自由人HERO

「いや〜天使様はほんっとに綺麗だねぇ〜!」
ガマ仙人の所で各界の英雄達が修行の為に集まっていた。リュウは少し離れた所で、赤の秘石により赤子となって生まれ変わったヒーローの兄達の世話をしている〇〇を見てぼやいた。
「おら、リュウ!ぼけっとしてねぇで、ガキ共の相手をしてやんなさい」
シンタローに小突かれ、リュウは大きく伸びをして首を鳴らし立ち上がった。
「ん〜仕方ねぇなぁ。じゃあ、かかって来いやガキンチョ共!」
「甘く見ないでよね!これでも同じ修行してんだから!」
「いつまでも子供扱いさせねぇっす!」
「俺からしてみりゃ、どいつもこいつもガキだなんだよなぁ」
キリーとサクラがリュウに攻撃を仕掛けるが、それをあっさりと交わしてしまう。
「ははっ!どうした〜そんなもんかぁ?」
「なぁ、〇〇は乱世と結婚するのかー?」
「ごふぁっ!?」
「うわぁ!?リュウさんが血ぃ吹いた!サクラ何したんだよ!?」
「まだ何もしてないよ!」
「ひ、ヒーロー様!?突然何を…」
〇〇の側にいたヒーローが、兄達と寝転びながらさらりと聞いた。
「リキッドが、戦士についた天使は大体結婚するって言ってたのを思い出した!乱世と結婚したら、〇〇は僕のねーねになるんだな」
「なぁぁぁんだってぇぇ〜!?」
大声を上げてリュウが地面へと倒れた。
「うわっ!?サクラ、やっぱり何かしただろ!?」
「だーかーら、何もしてないって!憧れてた天使様に相手がいて、ショックで倒れただけだよ」
キリーとサクラが倒れたリュウを小突く。
「あんな大雑把な男が天使様の婚約者だなんて許せねぇ!」
「リュウさん、ブーメランっす」
ごすん、とみぞおちに一撃をくらいキリーが静かになった。
「ちょっとお前ら、天使様のお話聞こうぜ」
「後悔するからやめた方がいいと思うよ?」
サクラの静止も聞かず、リュウはヒーロー達に近づいた。
「位の高い戦士の方には1人ずつ天使が付くようになっていました。中にはリキッド様の言うように、そのまま添い遂げる天使もいましたよ?ですが、私はまだ子供で未熟者でしたからそのような話は…」
「誰が付くのとかは決まってるのか?」
「戦士の方が決めますよ」
「なんで乱世は〇〇を選んだんだ?」
「乱世様くらいの方に付くとなると、それなりの地位が与えられます。それだけを望む者もいましたので、子供の私を選んだみたいです」
「天使なのに地位とか気にするのかー」
「はい、天使と言われても能力が違うだけで中身は変わりませんよ」
「え、嘘だろ。天使様はすべてが完璧だから…いや、天使様は天使じゃなくて女神の可能性が…」
「やっぱりさっき頭打った?」
「リュウ、しっかりしろ」
「乱世様に選ばれた私は、それはもう大変で…一番に先陣をきる方でしたので、怪我も多かったし…ついて行くのが精一杯で…」
〇〇は懐かしむように赤ん坊の乱世の頭を撫でた。
「ひどい時は『今日は危ないからお留守番』と書いた紙を置いて、勝手に戦場へ行ってしまう事もありました」
「乱世っぽいな〜」
「乱世様は私に能力を使わせたくないんですよ。無茶をするとよく怒られていましたから…」

「〇〇!もういいやめるんだ!このままじゃ、お前が死ぬぞ!」
「まだ大丈夫です!」
「後は俺がなんとかするから、下がってろ!」
「なりません!乱世様こそお下がりください!乱世様が倒れられてしまったら、誰が軍をまとめるのですか!?乱世様の代わりはいないのですよ!」
