自由人HERO

あの日、リュウが酒断ちを宣言してから一年が経とうとしていた。リュウは本当に酒断ちを始め、竜人界の英雄としてさらに力をつけていた。
「天使様には、なんとお礼を言ったらいいか…」
「いえ私は何も…リュウ様は元々すごいお方でしたので」
〇〇は白龍にリュウを改心させてくれたお礼をと、竜人界に呼ばれていた。
「そんな事はありません。兄は大喰らいの大酒飲みで、下品極まりない男でしたから」
「逆になぜそんな方が英雄に?」
弟の兄に対するあまりの評価に驚きが隠せない〇〇。
「私も当時はなぜ兄が、と思いましたが…兄の細かい事にこだわらない性格が、竜王様には良い意味で英雄としてふさわしく見られたのでしょう」
「…自慢のお兄様ですね」
「…最近は少し見直していますが、別にそんな事は…」
誤魔化すように咳払いをする白龍に〇〇が笑いかけた。
「天使様!」
すると、外で他の龍人に稽古をつけていたリュウが二人に気づき大きな声を上げた。〇〇は、小さく手を振り白龍とともにリュウの元へと近づいた。
「なぁ〜んで白龍が天使様といるんだよぉ〜」
「何かいけない理由があるのですか?」
「…はっ!いけねぇいけねぇ…なんでもねぇよ」
白龍を睨みつけていたリュウだったが、何かを思い出したように頭を振り一歩後ろへと下がった。
「こんにちは、リュウ様。竜人界の皆様。稽古の邪魔をしてしまってすみません」
「ぜぇ〜んぜん!そろそろ終わりにしようかなぁと思ってた所ですよ!」
近距離で天使との対面に、他の龍人達が熱に浮かされたような表情になる。
「おいてめぇら!天使様の前でそんなだらしねぇツラすんじゃねぇ!」
「アンタの顔が一番シマってないんですよ」
「天使様。これから時間があるんだったら、俺と竜人界をぐるっとひとっ飛びしませんかい?」
「話を聞け。そして天使様を気安く誘うな」
「うるっせぇんだよ、白龍〜!」
「リュウ様がお疲れでなければ、私は構いませんよ」
「決まりだな!ちょっくら、水浴してくるんで待っててくださいよ!」
そう言うと、リュウは走ってどこかへ行ってしまった。
「…はぁ、子供みたいな男ですみません。天使様もわざわざあの男に気を使わなくても良いんですよ?」
「そ、そういうわけでは…」
「あ、あの天使様。お聞きしたい事があるのですが」
おずおずと様子を伺うように修行をしていた龍人が一人、前へと出てくる。
「私に様なんてつけなくてもいいのですよ。えっと、何でしょうか?」
「いえ、リュウ様が天使様とお呼びするなら我々もそれに従います。聞きたい事というのは、天使様はリュウ様と婚約をなさるのかという話なのですが…」
「あぁ、自分も気になっていました。兄が勝手に言っているだけだと思いますが」
「…え、えぇと…」
リュウからのアプローチは、あの日の酒断ち宣言の日から今でも続いていた。ガマ仙人が言っていたように、自身の性格では一人のためにという生き方はできないと思った。また戦が始まれば、天使としての役目を果たさなければならない。その時の私の行動は、きっと彼の気持ちを裏切るだろう。
「やめろお前ら、天使様が困ってんだろうが」
水浴びを終え、着替えたリュウが歩いてくる。
「兄さん…日頃、天使様に迷惑かけている男がカッコつけて言うセリフじゃないですよ」
「じゃかぁしいわ!表出るか愚弟!」
「兄さんが言い出したんでしょう。天使様を妻として迎えるために修行をすると」
「おう、天使様を嫁にしたくて修行してんのは本当だぜ?でも、それを本人の前で言うんじゃねぇよ。さぁてと、行きますかねぇ!」
「え…ひゃあっ!?」
近寄ってきたと思っていたら、突然姫抱きにされる。
「しっかり捕まっといて下さいよっ!」
そう言って、リュウは〇〇を抱えたまま軽々と屋敷の屋根の上へと飛び上がる。
「兄さん!天使様に怪我などさせぬよう気をつけて下さい!」
「わかってらぁ!」
龍の姿に変わり、あっという間に雲の間に消えていった。
