる。
俺が彼女の熊好きを知ったのは、初めて彼女の家に行った時だった。部屋中に熊。どれも大切にされているのだろう、綺麗に並べられている熊のぬいぐるみ達。その中でも気になったのは枕元にいた熊だ。
1つだけ他と違う場所にいるので、1番のお気に入りなのだろう。観察してみて気づいた。彼女には悪いが、世の中の可愛い可愛くないという感覚が鈍い俺でもなんとなく、この熊可愛いという顔ではないだろと思った。
(なんだこのめちゃくちゃ太い眉毛は熊って眉毛あんのか?)
ぬいぐるみなのにすごい威圧感がある。なぜかこの熊だけ、海苔のような太い眉毛がついているのだろうか。少し他の生地と質感が違うような気がして、もっとよく見ようと思っていたら彼女に呼ばれ、すっかり忘れていたがあの熊一体なんなのだろうか。
「付き合う前から好きだったの?」
「…えぇと…いつからというとですね…」
さっきまでご機嫌だったのが、急に落ち着きがなくなる。まさか別の男の好みかと思ったが、そんな子じゃないし、付き合うのは俺が初めてって言ってたから元彼のという訳でもないはず。
「好きになったのは最近なんです…」
「…最近」
何か熊に関わることがあったのだろうか、彼女をここまで熊好きにさせるような何かが。なかなか答えを教えてくれないので、自分なりに色々考えてみるがいまいちピンとこない。
そうこうしているうちに、彼女の家へと着いてしまう。
「きょ…今日はありがとうございました!ぬいぐるみも買っていただいて…大切にします!」
「どういたしまして」
彼女が車から降りドアに手をかけるが、そこから固まって動かない。
「どうした?何か忘れモンでもしたか?」
「…わ、私が熊を好きになったのは最近で…野間さんが、ちょっと熊っぽいかなと!思ったからです‼︎」
「…え、俺?」
「運転お疲れ様です‼︎気をつけて帰ってください‼︎ありがとうございました‼︎」
体育会系のような挨拶をした後、ドアを閉め走り去っていく彼女。俺はしばらく彼女が走り去った方を見ていた。
「…俺が、熊?熊か?」
じゃあ、彼女は俺と付き合いはじめたから熊好きになったのか。
俺ってそんなに熊っぽいかとサイドミラーに写った自分の顔を見る。
「……あ」
枕元にあった、あの熊。
「…コレか」
にやけそうになる顔を両手で隠すようにして、ついでに自分の太い眉毛を撫でてやる。ありがとう俺のわかりやすいチャームポイント。今までなんとも思ってなかったけど。
「確かに、熊っぽいかもね。体も大きいし」
「まぁ、強そうな動物で良かったな」
「いつから起きてたんだよ。一生寝てろ」
「親に向かってなんてこと言うのアンタぁ‼︎」
頭を叩かれる前に、車を発進させる。
後ろから母が何か言っているが、それどころではない。彼女に愛されてる嬉しさと、それを両親に聞かれた恥ずかしさとでおかしくなりそうだった。
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