天帝様の兄で軍の主将を任されている彼が死んでしまったらお終いだと、この戦況を見て子供である自分でもわかる。力を使いすぎて足が痺れ立ち上がれはしないものの、乱世を一度引かせ立て直すくらいは時間が稼げるはずだ。
「…へぇ、そうかい。〇〇が下がらねぇってんなら、俺にも考えがあるぜ?」
乱世は何を思ったか、剣を自分の首に当てる。
「ら、乱世様!?何を…」
「まるで自分の代わりはいますみたいな言い方じゃねぇか、〇〇」
「それは…国へと戻れば他にも天使が…」
「馬鹿野郎!天使はいてもな、お前の代わりはいねぇんだよ!」
乱世が大きな声で叫んだので、びくりと身体を震わせる。
「言われた通りに戦場まで来やがって…いくら人材不足だからって戦争に子供を出すアイツらも変だと思うがよぉ…」
乱世が言っているのは、彼女達天使を管理する機関の事である。
「…さぁ、根比べだ〇〇。俺の性格知ってんなら、本当にやるかわかってんだろ?」
乱世は首筋に当てた剣をさらに押し込んだ。
「…っ」
〇〇は何か言いたそうだったが、やがて息を吐き肩の力を抜いた。
「…わかりました。私の負けです」
「よぉーし、良い子だ〇〇!後は他の部隊に任せて、一度下がるぜ」
乱世は剣をしまうと、ぐしゃぐしゃと〇〇の頭を撫でた。そこへ、自軍の兵士が駆けつける。
「ご無事ですか、乱世様!」
「おう!俺達は大丈夫だ、残党が少しばかり残ってる。お前達に任せて良いか?俺達は一旦下がって体勢を立て直す」
「はっ!承知しました」
「天使様、大丈夫ですか?よろしければ肩を…」
そう言って一人の兵士が〇〇に近づく。
「あー大丈夫だ。こいつは俺が担いで帰る」
兵士を止め、〇〇を軽々と抱き上げた。
「ら、乱世様!?下ろしてください!歩けます!」
「ガハハ!気にすんな、お前は軽すぎんだよ!もっと飯食え!」
「乱世様、やはり我々が…」
「大丈夫だ。それに俺の天使なら、俺が面倒見てやるのが筋ってもんだろ?」
その言葉に兵士達は大人しく引き下がった。
「乱世様…怪我をなされているのに」
「力使いすぎて歩けねぇんだろ?大人しく抱っこされてなさい」
今にも閉じてしまいそうな目に手を上から被せ閉じさせてやる。そうするとくたりと乱世に身体を預け、寝息を立て始めた。
「そうそう、そうやって大人しく寝てなさい…全く俺の弟より小さい奴を、戦場で死なせてたまるかってんだよ…」
舌打ちをして、戦場を後にする乱世だった。

「ガハッ!?」
「うわぁ!リュウさんが血ぃ吹いた!!」
「ほら、だから聞かない方が良いって言ったじゃん」
「くっそ!いいなぁ、俺の天使だってよぉ!」
「…ちっ。アイツら修行に集中してねぇな」
様子を見ていたガマ仙人が、立ち上がり寝ている乱世達へ近づく。
「どうされました?ガマ仙人様」
「馬鹿共の相手をしてやれ乱世」
「ガマ仙人様、乱世様は赤子ですけど…」
「ちょっとの間なら成長させてやれる」
「え?」
ガマ仙人が何か呪文のようなものを唱えると、破裂音がしてあたりが煙に包まれる。
「わっ!?ガマ仙人様、何を…」
煙が晴れ目を開けると、目の前には成長して乱世がいた。
「よぉ、〇〇」
「…乱世様」
「おぉーっと!手が滑ってキリー君がそっちに飛んでったーっ!」
突然飛んできたキリーが乱世に激突し、そのまま横へと飛んでいった。
「大丈夫、天使様!?ごめんねーキリー君が、俺の攻撃避けきれなくてさー!」
「…ひ、ひどいっす…完全にとばっちりじゃないっすか…」