「全く…天使様の前だと、いつも以上に調子に乗る…」
白龍は大きくため息を吐いた。

リュウの背に乗り、竜人界の空を飛ぶ。
「…リュウ様、修行の理由とは本当に…」
「ん?あぁ、天使様の魅了ってやつに負けねぇよう修行してんだ。それが一緒にやりてぇって奴らが出てきて、いつの間にかあんな大人数になっちまってよぉ。困ったぜ〜」
いつもの修行の風景を思い出したのか、楽しそうに笑うリュウ。
「…魅了を克服しても…私がリュウ様の想いに応えられるかわからないのに…」
「そういう時は仕方ねぇさ。でもまぁ、無駄にはなんねぇだろ?俺も他の奴らも、自分の守りたいもん守るために強くなってんのは間違いない」
少し高い丘の上に〇〇を降ろし、人の姿に戻るリュウ。
「天使様はお忙しい方だからなぁ〜独り占めなんてできないって事はわかってます…が、俺ぁ諦めの悪い男なんでね。天使様がこの先一人でも、別の男と幸せになっても、俺はずっと貴女を想ってますよ」
いつものように慈愛の籠った目で見つめられ、悪い事をしているようで思わず顔を伏せる。
「まぁ龍人は寿命が長いんで、何百年何千年と平気ですからねぇ〜!」
「どうしてそこまで…やっぱり魅了の効果が…」
「これは魅了なんかじゃねぇよ」
声色が変わり顔を上げると、先程までにこにこしていたリュウの表情が少し怒っているように見えた。
「この気持ちは本物だ。それを、あるかないかよくわかんねぇもんで片付けられてたまるか」
「…ご、ごめんなさい…」
「おっと!別に天使様に怒ったつもりじゃないぜ?ただ俺が本気だって事を、天使様に知って欲しかったんだ」
リュウが再び俯いた〇〇の顔を覗き込むように、目の前に跪いた。
「すぐにとは言わねぇ。天使様、俺は竜人界の英雄として国を守り続ける。その時に少しだけでいい。他の誰かより長い時間、俺の隣にいて欲しい。天使様が戦が嫌だってんならすぐにでも止めさせるし、なんなら地上に生きる者ぜぇ〜んぶ守って見せますぜ?ちと言い過ぎですかねぇ」
リュウがニッと笑い、手を差し出した。
「まぁ…隣にいてくれるってんなら、いつでもこの手を握ってくれや。それを俺は、想いを受け取ってくれたと思うからよ」
「…リュウ様、そんな私なんか…」
「前にも言ったが、天使様が空から降りてきた時から惚れてたんだ。あの日から、天使様の姿が頭から離れねぇんだよ」
愚直すぎて恥ずかしくなるようなアプローチに、〇〇は顔を真っ赤にした。そして何かを決意するかのように深呼吸をすると、震える手で差し出されたリュウの手に自分の手を重ねた。
「…わ、私で良ければ…その…」
「やったぜえぇぇぇ!!」
「ひゃあ!?」
リュウは〇〇を抱き上げたままその場でぐるぐると回転し、最後に自分の腕の中に閉じ込めた。
「言質取ったぜ天使様〜!嬉しいぜ、他の奴らよりも優位に立てるって訳だ!よっしゃあ!このまま祝言まで上げちまうかぁ!」
「リ、リュウ様!?それは気が早いのでは!?」
「天使様を嫁に迎えるんだ、準備すんのに時間がかかるんすよ。衣装も料理も最っ高にいいもんじゃねぇとなぁ!」
「お、落ち着いて下さいませ!リュウ様!」
「俺ぁ落ち着いてますよ!さぁて!戻って親父殿に報告だぜぇ!とばすからしっかり捕まっといて下さいよ天使様ぁ!」
「全然落ち着いてないです!私の話を…ひゃあ!?」
〇〇がどれほど訴えても、興奮して聞く耳を持たないリュウは龍の姿に変わり〇〇を抱き上げ飛び上がったのだった。

それからあれよあれよという間に、祝言をあげる事となったのだ。今日は婚礼の儀。〇〇は竜人界の衣装を身にまとっていた。
リュウの手を取ったあの日。抱き抱えられたまま、リュウの父親であるドラゴンの部屋に飛び込んでの第一声。
「親父殿ぉ!天使様との婚約が決まったぜぇ!」
「何ぃ!?すぐに祝言の準備をしろ!!」
自身の訴えは届かず、興奮した二匹の龍は収集がつかなくなってしまったのであった。
「親子なのだからか、決断も早くて…お父様も本当によろしかったのでしょうか?」