「先に謝る所があるんじゃねぇの?竜人界の英雄さんよぉ…」
「あーそりゃ、すんませんねぇ。俺ぁ、てっきり超人さんなんでそれくらい簡単に避けられるかと思ってたんすよね」
「…へぇ?」
バチバチと乱世とリュウの間に火花が散る。
「しょーがないねぇ!つよぉーい俺が、お前達の修行相手になってやろうじゃねぇの!」
「上等だ!お前らやるぞ!!」
「え、俺達全員巻き添え?」
戦闘体勢のリュウの後ろに、他のナンバーワン達が困ったように立っている。
「ら、乱世様…」
〇〇が不安そうに乱世の腕を掴んだ。乱世は持っていた刀を〇〇へ預ける。
「あ〜んな浮かれた英雄様達に武器はいらねぇよ。拳で十分だ」
「舐められてるぞお前ら!」
「余裕ムーブかまされてるのはわかった!やってやるぜ!」

それからほんの数分。地上の英雄達は素手の乱世一人にあっさりと負けてしまうのだった。
「ガーッハハハ!どんなもんだーっ!!」
「うぅ…ちくしょー相手は素手なのに…」
「おい、ヒーロー。お前のお友達は、ちょっとばかし弱くねぇか?」
「むっ…そんな事ないぞ!」
「ヒーロー…」
「どうでもいい事にはすごいパワーを出すんだぞ!」
「それ褒めてないよね」
「というかにーに。僕の友達を馬鹿にするのは許さないぞ」
「ん〜でもなぁ。本当の事だしなぁ…俺一人に負けてちゃ、次何かあった時に困るぜ?」
「む…」
乱世を睨むヒーローに、乱世が挑発するように笑う。
「なんだ、今度はヒーローが相手になってくれんのかい?」
「いいぞ、僕が相手だっ!」
ヒーローが乱世に飛びかかるが、乱世はそれをあっさりと交わす。ヒーローは飛び込んだ勢いのまま、地面に倒れ込んだ。
「乱世様、おやめ下さい!兄弟喧嘩なんて…」
「喧嘩じゃないって、これも修行だよ。本気出しゃしねぇから大丈夫だって。〇〇は危ないから、少し離れときなさい」
そう言って〇〇の頭をぽんぽんと撫でた。
「あーっ!!アイツ天使様に軽々しく触りやがった!!」
「別にいいじゃん。あの人の天使なんでしょ?何しようが勝手だろ」
「ぐふっ!?」
「わぁー!?またリュウさんが血ぃ吹いた!」
「諦めたら?天使様にはもう運命の相手がいるんだからさ、勝てっこないよ」
「…う、うるせぇ!本人が俺の事を嫌いだと言わねぇ限り、俺は諦めねぇ!」
「めんどくさいストーカーですか、アンタ」
「俺はストーカーじゃねぇぞ!」
起き上がったリュウは再び乱世へと向かって走り出す。
「…へぇ、なかなか骨があるじゃねぇの」
乱世が攻撃に備えて構える。
「くらいやがれ!これが龍人の本気だぁ!!」

リュウが目を覚ますと晴天が広がっていた。
超人相手に必死に立ち向かったが、全く歯が立たなかった。かなり攻撃を受けてダメージがあるはずなのに痛みはない。むしろ、頭部に柔らかい物があり心地よいくらいである。
「…あぁ〜チクショウ…いい風が吹いてやがるぜ」
「左様でございますね」
「へ?」
少し上に目線を上げれば、こちらを見て微笑む天使様の姿があった。柔らかい物は天使様の膝だった。
「キャァァァァ!?天使様!?」
リュウはすぐさま飛び起きた。
「ごめんなさいリュウ様。驚かせるつもりはなかったのですが…」
「い、いや天使様は悪くないぜ!むしろご褒美…じゃねぇ!俺は一体どうなって…」
「覚えてねぇのか、負けた負けた!超人一人にお前らボロ負けだよ」
ガマ仙人が大声で叫んだ。
「ガマ仙人様!」