「良かったのかと聞かれるとそれはこちらのセリフです、天使様」
お付き役の白龍が渋い顔をして、〇〇の衣装に不備がないか確認していた。
「天使様こそ本当にあの大酒飲み、大喰らい、礼儀知らずのあの男で良かったのですか?」
「んだと白龍てめぇ!!聞こえてんぞ!出てこいや!」
白龍達のいる部屋の外から、リュウの怒鳴り声が聞こえた。
「やはりいましたか。聞き耳立てるくらいなら中に入ればいいものを…」
「馬鹿言うんじゃねぇ。式が始まるまで、嫁の姿は見ねぇ決まりだ」
「律儀に決まりなんて守るような男じゃないでしょ、アンタ」
「どーして、悪い事しか言わねぇのかねお前は!」
「兄さん。天使様の準備が終わりましたので、そろそろ行きます」
「…おう。頼んだ白龍」
外の足音が少しずつ小さくなり聞こえなくなる。リュウはいなくなったのに、動かない白龍を不思議に思い見つめる。
「白龍様?」
「…!申し訳ありません。少し…驚いてしまって。あの兄が、自分に頼み事をするなんて久しぶりで…」
兄弟でありながら歪み合いばかりでぶつかり合う事の方が多かった。一度は本気で技を向けた事もあった。
(いつからか言い合う日はあっても、手が出る事はなくなったな…)
最近の記憶を思い出す。自分達の何が変わったのだろうか。ふと、鏡に写った〇〇が目に入る。
「…あぁ、やはり貴女のおかげでしたか」
「え?」
「いえ。すみません、さぁ行きましょう」
歩きにくいであろう〇〇の手を取り、エスコートをする。
「天使様、嫁がれる事を心配なさっているようですが問題ありません。我が家は、貴女を喜んで歓迎いたします」
「白龍様…」
「…手のかかる兄ですが、よろしくお願いします」
「こちらこそ挨拶が遅れてしまいました。不束者ですがよろしくお願いします」
しっかりとしたエスコートに身を任せ、部屋を後にした。

豪華な飾りが施された祭壇の前に、リュウが落ち着きのない様子で立っている。
「見ろよ。リュウのやつ、緊張してるぜ!」
「堅っ苦しいの嫌いだからなぁ、無理もないだろうが」
ニヤニヤと各界の英雄達が見守る中、式場後方から扉の開く音が聞こえ会場が静かになる。
「〇〇さん、来たっす!」
白龍にエスコートされながら〇〇が入って来ると、所々で感嘆の声が上がっている。リュウの前まで辿り着き、〇〇の手を取るはずのリュウが動かない。不思議に思い顔を見れば、天使に視線を奪われていた。
「…兄さん、兄さん」
「あ?」
「いつまで見惚れているのですか。天使様の手を取って下さい」
「わ、悪い!」
白龍に小声で言われ慌てて、〇〇へと手を差しだした。その手を取り一段一段と階段を上がる天使の姿は、神々しく見える。一方で我が兄は、がちがちに緊張しており見慣れぬ正装姿もあって面白く見える。式の間、始終動きの固い兄に、〇〇が緊張を取り除こうと笑いかける。
(…おめでとう兄さん)
二人で手を取り合い笑い合う姿を見て、本人には恥ずかしくて言えない言葉を心の中で呟いた。


とりあえずお堅い式の方は無事終了し、ここからは飲んで食べての無礼講。
「だぁ〜っ!ったくよぉ〜堅っ苦しくてやってらんねぇぜ!」
「面白かったぜえーリュウがガチガチに緊張してんの!」
「けっ!うるせー!オメェら覚えてろよ、今と同じ言葉返してやる」
正装を少し緩めながら、他の英雄達と言葉を交わす。天使様はお色直しという事で着替え中である。
「それにしても綺麗だったっすね〇〇さん!着物もすげー豪華だったし!」
「あったりめーよ!天使様に相応しい物を用意したんだ。あれ一枚で家が建てられるぜ」
「はっ!?マジで!?俺にちょーだいよ、あの着物!」
高価なものという事で、サクラがすぐに食いつく。
「馬鹿言うな!何でおめーにやんねぇといけねぇんだよ!」
「いいじゃん!もう結婚式終わったから、いらないでしょ?」
「ふざけんな、あれはもし娘が生まれた時にやるんだよ」
「気が早ぇなぁ〜結婚したばっかだって言うのに」