「…あぁ、チクショウ!修行のやり直しだぁ!おらぁ!キリー!ちょっくら相手になれやぁ!」
「俺っすか!?」
大きな声をあげると、リュウはキリー達がいる所へと向かって行ってしまった。
「…ったく、平和ボケしてんな」
「現に平和ですからね」
「にしても、諦めの悪い男だな」
「リュウ様の事ですか?」
「あぁ、天界の女なんてめんどくせぇのによぉ…」
「否定できませんね。ですが、リュウ様に諦めていただくにはどうしたら良いのでしょう…」
「そんなもん簡単だ。お前が嫌いだからやめろって言やぁいい」
「そんな酷い事…」
「よく考えな。気がねぇのに付き合わせてるのと、どっちが酷いんだ?」
ガマ仙人にそう言われて、気がつき俯く。
「…確かにそうですね。私の行動こそ酷い…私、はっきりと言ってきます」
〇〇は覚悟を決めたように、リュウの元へと歩き出した。ガマ仙人はそれを見て大きくため息をついた。
「…ったく、乱世の馬鹿と一緒にいたってのに頭の固い奴だな」
「あーうー」
足元に赤子の姿に戻った乱世が、ガマ仙人のマントを引っ張った。
「何だよ、馬鹿にすんなって言いてぇのか?真面目なのがアイツのいい所でも、いつまでも天使の業に縛られる必要はねぇだろ。戦争は終わったんだ、自由に生きればいい」
「あうー」
そうだと言うように赤子の乱世が頷いた。

「…り、リュウ様!少しお話が…」
「はっ!天使様!」
「ひゃ!?」
シンタローとタイガーが組み手をしているのを見ていたリュウが声をかけられた瞬間目の前に跪き、驚いて声を上げてしまった。
「瞬間移動かよ」
「どうしたんです天使様。俺に何か御用で?」
「え…えっと、あの…」
先程まではっきりと言おうと思っていたのに、いざ目の前にすると上手く口が動かない。それにはっきりと好意を向けられている事がわかり余計に言い難い。
「天使様のためなら、俺ぁ何でもしますぜ?」
「あ、あの…非常に言い難いのですが、そ…そのように私のために何かしようとか思わなくて結構ですので…」
「天使様は気にしなくていいんすよぉ!俺が勝手にやりたいだけなんで!」
「…そ、そういう意味では…」
「俺ぁ天使様に笑っていて欲しいんだけなんだ。自己満足なんすよ」
うっとりとした目で見つめられ、困ったようにガマ仙人の方を見た。
「…帰って来い、お前の負けだ」
「し、失礼します!」
「あぁ!天使様!」
逃げるようにしてリュウから離れ、ガマ仙人の後ろに隠れた。
「…わ、私には無理です。あの人を突き離すなんて…」
「お前の性格からしたらそうだろうな。諦めてアイツを番に選べばいいじゃねぇか」
「…リュウ様は良い方ですが…私なんて…」
「お前のその悲観的な考え方はどっからくるんだ」
「うー」
赤子の乱世が〇〇の服を引っ張る。〇〇はそれに気づいて、乱世を抱き上げた。
「…乱世様、私はどうすれば」
「赤ん坊に聞いてもわかんねぇだろ。だが、乱世なら『いいじゃねぇか〜』って言うだろうよ」
「…」
「真面目過ぎんだ、乱世を見習え。もう少し気楽に考えろ。お前が幸せそうにしてんのを一番見てぇのは、その腕に抱かれてるそいつだよ」
「あー」
乱世の小さな手が伸び、〇〇の顔を撫でるように優しく触れた。
「いい加減自分の幸せのために生きろ。もう戦争なんて起きやしねぇよ」
「…自分の幸せ…」
ぽつりと呟いて、乱世に頬を擦り寄せた。
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