「計画性があるって言ってくれ」
「お待たせいたしました。新婦様のご入場です」
拍手と共に綺麗に着飾った〇〇が、頭を下げながら宴会場へと入ってきた。
「うわ〜!あの服もすっげぇ綺麗っす!」
「あいつも土地が一つ買える」
「ねぇ、金使い過ぎじゃね?本当に計画性あんのか」
全員が席につき食事を始めようとした時、ばんと勢いよく戸が開く。その音に全員が注目した。
「おっと、こいつは失礼!遅くなっちまってよぉ!」
「にーに!」
「乱世様!」
いつものラフな格好でヒーローの兄達がズカズカと会場に入ってきた。
「いやー悪い悪い!ガマに頼んだんだけどよ、ごねちまってなかなか変身させてくんなくてさ。遅くなっちまった!」
「…乱世の兄貴!やっぱ、ちゃんと正装してくるべきじゃねぇか?めちゃくちゃ浮いてるぞ」
「…人が多い…〇〇には悪いけど、切っちゃいそう」
「止めろ忍。少しの間だから耐えてくれ。兄ちゃんこんな大人数フォローしきれねぇ」
「乱世様達、わざわざここまで来てくださったのですか?」
「そりゃあ、俺達にとって可愛い妹みたいなお前が結婚するってなったら来るだろ?」
「乱世様…」
「にしても、綺麗にしてもらって良かったな〜!もっとよく見せてくれよ」
そう言って、乱世は〇〇の手を取った。
「まぁ、龍人と結婚するって話を聞いた時は驚いたが…」
チラリと乱世がリュウの顔を見る。リュウは若干不満げな表情を見せた。リュウにとって乱世は恋のライバルみたいなもので、不安要素の一つでもあった。
「…俺達の妹分をよろしく頼むぜ?」
「…おう」
「…って、素直に渡すと思ったか?」
「あ?」
乱世は不敵な笑みを浮かべると、〇〇を抱き上げ外へ飛び出していった。
「はぁ!?」
「ガハハハ!あのなぁ天使ってのは超人の中じゃ、貴重な人材なんだよ。それを地上の住人にやれるかってんだ!」
「おいコラ!ふざけんな!!」
「乱世様!」
「しーっ!いいから俺に任せとけ、天使を娶るための試練みたいなもんだ」
にっと乱世が笑い、〇〇は口をつぐむ。
「返して欲しけりゃ、俺達を追って来な!追いつけるもんならなー!」
大笑いを響かせながら飛んでいく超人兄弟にリュウは怒りで身体を震わせる。
「…あんにゃろぉ…俺を舐めやがって…ふざっけんな!天使様を返しやがれ!!」
そう叫ぶと、龍の姿となり飛び上がった。
「パーパ、ヒーロー達も追いかけた方が良いのか?」
「いや、あれはリュウに対しての挑戦だ。あいつ一人で片付けないと意味がない」
「つーか、主役がいない状態でどうすんだこれ」
「「…」」
残された人々は、呆然と彼らが飛んでいった方向を見上げていた。

「待てこらぁ!!」
「乱世の兄貴!来やがったぜ?」
「おう!忍、リキッドちょっくら相手してやんなさい」
「わかった」
「りょーかい」
忍とリキッドが方向転換し、リュウへと向かって行く。
「な、何をするつもりなんですか!?」
「まぁ、ちょっとした腕試しよ」
「そんな…やめさせて下さい!無駄な争いなんてしないで下さい!」
「無駄じゃねぇよ、大事なことさ」
暴れる〇〇をなんともないように抱きかかえ、乱世は飛ぶスピードを緩めない。
「乱世様!」
「なぁ、〇〇。こいつは最後の忠告だ」
乱世は突然移動をやめ、真剣な表情で〇〇を見つめる。
「別にあいつがダメだって言う事じゃない。ただ、お前達に辛い思いをしてほしくないんだ。龍人は長生きだって聞いてる。残される方の辛さは、お前だってよくわかってるだろう」
「…」
「確かにお前の自由を願ったが、少しばかり気がかりがあってな。あいつを説得すんなら俺も…」
「なぁ〜にが説得だ!オラァ!」
紅龍が乱世の背後を駆け上がった。
「おっとぉ…意外と早かったじゃないの。竜人界の英雄さん」
リュウは息を切らしながら、乱世達の前に現れた。綺麗に整えていた髪型は崩れ、衣装も所々破れている。
「そりゃ必死になって嫁さんにした女を連れて行かれたら追っかけるだろうよ…つーか、何考えてんだテメェ。大事な式の途中に主役を攫うなんてよぉ…」
「リキッドと忍がやられたかぁ〜おかしいねぇ、ガマに英雄六人がかりでボロ負けしたって聞いたんだがな」
「いつの話してんだよ。もうあの時の俺じゃねぇ、覚悟しろや乱世」
「んじゃ、相手してやりますかね。お前はここで見てなさい」
〇〇を安全な場所へ降ろすと、乱世は背中を伸ばしてストレッチを始める。余裕な雰囲気に、リュウは警戒を強めた。
「てめぇには一度負けてんだ。丁度いい、あの時のリベンジだ」
「そういや、そうだっけなぁ〜。成長してるか見せてくれよ」
「あぁ、これでもかってぐらい見せてやるよ!」
リュウが乱世に向かって飛びかかり、攻撃を始めるが乱世はそれを軽くかわしてしまう。
「ちっ!弟達みたいに簡単にはいかねぇかい!」
「ガハハハ!あったりめぇよ!何てったって、長男だからなぁ!」
乱世の出した蹴りがリュウの腹に入り、そのまま後ろへと飛ぶ。
「お前には悪いが、天使との婚約は無理だ。生きる時間が違いすぎる」
「…げほっ!時間がなんだってんだよ、一緒にいられる時間が短くたって俺ぁ…」
「〇〇はあと十年も生きられん」
乱世の発言にリュウは驚き、息を呑んだ。
「天使の寿命は三十年から四十年。能力を使えば使うほどそいつは短くなる」
「なら天使様はまだ十八だ。まだ全然…」
「あいつが戦場に出たのは八歳。その時から能力を使ってんだ。それだけ他の奴よりも寿命が短い」
「…な、んで」
「あいつは身内を全員殺されてる。たった一人だけ生き残った分、他の天使の役目まで背負っちまったんだよ」
乱世が悔しそうな顔をした。
「俺も戦場に連れて行きたくはなかったさ。でも、アイツがいないと勝てなかったのが事実だ。力不足だったんだよ」
そう言って、リュウの胸ぐらを掴み立ち上がらせる。
「わかっただろ。天使ってのは側にいても守れりゃしねぇ、自分から命を削っちまうもんなんだ。俺達みたいな戦場に出る奴に任せちまうとアイツはどんどん力を使う。お前は〇〇を殺す気か?」
「…んな訳ねぇだろ」
「あん?」
「天使様にゃ今後いっさい力は使わせねぇ!そのために俺は修行してんだよ!」
リュウが気を抜いていた乱世に一撃を決め、今度は乱世が後方に倒れる。
「つーかよぉ、天使の役目なんざ知ってらぁ!それを覚悟で娶ったんだ!今更他人が口出ししてくんじゃねぇよ!」
「…他人ねぇ、一応保護者代わりなんだが?」
「だったら話は早い。俺は天使様のために全てを捧げる覚悟だ。認められねぇんってんなら、認めてもらえるまで相手してやらぁ」
「そうかい」
またしても激しい戦闘が始まる。離れた所で見ていた〇〇は、どうにか止められないかと思案する。
(確かに乱世様の言う通り…きっと私の命は長くない…リュウ様を一人にしてしまう。でも…)
顔を上げれば、超人である乱世に必死に立ち向かうリュウの姿が目に入った。
「あの人なら…リュウ様なら、きっと私がいなくなっても…」
彼の手を取った時に、自分の中で覚悟を決めた。この先短い命でも、この人の幸せのために自分のできる事をしたい。この人の生きる世界を守りたい、少しでも良くしたいと思った。
(私の幸せは、リュウ様が楽しく生きる事。この世界で大切な人と共に過ごす日々を守る事)
自分の覚悟を改めて決意し、二人の元へと走り出す。
「二人ともおやめ下さい!」
「あっち行ってろって!危ねぇから!」
「天使様!俺ぁ、こいつに勝ちてぇんだ!邪魔しねぇでくれ!」
どんなに叫んでも止める気配がない事がわかり、〇〇は最終手段を使う事にした。
「…手荒な事はしたくなかったのですが…言う事が聞けないのなら、こうです!」
二人の間に透明な壁ができ、お互い殴ろうとした拳がその壁に触れる。瞬間、凄まじい電流が二人に流れた。
「「うがぁぁぁぁぁぁ〜っ!?」」
電流に身体が痺れ、二人して地面へと倒れ込んだ。
「…〇〇…いつのまにそんな技を…」
「て、天使様…そんな事もできたのね…」
「お二人が話を聞かないからですよ。今治してあげますからね」
「ばっか!力をむやみに使うなって!これぐらい大丈夫だ!」
「そーだぜ天使様!この程度なんともねぇぜ!」
二人が平気なフリをして、ふらつきながらも立ち上がった。
「…で、決まったかい?天上界に帰るか、龍人に嫁ぐのか」
「はぁ!?帰るって何だよ!俺ぁ認めねぇぞ!」
「黙ってなさい龍人!好きなんだったら相手の意思も尊重しなさい!」
「…ぐっ」
乱世に言われ、仕方なく黙るリュウ。
「…乱世様」
〇〇は乱世へと顔を向けた。やはり、幼い頃からの憧れには勝てなかったのだとリュウは拳を強く握りしめた。
「…私は地上に残ろうと思います。そして、リュウ様とわずかな時間ですが添い遂げたいと思っています」
「…天使様」
「…はぁ、まぁお前ならそう言うだろうと思ったよ。全く頑固なんだから」
「ごめんなさい、乱世様」
〇〇は乱世に頭を下げ、そしてリュウの方を見た。
「リュウ様、乱世様が言われたように私は長くは生きられないかもしれません。きっと、貴方に辛い思いをさせてしまうでしょう…それを踏まえてお聞きします」
〇〇が一度深呼吸をする。
「こんな私を妻にしてくれますか?」
リュウは〇〇の前に跪いて、その手を取った。
「もちろんです。俺の全てを貴女に、きっと幸せにしてみせます」
「ガッハハハ!いや〜目の前で見せつけられちゃってよぉ!もういっぺん掻っ攫ってやろうと思ってたんだが…」
乱世がそう言うと、リュウがすぐさま〇〇を抱き寄せた。
「そんだけお互い覚悟があんならいいさ。お幸せにとしか言えないねぇ!」
乱世は豪快に笑うと〇〇を見つめる。
「おめでとう〇〇。幸せになれよ」
「乱世様…」
「〜っ!だぁーーっ!止めろ止めろ!お前わざとやってんだろ!天使様を誘惑すんな!」
「誘惑ってなんだよ。はぁ〜ん、お前自信ねぇんだろ。〇〇に好かれてるかどうか」
「…う、うるせぇ!そりゃ…半ば強引に婚約結んじまったのもあるが…」
「自覚はあんだな」
「…」
「まぁ嫌だったら本気で逃げてるさ。そうしなかったって事は、〇〇にも気があったって事だしな!」
「…や、やめてください」
〇〇は顔を赤くして乱世を睨む。
「ガッハハハ!さぁ早く戻んなさい、新婚さん。みんなが待ってるぜ?」
「誰のせいだよ!」
「悪い悪い!まぁ思い出に残って良いだろ?」
「良くねぇ!ったくヒヤヒヤさせやがって…良いですかい?天使様」
「はい」
〇〇は龍の姿になった彼の背中に乗る。
「…乱世様」
「ん?」
「今までお世話になりました」
〇〇はそう言って、深々と頭を下げた。
「…なんだい。突然、老けちまった気がするぜ。おいコラ、龍人!ウチの可愛い妹泣かせたら承知しねぇからな!」
「うるせぇ!わかっとるわ!」
「〇〇!そいつが嫌になったらすぐにでも帰ってきて良いからなー!」
「縁起でもない事言うんじゃねぇ!行くぞ天使様、ちゃんと捕まっててくれよ!」
乱世は空高く飛んでいく龍と天使を見送った。
「良かったのか乱世の兄貴」
物陰からリキッドと忍が出てくる。
「あぁ、あいつが良いならいいさ。というか、あんなに執着されてるとは思ってなかったぜ」
「あいつ諦め悪すぎるだろ。俺達の事、本気でヤろうとしてたぜ?」
「まぁ、でも良いんじゃない?あれだけ一途なら〇〇の事大事にしてくれるよ…うん、君達もそう思う?」
「おーい、見えねぇ奴らに意見求めんな。兄ちゃん判断できねぇぞ」
乱世は大きくため息をつき、また空を見上げた。
「今まで頑張ってきたんだ、目一杯幸せにしてもらいな〇〇」
「龍人と天使のハーフってどんなんだろうな?」
「さぁ、でも〇〇の子だ。きっと可愛いよ」
「旦那はあれだぜ?」
「気が早ぇなぁ〜小遣い用意しねぇと」
「アンタが一番気が早いわ」
本日は晴天。自身の気分を表すかの様な空に乱世は思いっきり伸びをした。
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